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第394話 聖鞭vs天騎士2
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逃げ惑うガリウスをゲゼフの息子が追う。さらに合間を縫ってゲゼフが鞭による一撃を入れてくる。この波状攻撃によりガリウスは防戦を強いられる。もしもゲゼフだけならもう少し攻勢に出られたであろう。ゲゼフの息子だけならすぐに方がついただろう。
だが親子による連携を前にガリウスはただ耐える他なかった。しかしその闘志だけは未だ揺るがない。わずかな隙を狙い続けている。
それにこのゲゼフの親子の連携は完璧な連携を取れているわけではない。あくまでゲゼフが息子の隙を埋めるように攻撃を繰り出しているだけだ。故にガリウスも攻撃を受けているわけではない。互いに隙を探っているのだ。
だがそんな隙を探る前に使い魔たちの方に問題が発生した。ガリウスの戦いに邪魔が入らないように大盾で防壁を築いているのだが、徐々にその防壁が薄くなっているのだ。
法国としてはここでガリウスを仕留めることができれば英雄の国にダメージを与えることができる。故にガリウスに標的を絞り攻勢を強めてきたのだ。ミチナガが近くにいないため使い魔たちによるエヴォルヴの補充ができない。
早いうちにミチナガ側のエヴォルヴたちがこの法国の本陣までたどり着いてくれれば良いのだが、それにはまだまだ時間がかかるだろう。早めにガリウスに決着をつけてもらわないとさらなる横槍が入りガリウスが敗北することになる。そしてその事実はミチナガの耳にもすぐに入った。
「敵本陣の防衛はいつまで持ちそうだ?部隊を突撃させて無理やり補充させるのはできないのか?」
『移動速度優先でやったからそこまで持たないと思う。脱出路も潰されたし、突撃しようにも守りが厚い。本陣の部隊は完全に孤立した。一応補充は試みるけど、最悪の場合一度ガリウスに諦めてもらって脱出しないと全員危ない。』
「功を焦りすぎたか…軍の数的にはこっちが有利だけど、ガリウスがやられたら軍の質的な面で危ういな……」
唯一の魔帝クラスであるガリウスがやられればいくら数が有利であってもこの戦況がひっくり返る可能性がある。ミチナガも頭を悩ませるが、名案が浮かばない。早々に撤退を決めてしまえば良いのだが、ガリウスに撤退命令を出しても撤退しない可能性もある。
そうなるとゲゼフ親子をどうにかしなくてはならないのだが、それができる戦力がない。もしくは敵の包囲網を突破して本陣を守る仲間に増援を送れるような突破力のある使い魔がいれば良いのだが、それも難しいだろう。
「他に残っている仲間は…ん?バーサーカーはどうした?あいつなら多少だけど突破力あるんじゃないか?それにワープだって…」
『バーサーカーは敵味方関係なく暴れるから場が荒れておしまいだよ。集団先頭には向いてない。完全な個人戦向け。ワープは別仕事で手一杯。それにワープもそんなに大勢を移動させるのは厳しいよ。』
「そっかぁ…で、お前らは何してんの?」
『試作品の試し打ちである。せっかくの機会であるから試すだけ試すのである。ハク、ここに乗るのである。』
『はいはい…なんかいろいろ出てきた。これは?』
『外部魔力を用いた弓矢の威力増幅器である。矢の一撃に様々な魔法を付与してその威力を数倍まで引き上げるのである。うまくいけば魔帝クラスであっても腕を貫くくらいはできるのである。』
社畜の言葉にミチナガも期待する。試しに普通の弓で矢を引きしぼるハクは矢に多量の魔法が付与されるのがわかった。しかしすぐに矢を下ろすと頭を横に振った。
『確かに威力は増加するようだけど普通の弓矢じゃ耐えられない。世界樹製じゃないと無理だ。しかし世界樹の弓矢自体このエヴォルヴの機体は耐えるのがやっと。これを使って威力を増幅したら機体が持たずに矢を放つ前に壊れる。それに威力がどの程度上がるのかわからないとあんな2キロ以上先の敵の腕になんて当てられない。実戦で試す前に試験使用するべきだったね。』
そう言い放つハクに落胆の声が漏れる。これで戦況が変わるかと期待したのだが、無駄であったようだ。しかしその時、スマホの中から使い魔が現れた。
『ソン・威力増幅器の上昇率、および世界樹の矢の基本性能、並びに現在の風速全て把握済み。計算により矢の落下速度も全て把握している。誤差1センチ以内で狙わせてやろう。』
『マーカー・ソンの計算結果に合わせて視覚情報に矢の弾道予測線を表示するよ!』
『シス・どうせならさらに威力を増幅させよう。わしの能力で強化魔法を直接矢に書き込む。』
『サカズキ・魔力量も増やそうか。相手は魔帝クラスだ。少しでも威力を上げた方が良い。』
『シオリ・えっと…そ、それじゃあ僕は……僕は…あ!さらに増幅された矢の威力の情報を正確に書き出すよ!』
『だったらこっちは強化魔法で支援するよ。ダン、準備はオッケー?』
『いけるよー!』
「それじゃあ俺もスマホで支援するか。ハク、頼んだぞ。」
算盤の遺産から発生したソン、双眼鏡の遺産から発生したマーカー、万年筆の遺産から発生したシス、盃の遺産から発生したサカズキ、そして勇者神の持つ神剣の遺産から発生したダンとオペラ。この7人の使い魔によってハクの強化が行われる。
戦場で突如始まる演奏とダンス。これによりハクのエヴォルヴの基本耐久値が上昇する。その状態でハクは社畜の試作した弓矢の強化装置の上に乗る。そこへシスとサカズキがさらなる強化を施す。
そしてそれらすべての能力上昇値をシオリが細かく表示する。それを見てソンが矢の弾道予測をし、その情報を視覚情報としてマーカーがハクの視覚に表示させる。
そしてダンとオペラの演奏が終了した時、この技は完成した。現時点でハクが出せる最大火力だ。耐久値もこの一矢だけならばギリギリ持つ。ハクは矢を引きしぼる。そのハクの引きしぼり具合で弾道予測線は事細かに変異する。
だがハクには2キロ以上先の敵を正確に把握できない。エンのような遠視能力があれば良いのだがそこまでないのだ。だがそれを戦場に数多いる使い魔たちがカバーする。ハクの敵までの弾道予測に必要な視覚情報をすべて賄う。
『見えた…だけどこのままじゃ…当たらない。』
ハクは矢を引き絞った状態で焦りを見せた。ハクの矢は秒速700mを優に超える。しかしそれでも敵の元までたどり着くには3秒はかかってしまう。そして3秒もあれば矢を放った時の場所からいくらでも移動できてしまう。
ハクが諦めかけたその時、ミチナガが動いた。すぐさまガリウスの近くにいる使い魔の通信機能を使ってガリウスに指示を出そうとした。しかし普通に言えば気がつかれる。さらにガリウスと交流の少ないミチナガではお互いだけが知る暗号などはない。だがミチナガには自信があった。
『血の渓谷!3夜の晩!!』
突如響き渡るミチナガの声。その声に反応し、先ほどまで防戦一方であったガリウスが前に出た。敵としては何らかの暗号であることはわかるが、どういう意味かはわからない。
血の渓谷とは大英雄、黒騎士伝説の一つだ。かつて各地で吸血鬼が猛威を振るっていた。その吸血鬼を討伐すべく、吸血鬼を統べる王であったヴァルドールを渓谷に足止めし、他の吸血鬼の戦士たちを掃討した戦いだ。
結果として黒騎士はヴァルドールをその渓谷に5日間足止めし、吸血鬼の軍勢を半壊させたという。この血の渓谷の戦いがなければヴァルドールが表舞台から姿を消すのはさらに数年かかったと言われる。英雄に憧れるものなら絶対に知っている。
ミチナガも以前ヴァルドール本人から聞いて覚えていた。だから日数の部分を変更し、現在の戦闘の厳しさから考えれば3分ではなく3秒間足止めしろというのが伝わる。ガリウスは多少無謀な戦いにはなるが3秒だけならばと足止めのために攻勢に出た。
そして見事ゲゼフの息子の足が止まったところでハクは矢を放った。弓から離れた矢は一瞬にしてミチナガの視界から消えた。そしてソンの計算通りの弾道予測線を通り放物線を描きながら突き進んだ。
だが矢が着弾する前にゲゼフは矢の到来に気がついた。すぐに矢を撃ち落とすためにその手に持つ鞭を振りかざした。しかしそんなゲゼフ目掛けガリウスは魔力を込めた盾を投げ飛ばした。さすがにゲゼフもこの盾を受けたらかなりのダメージを負う。すぐに盾を鞭で撃ち落とす。
そしてガリウスは盾を投げたことによる隙をつかれ、ゲゼフの息子に盾を持っていた腕をレイピアで貫かれた。だが逆にその腕を貫いたことでゲゼフの息子に隙ができた。もう少し周囲を警戒していたら矢の到来にも気がついただろう。だがガリウスの腕を貫いたという功績に喜び、油断したのだ。
そして油断したゲゼフの息子に矢が突き刺さる。矢はレイピアを持つ腕を貫通し、そのまま胴体に突き刺さった。深々と突き刺さった矢は内臓にまで達しただろう。しかし魔帝クラスにとってこの程度の矢傷は致命傷にはならない。
だがレイピアを持つ腕が矢によって胴体に縫い付けられた。満足にレイピアを動かすことはできない。そしてそれはこの戦いにとってあまりにも致命的で、ガリウスが待ち望んでいた好機であった。
ガリウスはその手に持つランスに魔力を込め、術式を発動させる。その術式は尋常ではないランスの突きの速度と貫通力の行使を可能にするものであった。ガリウスはその術式を用い、ゲゼフの息子に向け先ほどまでよりも数段早い突きを放った。
その突きは正確にゲゼフの息子の頭部を捉えていた。しかしゲゼフの息子もただ喰らうわけにはいかない。だが、その突きを払いのけるためのレイピアを持つ腕は矢によって体に縫い付けられている。
レイピアを動かせないとなると残る片手で何とかしなくてはならない。だが素手で何とかできるほどガリウスのランスの突きは甘くない。ゲゼフの息子の腕を弾き飛ばし、ランスは頭部を穿った。
周囲に肉片と血しぶきが飛び散る。そしてガリウスは念押しのために心臓にも風穴を開けた。頭部と心臓、この二つを破壊されて生きていられるのはヴァルドールぐらいなものだろう。当然人間であるゲゼフの息子は息絶えた。
一瞬のうちに起きた出来事にゲゼフの息子の背後にはわなわなと震えるゲゼフの姿があった。
「貴様ぁぁ!ガリウスゥゥゥ!!」
「次は貴様の番だゲゼフ。貴様の犯したこの世の罪の裁き、息子の後を追わせてやる。」
ガリウスは腕に突き刺さったままのレイピアを引き抜き次なる相手を見定めた。横槍を入れられないようにこの地を守る使い魔たちだが、もう少しの辛抱だ。この二人の戦いは長引くことなく終わりを告げそうだ。
だが親子による連携を前にガリウスはただ耐える他なかった。しかしその闘志だけは未だ揺るがない。わずかな隙を狙い続けている。
それにこのゲゼフの親子の連携は完璧な連携を取れているわけではない。あくまでゲゼフが息子の隙を埋めるように攻撃を繰り出しているだけだ。故にガリウスも攻撃を受けているわけではない。互いに隙を探っているのだ。
だがそんな隙を探る前に使い魔たちの方に問題が発生した。ガリウスの戦いに邪魔が入らないように大盾で防壁を築いているのだが、徐々にその防壁が薄くなっているのだ。
法国としてはここでガリウスを仕留めることができれば英雄の国にダメージを与えることができる。故にガリウスに標的を絞り攻勢を強めてきたのだ。ミチナガが近くにいないため使い魔たちによるエヴォルヴの補充ができない。
早いうちにミチナガ側のエヴォルヴたちがこの法国の本陣までたどり着いてくれれば良いのだが、それにはまだまだ時間がかかるだろう。早めにガリウスに決着をつけてもらわないとさらなる横槍が入りガリウスが敗北することになる。そしてその事実はミチナガの耳にもすぐに入った。
「敵本陣の防衛はいつまで持ちそうだ?部隊を突撃させて無理やり補充させるのはできないのか?」
『移動速度優先でやったからそこまで持たないと思う。脱出路も潰されたし、突撃しようにも守りが厚い。本陣の部隊は完全に孤立した。一応補充は試みるけど、最悪の場合一度ガリウスに諦めてもらって脱出しないと全員危ない。』
「功を焦りすぎたか…軍の数的にはこっちが有利だけど、ガリウスがやられたら軍の質的な面で危ういな……」
唯一の魔帝クラスであるガリウスがやられればいくら数が有利であってもこの戦況がひっくり返る可能性がある。ミチナガも頭を悩ませるが、名案が浮かばない。早々に撤退を決めてしまえば良いのだが、ガリウスに撤退命令を出しても撤退しない可能性もある。
そうなるとゲゼフ親子をどうにかしなくてはならないのだが、それができる戦力がない。もしくは敵の包囲網を突破して本陣を守る仲間に増援を送れるような突破力のある使い魔がいれば良いのだが、それも難しいだろう。
「他に残っている仲間は…ん?バーサーカーはどうした?あいつなら多少だけど突破力あるんじゃないか?それにワープだって…」
『バーサーカーは敵味方関係なく暴れるから場が荒れておしまいだよ。集団先頭には向いてない。完全な個人戦向け。ワープは別仕事で手一杯。それにワープもそんなに大勢を移動させるのは厳しいよ。』
「そっかぁ…で、お前らは何してんの?」
『試作品の試し打ちである。せっかくの機会であるから試すだけ試すのである。ハク、ここに乗るのである。』
『はいはい…なんかいろいろ出てきた。これは?』
『外部魔力を用いた弓矢の威力増幅器である。矢の一撃に様々な魔法を付与してその威力を数倍まで引き上げるのである。うまくいけば魔帝クラスであっても腕を貫くくらいはできるのである。』
社畜の言葉にミチナガも期待する。試しに普通の弓で矢を引きしぼるハクは矢に多量の魔法が付与されるのがわかった。しかしすぐに矢を下ろすと頭を横に振った。
『確かに威力は増加するようだけど普通の弓矢じゃ耐えられない。世界樹製じゃないと無理だ。しかし世界樹の弓矢自体このエヴォルヴの機体は耐えるのがやっと。これを使って威力を増幅したら機体が持たずに矢を放つ前に壊れる。それに威力がどの程度上がるのかわからないとあんな2キロ以上先の敵の腕になんて当てられない。実戦で試す前に試験使用するべきだったね。』
そう言い放つハクに落胆の声が漏れる。これで戦況が変わるかと期待したのだが、無駄であったようだ。しかしその時、スマホの中から使い魔が現れた。
『ソン・威力増幅器の上昇率、および世界樹の矢の基本性能、並びに現在の風速全て把握済み。計算により矢の落下速度も全て把握している。誤差1センチ以内で狙わせてやろう。』
『マーカー・ソンの計算結果に合わせて視覚情報に矢の弾道予測線を表示するよ!』
『シス・どうせならさらに威力を増幅させよう。わしの能力で強化魔法を直接矢に書き込む。』
『サカズキ・魔力量も増やそうか。相手は魔帝クラスだ。少しでも威力を上げた方が良い。』
『シオリ・えっと…そ、それじゃあ僕は……僕は…あ!さらに増幅された矢の威力の情報を正確に書き出すよ!』
『だったらこっちは強化魔法で支援するよ。ダン、準備はオッケー?』
『いけるよー!』
「それじゃあ俺もスマホで支援するか。ハク、頼んだぞ。」
算盤の遺産から発生したソン、双眼鏡の遺産から発生したマーカー、万年筆の遺産から発生したシス、盃の遺産から発生したサカズキ、そして勇者神の持つ神剣の遺産から発生したダンとオペラ。この7人の使い魔によってハクの強化が行われる。
戦場で突如始まる演奏とダンス。これによりハクのエヴォルヴの基本耐久値が上昇する。その状態でハクは社畜の試作した弓矢の強化装置の上に乗る。そこへシスとサカズキがさらなる強化を施す。
そしてそれらすべての能力上昇値をシオリが細かく表示する。それを見てソンが矢の弾道予測をし、その情報を視覚情報としてマーカーがハクの視覚に表示させる。
そしてダンとオペラの演奏が終了した時、この技は完成した。現時点でハクが出せる最大火力だ。耐久値もこの一矢だけならばギリギリ持つ。ハクは矢を引きしぼる。そのハクの引きしぼり具合で弾道予測線は事細かに変異する。
だがハクには2キロ以上先の敵を正確に把握できない。エンのような遠視能力があれば良いのだがそこまでないのだ。だがそれを戦場に数多いる使い魔たちがカバーする。ハクの敵までの弾道予測に必要な視覚情報をすべて賄う。
『見えた…だけどこのままじゃ…当たらない。』
ハクは矢を引き絞った状態で焦りを見せた。ハクの矢は秒速700mを優に超える。しかしそれでも敵の元までたどり着くには3秒はかかってしまう。そして3秒もあれば矢を放った時の場所からいくらでも移動できてしまう。
ハクが諦めかけたその時、ミチナガが動いた。すぐさまガリウスの近くにいる使い魔の通信機能を使ってガリウスに指示を出そうとした。しかし普通に言えば気がつかれる。さらにガリウスと交流の少ないミチナガではお互いだけが知る暗号などはない。だがミチナガには自信があった。
『血の渓谷!3夜の晩!!』
突如響き渡るミチナガの声。その声に反応し、先ほどまで防戦一方であったガリウスが前に出た。敵としては何らかの暗号であることはわかるが、どういう意味かはわからない。
血の渓谷とは大英雄、黒騎士伝説の一つだ。かつて各地で吸血鬼が猛威を振るっていた。その吸血鬼を討伐すべく、吸血鬼を統べる王であったヴァルドールを渓谷に足止めし、他の吸血鬼の戦士たちを掃討した戦いだ。
結果として黒騎士はヴァルドールをその渓谷に5日間足止めし、吸血鬼の軍勢を半壊させたという。この血の渓谷の戦いがなければヴァルドールが表舞台から姿を消すのはさらに数年かかったと言われる。英雄に憧れるものなら絶対に知っている。
ミチナガも以前ヴァルドール本人から聞いて覚えていた。だから日数の部分を変更し、現在の戦闘の厳しさから考えれば3分ではなく3秒間足止めしろというのが伝わる。ガリウスは多少無謀な戦いにはなるが3秒だけならばと足止めのために攻勢に出た。
そして見事ゲゼフの息子の足が止まったところでハクは矢を放った。弓から離れた矢は一瞬にしてミチナガの視界から消えた。そしてソンの計算通りの弾道予測線を通り放物線を描きながら突き進んだ。
だが矢が着弾する前にゲゼフは矢の到来に気がついた。すぐに矢を撃ち落とすためにその手に持つ鞭を振りかざした。しかしそんなゲゼフ目掛けガリウスは魔力を込めた盾を投げ飛ばした。さすがにゲゼフもこの盾を受けたらかなりのダメージを負う。すぐに盾を鞭で撃ち落とす。
そしてガリウスは盾を投げたことによる隙をつかれ、ゲゼフの息子に盾を持っていた腕をレイピアで貫かれた。だが逆にその腕を貫いたことでゲゼフの息子に隙ができた。もう少し周囲を警戒していたら矢の到来にも気がついただろう。だがガリウスの腕を貫いたという功績に喜び、油断したのだ。
そして油断したゲゼフの息子に矢が突き刺さる。矢はレイピアを持つ腕を貫通し、そのまま胴体に突き刺さった。深々と突き刺さった矢は内臓にまで達しただろう。しかし魔帝クラスにとってこの程度の矢傷は致命傷にはならない。
だがレイピアを持つ腕が矢によって胴体に縫い付けられた。満足にレイピアを動かすことはできない。そしてそれはこの戦いにとってあまりにも致命的で、ガリウスが待ち望んでいた好機であった。
ガリウスはその手に持つランスに魔力を込め、術式を発動させる。その術式は尋常ではないランスの突きの速度と貫通力の行使を可能にするものであった。ガリウスはその術式を用い、ゲゼフの息子に向け先ほどまでよりも数段早い突きを放った。
その突きは正確にゲゼフの息子の頭部を捉えていた。しかしゲゼフの息子もただ喰らうわけにはいかない。だが、その突きを払いのけるためのレイピアを持つ腕は矢によって体に縫い付けられている。
レイピアを動かせないとなると残る片手で何とかしなくてはならない。だが素手で何とかできるほどガリウスのランスの突きは甘くない。ゲゼフの息子の腕を弾き飛ばし、ランスは頭部を穿った。
周囲に肉片と血しぶきが飛び散る。そしてガリウスは念押しのために心臓にも風穴を開けた。頭部と心臓、この二つを破壊されて生きていられるのはヴァルドールぐらいなものだろう。当然人間であるゲゼフの息子は息絶えた。
一瞬のうちに起きた出来事にゲゼフの息子の背後にはわなわなと震えるゲゼフの姿があった。
「貴様ぁぁ!ガリウスゥゥゥ!!」
「次は貴様の番だゲゼフ。貴様の犯したこの世の罪の裁き、息子の後を追わせてやる。」
ガリウスは腕に突き刺さったままのレイピアを引き抜き次なる相手を見定めた。横槍を入れられないようにこの地を守る使い魔たちだが、もう少しの辛抱だ。この二人の戦いは長引くことなく終わりを告げそうだ。
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