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第359話 世界の生み出したエラー物質

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「我が王よ。エラー物質…とはなんでしょうか?」

「本来は世界樹によって浄化される世界の間違いみたいなものらしい。詳しいことはわからないが、あれをモンスターが取り込むと桁外れに強くなる。あんな大魔法を受けても破壊できていないところを見るとやっぱり浄化するしか手はないな。」

 ミチナガは桁外れの怪物がいると聞いた時に真っ先にこのエラー物質のことが頭に思い浮かんだ。そしてそれを使えば人為的に強力なモンスターが作れることも。だからこれが人為的に作られたものである可能性が高いと踏んでいた。

 このエラー物質に関してはヴァルドールも知らなかったらしい。12英雄達も知らない。かろうじて少し解るのはアレクリアルとナイトだけだ。ナイトはこれまでの数多くのモンスターとの戦いの中でエラー物質を取り込んだモンスターとも戦ったことがあるのだろう。だが流石に詳しくは知らないようだ。

 そもそもこのエラー物質に関する情報は冒険家の間でのみ共有されている。そして不用意に人々が近づかないように手早く処理している。故意に近づくものに関しては抹消されている。徹底的なまでに冒険家たちによって情報統制されているようだ。

 このエラー物質は世界を崩壊させることのできる力を持った物質だ。もしもこのエラー物質を使い、故意に強力なモンスターを増やしていけばやがて人類では太刀打ちできなくなるだろう。だからたとえ魔神であっても知られてはならないのだ。

「なるほど、だからあれはまだ死んでいないということですか。再生を始めましたね。」

 ヴァルドールの言う通りエラー物質を核にして再び先ほどの怪物がその肉体を再生し始めた。その再生速度も尋常ではない。十数秒ほどで完全に再生すると龍のような姿になった。その姿を見たアレクリアルは驚愕し、怒りで体が震えている。

「次元龍…アルレモレド…龍の国の八大龍王と呼ばれた男を…命をなんだと思っている!!!」

 龍の国は8つに分かれており、その全てを統括するのが魔神である神龍だ。そして8つに分かれた国を統治しているのが八大龍王、英雄の国でいう12英雄のようなものだ。だが龍族と言うのは長命である上に身体能力も異常に高い。

 八大龍王と呼ばれた次元龍アルレモレドの全盛期は準魔神クラスはあると言われたほどの傑物だ。アレクリアルも危険視しており、いくつか情報だけは握っている。政治の才能もあり、戦闘の才能もある。特に多次元空間を利用した魔法に関しては神魔に次ぐ存在とまで言われた。

 だが、近年ではさすがに高齢で第一線からは退いたと言われた。その後の情報はアレクリアルでも入手することができなかった。そしてそんな男がこの地で怪物にされてしまっている。

「つまりこれは龍の国からの攻撃…と言うことか。準魔神クラスの空間魔法使いならこの地に誰にも気が付かれずに侵入できるよな…」

 ミチナガはあくまで冷静にこの状況を判断した。今や八大龍王と呼ばれた龍人族の面影はまるでない。ただの理性なき怪物に成り果ててしまった。ミチナガはそんな男を哀れに思い、この変わり果ててしまった怪物を終わらせるために迅速に行動に移す。

「ナイト、ヴァリーくん。俺をあのエラー物質から数メートルの範囲内まで連れて行くことは可能?」

「安全にと言うことなら無理だ。ミチナガ、お前は近づかない方が良い。死ぬぞ。」

「そうは言ってもね…他に倒す方法ないんだよ。」

 ナイトは厳しい言葉を述べるがミチナガだってそのくらいは解る。ただそれでも方法がないのだ。エラー物質を取り込んだモンスターを倒す方法は2つある。1つは攻撃しまくってエラー物質に内包されている魔力を完全に消費させる。もう1つが浄化させる方法だ。

 本来は浄化させる方法を人間がやることはできない。なんせ精霊や大精霊クラスの浄化魔法でないと効果がないからだ。しかし今回は逆だ。攻撃しまくってエラー物質の魔力を消耗させる方法が不可能だ。

 すでにあのエラー物質はダンジョンと固く結びついている。つまりダンジョンから溢れ出る魔力全てを吸収し、力に変えている。無限の魔力を得たエラー物質を破壊することは難しい。だからミチナガの持つ世界樹の力で浄化するしかないのだ。

「すいませんけどアレクリアル様。そういうことなんで援護…お願いできますか?」

「…わかった。ただしばらく待て。少し戦って敵の攻撃パターンを覚える。」

 アレクリアルは12英雄とともに武器を片手にあの怪物と化したアレルモレドへと向かう。他の魔帝クラスたちはその様子を見ながら敵の攻撃パターンを覚える。死者を出さないための最善の手段だ。だがそれでも戦いに参戦できそうなものはほとんどいない。魔帝クラスでも下手をすれば足手まといにしかならないからだ。

「ナイトとヴァリーくんはどうする?しばらく戦ってくる?」

「それは無理です。私は単独行動でないと味方を巻き込みます。」

「俺もだ。」

 ナイトの罠魔法での戦いは味方がいると邪魔にしかならない。肉弾戦で戦っても良いが、このレベルの敵では戦わない方がマシだ。ヴァルドールも味方どころか自分のことすら考えずに魔法を扱うため、集団戦闘には向かない。これが不死の吸血鬼とコミュ障狩人の弊害だ。

「もう一度どでかい魔法を使って動きを封じるのはどうかな?」

「それも無理でしょう。あの再生中は一番近づいてはまずいタイミングでしたから。」

「ああ、核であるエラー物質とやらを出したのもこちらを誘うためだろう。そうでなければあれだけの再生力を持つというのに弱点を晒さない。」

「まあ大精霊クラスがいない限り、弱点にもならないんだけどね。それでもこの情報なかったらあれが弱点だと思って近づくか。しっかし…どうやって近づくのが一番?」

「普通に戦うことだ。敵の意識が他に行っている時に近づく。お前を抱えて近づく役目は俺がやろう。」

「では私は注意を引く役目をします。しかし…我々の誰もが決定打に欠ける今、注意を引くことができるでしょうか?」

 ヴァルドールの言う通り怪物アレルモレドは全体的に警戒しながらでしか戦っていない。死に至る攻撃を誰も持っていないのだから誰か一人に注意する必要がないのだ。そしてしばらく戦ったところで突如、怪物アレルモレドはその様相を変貌させた。

「これは…一番厄介な形態を取られましたね。」

「正直…気持ち悪いんだけど……多頭龍的なやつ?それにしては多すぎ…」

 姿を変貌させた怪物アレルモレドは中心の胴体からまるで触手のように大量の長い首を持った龍の頭を生成した。先ほどまでより一つ一つの頭の恐ろしさはない。しかし手数が多くなったことで敵の攻撃パターンを覚えるどころではなくなった。これでは気がつかれずに近づくことは不可能だ。

 これには一度、アレクリアルもミチナガたちのいる場所まで引いた。まだ他の12英雄たちは戦っているが、決定打に欠ける上に敵の再生能力に衰えがないためジリ貧だ。これはにアレクリアルも溜息を吐いている。

「この他にもいくつも形態があると厄介なのだが…おそらく瞬時に思い描いた形態に変われると言うことではないだろう。あの形態は周囲のモンスターを捕食するためのものだ。百近い触手のような頭を用いて周囲のモンスターを根こそぎ食らう。その為の形態だろう。」

「正直それが一番厄介なんですけどね。あんなことされちゃ俺近づけませんよ。」

「そのことで最終確認だ。ミチナガ、お前ならあのエラー物質をどうにかできるんだな?時間はどのくらいかかる?」

「どうにかできます。ただ時間はできる限り早くやりますけど…できれば浄化中……1分くらいはなんとかしていただけるとありがたいですね。」

「よし、お前たち二人はこっちが注意を引いていればなんとかできるんだな?」

「ああ。」「そのくらい余裕です。」

 ナイトとヴァルドールが即答するとアレクリアルは肩を回し始める。そして12英雄たちが今も戦う姿を見て微笑み、ミチナガの方を向いた。

「ではまた行ってくる。すぐに行けるように準備しておけよ。」

「だ、大丈夫なんですか?そんなに軽く…」

「大丈夫だ。……そうだな。ミチナガ、よく見ておけ。これがかの大英雄の末裔…魔神第2位、勇者神と呼ばれる男の実力だ。」
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