スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第304話 合成獣

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『ポチ・えっと…確かこっちの方だったよね?』

 あれから2日後、ポチは一人お使いに出ていた。本当はミチナガ自身が行こうと考えていたのだが、あまりにも危険が伴うためさすがのミチナガもそれはやめた。だから一番信頼の置けるポチをつかいに出したのだ。

 ポチは一昨日出会ったあの男から教えられた敵側の魔王クラスの男に出会うために移動を続けている。いくつか出会えそうな候補を教えられたのでそこを回っているのだが、今の所成果はない。

 仕方なく一番出会える可能性があると教えられた場所でお茶を飲みながらゆっくりとする。相手は魔王クラスの隠密系だ。こちらが探して見つけることはまず不可能。なので相手に見つけてもらうしかない。

 しかしなんの音沙汰もないまま2時間が経過した。さすがにもうこれ以上お茶を飲むのは難しそうだ。今日はもう出会うことは難しいと思い、片付けを行いその場から離れようとする。しかし片付けを終えた次の瞬間、その場からポチの姿は消え去った。

 瞬きほどの間にポチは人気のない暗闇の中へ連れ去られていた。その体は力強く人間の手で抑え込まれている。逃げ出すことは不可能。さらには暗闇のため相手の顔を視認することは難しい……使い魔でなければ。

 ポチは瞬時に録画モードを起動。そして自身の目を暗視モードに変えた。そのおかげで昼間のように男の顔がよく見える。だが顔が見えたところでそれが何者かはわからなかった。

「使い魔か。我々を探るためにわざわざ動いていたようだな。あんなところで待っていたのはなぜだ。」

『ポチ・初めまして元蛍火衆。今はダエーワに与する犯罪集団さんだね。僕の名前はポチ。ある人の命令で動いているよ。』

 蛍火衆。それがあの男から教えられたダエーワに与する4人の魔王クラスが所属する暗殺集団の名だ。そんな暗殺集団をわざと挑発するようにポチは話した。そうすればごく当たり前のようにポチを握る力が増す。

「人語を解する使い魔か。我らを知っているとはな。挑発しても意味はないぞ。なんの目的で我らに近づいた。」

『ポチ・医薬品を収集しているみたいだね。しかもとびっきり高価なやつ。違法なのも随分手を出しているみたいだねぇ……そんなに悪いのかい?君たちの頭首は。』

「なかなかの情報通…と言いたいところだが我々はそれに関しては隠して動いていないからな。それで?」

『ポチ・この丸薬を売りに来たよ。毒が心配なら半分はそこらの病人に飲ませると良い。効果は十分なはず。ただ完治させるためにはそれだけじゃあ足りないと思うからもしも必要ならここにいるからまた会いに来てよ。』

 ポチは男に世界樹製の丸薬を渡した。世界樹の葉から生成したものでほとんどの病気はこれ一つで治る。ただ、おそらくだが元蛍火衆の頭首はこれ一つでは治らないだろう。そうでなければ今までのものでなんとか治るはずだ。

 だから今渡した丸薬はこちらを信用してもらうためのものだ。これである程度の効き目が出れば相手もこちらを信用するだろう。それに彼らとしても頭首が治るのならばいくらだってこちらに協力するだろう。それだけの忠誠心があるという情報を得ている。

「何が目的だ。これをタダで渡すと?」

『ポチ・とりあえず今はこのことを内密にするだけで十分だよ。僕たちなら頭首を完治させることができるという証明になればいいなと思ってね。その時に僕たちの目的を話す。』

「良いだろう。…しかし何もなかった時は…わかっているな?」

『ポチ・こっちとしてはそうならないことを祈るよ。』

 それだけ言うとポチは突如無重力感を味わい、再び先ほどまで茶を飲んでいた場所に戻っていた。何が起きたのか、何をされたのか全くわからない。しかし重要なのは彼らとコンタクトを取ることだ。そしてそれは叶えられた。

 ポチはそれから2~3日単独行動を続けた。ここでミチナガの元へ戻ろうものならきっと後をつけられてミチナガのことが露見する。使い魔達がどんなに気をつけても相手は暗殺や隠密のプロだ。使い魔達では気をつけたところでなんの意味もないだろう。

 そして3日目の夜。再びポチは目の前が暗転し、あの男の元へと連れてこられていた。

『ポチ・やぁ。あの薬は効いたかい?』

「ああ、多少顔色が良くなられたようだ。お前の言うこともあながち嘘ではないかもしれない。……本当に治療が可能なんだろうな?」

『ポチ・まあ診てみないことにはわからないよ。だけど多少でも効き目があったなら問題ないと思うよ。あれより数百倍以上高い効果が出せるものもあるから。もちろん副作用は無し。…それじゃあ連れて行ってくれるかい?』

「良いだろう。元よりそのつもりだからな。」

 男がそう言うと再び景色が変わった。今度はほのかに明るい場所だ。月明かり程度の明るさだ。そんな場所に連れてこられたポチの背後からは複数の呼吸音が聞こえる。すぐに振り向くとそこには……異形の姿があった。

『ポチ・何……これ……』

「我らが頭首だ。」

『ポチ・こんな怪物が君たちの頭首?君達は一体……何をしたんだ………』

 ポチの目の前で蠢いているものは到底人間とは呼べない。いくつものモンスターらしき生物の集合体だ。それはまさしく合成獣、キメラのようだ。しかしキメラとしてはあまりにも多種多様な生物をつなぎ合わせ過ぎている。

 こんなキメラがいるということ自体聞いたことがない。この半分の種数でもキメラとして成り立たず、自壊するだろう。キメラというのは生物としてあまりにも異常で、普通に生きているだけでもいつ死ぬかわからない生物だ。

 しかもこれだけの大きさであれば、すぐにエネルギー不足を起こし、常に何かを食べ続けないと餓死してしまう。だからキメラというのは常に飢えており、このキメラも常に周囲に襲いかかって喰らいついても不思議ではない。しかしそんな様子はない。よく見るとどの生物も休眠しているようだ。まるで食料の得られない冬に冬眠する生物のように。

『ポチ・なんでこんな真似を……』

「こうするしかなかった。数多の呪いと毒によって汚染された体を浄化するためにこれだけ無理やりつなぎ合わせねば……」

『ポチ・…とりあえず診察するよ。』

 ポチは診察を始める。医学などに関してポチはあまり詳しくないが現在の情報をマザーに送ることで他の使い魔達と情報共有される。現在状態の動画の撮影、キメラとして合成された生物種の確認、触診を用いた結果ある程度のことがわかった。

 このキメラはまるで薄氷の上を歩くかのごとくギリギリの状態で保たれている。もしもこの中の一つの生物がいなくなった時点で死を迎える。それどころかどれか一つの活動が悪くなった時点で死んでしまうだろう。

 間違いなくこのキメラを作ったものは世界最高の生物学者にして最悪のマッドサイエンティストだ。本来数種類のモンスターの合成でさえ安定させることが難しいと言うのにこの数を安定させることなど神業といえる。そしてこんなことを人間の体に施したというのは神をも恐れぬ蛮行だ。

 構造としては中心核となる人間の部分で発生した呪いを他の生物でいくつかの呪いに分解する。その呪いを解呪させる生物をつなぎ合わせ、その生物が解呪させた時に発生した毒素を他の生物で分解させる。そしてそれらの生物をつなぎ合わせるために拒否反応を起こさせないための生物をつなぎ合わせている。

 こんなことが数十のつなぎ合わせたモンスターで行われている。全て緻密な計算によって行われているのだろう。そしてこのおかげで中心核の人間の部分は今でも生きている。

『ポチ・多分…なんとかなると思う。だけどはっきり言っておく。呪いや毒が治ったとしてももう元通りの人間にはならないよ。おそらくいくつも障害が残る。感情や精神も異変が起きているかもしれない。そうなったらもう僕たちじゃどうしようもできない。』

「それでもこのお方には生きてもらわねばならない。仕えるべき主人を失うわけにはいかないのだから。そのためだけのために我々は生きている。」

『ポチ・……わかった。治療を引き受ける。ただしいくつかの条件を出させてもらう。頭首が治ったら君たちは僕たちの下で一生働いてもらう。そしてそれはダエーワと敵対することになる。他にも危険な仕事をさせると思う。だけど君たちには全て従ってもらうからね。それだけの覚悟はあるかい?』

「主人のために命を捨てるのが我らが忠義。我らが信念だ。」

『ポチ・わかった。それじゃあ…僕たちのボスを連れてくる。僕じゃこれはどうしようもできない。ボスに何かあったら君たちの頭首は一生助からない。それだけは忘れないでよ。』
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