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第332話 妖精女王

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「なぁぁ!あのババア!それも話しちゃったの!」

「話しちゃいましたね。」

 ミチナガと妖精女王の談義は続く。すでに時間は夜更けだ。エリーやエーラといったミチナガの同行者はすでに全員眠りについている。ただ、眠るのも一苦労だったようで野営地を得るためにあちこちを歩き回ったのだという。

 この妖精の国はそこまで大きな国ではない。まあ妖精たちの大きさから考えれば立派な大国なのだろう。しかし人間が数十名野営するための空き地はそうそう無いようだった。結局皆バラバラに空いている場所で寝袋に入り、眠ったようだ。

「そういえばあんたの所属を聞いてなかったけど、どっかの人間の国に属しているんでしょ?」

「一応英雄の国、勇者神のアレクリアル様のとこで伯爵の地位をいただきましたね。後は商人として氷神、神剣、神魔、海神とも交流があります。」

「…あんた意外とすごかったのね。」

「意外とすごいんです。」

 ミチナガの意外な大物ぶりに驚きを見せる妖精女王。そしてミチナガに興味を持ったのか、それからしばらくの間ミチナガの話が続いた。

 すでにミチナガとしては妖精女王の叔母から聞いた話はほとんどしてしまったので、会話の内容がなくなってきた頃だった。なのでここで話の主題が変わるのはちょうど良い。そしてミチナガの話を聞いた妖精女王は一つの点で大きく驚いた。

「嘘…あんた世界樹持ってんの?本当に?」

「本当ですよ。ほら、世界樹の葉に世界樹の樹液。」

「ほらって言われても実物見たことないから…でもすごい力。本物なのねこれが……」

 ミチナガがスマホから取り出した世界樹の品を手に取りまじまじと見つめている。やはり世界樹の品というのはどこに行っても魅力的なものなのだろう。精霊もエルフも妖精もこうして魅了するのだから。そして話は世界樹のことになった。

「あんた…世界樹がなんで世界樹って呼ばれているか知っている?」

「世界樹には9つの国が、世界があったからですよね?」

「ええ、そうよ。そしてこの妖精の国も元々は世界樹にあったと言われているわ。まあ世界樹にあったのは本国、ここは元々分国の一つだったと言われているの。世界樹がまだあった頃に各地の妖精の力の強いところに国を作ったの。まあ妖精の場合、そういった特定の場所にしか国は作れないから大変だったのよ。」

 妖精が集まって妖精の力の強いところができるのではなく、自然に湧き出る妖精の力の強いところがあるらしい。そしてそこでないと妖精は暮らしていけない。妖精とは難儀な生き物で、自身で妖精の力を作り出すことができない。自然から供給するしか方法がないのだ。

「国を作れるのはよほど力の強いところだけ。ほとんどは何人かの妖精が力を回復できる程度。だから妖精の国と妖精の隠れ里ができるわけ。」

「へぇ~…そんな違いがあったんですね。あれ?でも妖精喰いに喰われると妖精の力を吸われるって…」

「あれは吸っているわけじゃないわ。妖精から漏れ出している力を吸収するだけ。」

 大気中にある細々とした妖精の力は普通の植物や生物には吸収できない。妖精がそういった力を吸収して一定の密度まで上げてやると他の生物にも吸収できるようになるのだ。

「かつては…世界樹があった時には妖精はどこにでもいたらしいわ。世界樹によって世界中に妖精の力が分散しているからどこでも力の補充ができた。それに昔は多くの人間に普通に妖精の姿が見えたらしいわ。」

「今では妖精は妖精の隠れ里でしか会うことはできませんもんね。ましてや妖精の国にはそう簡単には入れないようですし。しかも妖精を見ることのできる人間もほぼいない…」

「ええそうよ。そして何より困るのが妖精魔法の使用制限。力を回復しにくい現状では強力な妖精魔法を使うと回復が追いつかないのよ。だからこうして妖精の力を吸収した植物を摂取して回復に当てているの。」

 妖精の力の自己回復ができない現状では大気中の妖精の力を吸収するか食物から吸収するしかない。しかし特に力の強い妖精女王の場合、強い妖精魔法を使うと回復をするのに周囲の妖精の力を大量に吸収する。そうすると周囲の他の妖精たちが衰弱してしまうのだ。

 だから基本的に妖精女王は強力な妖精魔法を数度しか使うことなく生涯を終えることが多い。仮に使ったとしても回復に数年、数十年かけて周囲に影響が出ないようにする。それほど慎重に力を使わなくてはならないのだ。

「だけどあんたが世界樹を持っているというのなら話は変わる。世界樹は強大な私たちの力の源。世界樹さえあれば瞬時に力を回復することができる。そうすれば私たちは…世界へ繰り出せる。」

 これまでは力の回復のことを考えて、力を使うことができなかった。しかし世界樹さえあればそんなことは気にせずに好きなだけ力を使うことができる。それは妖精を縛り付けていたものから解放することを意味する。

 そもそも妖精魔法は強力だ。精霊魔法に類似しており、普通の魔法とは一線を画す。そんな妖精たちは一部の人間の目にしか映らない。姿を見ることも難しく、強力な妖精魔法を使う妖精。そんなものが世界へ解き放たれれば…きっと世界は…

「世界へ繰り出して…何をするんですか?」

「簡単なことよ。私たちが本来の姿を取り戻す。」

「それは一体…」

 ミチナガは緊張感を高める。もしも仮にここで妖精と敵対することになったらミチナガは命をかけて役目を全うする。たとえ魔神の一角が相手だとしてもここだけは決して…。妖精女王はニヒルな笑みを見せる。

「簡単なことよ。世界樹の力を手に入れたら…かつてのような姿……妖精本来の姿…それは…」

「それは…一体…なんですか?」

「世界中で遊びまわるの!」

「…へ?」

「あら知らない?今でも少しは妖精伝説とか残っていると思ったんだけど。気に入った人間の家に住んでその人間の生活だったり、仕事を手伝うの。昔は妖精が仕上げた靴って言えばものすごい話題になったものよ。わざわざ作っている途中で眠って、妖精が仕上げてくれないか待っていた職人もいたらしいわ。」

「…なんか…聞いたことあるかもしれません。」

 妖精伝説、とは言っても本当に伝説。おとぎ話のようなものだ。貧しい靴屋の男の仕事を手伝ったり、忙しい母親の代わりに子供をあやしたり、時には子供を連れ去るなんて怖い話もあったりした。それらはただのおとぎ話ではなく、事実からくる話であるようだ。

「私たちは長命だから結構暇になるの。別に眠らなくて良いし、食事も必要ない。これと言ってやることもないからすっごい暇。だから人間を観察して時々お手伝いするの。今はその趣味がなくなってみんな退屈なのよ。世界樹がなくなってから妖精はすごい退屈。まあ退屈すぎて多少やることを作ってみたりしたけどそれでもつまんないし暇。」

「まあ…眠らず、食事もせず…居場所を変えることも難しいってなるとそうなのかもしれないですね。」

「でしょ!だから世界樹を用いて妖精の力の回復薬作って。それを使って昔みたいに人の住む場所に遊びに行かせて。あんただったらできるでしょ?」

「世界樹を使った回復薬…まあできるとは思いますけど。」

「よし!それじゃあ…商人なんでしょ?この国に出店しなさい。そしてそこで妖精の回復薬を売り出すの。もちろんお代は払うわ。妖精ならではの珍品や…金貨や財宝もあるわね。まあ私たちはそんなものは使わないからどんどんあげる。ギブアンドテイクよ。」

 話を聞く限り全くもって断る理由がない。妖精たちとの強固なつながりを得る上に、妖精の珍品を入手し、金銀財宝も手に入る。これをわざわざ断る理由はない。それに妖精は非常に温厚で害をなすものではない。

 そしてかつてのような妖精伝説が再び世界で巻き起これば、それをミチナガ商会を使って世界へ発信して大儲けできる。かなりのビッグプロジェクトになるだろう。

「商談成立ですね。よろしくお願いします。ああ、それから改めて…ミチナガ商会商会長、セキヤ国国王セキヤミチナガです。」

「妖精女王ピクシリー・ミキュリールよ。よろしくねミチナガ。」

「よろしくお願いしますピクシリー様。」
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