スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第290話 3大商会

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 翌日、幾人かは調子を取り戻して来たが、まだ船の長旅による体への負担が大きかったため、まだ休息日に当てた。なんとかミチナガの護衛をしようと起き上がって来るが、ミチナガが秘密裏に動きたいと説得するとなんとか引き下がってくれた。

 その日のミチナガは沿岸沿いの、少し街から離れた場所へ向かった。そこは船を作る専用のドックだ。しかし現在は船は作っておらず、修理がほとんどらしい。その情報も昨日の男からのものだ。

 この港町は船による運搬の中継地点として発展して来たらしい。以前は船をよく作っていたらしいが、現在では他の場所で船を作ることが多くなってしまったせいで、立ち寄った船の点検や整備がほとんどらしい。

 そしてここはこの街の3大商会の一つ、船に関することを生業として発展を遂げた職人たちの商会。その名も…

「どうも、シドリア商会に何かご用ですか?」

「ああ、どうも。ミチナガ商会のものです。実は昨日この港に着いたんですけどね、念のために点検をお願いしたいんです。」

「ミチナガ商会…ああ、あの大きな船の!見たことない船だったから親方が気になっていたんですよ。親方ー!親方ー!!聞こえないのかな?すみません、今呼んで来ますね。」

 そういうと男はどこかへ走っていった。待っている間も暇なので周囲を見回しているが、よく見ると船以外にも馬車を作ったり、家の骨組みのようなものを作ったりもしている。船を作ることはできないので、代わりに他のものを作って生計を立てたり、腕を鈍らせないようにしているのだろう。

 ちなみに以前のように船を作ることがなくなったシドリア商会だが、儲けとしては申し分ないほど稼げている。常に潮風を浴び、海水に浸っている船は点検なしには持たない。だから必ず月に何件もの点検整備の仕事が舞い込み、安定した売り上げを出せているのだ。

 ただ仕事の手際は良いし腕も良さそうなのだが、サボっている人が目立つ。手際が良すぎるためにこの仕事量ではすぐに片がついてしまうのだろう。だからサボっているというより、仕事がただないだけなのだ。

 そんな様子を見ていると一人の小柄なドワーフがやって来た。その見た目からは職人気質なオーラを強く感じる。そのドワーフはミチナガのことをじっと観察している。

「……お前さん…ただもんじゃねぇな。何もんだ。」

「えっと…なんのことです?」

「誤魔化すんじゃねぇよ。このバカはあんたのことを商会の下男だなんて言ったが、俺はごまかせねぇ。見た目はなんてことないかもしれねぇ。だがな、さっきから鳥肌が治らん。あんたからは得体のしれない何かを感じる。」

「まあ本来は隠し立てするつもりはなかったんですけどね。初めまして。ミチナガ商会商会長のセキヤミチナガです。昨日メランコド商会の男性が勘違いしていたものですからつい…」

「あのボンクラか。まああんたのすごさがわかるのにはある程度経験を積まないと無理かもな。名乗るのが遅れたな。シドリア商会のドルードだ。それで?わざわざ俺にコンタクトとって来た理由はなんだ?あの船はまだ点検が必要とは思えないんだが。」

「いえ、特にこれといって裏の目的があるとか、何かしようという気はありません。あの船は貰い物なんですが、その後自分たちで改造をしたんです。一応それなりの知識はありますが、一度本職の人に見てもらおうと思いまして。」

 ミチナガの言葉を聞きドルードはミチナガの表情をじっと見つめる。ミチナガは表情を崩さずににこやかだ。ミチナガもこのくらいの腹芸はできるようになった、と言いたいところだがそれが事実であるため、ただ馬鹿正直に答えているだけだ。

 だがドルードは深読みしすぎてミチナガという人間に対して疑心暗鬼になっている。確かにドルードの言う通りミチナガはすごいやつになった。しかしミチナガという男はずっと正直に生きて来た。嘘をつくときは簡単なものしかつかない。その程度の男なのだ。

 しかしそんなことがわからないドルードは深読みしすぎてミチナガが何を考えているのかわからなくなる。やがて手を挙げて降参するとミチナガに言われた通りに船の点検のため船着場へ向かった。ただミチナガは他にもやりたいことがあるため、ドルードのことは使い魔に任せて別の場所へ向かう。

 ミチナガが向かった先は3大商会の残り一つ。食料品を扱う商会、ロッデイム商会だ。主に船に補給する食料を扱っていたのだが、現在はこの街で出回る食料品のほとんどに関与している商会だ。この商会が一番規模は大きいのだが、儲けはそれほどではない。

 そもそもここはあくまで輸送の中継地点だ。目的地までより多くの品物を届けるために船員の荷物はできる限り減らしたい。そのため船員の食料も少量ずつをこの中継地点で補給する程度だ。だから一度の儲けも少ない。代わりに安定的な収入にはなっている。

 正直、これまでの話を踏まえるとあの男は3大商会が揃えば魔王クラスの影響力などと言っていたが怪しいところだ。まあ海運の中継地点としてこの街が潰れてしまうと海運そのものが成り立たなくなるため、影響力という面では大きいのかもしれない。

 そんなロッデイム商会は小さな店舗に大きな倉庫というなんとも不思議な商会だ。店としての大きさはかなり小さい。しかし背後に連なる倉庫の大きさと数を見れば大きな商会だとわかる。

 商品として並んでいるのはごく普通の食材だ。しかし隅の方に痛んだ食材が他の商品の半値で売られている。ミチナガがそれをじっと見つめていると女性の店員が近づいてきた。

「そちらの商品は船がこの港にたどり着いた際に入れ替えをした食材なんですよ。長い船旅で残ってしまった食材をうちが引き取ってこうして販売しているんです。お金のない人にはありがたがられているんですよ。」

「そうなんですか。ちょっと気になったもので。ああ、昨日来たミチナガ商会のものです。」

「ええ、存じていますよ。ここに来られる船のことは全て調べ上げていますから。ですがミチナガ商会という名前は初めて聞いたので皆が探り回っているんですよ。どちらで主に活動しているんですか?」

「いろいろ手広くやらせてもらっています。今は英雄の国を目指しているんですが、もしもたどり着いたら世界一周したことになりますね。まあ氷国周りなので魔国など行ったことのない国はありますけど。」

「それはすごいです!こういう港町に住んでいると外の世界に憧れるんですよね。あの船はこれからどこへいくんだろう、きっと私が見たこともない世界へ行くんだろうな…って。いつかは船旅でもしてみたいものです。」

 それからしばらくミチナガの旅の話をして盛り上がり、ロッデイム商会の話もした。なかなかのおしゃべりのようだが、メランコド商会のバカ男と違って話しても問題ない話だけをうまく誘導して話している。

「へぇ…それじゃあ最近は新しい保存食の開発を…食品開発はなかなか大変でしょ。」

「船乗りはよく食べるので特に大変です。美味しいものを長く保存して場所を取らず、お腹いっぱいになる保存食。いくつか作ったんですけど満足してくれなくて。船乗りの1番の楽しみは酒と飯だから妥協できねぇ!って言うんですよ。雇い主の商会も結構困っているみたいなんですよ。調味料だけでもなかなか場所を取るって言って。」

「船乗りのための場所を取らない保存食かぁ…」

 ミチナガが思案にくれているとその様子を見た店員はクスリと笑った。ミチナガがどうしたのかと店員を見るとにっこりと微笑みミチナガを見た。

「やっぱりお兄さん商会の下男なんかじゃないでしょ。船着き場の兵士からお兄さんのことは下男だって聞いていたけど全然そんな雰囲気じゃない。なかなかのお偉いさんでしょ。けどそんな人がなんで小舟を出して先に上陸許可なんて取りに来るのかなぁ?普通おかしいよ?」

「みんな船酔いでダウンしていたからしょうがなくね。だけどあそこの船着場の兵士から話が漏れたのか。だけどなんで俺が下男ってことになっているんだろ?俺ちゃんと名前も書いたんだけど。まあそう言う君もお偉いさんでしょ?話し方から知性を感じる。メランコド商会のあの男とはまるで違う。」

「メランコド商会のあの男?……ああ、マッテイのことかな?出世のためにしょっちゅういろんなことを嗅ぎ回っているからうっとおしいんだよね。前に良い情報を得ることができて下男から昇進して小間使いとして使っているらしいけど。ちなみに私はロッデイム商会の商会長補佐です。マリリーって言うの。よろしくね。」

「ミチナガ商会の商会長のミチナガだ。よろしくなマリリー。」

「やっぱりお偉いさん!しかも一番偉い人と来ましたか。これはびっくり!しかもミチナガ商会のミチナガ……ってことはつまり?」

「俺が作った商会です。」

「これまたびっくり!2代目とかじゃなくて創業者の方ですか。やや!これは今まで失礼を…」

「あはは、気にしないで良いよ。まあ少しは気にしてほしい人も昨日いたけど。まあ勝手に勘違いしてくれているならこっちとしては下手に警戒されずに動けるから利点しかないけどね。」

「偉くなると自由に動くのも大変なんだ。じゃあ今まで気楽に動けてよかったねぇ。あ、そうだ!明日この街の3大商会が集まって会合するんだけど来ない?特に議題もなくおしゃべりして終いなんだ。そんなんじゃつまんないしさ。少し面白くしようと思って!美味しいご飯も出るよ!」

「そんなこと勝手に決めて良いの?かなり大事な会みたいだけど。」

「大丈夫です!何せ私は商会長補佐!そのくらいの権限はあります!…あるはずです!……あるよね?」

「俺に聞かれても…。まあ面白そうだから出席しても良いなら出席するよ。」

「本当に!じゃあ明日の夕方ごろに迎えに行くから!絶対に行くからね!」

 ミチナガはマリリーと約束してその場を後にした。帰り道にメランコド商会にも寄って行こうかと軽く覗いたところあのマッテイが目に入ったため、面倒なことにならないようにとその場から退散した。

 しかしこれで3大商会に関する情報は全て手に入った上にその集まりにまで招待された。特にこれといって大きなことをするつもりはそこまでなかったミチナガだが、ここまで舞台が出来上がれば何かしたくなるのが人の性だ。ミチナガは翌日を楽しみにしながら色々と思案を巡らせていた。
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