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第314話 虎の尾を踏む者

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 ミチナガとダエーワが戦っている頃、アンドリュー子爵はアンドリュー自然保護連合同盟に加盟している国の王と釣りに出かけていた。なんとのんきなもの、とも思うがこれがアンドリュー子爵の仕事だ。

 釣りに行きながら河川の水質調査、森の状態の確認、生物種の調査を行いその土地を自然保護区にするかどうかの選定も行うのだ。アンドリュー子爵に同行している国王としては、自然保護区ができればアンドリュー自然保護連合同盟内で一目置かれるようになる。

 それに何よりアンドリュー子爵とともに釣りに行くことができるというのは最高の娯楽だ。今も終始笑顔が絶えることがない。そしてアンドリュー子爵の竿に当たりがあった。華麗な手つきで釣り上げるとすぐに水槽に魚を移す。

「おお、これはなかなか美しい魚体。いくつか似ている近縁種に見覚えはありますが…おそらく固有種でしょう。ジェルガルド国王陛下、調査のために持ち帰らせていただいてもよろしいですか?」

「もちろんですとも。アンドリュー子爵、いかがでしょうかこの森は。先先代から狩のために手入れをしてきた我が国自慢の自然です。秋になると紅葉が美しいですよ。」

「それは是非とも見てみたいです。しかしこの森は手入れされすぎておらず、自然な状態の木々が多く残っておりますな。実に良い…美しい自然です。」

「先代の頃から狩のために使われることがなくなったことによってこうなったのだと思います。他国とのいがみ合いが多く休む暇もありませんでしたから。しかし今ではアンドリュー自然保護連合同盟のおかげでいがみ合いも起きません。おかげで国内のことだけに集中できます。」

 実に楽しく釣りが行われている。それもこれも全てアンドリュー子爵のおかげだ。いくつもの国が乱立するこの辺りでは常に争いが起きそうな緊張感があった。しかしそれも今となっては過去のこと。

 アンドリュー自然保護連合同盟が結成され、多くの国が加入すると他の国々は争いをやめた。下手にアンドリュー自然保護連合同盟を刺激すれば多くの国々から集中砲火を受けかねない。強力な連合同盟が結成されたことにより、戦争の抑止力となったのだ。

 それに今は戦争をしなくてもアンドリュー自然保護連合同盟に加入した国にはミチナガ商会がついている。ミチナガ商会のおかげで他国との貿易がスムーズに行われ、自国内で生産したものを輸出し、儲けたお金で多くのものを輸入できる。

 さらにアンドリュー自然保護連合同盟に加盟した国同士の間の街道の整備にミチナガ商会が出資をしているため、インフラ整備もどんどん進む。それのおかげでインフラ整備に関わる多くの者たちへ給金を支払い貧困層が急激に減った。

 そしてインフラが整えば人の流れもできるため、人口問題やさらなる外貨獲得にもつながる。さらに誰も知らなさそうな村や小さな国にはアンドリュー子爵が赴き、映像でその土地を紹介する。その映像一つで小さな村でも月の収入が金貨100万枚を越える。

 アンドリュー子爵が少し動けば大金が簡単に動く。その事実が徐々に知られ始めてアンドリュー自然保護連合同盟への加盟国がどんどん増える。そして加盟国はどんどん豊かになって行くのだ。今では毎朝アンドリュー子爵の写真を拝むものまで現れる始末だ。

 これだけ多忙だとアンドリュー子爵は実に疲れていると思いきや毎日イキイキしている。2日に1度は釣りをして、様々な国や村を回って釣りをすることができる今の状況はアンドリュー子爵にとって天国だ。疲れなんて吹っ飛んでしまう。

 それに多少の疲れは同行している使い魔のリューが様々な料理や娯楽などでたちまち癒してしまう。おかげでアンドリュー子爵は毎日働き詰めだ。

 そんなアンドリュー子爵に使い魔のリューから知らせが入る。ダエーワによって命が狙われていると。これにはアンドリュー子爵は怯えたが、気丈に振る舞った。今はジェルガルド国王とともに釣りをする楽しい時間だ。ジェルガルド国王もこの日をずっと楽しみにしてきた。それが中止にされては悲しいだろう。

 しかし命が狙われているのにずっとこの場にいるのは危険だ。とりあえずあと1時間ほどしたら帰ろうと決めた。だが、そんな甘い考えがアンドリュー子爵に悲劇をもたらした。

 30分ほど経った頃、アンドリュー子爵がジェルガルド国王にもうすぐ帰ることを伝えるとひどく悲しそうな顔をされたが事情を説明し、しばらく滞在することを伝えると大いに喜んだ。

「申し訳ないジェルガルド国王陛下。ダエーワという大きな組織に狙われることになるとは夢にも思わず…」

「何をおっしゃいますか!このジェルガルドにお任せください。私も戦場で戦ったこともあります。ダエーワなんぞこの私が叩きのめしてくれましょう。しかし…それならば急ぎ城に戻った方がよろしいのでは?」

「そうなのですが…どうにも私の釣りバカは止めようなく、こんな状況でも釣りをしたくなってしまいまして。まああと30分ほどしたら帰りますから。」

「そうですか。…お心遣い感謝します。ではもう少し……アンドリュー様。こちらに来てください。」

 周囲の兵士たちも警戒態勢に入る。ミラルたちは魔法の構築まで終わらせている。リューはすぐに魔動装甲車を取り出し始めるが大きいものを取り出すのには若干時間がかかる。その若干の時間を奴らは逃さなかった。

 木々の陰から突如現れる多数の武装したものたち。一体何人いるのかその数を正確に測ることは難しい。この状況下では敵に地の利がある。だがそんな敵の初動をミラル、ギギアール、ケイグスの3人の白獣の魔王クラスの魔法によって打ち潰した。

 突如現れたダエーワの戦闘員。対するこちらはジェルガルド国王とアンドリュー子爵の数人の護衛のみだ。時間が長引けば長引くほど相手に有利になる。ここは撤退戦をするしか方法がない。

 ただこちらには魔王クラスが3人もいる。そこらの雑兵ならば問題はない。しかしすぐに森の中から4人のダエーワの兵士が現れた。彼らは全員魔王クラスだ。これで圧倒的に敵が有利になった。しかしこの短い時間を稼いだおかげでリューが魔動装甲車を取り出すことに成功した。

『リュー・早く乗って!ミラルたちにしんがりを頼んで僕たちは逃げるよ。』

「行きましょう。さあアンドリュー子爵早く。」

「はい!」

 急ぎ魔動装甲車に乗り込もうとする2人。しかし敵としてはアンドリュー子爵を逃すわけにはいかない。するとアンドリュー子爵に向けて矢が射られた。一直線に向かってくる矢はアンドリュー子爵の頭部めがけて飛んでくる。

 間違いなく致命傷になるその矢はアンドリュー子爵に届く直前、間に割って入ったジェルガルド国王の肩に深く突き刺さった。矢の先は貫通しているがアンドリュー子爵には届くことはなかった。

「ジェルガルド国王!ああ、なんということだ。誰か!手を貸してくれ!」

 すぐに周囲の兵士とともにジェルガルド国王とアンドリュー子爵、それに幾人かの兵士は魔動装甲車に乗り込む。そしてアンドリュー子爵は他の兵士を待とうとしたが他の兵士たちはそれを拒んだ。

「これに我々が乗り込むことはできません。我々は馬で後を追います。ですから先を急いでください。」

「しかしそれでは君たちが…!」

「我々は王と…そしてあなた様を守るために戦います。ここは任せて早く行ってください!」

『リュー・出すよ!』

 魔動装甲車は急速発進する。敵も逃すまいと立ちふさがるが魔動装甲車の圧倒的質量を前に跳ね飛ばされる。アンドリュー子爵は残されたものたちのことが気がかりで声を上げようとするが、それをやめた。隣にはアンドリュー子爵を庇って射られたジェルガルド国王がいるからだ。

 すぐに矢を取り除いて傷の治療に取り掛かる。乗り込んで来た兵士は簡易的な治療に手馴れているためすぐに治療が終わる。しかし傷口が妙におかしい。すぐに矢を調べると鏃に毒が塗られていることが判明した。

 ダエーワたちが使う毒は魔法による自然治癒では簡単に治らないように改良されているものだ。肩からの傷でもものの数分で死に至るだろう。兵士たちは顔を青ざめさせるが、そこにリューの眷属がやって来た。

『リュー#4・はいはい毒ね。解析している時間が勿体無いからとりあえずこの薬飲んで。それからこの液体を傷口にかければ…はいこれで解毒完了。矢傷が治らないのはかなりの魔力がかけてあるからだね。だけどこれくらいなら…3日もあれば治る。』

 なんの毒かはわからないが世界樹を用いた薬を使えばどんな毒でも治る。後はしばらく静かに療養していれば傷もふさがり完治するだろう。傷の痛みで苦痛の声を上げるジェルガルド国王にアンドリュー子爵は必死に声をかけた。

 それから1時間ほど魔動装甲車を全速力で走らせるとジェルガルド国王が治める国、ジェルガルド王国に戻ることができた。
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