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第323話 隣国へのご挨拶

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「いやぁ…改めて見るとなんか……圧巻だな。」

 ミチナガの乗る魔動装甲車は使い魔たちによる魔動戦車隊に守られながら全速力で隣国へ向かっている。50台以上もの魔動戦車はミチナガたちの乗る魔道装甲車の周囲を軽快に走っている。小型で軽量化された魔動戦車はスピードも出るようでなんとも楽しそうだ。

『黒之捌拾伍・右にモンスターだ!いくぞ!』

『黒之玖拾伍・ウラァ!』

 突如現れたモンスターにも迅速に反応し、瞬時に討伐している。ダエーワの影響でこの辺りは冒険者も近づいていなかったためモンスターも多いのだが、使い魔たちの活躍によりこれといった問題は起きていない。

 そしてものの2日で隣国へ到着した。魔動装甲車で移動すればあっという間だ。そして門番に話を通すとすぐに王城へミチナガの到着が知らされた。そしてそのままミチナガは王城へと向かうのであった。




「いやぁ!ようやくお会いできましたな!さあさあ、長旅で疲れているでしょう。さあ、もう一杯。」

「かたじけないゲラーゲバン王。」

 この国の王、ゲラーゲバン王は自らミチナガへと飲み物を注ぐ。一国の王が酒を注ぐなど、これは普通あり得ないことだ。しかしミチナガの世界的な知名度、魔帝クラスという実力、治める国の大きさ、そしてその人脈からどちらがより上位の存在であるかははっきりしている。

 それに今後、ミチナガと関わるのであれば国の繁栄は間違いない。ミチナガは知らず識らずの内にそこらの王を屈服させるほどにまで成長している。その全てを理解しているからこそ周囲の人々も何も言わない。

「それにしてもダエーワとの騒動の際は直属の騎士団を派遣していただき、なんと感謝して良いのやら。しかも私は半年以上その礼をしに来なかったというのに。」

「ハハハハ、お気になさるな。忙しかった理由はよく聞き及んでおりますよ。あの廃墟のような惨状の国をわずか半年であそこまで成長させたのだ。これほどの偉業、どんな大魔法を使ったのやら。」

「いやぁ…まぁ金という大魔法を使いましたよ。私唯一の大魔法です。随分と大量に使いましたが、まあすぐに取り返せるでしょう。ああ、ついでにどうでしょうか。この大魔法を使って我々の国との間の街道整備をしませんか?モンスターもまだ随分多いようなので冒険者も派遣してみるのはいかがですか?」

「ふむ……良いかもしれませんな。では私も尽力しましょう。」

 トントン拍子で話が進む。それもそのはずだ。この話にはゲラーゲバン王にとってメリットしかない。今の所アンドリュー・ミチナガ魔法学園国は人が足りていない。物資はある程度ミチナガ商会で供給しているが、この辺りの人々の食性にあった食材を用意できているかといえば自信はない。

 つまりゲラーゲバン王は自国民を働きに行かせ、物資を輸出することで多くの外貨獲得が見込めるのだ。おまけに街道整備の金はミチナガがその大半を負担する。その金も結果的には自国民が受け取るので外貨獲得に繋がるのだ。

 楽して大量の外貨獲得を見込めるこの話を断る理由などない。さらにミチナガとの友好関係を築くこともできる。良いことずくめだ。デメリットとしては国民の流出だが、現状この国は人口が多い。多少国民がいなくなっても問題はない。

 それからもう一つデメリットがあるとすればミチナガと戦争が起きた際に攻め込まれやすくなるという点だ。しかしミチナガの評判を知っているものならばそんなことは杞憂にしかならないことがすぐにわかる。むやみな闘争をせず、悪人のみと戦うミチナガを警戒する必要はない。

 結局その日は夜まで飲み明かしながら金貨数千枚規模の事業を行われることが決定した。そして翌朝、昼ごろまで昨日話したことの具体的な書類を作成し、契約を交わした。これにはゲラーゲバン王も笑みが止まらない。この国は当面安泰だ。

「さて、これでお終いですね。ああ、そういえば援軍に来てくれた騎士団にも直接礼を言いたいのですが、会うことはできますかね?」

「ええもちろんですとも!ああ、でも私は大臣たちとしばらく事業計画を練りますので…おい、誰かセキヤ王を騎士団の元まで案内せい。」

 これから行われる事業では、ミチナガは出資と物資の提供だけで済むので今後面倒な会議などには出席しなくても済む。それからミチナガはメイドの案内の元、演習場で訓練をしている騎士団の元へ向かった。

 この騎士団はなんとも珍しい女性だけの騎士団だ。国王の趣味かとも思ったがそうではない。この騎士団の騎士団長発案の元に作られた騎士団なのだ。

 この騎士団の騎士団長は幼少期から才能に溢れ、騎士になった時にはすでに準魔王クラス、それから研鑽を育むと現在は魔王クラスにまで至った。そんな騎士団長は女性であったが故に女性差別にあっていたため、それならば女性だけで一致団結しようとこの女性だけの騎士団を作り上げたのだ。

 今では国王直属の騎士団としてその名声は国内にとどまらず、国外にも轟いている。だからこそダエーワたちも厄介な騎士団だと目をつけていた。そんな騎士団にミチナガが近づいていくとこちらに気がついたのか瞬時に隊列を組んだ。

「相変わらず素晴らしい練度だね。本当によく訓練されている。」

「お褒めに預かり光栄ですセキヤ王。昨日到着したと聞いておりましたが、我々に何かご用でしょうか?」

「礼を言いに来ただけさ。この国に来たというのに君たちに挨拶もしないのは礼儀を軽んじることになるからね。君たちは我々を助けに来てくれたのだから。」

 ミチナガと騎士団長マリーローズはすでに面識がある。ダエーワとの戦いが終わった後に救援に来てくれたのだからとミチナガが簡単な食事会を開いたのだ。その際に軽く話をした。ただ、その後はお互いに忙しいため、あまり話はできていない。

「我々が救援に向かった時にはすでに決着しておりました。ですから礼を言われるようなことは何一つしておりません。」

「いや、君たちの名声があったからこそダエーワたちもそちらを警戒せざる得なかった。おかげで随分と動きやすくなったよ。本当に感謝している。」

「我々はただ騎士としての本分を全うしたのみ。ですが我々の働きに対してそこまでおっしゃってもらえるのは恐悦です。」

「すでにゲラーゲバン王から褒美は貰っているだろうが…私も感謝の気持ちを送りたい。何か武具でも…と思ったが君たちの武具は相当のものだ。酒でも送らせてもらおう。あとは…そうだな。」

 ミチナガはスマホから酒瓶と化粧品を取り出した。女性に似合いそうなものを選びながら、騎士としても似合うものを選んだつもりだ。おそらく贈り物としては問題ないと思われる。

「うちで取り扱っている果実酒だ。私は甘い酒の方が好きでね、私の好みで選ばせて貰った。それからこっちはうちで取り扱っている化粧品なのだが…試供品的な意味合いが強いかもしれないな。気に入ったら買いに来てくれ。そのうちこの国にもうちの支店ができると思うから。」

「ありがとうございます。ですが…化粧品はあまり使わないかと。我々は女である前に騎士ですから。この国を守るために力を注いでおりますので化粧はあまり分からなくて。」

「そういうと思って洗顔剤と化粧水、それからシャンプーに香水とか普段使いできるものだ。騎士団として人々の前に立つ時は綺麗な方が民衆も喜ぶだろ?人々の騎士であり続けるのならば憧れる存在として身だしなみもちゃんとしないと。もしも化粧に興味が出たら言ってくれ。うちのアドバイザーが全部教えるから。」

「それは…確かにそうかもしれません。ではありがたく頂戴します。」

 ミチナガは騎士団全員に行き渡るように用意する。そんな中一人の騎士が緊張した面持ちでミチナガの元まで近づいて来た。マリーローズはすぐにその騎士を止めようとしたが、ミチナガがそれを制した。

「あ、あの!無礼とは承知です。ですがどうしてもお聞きしたいことがありまして…も、もしやその化粧品はメリアの化粧品では?」

「ええ、うちで取り扱っている化粧品は全てメリアに任せていますから。うちのは全てメリアブランドですよ。」

「じゃあ本物のメリア様の!なんていう…ああ!この世にメリアのブランドを出してくれたことに感謝します。」

 どうやらものすごいメリアファンのようだ。そしてメリアの名前が出た途端、突如騎士団の一部にざわつきが起きた。どうやら他にもメリアファンがいるようだ。ただマリーローズはぽかんとした表情だ。そしてそのメリアファンの騎士は急に語り出した。

 なんでも彼女は貴族の子女らしく、以前実家に里帰りした際に友人からメリアの化粧品を使わせて貰ったことがあるのだという。その際にその化粧品の肌へのなじみやすさ、色艶の美しさ、そして香水のなんとも芳しい香りに魅了されたのだという。

 ただ巷ではあまりの人気で入手が困難になり、メリアの化粧品を少しか持っていないということだ。だからその憧れがあふれ出てしまい、失礼を承知でミチナガの前に立ってしまったのだという。

「特にあの写真集は痺れました。化粧品を、洋服を効果的に宣伝するあの写真集。男性向け、女性向けもある上に奇抜なファッションで目を引いて…誰もが真似したくなる時代の流行です!」

「写真集…ああ、前に作ったやつか。人気が出ていくら作ってもなくなるって言ってたな。確かサンプルもらったけど…ああ、これだ。」

「メリアブランドの写真集!しかも初版本!!す、すごい…羨ましすぎる……」

「あ、あはは…これはメリアから送られて来たものだから人に渡せないけど…一応在庫あるからそれを一冊お礼に加えておくよ。どうせだから少し化粧品も足しておくよ。」

「本当ですか!ああ、神に感謝します…」

「えぇ…そこまでなのか。」

 ミチナガがアンドリュー・ミチナガ魔法学園国を作っている間にメリアから写真集を出したり、色々とやっているという報告は上がって来ていたが、忙しくてちゃんと確認していなかった。これは少し確認した方が良いかもしれない。


 なんせメリアもまた、世界を変えることのできる天才なのだから。
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