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第410話 港町と新事業

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「なんというか…圧巻ですね。」

「ああ、ついにできたな。400mの超巨大船だ。」

 シドリア商会のドルードの目の先にはまさに今海の上に浮かべられた400mに達する巨大船がある。ドルードはこの法国との戦争の最中も開発を続け、ついに400mの超巨大船を完成させたのだ。

 ここの港町は今回の法国との争いによる影響がほとんどなかった。元々海を通してでないと移動が難しい立地のため、法国もわざわざここまで来るのを渋ったのだろう。もちろん洗脳被害は起きたが、ミチナガ商会の働きもあってすぐに沈静化された。

 そのためドルードはなんの気兼ねなく、完成間近の超巨大船造りにのみ集中した。おかげで超巨大船が着水し、各設備の問題調査を延々としているがなんの不具合も起きていない。とりあえず1週間は様子を見るがおそらくなんの問題も起きないだろう。

 今この港町の前の海には400m級の超巨大船の他に300m級、200m級といった世界でも他に類を見ないような超巨大船の船団が完成している。その光景を見ているだけでドルードは心の底から笑みがこぼれてしまう。

『蒼乃伍拾・おめでとうございますドルード。ついに400m級が完成しましたね。』

「お前さんたちのおかげでもあるがな。これだけの技術提供がなけりゃ今でも200mの船を作るのがやっとだ。あの船を武装するならもう少し待てよ。あの船から情報を手に入れてからにしてくれ。」

『蒼乃伍拾・もちろんです。それよりも高速艇の作成はどうですか?』

「弟子にやらせているが問題ない。でかいのに比べりゃ楽なもんだ。」

 超巨大船の開発とともに高速艇の開発も同時に行わせている。基本的に高速艇は使い魔たちがエンジンを作り、シドリア商会がそのエンジンからなる速度を生かし、耐えられる小型艇の作成をしている。これもなかなかの苦難なのだが、弟子たちだけでなんとかなるという。

『蒼乃伍拾・それじゃあ次は…ついに行きますか?』

「500m級か。国が乗るようなすげぇの造ってやるよ。任せておきな。それよりも…他の奴らは大丈夫か?俺ら並みに…いや俺ら以上に切羽詰まった表情しているが。」

『蒼乃伍拾・ハルマーデイムに関しては頑張ってというしか…メイリヤンヌはとりあえず今回の騒動のおかげで落ち着けそうです。』

「そうか…まあうちも応援に出せるほど暇じゃねぇからな。頑張ってくれや。」





「注文が落ち着いたわね!今のうちに量産体制を整えなさい!マッテイ!あんたが休んでいる暇なんてないわよ!」

「た、たまの休みくらいなんとか…最後に休んだのはずっと前ですよ……」

 疲れ果てた表情のメイリヤンヌと、椅子から立ち上がるのもしんどそうなマッテイは今日もキリキリと働いている。アンドリューの影響で黒真珠の需要が急激に増大したことで販売、量産が従来の方法では全く間に合わず、これまではとにかく動いて解決するしかなかった。

 しかし今回の法国との一件の影響で一気に客足が途絶えた。ここで休むのも一つの手だが、時間がある今だからこそ手をつけられなかったさらなる量産体制と販売形態の改変を行わなければならない。

 そうでないとこの戦争の影響が無くなった後、再び客足が増えればまた以前のように同じ苦労をする。そうすればいつか体力が足りなくなり倒れることだろう。

「こうなると今回の法国の戦争は少しありがたかったわね。おかげで全面的に変更できるんだから。」

「か、会長…そんなこと聞かれたら大変ですよ。あ、あと金庫の件なんですがどうしましょうか?」

「今から散財するから問題ないわ。……でもその案に関しては大賛成よ。出資しておいて。」

 現在メイリヤンヌのメランコド商会の売り上げは莫大なものとなっており、従来の金庫は全て金貨でいっぱいになっている。現在はいくつもの貸金庫を借りてなんとか対処しているのだが、それも難しくなってきた。

 そしてメランコド商会以外にもシドリア商会、ロッデイム商会も同様の問題を抱えている。ミチナガの影響で得た富があまりにも莫大すぎたのだ。しかも忙しいせいでその金を使う暇がない。

 そこでミチナガ商会がこの3大商会向けに銀行業を始めるという申し出をしてきたのだ。やることはこれまで他国にもあった銀行となんら変わらない。変わる点があるとすればこの3大商会全ての莫大な富を収納できるという点くらいだろう。

 この申し出には3大商会全てからよろしく頼むと、出資するほど喜ばれた。元々金庫は誰かしら警備を置いていたため、金庫が増えれば増えるほど保管のために金がかかった。そこに使う費用がなくなるのであれば出資くらい安いものだ。

 ただ銀行業というのは金を預けるため、信用が必要となる。しかし預ける相手は3大商会の莫大な富を全て合わせても、その数倍以上は軽く持っているミチナガ商会だ。この程度の金を持ち逃げするような相手ではない。

 信用もできる、さらに国王であり英雄でもあるミチナガならば銀行強盗に会う可能性も限りなく低いだろう。ここまでくればなんの心配もいらない。そして同様のことが他の国でも起き始めている。

 ミチナガ商会運営、ミチナガ銀行の誕生である。もちろんこのミチナガ銀行は商会のみならず一般人でも預け入れのできるようにしている。そしてミチナガが嬉しいのはこの時代の銀行はただ預け入れることができるだけで十分なのだ。

 預けたら利子がつくなどの必要はない。危険の多いこの世界で安全に金を預けて、問題なく引き出せるというのは何よりもありがたいことなのだ。だからミチナガとしては預け入れた金をそのまま運用し儲ければ、儲けた分だけ利益になる。

 しかしミチナガが考えているのはそれだけではない。ミチナガはこの世界初のクレジットカードを始めようとしている。ミチナガ銀行に預け入れた金額分だけ、ミチナガ商会の店舗のみ使えるクレジットカード。

 しかもこの世界では魔力による個人の特定もできるため、クレジットカードと魔力の両方で確認すれば悪用されることはまずない。そしてクレジットカードが出来上がれば、ミチナガ商会の売り上げがさらに伸びることだろう。

 金を持ち歩かず、カード一つで買い物ができる。しかも魔力による個人の特定もできるため悪用されるリスクもない。そうすれば現金を持ち歩かない人が出てきて、その人たちはミチナガ商会でしか買い物をしない。

 そしてそのことに気がついた商会などはミチナガ商会の傘下に自ら入ろうとしてくる。そうすればミチナガ商会はさらに大きくなることだろう。

 だがまだこれは夢物語でしかない。とりあえずは銀行業をうまく軌道に乗せることからだ。一歩ずつ着実に事を進めていけばゆくゆくはこうなるだろうということだ。ただ、そんな順調なミチナガ商会の影響でうまくいきすぎて泣き叫んでいるものもいる。



「カレーの発注また来ました。1000個です。また来ました3000個です。また来ました…」

「工場の増設急がせろ…従業員をどんどん雇え……マリリーはどうした?」

「ひ、昼休憩だと言って…」

「あのアマァ…こちとら休憩している暇なんてねぇんだよ。」

 ハルマーデイムのロッデイム商会は膨大なカレールゥの受注に寝る暇もなく働き通している。現在ミチナガ商会で扱っているカレールゥは全てロッデイム商会に任せている。

 そんなカレールゥは今回の法国との戦争の影響でさらに需要が増している。具材を煮込んでカレールゥを入れるだけというのは簡単だし、香りも印象的で覚えやすい。さらにフルーツを入れても肉を入れても魚を入れても、専用のカレールゥを使えば問題なく美味しくなるということで人気も高い。

 簡単ということで炊き出しにも使用しているのだが、そのせいで毎日数十万食のカレールゥの発注がある。ハルマーデイムも工場を増やしているが、対応が追いつかなくなっている。今後もカレー需要は増していくことだろう。

 本当は他国にカレー工場を新設することも考えたのだが、カレールゥのレシピを外部に漏らしたくないというハルマーデイムの希望により却下された。そのせいでこの忙しさなのだから正直自業自得とも言える。
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