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第384話 セキヤ国の死闘3

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 あれから2日が経過した。セキヤ国と法国の戦いは今尚続いているが結果はもう明らかだ。あれから法国は何度か食料補給のために部隊を出したが全てシェイクス国の兵によって全滅させられた。食料を失った法国の兵たちは飢餓状態が続き、戦える状態ではない。

 また洗脳によって火の国で得た洗脳兵士たちはほぼ壊滅した。無茶な突撃に食糧不足となればこうなることは必然であった。今なお法国の兵士が生き残っているのはセキヤ国側が防衛に徹して討伐に出向かないからだ。

 今日明日にでも部隊を編成し、弱り切った法国の兵士を壊滅させようという作戦も出ているが、イシュディーンはそれを止まらせた。というのもイシュディーンは困惑しているのだ。

「なぜ…こんな無意味な戦いを続ける……法国の狙いはなんだ?」

 そう、法国の狙いが全くわからないのだ。火の国や英雄の国、さらには諸王国郡の地域にまで法国は兵士を分散させている。もしも英雄の国を狙うのであれば英雄の国だけに戦力を集中させるべきだ。というよりそうしない理由がない。

 なのに法国は今尚兵士を分散させ、さらにこんな負け戦でも未だ撤退もせずに攻め続けている。この戦闘に意味はない。セキヤ国側は未だ死者が出ぬほどの快勝ぶりだ。この鉄壁の防壁がある限り負けはあり得ない。

 ただこんなにも無謀な戦いを続けるのは何か理由があると思った。もしかしたら別部隊を迂回させて侵入するつもりかもしれない。だから秘密裏にいくつかの兵団に周囲の偵察もさせた。

 しかしいくら偵察しても敵らしい反応は一つもない。法国は本当に何の策もなくただ突撃させているだけだ。しかしそうは言っても敵は法国、魔神が治める国だ。無策なはずがない。

 それがイシュディーンの思考を鈍らせた。何かあるはず、何かあるはずだと考えに考えるが何も出てこない。そんなイシュディーンの迷いはセキヤ国の兵士にも悪影響を与えた。

 しかしすでに勝負は決したようなものだ。今更士気が下がったところで負けることはない。特別不安がる必要もない。そう、もうここは開き直ってしまうのが利口なのだ。イシュディーンも悩みに悩み抜いたおかげでようやく答えが出た。

 そして翌日、セキヤ国側はいつものように防衛をしている。法国側も飢餓状態による精神状態の悪化により攻撃の仕方が消極的になってきた。そんな中イシュディーンは心の中ですでに決めている。今日でこの戦いを終わらせる。今日の正午過ぎに部隊を突撃させて法国の兵士を壊滅させる。それでお終いだと。

 防衛戦が続き、もうすぐ正午になる頃。イシュディーンが突撃させる部隊の編成をし始めたその時、補給線を断っているシェイクス国の部隊から使い魔を通じて連絡が入った。その連絡はあまりに予想外で、あまりに突拍子もない知らせであった。

 あまりの真実にイシュディーンも信じられないと言った表情だ。しかしいつまでもほおけている場合ではない。これが事実なのだとしたら大事件になる。イシュディーンはすぐさま突撃させようとしていた部隊を解散させ、新たな準備を始めた。

 そして時はたち、日が傾き出した頃にそれはやってきた。遠目にでもわかる。今法国側に大量の物資が運び込まれてきた。シェイクス国は物資の輸送を止めることに失敗したのだ。法国側からは歓声が上がる。逆にセキヤ国側からは何でこんなことになっているのだと驚愕し、そして落胆している。

 しかし物資の輸送を止めることのできなかったシェイクス国に非はない。非があるとしたら今の今まで法国に何か策があると考えて突撃できなかったイシュディーンにこそあるだろう。イシュディーンは報告にあった情報が事実かどうか確かめる。

 すると輸送部隊の中に確かにそれはいた。イシュディーンの両の瞳に確かに写り込んでいる。今も馬上で酒をあおっている老人の姿。酒が切れればすぐさま近くの法国の兵が酒を運んだ。法国に歓待される一人の老人、その老人のせいでこの戦いは振り出しに戻るどころか敗戦の危機まで出てきた。

「なぜ…なぜそこに貴様がいる……崩神ギュスカール」

 イシュディーンは小さく呟いた。法国の輸送部隊の中にいるのは魔神第8位崩神ギュスカール。まごうことなき世界に10しかいない魔神の一人である。しかし理由がわからない。なぜ崩神がこんな戦いに介入してくるのか。

 実は偽物ではないのかと疑いもした。しかし近づくにつれその魔力量、風格全てが彼が崩神ギュスカール本人であることを認識させられた。その後、輸送部隊が到着すると攻めてきていた法国の兵士は一時撤退した。その代わりにギュスカールを乗せた馬はこちらに向かってきた。

 今尚酒を飲みながらこちらに向かってくるギュスカール。これがただの老人であったのならばイシュディーンも一笑に付したことだろう。しかし相手は崩神。戦って勝てるはずがない。とにかくイシュディーンは使い魔に頼み、ギュスカールと話をすることにした。

 大急ぎでギュスカールの元へ近づく使い魔。ギュスカールの方も気がついたようで一定の距離まで近づいたところで馬を止めた。赤ら顔のまま使い魔を見下ろすギュスカールからは不思議とこれといった恐ろしさは感じなかった。

『ベータ628・僕はセキヤ国からの使者です。崩神ギュスカール。あなたと話がしたい。一体どういうわけでこの地に参られた。』

「ん?…こんなちっこいのが使者か。わしも舐められたもんだのぉ…」

『ベータ628・小さくても私はセキヤ国の中ではそれなりの地位にいる。それに今はそんなことはどうでも良い!一体どういうつもりなんだと聞いている!この戦いは法国の侵略戦争なんだぞ!』

「侵略だの何だの…そんなこと知ったこっちゃねぇよ。いちいちどんな戦争なのか知る必要がどこにある。わしゃぁ…うまい酒を飲めりゃそれで良い。」

『ベータ628・だったらうちから最高の酒を提供する。だからこの戦いに関わることなく立ち去っ』

「お前さんわかっちゃいねぇな。酒にはよ、つまみが必要なんだ。漬物みたいな食いもんじゃねぇ、見て楽しむ道楽が…つまみが必要なんだよ。戦いってやつは良いぞ、つまみにはもってこいだ。だが一方的だとつまらん。拮抗する戦いっていうのが一番おもしれぇんだ。」

 そう言って酒を煽るギュスカール。それを見て使い魔はわかった。このギュスカールという男は頭のネジが外れているのだ。人としての倫理観というか道徳心というものが欠如している。このギュスカールの本質は悪だ。人の生き死になどこれといって興味はない。

 しかし初めてギュスカールと出会った時、原初ゴブリンの時はこんなではなかったように思われる。あれも本当のギュスカールなのだとしたらどうにかできるかもしれない。

『ベータ628・ギュスカール、あなたは…』

「もう問答はこのくらいで良いじゃろ。もう飽きたわい。」

 ギュスカールが一言そう言うと使い魔は一瞬にして消え去った。その瞬間、話し合いは強制的に終わりを告げた。防壁の中ではイシュディーンが必死に命令を出す。魔神と戦うとなればいくら準備をしても足りないくらいだ。

 これから始まるのはギュスカールが満足するまで何とか防衛することだけだ。戦って勝つとかそう言う次元の話ではない。ただ満足するまで耐えきる…いくら人が死んでもそれだけしかできることはない。

 そこでイシュディーンは気がついた。今までの無益な法国の突撃はギュスカールを出すためだったのではないかと。わざと無茶な戦いをして敗色を濃厚にして…自国の兵士をも大量に死なせてまでギュスカールを戦いに駆り出すために。

 確かに倫理観抜きで言えば戦争に勝てる高確率な方法だ。魔神というのは大国と同等の戦力を持つ。今目の前にいるギュスカール一人で10万の兵にも20万の兵にも匹敵するだろう。いや、おそらくそれ以上に匹敵するかもしれない。

「全てはこのためだったというのか…人の命も…自国民の命でさえも軽く扱って…お前たちはあまりに歪んでいる。」

 イシュディーンは怒りを込めてそう呟いた。そしてこれからセキヤ国の本当の死闘が始まる。そしてこの戦いが、今日がこの戦いの最終日となる。
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