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第291話 たくらみ…何それ美味しいの?

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 ミチナガは一人ベッドの上で今朝から思案にくれている。周囲には使い魔たちもゴロゴロと寝転がっており、時折ポツリポツリと言葉を交わしている。そんなことを続けていると気がつけばマリリーに言われた夕方と言える時刻になっていた。

 ミチナガは夕日を眺めながらマリリーの到着を待っていると、このホテルに近づいてくる馬車が見えた。おそらくあれが迎えの馬車だろう。ミチナガはゆっくりと身支度を始めた。

 迎えに来たマリリーの馬車はなかなか小綺麗なものだ。しかしミチナガにとってはそこらの馬車と変わりない。そもそも馬車に乗ること自体久しぶりだ。マリリーが馬車の前で待っているとミチナガが現れた。そして現れたミチナガの姿を見たマリリーの表情は固まった。

 ミチナガの服装が昨日までのラフなものとは違い、かなりしっかりとしたものに変わったせいで昨日のミチナガとはまるで別人に見えたのだ。マリリーは戸惑いながらももしかしたら別人かもしれないという期待を込めて口を開いた。

「え…えっと……ミチナガ…さん……だよね?あ、あれ~?随分昨日と違うなぁ~…なんて。」

「ん?まあ正装が良いと思ったから。うちのデザイナーの服の一つなんだよ。変かな?」

「いやいやいやいや……変じゃないよ?いや、いろいろ考えれば変なんだけど…まあ変じゃない。うん。変じゃない。よし!切り替え完了!それじゃあ行こう!行きましょう!」

「あ、ちょっと待って。うちの護衛がついて来たいって言っているから。4人ほど良いかな?馬でついてくるって言っていたから問題なく来られるはずだけど。」

「全然問題ないよ!なんて言ったって商会長だから護衛は必要だよね。…昨日はいなかったけど。それで?どんな屈強な人が出てくるのかな?ちょっと楽し…み……」

 そう言ったマリリーの目にはホテルの裏から颯爽と馬に乗って駆けてくる20を超える騎士の姿が映った。そしてミチナガの元へ並ぶと全員が馬から降り、ミチナガへ最敬礼をした。

「ミチナガ様!今宵は我ら4名が御守りさせていただきます!それから昨日までの情けない我らをお許しください。」

「良いって良いって。お前たちは陸上で戦ってくれれば十分!それじゃあ頼むな。残るものたちもまあまず何事もないとは思うけど皆の護衛頼んだぞ。」

「「「御意!それではミチナガ様、行ってらっしゃいませ!」」」

「いってきます。それじゃあマリリー、行こうか。どうした?鳩が豆鉄砲食らったような表情して。」

「ナ、ナンデモナイヨ……ソレジャアイコウカ……」

 ガチガチに緊張したマリリーに続きミチナガも馬車に乗り込む。そして馬車は動き出すのだが、ミチナガは久しぶりの馬車の揺れにマックたちとの旅を思い出した。思わず楽しくなってしまって笑みが出る。時々馬車にも乗ろうかと考えているミチナガの前でマリリーは一連の事にまだ脳がついていけていない。

 ミチナガは緊張しているマリリーの緊張をほぐすために軽く喋り掛ける。最初のうちは会話がうまく成り立たなかったが、徐々に落ち着いてきたのか会話が成り立つようになってきた。

「やっと落ち着いたみたいだ。それで本題なんだけど…今日の会議ってやつで俺は何の話しをすれば良いの?」

「え!はなし…話!?いやえっと…その……あ、あはははは…」

「あはははは……」

「あはははははは……」

「あはは………やっぱうちと合併…と言うより吸収するための話?」

 突如ミチナガがそう言うとマリリーの表情は固まった。そして震えだし、今にも泣きそうな表情だ。ミチナガはそんなマリリーを見て微笑んでいる。するとマリリーは観念したのか俯いた。

「まさかそこまで読まれているなんて……」

「いや、読むも何もあのマッテイとかいう男が全部喋ったよ?この3大商会に加わればお前のとこの商会も大きくなるぞって。良いタイミングで来た。お前のとこの商会は運が良いって。だから昨日一日は3大商会ってやつがどんなもんなのか見に行っていたんだよ。」

「…へ?………全部聞いていたの?」

「うん。全部聞かされた。今の3大商会は安定的な収入はあるけど、さらに大きくなるためには新しいことをしないといけないってな感じのことも言ってた。そのためにも外の商会と手を組んでさらなる発展を!って。ずいぶん酔っていたみたいだけどね。」

 ミチナガは一昨日のうちにマッテイから様々な話を聞かされた。その中には3大商会の現状についても言及されていた。海運の中継地点として栄えてきたこの街は安定的な収入はあるがこれといった強みがない。だからその強みを作るための策を考える必要がある、とマッテイは所属するメランコド商会の商会長から聞かされていた。

 だからマッテイは、いの一番にミチナガに接触してメランコド商会とミチナガ商会が協力すればお互いにさらに高みを目指せると語ってきたのだ。まあその話をしている中で3大商会の問題点もミチナガに教えてしまうような男でもある。マッテイは悪いやつではないのだ。ただ少しアホなのだ。

 そんな問題点を聞かされたミチナガは後々接触してくると思われる3大商会について実際に自分でも調べて見たのだ。すると確かにマッテイの言っていた通りの問題点が見つかった。だからミチナガはポチたちと一緒に作戦を考えたのだ。

「あ、あのおしゃべり野郎~~!!ええそうよ!この街の発展のためにも!私たちの商会が大きくなるためにもあんたのミチナガ商会を利用するつもりだったのよ!……はぁ…やっぱり昨日会った時点でやめておくべきだった。うちの商会長もチャンスだって言って焦っていたから私に何がなんでもあんたを引っ張ってこいって命じていたのよ。私たち3大商会の商会長が集まればたいていのやつは雰囲気に飲まれるからいけるって自信持っていたから。」

「あはは。無理無理。普段もっとすごい人たちと話ししているからその程度じゃ雰囲気に飲まれないよ。まあマッテイも悪気が有ったわけじゃないんだと思うよ。俺のこと下男だと思っていたから、俺にチャンスをやろうと思って色々話してくれたんだと思う。昨日マリリーからマッテイのこと聞かなかったらわからなかったけどね。」

 マリリーの話だとマッテイは下男から良い情報を得て小間使いになったとのことだ。だからミチナガのことを下男だと勘違いしていたマッテイはミチナガのために良い情報を教え、そして元下男の先輩として食事代を奢ってミチナガにエールを送ったのだろう。

 そう考えると本当にマッテイは悪いやつじゃない。それにマッテイから教えられた情報はどれも嘘偽りなく、有用な情報であった。ただ少し詰めが甘いくらいだ。

 ミチナガもその事に気がついたのは昨日の夜のことだ。それに気がついたからこそミチナガは今日一日かけて良い話をまとめてきたのだ。あまり乗り気ではなかったポチもそれを知って少し乗り気になって色々考えてくれた。

「はぁ…普通下男扱いされたら怒るもんだよ?商会長なんでしょ?良いの?こっちはそっちの商会を吸収しようとか考えていたんだよ?」

「まあね、少しはイラついたけど……でも真意がわかれば怒れないでしょ。逆にマッテイが何も話さないでみんながうちのこと探って吸収しようとか企んでいたら事はもう少し大事になっていたかもね。逆にマッテイに感謝しないといけないかもよ?」

「ええ~~…あいつに感謝はしたくない。でも吸収しようとしてきたら…今でも多分考えている人いると思うけどね。もし吸収しようと動いてきたらその時はどうしたの?」

「ん?まあ選択種は二つかな?飲み込もうとしてきたところを飲み込み返すか、潰して飲み込むか。うちの参謀たちはそう考えていたみたい。うちの商会そこそこ大きいんで力押しでも余裕で勝てますから。」

「は、ハハ……ハ………これは本当にマッテイに感謝かも。」

 ニッコリと微笑むミチナガに本気で体を震わせるマリリーは人生で初めてマッテイに感謝した。

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