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第391話 エヴォルヴ

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 黒鉄の騎士、エヴォルヴが丘を駆け下りる。それを見た法国の軍勢は恐怖に怯える。なんせ突如現れた異様な黒い騎士に対しての情報があまりにも足りない。人智を超えた状況と物体を頭で理解することができないのだ。

 そんなエヴォルヴ達の中から一人のエヴォルヴが飛び出した。その機体はあまりにも他と比べて速度が違う。

『ヒャッホウ!!ダッシュダーーーッシュ!!!一番槍ィィ!!!!』

 一番槍を求めて集団から抜け出した使い魔のダッシュ。ダッシュ専用の第7世代の特別機に乗っている。速度を求めて限界まで速度を上げたこの特別機体は他のエヴォルヴの数十倍まで加速することができる。

 そんなダッシュは混乱し逃げ惑う法国の兵士へと突っ込もうとする。だがその時、逃げ惑う法国の兵士の中から一人の大男が飛び出した。明らかに格上の兵士、おそらく魔王クラスに届くか届かないかというレベルの強者だろう。

 その大男はその手に持つ両手用メイスを軽々と片腕で振り上げる。それを見たダッシュは流石に焦った。せっかくの初陣でいきなり敵に屠られるなど一生他の使い魔達にいじられる。だがダッシュはすでにトップスピードに入ってしまい、ろくに方向を変えることもできない。

「失せろぉぉ!!」

『だ、だっ…しゅ……』

 半べそをかきそうになるダッシュ。そして鮮血が舞った。だが使い魔達には血など流れていない。その血は先ほどまでメイスを振り上げていた大男の首から流れている。よく見てみればその大男の頭部がスッキリと無くなっている。しかもその背後の直線上の数人の兵士たちまで絶命し、地に臥せっている。

 そしてギリギリ助かった法国の兵士は見た。目の前で絶命している仲間の胸部に深々と刺さる矢を。その矢は丘の中腹、他の使い魔達に隠れるようにして放たれた弓矢によるものだ。

『ふぅ…いきなりやられてちゃ縁起が悪い。だけど一発使ったからしばらく休憩かな。しばらくの間頼んだよ。』

『『『『はい!ハク隊長!!』』』』

 その弓矢はかの聖弓フィラクスに直々に弓矢を教わった使い魔ハクによるものだ。すでにハクの弓矢の腕は使い魔の中では飛び抜けており、他の使い魔達に教えるレベルになった。現在は1万ほどの使い魔達に弓矢を教え、使い魔弓術部隊の隊長に任命された。

 そんなハクが用いる弓矢は世界樹を用いたもので、その弓の弦は神話級モンスター、アラクネの糸である。弓矢だけで言えばフィーフィリアルが使用しているものと遜色ない。ただしそうやすやすと使えるものではない。

 ハクの機体の腕には3枚の木札がかけられている。ハクはその木札に丸2日分の魔力を溜め込み、それを一矢に使用している。その一撃は魔王クラスにも匹敵し、隙をつけば魔王クラスであっても一撃で屠る。ただあまりにも強力な一撃のため、連続使用すると機体が持たないため10分ほどのインターバルを必要とする。

 だがそんなことは法国の兵士たちは知らない。魔王クラスにも匹敵すると思われた隊長格が一撃で屠られたせいでさらなる動揺が走る。そしてそんな隙をついてダッシュは敵陣に潜り込んだ。

『ダッシュダーッシュ!プレゼントフォーーユーーー!!』

 ダッシュの機体のあちこちが開き、そこからゴルフボールほどの大きさの球が転がり落ちた。その玉はそこかしこに転がり落ちると勢いよく煙を噴出し始めた。それによりあっという間に法国の兵士は煙に包まれた。

「煙幕だ!全員落ち着いて対応…が…ち、違う…毒ガ……」

『正確には神経ガスですよ。麻痺毒なんで死にはしません。まあ見逃しませんけど。』

 煙に包まれた法国の兵士たちを使い魔達が確実にとどめを刺して行く。中にはとっさに気がつき風魔法で煙を遠ざける者もいるが、仲間と分断されてしまった時点で使い魔達に狙われ息絶えて行く。

『全員視覚情報を熱源に変えて。機体内の空気は酸素ボンベから吸入。火炎放射器とかは使用禁止ね。それからダッシュはそろそろ帰還。ご苦労様。』

『ダーッシュ!!』

 ダッシュは敵陣の奥深くまで侵入していたが、大急ぎで帰還する。なんせダッシュの機体は速度に特化しすぎたせいで戦闘力はほぼない。かろうじて敵にぶつかればその勢いで敵を倒せるが、軽くしたために強度を下げた機体も破損するため禁止されている。

 瞬く間に煙に飲み込まれた味方を見た法国の兵士たちは恐怖のあまり動けずにいる。そんな中、法国の隊長格は兵士たちをまとめ上げ、煙に向かい進軍しようとしている。だがその時、煙の中から壁が現れた。

『全軍…その場で死守……敵を一人たりとも通すな。』

『『『『御意…』』』』

 その壁は大盾を持ったエヴォルヴ達だ。一直線に並んだ大盾は強靭な壁となり他の法国兵士を寄せ付けない。あまりにも見事に統率された大盾部隊に法国の隊長達も尻込みしている。この大盾部隊の隊長であるガーディアンにかかればここの死守は完璧だろう。

 そしてその間に煙に包まれている法国の兵士たちの掃討が始まる。視覚情報を熱源に切り替えた使い魔達ならば煙の中でも昼間のようによく見える。

 その光景はあまりにも恐ろしかった。煙の外からただ傍観するしかない法国の兵士たちは大盾の向こうから、煙の中から仲間の断末魔だけが聞こえてくる。やがてその断末魔が少なくなってきた時、大盾が迫ってきた。

 迫り来る大盾に怯む法国の兵士たち。だが逃げることができないとわかると歯を食いしばって大盾を迎え撃つために武器を持つ手に力を込めた。だがそんな大盾はある程度近づいたところで止まってしまった。

「何を……」

「上だ!上に防御魔法を…!」

 目の前から迫る大盾に気を取られすぎた法国の兵士たちは気がつかなかった。空から降りかかる矢と魔法の雨に。さらに言うのであれば神経ガスによって上空もある程度視界が遮られていたのもその理由だろう。

 そしてまるで絨毯爆撃のように綺麗に整列した魔法や矢が地上に降り注ぐ。慌てて自らの上に魔法障壁を張るが、間に合わず直撃を食らうものが多い。中には魔法障壁を貼っても障壁を貫かれる者もいた。

 そして上空からの攻撃に気を取られた瞬間に大盾がひるがえり、その間から大量のエヴォルヴ達が突撃を敢行した。あまりにも命知らずな攻撃。なんなら味方の攻撃に当たって絶命する可能性だってある。だがそれを可能にするのが死んでも何度も復活する使い魔達だ。

 そんな突撃を敢行する使い魔の中にはいくつかその突破力の高い者達がいる。特によく目立つのは他のエヴォルヴよりもひとまわりもふたまわりも大きい機体だ。その機体はやたらめったらに巨大なハンマーを振り回している。

『力こそパッワァァーー!!ヌハハハハ!!!』

 圧倒的な怪力の持ち主はパワーだ。自身の能力で機体の膂力を数倍まで高めている。速度は遅いかもしれないが、それでも圧倒的質量も持つハンマーを振り回すと言うのはそれだけで脅威だ。そしてパワーに付き添うようにその背後から幾人ものエヴォルヴたちが続く。

 そしてもう一つ、パワーほどの突破力はないが、確実に敵を屠りながら突き進むエヴォルヴ達がいる。その戦い方は実にシンプルで刀剣を用いてただひたすらに切り進む。しかしその剣術があまりにも見事なためシンプルに強い。そしてその最前線に立つエヴォルヴに搭乗する使い魔はソードだ。

『晴れ舞台だ。皆行くぞ。』

『『『『応!!』』』』

 ソードはこれまでずっと剣術の鍛錬を行い、武の国ではイッシンの妻サエから剣術を学んだ。しかしこれまでの人型魔導化学兵器ではその剣術を生かすことができず、これといった戦果は上げて来られなかった。

 しかし今のこの機体であればソードの持つ7割の力を出すことができる。故にソードにとってこの戦いは晴れ舞台だ。そしてそのソードの部下達も今日こそはと意気込んでいる。

 そんな戦いが起きている場所から少し離れた場所ではエヴォルヴ四足歩行型特殊機体が法国の兵士に見つからないように駆けている。その背には普通のエヴォルヴが騎乗している。そして全速力でどこかへ向かっているのだ。

 そもそも100万近い兵を一方向から進ませれば半数以上は1時間経っても何もしないままだろう。だからこそこうしてばらけさせるのが得策だ。そしてある一定の場所まで駆けていった使い魔達は進路を変えて法国の兵士たちの方へと向かっていった。

 そこは今も必死に戦うガリウスのいる場所だ。圧倒的な兵の数の差によって今も苦戦を強いられている。そこへ数万のエヴォルヴ達が駆けつけたのだ。しかもその後ろからはまだまだ増援がやってくる。

『あ、そういえばこのままだと敵か味方かわからないんじゃ…』

『確かに!敵の増援だと思われないように旗を掲げよっか。みんな~!旗出してぇ~~!!』

 一人の使い魔がそう言うとあちこちで何やらごそごそしてから一斉に旗を掲げた。その旗を見たガリウスの軍勢からは歓声が上がった。来るとは思わなかった増援にガリウスの軍は歓喜し、法国兵は動揺した。

 これまでミチナガの旗というのはいくつか種類があった。ミチナガ商会の場合は使い魔達が金貨を持つ姿。セキヤ国の場合は使い魔達が手を繋ぎあった姿。セキヤ国国軍の場合は使い魔達が武器を持った姿であった。

 そして今掲げられているのは使い魔達が腕を組み、背後にエヴォルヴの機体が描かれたものだ。これが我々の力だと鼓舞しているようなその姿は使い魔達の力の証だ。これからは僕たちもミチナガを守る。ミチナガのために戦う。その意思の表れを旗に記した。

『行くぞ!我らセキヤミチナガに仕えるエヴォルヴ機甲師団!我らが同胞を助けよ!!』

 これがこの世界初の使い魔と機械を組み合わせた特殊機甲師団、エヴォルヴ機甲師団誕生の時である。
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