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第409話 未来への投資

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「おーし、せーので行くからな。せーの!」
「そっちのもってきてくれ!」
「おーい、こっちだこっち!」

 とある国。そこの国では今も戦争によって破壊された街を復興している。皆総出で働いているが、破壊の爪痕が大きすぎるためなかなか修復が進まない。動けるものは老人だろうが女子供だろうが皆必死に働いている。

 ただ、そのまま復興するのではなく、国から指示を受けて街並みをかなり変更している。国からの話によると今後も何かの被害を受けた際に軍が動きやすいように道路を広く、また観光客のことも考え下水道などもしっかりと考えてつくるとのことだ。

 街の住人はただ元通りに直すだけで良いじゃないかと思ったが、そうすることで国から給金も出る上に食事までつけられるということなので皆喜んで働いている。現状ではまともな商売などできたものではない。暮らしのことを考えれば給料が出るのであればなんだってする。

 街が崩壊した当初は盗みが頻発に横行し、治安が著しく悪化したが定期的な軍の見回りのおかげで治安も良くなってきている。それに最近ではどこかの商会が大きな仕事を始めたため、悪党をするよりも働いた方が金になる。

 一部では戦争が起きる前よりも暮らしが良くなったというものまでいる始末だ。しかしその意見に対し、反論するものは少ない。確かに金回りも良くなった上に娯楽も増えてきた。そんなことを考えながら働いていると鐘がなる。

「鐘がなったぞぉ!飯の時間だぁ!!」

「飯だ!急ぐぞ!!」

「ここの仕事はまた後でな!」

 皆どんなに途中の仕事でもすぐにほっぽり投げて大急ぎで駆けて行く。人々が集まって行く場所は街の広場だ。かなり破壊の痕跡がひどい場所だったが、今ではがれきを撤去してかなり広い広場となっている。

 そこにはいくつもの屋台が並んでいる。この屋台はある商会の炊き出しだ。昼の2時間の間だけ営業しており、どの店もタダで食べることができる。しかも面白いことにどの店も扱っている商品が全く違い、様々な国の食事を食べることができる。

「おい、今日はどうする?」

「俺は肉の気分だな。…あの店なんてうまそうな匂いがしているじゃないか。」

「俺は魚が食いたい。あそこの煮込みは格別だった。今日もまた食おう。」

「まあいつも通りバラバラに買っていつもの場所で宴会するか。酒が飲めないのが残念だな。」

 それだけ言うと男たちは思い思いの店へと足を運ぶ。並ぶ店によって混み具合も違う。人気のある店は長蛇の列ができる。この手の店は鐘と同時に並ぶか、休憩時間ギリギリまで我慢して並ぶしか食べるのが難しい。

 そのため休憩時間をしっかり休息に取りたいのならば人の少ないところに並ぶのがベストだ。ただ、人が少ない店だからまずいと思うものも多いかもしれないが、基本的にどの店も美味い。あまりにも珍しい料理が並んでいるため不気味に思い、並ぶのを躊躇するのだ。

 この炊き出しの始めの頃は数店のみに全員が並び、一食も出ないような店もあった。しかし今では並ぶのが面倒になった人々の影響で徐々に人が散り始めた。そんな彼らの口コミによりどんどん人が散り始め、どの店も必ず数人は並んでいる。

 先ほど肉の気分だと言っていた男も一つの店に目星をつけてすぐに並んだ。基本的に列に並んでも5人10人ほどならすぐに捌ける。男の眼の前にも7人ほど並んでいたが、1分も経たないうちに男の番になった。

「はいらっしゃい。1人分?」

「ああ。こいつはどこの料理だ?」

「この国から1000キロ向こうの国の食いもんさ。壺の中に果物と肉と香辛料を入れて火にかけんだとさ。はいよ、お待ちどう。」

「甘い肉か。この辺りじゃ食ったことないなぁ…今日も楽しみだ。」

 軽い料理の説明を聞いているうちにすぐに用意が完了する。どの店も料理が決まっているため何人分かを聞いたらすぐに用意される。男に渡された料理は今説明された肉と果物の煮込みに平べったいパンのようなものに何かをすりつぶしたものだ。

 男はその料理を持ったまま仲間と集まる場所に移動した。そこではすでに料理を取り終えた仲間たちが待っていた。

「ようやくきたか。お?今日のもまた違うやつだな。」

「そう言うお前は変わらずだな。たまには違うものを取ってこい。」

「そんなどうでも良いこと言ってないでさっさと食うぞ。」

 全員揃ったところで一斉に食べ始める。しかし相変わらず配給の食事だと言うのにこの食事のレベルは本当に高い。今まで食ったことのない味、そして今まで食ったことのないほど美味い食事に満面の笑みを見せる。

 ここ最近の男たちの娯楽は酒とこの食事だ。初めて食べる料理に、その料理が一般的に食べられていると言う異国の情景を思い描く。そんな男たちの元へ1人の男が肩に白い生き物を乗せてやってきた。

「こんにちは。お食事はどうですか?」

「いつも通り最高だよ。ただ昼飯に食うにはちと甘すぎるかな?」

「そう言う時はそのタレを加えてください。辛味が増して違う味になりますよ。」

「何?どれどれ…確かに変わるな。だが…こいつはなくて良いかな?」

「そうですか。他の皆さんも同様の意見ですか?…そうですか。ありがとうございます。」

「あんたも大変だな。飯も食わずに話聞きまわって。えっと…なんだったかな。」

「ミチナガ商会のカルーと言います。我々はみなさんの食事の前に一通り食べているので大丈夫ですよ。それでは失礼しますね。」

「あいよ。ああ、それからいつも炊き出しありがとうって商会長さんにも伝えといてくれ。」





「今日の報告書です。まだ偏りはありますが、徐々に変化が出てきています。」

『シェフ・どれどれ…内陸系だとやはり海の魚系は人気があるな。南部だと甘みと香辛料の刺激が強い食事が好みか……この国は周辺国とは違った食になっているな。ご苦労様。下がって良いよ。』

 書類を受け取ったシェフは今もらった報告書をこれまでの報告にまとめ、それを元にグラフを作成している。そのグラフには現在炊き出しをしている全ての国でどの料理が人気かを事細かに記している。

『ウオ・やはり生魚系は沿岸国でない限り人気はないですね。一部例外もありますけど。』

『シェフ・ここは肉も生で食うからね。野菜の実りが少ないからビタミンなんかの栄養を取るためには必要なことだよ。ただその分野菜や果物人気は異常に高いけどね。中には肉を一切食わずに野菜と果物だけで済ませる人もいるし。』

『ウオ・しかし…こうやってみると国によって食文化は様々ですね。』

『シェフ・まあそれも今回のおかげでだいぶ区域がわかったけどね。今度はこの国の料理やってみようか。』

 シェフとウオは新たな料理のために動き出した。その表情は実に生き生きとしている。シェフたちには今回の炊き出しの全てを任せている。かなりの仕事量だが、それでも一切文句を言わないどころかさらなるやる気を見せている。

 ミチナガ商会は、シェフたちはただ炊き出しを行っているのではない。様々な国の料理を提供してその国に住む人々の食の調査を行っているのだ。食の好みは国によってまるで違う。その好みを調査するのはかなりの手間だが、今回はそれを大規模に行える。

 シェフたちに取ってこの炊き出しは炊き出しではない。食の見本市だ。どんな料理が好みか、逆にどんな料理は好まれないか、そのデータというのは実に金になる。炊き出しで金を散財しているように見えるが、その実、情報という金のなる木を大量に入手しているのだ。

 食文化というのはそう簡単に変わるものではない。一度入手してしまえばあとは時々アップデートをしてやるだけで100年、200年は利用できる。炊き出しをただの浪費にせずに未来の金に変えてみせたのだ。これほど美味しい投資はない。
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