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第379話 敵に回してはならない男

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「やめろぉぉ!やめてでぇぇ…」

「あ~もう暴れんなって。隊長!面倒なんでこいつ殺していいですか?」

「お前が殺されたかったら殺しても良いぞ。最低限度のノルマ500人ギリギリなんだから足りなかったらお前が追加されるぞ。」

「うっ…わ、わかりましたよ。」

 森の中、法国の兵達が周辺の村々から捕らえた村人達を洗脳している。法国の兵士はこのように部隊をいくつも分けて人々を捕らえては洗脳しているのだ。しかもノルマを課せられているようで法国の兵士も必死だ。

 戦闘の際はなるべく殺さずに生かして捕らえる。非常に面倒な作業ではあるがやらなければ自分がこうされてしまうのだから仕方がない。今も脳を無理やりいじって洗脳作業に取り掛かっている。

「俺たちノルマが完了したらその後どうするんですか?」

「また次のノルマだ。まあ次は何とかフイトって国を襲うだけだ。まともに戦う準備すらしていない弱小国だから楽な仕事だぞ。そしたらしばらくは休みだ。」

「はぁ…休みが遠い。休みの時は酒でも奢ってくださいよ。」

「あぁ…洗脳はご奉仕で我々のお母さん。これで皆は走り回り始めました。」

「は?ちょ…なに言ってんすか?」

「ふむ、洗脳に指向性を持たせるのは難しいな。」

 法国の兵士はその場から飛び退く。その兵士は隊長の背後に男が立っているのを見た。そしてその男が手を乗せている隊長は気味の悪い笑みを浮かべながら意味不明な言葉を発している。その男が何かをしたのは明白であった。その兵士はすぐに他の兵士を集めるために大声を出す。しかし誰も反応しない。

「もう他のもの達は終わらせておいた。あとはお前だけだ。」

「あんた…何もんだ?」

「君たちが襲う予定であった何とかフイトの国のものだ。それにしても…随分とナメた真似をしてくれたな?」

 男から溢れ出る殺気。その殺気を浴びた兵士は自身の最後を感じ取った。圧倒的なまでの格上の相手。万が一にも勝機は見いだせないし、逃げられるビジョンも浮かばない。しかし兵士は生きるために必死に命乞いを始めた。

「国に言われて仕方なくやっていたんだ!俺だって本当はこんなことはしたくない!でもやらなくちゃ俺が殺されるんだ!だから…」

「安心しろ。殺しはしない。少しばかり…練習に付き合うだけで良い。」

 そういうと男はいつの間には兵士の背後に周りこみ頭に手をおいた。そしてその瞬間からその兵士は自我も何もかもを失った。数秒も立たないうちに自身の隊長と同じように気味の悪い笑みを浮かべていた。

「ふむ…ヨウ殿。脳をいじる感覚は掴みました。洗脳を解除してみましょう。」

『ヨウ・お、お願いします!!』

 ヴァルドールは法国の兵士によって洗脳された村人の頭に手をおいた。そしてしばらくそのままの状態でいるとため息をつきながら手を離した。

「終わりました。洗脳された部分を破壊して魔力による自然回復を促しました。時間がかかるのとしばらく後遺症が残るのが問題ですが、これが一番手っ取り早いでしょう。」

『ヨウ・さ、さすがです!それじゃあ他の人たちも…』

 ヴァルドールはどんどん洗脳を解除していく。ただ全員すぐにできるというわけではない。一人5分以上かかるため、洗脳されている人々を回収して随時解除していく予定だ。しかしヴァルドールは洗脳解除中にあることに気がついた。

「この洗脳は完璧ではありません。周囲の洗脳されているもの以外を襲う程度の行動しかできません。おそらく…行動に指向性を持たせることも難しい。ただその場で暴れまわるだけです。」

『ヨウ・でも英雄の国では一部の施設に群がるとかしていたよ?』

「おそらく司令塔がいるのでしょう。このタイプの洗脳ならば魔力波を使いある程度行動を命令できる。その程度ならば可能です。」

 ヨウはヴァルドールの情報を瞬時に他の使い魔にも伝えた。ヴァルドールはこういった洗脳や禁術には世界屈指と言えるほど精通している。そのヴァルドールでさえ明確な行動の指向性を持たせるのは難しいと言った。

 そしてヴァルドールの言うことが本当ならばその司令塔をどうにかすれば洗脳されたもの達の行動に制限をかけられる。これは重要な情報だ。

 しかしヴァルドールはそんなことよりも重要なことがある。それはその場にいる洗脳されたもの達の中に見覚えのあるような目筋をした男がいたからだ。




「ほらぁ~このお人形さん可愛いよぉ?」

「………」

 必死に落ち込んでいる子を笑わせようとするVMTランドのスタッフだが、沈黙したまま俯いている子供になすすべなく、逆にスタッフが落ち込み始めている。そんな子供の元に一人の男が近づいた。

「…ごめん。遅くなっちゃったね。」

「……パパ?…パパァ!!」

 子供は父親に抱きついてわんわんと泣き始めた。そしてその子を皮切りに他の家族の元へも離れ離れになっていた親がやってきた。法国が洗脳に注力しているため、死者が少なかった。そのおかげでこうして再び出会うことができたのだ。

 その様子を見ていたリッキーくんの元へ父親と子供が近寄った。子供はリッキーくんに抱きついて笑顔を見せた。リッキーくんはその笑顔を見て舞い上がる。そしてしばらく他の子供達とも遊んでから帰って行った。

『ヨウ・よかったねリッキーくん。』

「…ええ、これでまた働けそうです。元気も出たのでまた解除しに行ってきます。」

『ヨウ・いってらっしゃい。』

 リッキーくんは再び洗脳を解除するために立ち去った。そしてその日を皮切りにヨーデルフイト王国周辺の洗脳被害は激減し、法国の兵士は姿を見せなくなった。本当に戦争など起きているのかと疑うほどの平和さに逆に周辺国は警戒を強めたと言う。

 そしてその噂を聞きつけた周辺の村々の人々がヨーデルフイト王国へと避難してくる。ひとまずこの辺りの安全は確保された。アレクリアルも当初の予想通りだと次なる作戦を開始している。




『ヨウ・洗脳解除は世界樹を用いないと不可能だと思ったんだけどなぁ…ヴァルくんの洗脳解除の映像記録しておいたけどどう?役に立ちそう?』

『ウィザ・…全く役に立たない。おそらく細胞をiPS細胞みたいにしているのはわかる。しかし変質して失われた記憶や脳を破壊しても死なない方法は?』

『ヨウ・あ、その辺はガチ禁術だから手を出さない方が良いってヴァルくん言ってた。破壊されて断片的になった記憶をつなぎ合わせるのは、記憶の改ざん魔法を利用しているみたい。監獄神にバレたら即刻特級の監獄送り。』

『ウィザ・本当に味方でよかった。というかよく味方にできたよなぁ…』

『ヨウ・まあそこは僕の力です。えっへん!』
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