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第282話 使い魔と社員旅行と温泉旅館

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「みなさん!夕食の最中ですが明日のことを話すのでお静かにお願いします。すでにブラント国に着いて2日経ちますが明日は隣村のアマラードという場所に行きます。とても良い温泉地ということで明日はそちらで一泊します。ですので一泊分の荷物だけ持ってそちらへ移動してください。」

 全員の前に立ちローナが話し始める。ローナは現在ルシュール領のミチナガ商会の本店で副店長を任せられている。そんなローナの指示に従い食事を終えた従業員たちは翌日のための荷物をまとめる。

 そして翌日、再び魔動バスに乗り込み移動を始める。移動時間は3時間ほどだ。馬車で2日はかかった距離なのだが、本当にあっという間に到着してしまう。そしてアマラードに近づいた時、数人の従業員たちは顔色を変えた。

 どうやら以前訪れた時のマックたちと同じでこのアマラードの守り神の存在に気がついたようだ。メリリドも若干表情が険しくなった。そんな一部が緊張の面持ちの中、魔動バスは目的地のアマラードの旅館にたどり着いた。

 ミチナガが来た時よりもはるかに増設され立派になった旅館の前では旅館を経営しているアマラードの村長が出迎えてくれている。

「ようこそおいでくださいました。ミチナガ商会の方々ですね。どうぞお部屋へご案内いたします。」

「あ、ありがとうございま…す……。すみません、どうしてもこの感じが気になっちゃって……」

「ああ、慣れないうちはそうですね。安心してください。害をなさなければ決して危害を加えることはありませんから。初めて見る人に対しては観察を行うようなのでそれが違和感を覚えるのでしょう。ああ、サラマンくん。君も来ましたか。」

『サラマン・やあやあみなさん初めまして。マッシュも初めましてかな?スマホに戻らないからみんなと顔合わせるの久しぶりだよ。』

 唐突に現れたのは使い魔のサラマンだ。このアマラード村の精霊と仲良くなってからというものろくにスマホに戻らずこの村で遊んでいる。そんなサラマンの姿はどこか揺らめきを感じる。その姿はまさしく…

『マッシュ・サラマンさん…もしかして精霊化してます?それも結構……』

『サラマン・うん、多分完全に精霊化しているね。いやぁ、毎日毎日アッシュ…ああ、ここの精霊ね。アッシュと話していたら精霊のエネルギーみたいなのかな?それをどんどん吸収してさ、その上毎日温泉に入っていたらなんか自然とこうなってさ。すごいよねぇ!』

『マッシュ・えぇ……相変わらずおしゃべりだし、なんか精霊化しているしめちゃくちゃですね……というか最後にスマホに戻ったのいつですか?』

『サラマン・もうかれこれ1年以上戻ってないかな。前の騒動の時も戻れなくてさ。というのもここの拠点が壊れちゃって戻れないの!作ろうかと思ったんだけど面倒で作ってなくてさ。毎日美味しい果物食べて温泉入れるしまあいいやって思ってね。あ、どうせならここの拠点作ってくれない?多分自分でやっても途中で飽きちゃうだろうし!』

『マッシュ・…わかりましたよ。ああ…今休暇中だっていうのに。このことポチさんにも連絡しておきますからね。少し反省してください。』

『サラマン・ポチくん!いやぁ懐かしいなぁ。時々連絡は来ていたんだけどね。だいたい温泉の供給とフルーツの出荷だけだったからあまり話していないんだ。もう少しお喋りしたかったけどいっつも忙しい忙しいって構ってくれないの!そうそうポチくんといえばさ…』

『マッシュ・ま、待ってください。今こっちも忙しいんで。みなさんを部屋に案内するんで。それに拠点も作らないとで…』

 マッシュは急いで話をそらした。マッシュとサラマンは初めて顔をあわせるわけだが、マッシュはすぐにこいつがめんどくさいやつだと判断して逃れようとする。

 おそらくポチも一度捕まると話が長いからと仕事があると言って会話を少なくしたのだろう。するとサラマンは仕方ないかと他のミチナガ商会の従業員に話しかけに行く。

『マッシュ・…村長さん。すみません、なんかこんな騒がしいやつ置いていっちゃって。』

「毎日賑やかで楽しいですよ。みんなの話し相手になってくれますから。」

 どうやらこんな騒がしいサラマンはこの村の人気者なようだ。気候的に陽気な人々が多いのかもしれない。だからサラマンもああなったのだとマッシュは自身を納得させる。

 そんなことはひとまず置いておき、従業員たちを部屋へと案内する。案内した部屋は全て木造の綺麗な和室だ。金属製のものは見当たらない。ここの温泉成分の硫黄が金属を腐食させてダメにしてしまうため金属製のものは極力無くしているのだ。

 そのため建築も釘などは使わず木組みだけで立てている。昔からこのアマラード村で育った人々は木組みの技術に長けており、その技術を習うためにこうしてこの旅館を木組みだけで建てたという経緯もある。

 そんな木組みに夢中になるものたちもいれば部屋の窓から見える一面のフルーツ園に興味を示すものたちもいる。そういったものたちは村長とサラマンの案内のもとフルーツ狩りに向かう。そしてもう一部の者たちは早速この旅館の屋上に建設されている温泉へと向かう。

 硫黄の匂いたっぷりの温泉に一部の獣人は不快感をあらわにする。そんな彼らの元にサラマンの眷属が近づきどこかへ案内しだした。そこは一つ下の階の別の温泉だ。そちらは硫黄の匂いのしない単純温泉だ。

 そしてその温泉はいくつかの種類に分かれており、このアマラード村で取れたフルーツが浮いているフルーツ温泉がある。

『サラマン#2・良い香りでしょ。人によっては硫黄の匂いが無理だっていう人もいるだろうから単純温泉を作ってみたんだ。ただ、それだけじゃつまらないからこうして日替わりのフルーツ風呂も用意したわけ。硫黄の温泉じゃフルーツと匂いが混じって大変なことになるから。』

「ということはここからは硫黄の温泉とそうではない温泉が湧くということですか。これはありがたい。昔からこうしてこの村の人々は楽しまれていたんですか?」

『サラマン#2・いや?少し前までここは硫黄温泉だけだったよ。ただそれだけじゃつまらないからね。ここの精霊のアッシュくんに教わって僕たちで温泉を作ったんだ。いやぁ…こうして毎日温泉が入れるようになるまでした修行は大変だったよ。そのせいで拠点は壊れたしさ。まあ今も修行中なわけだけどね。』

「つ、作った…?温泉を?そ、そんなこの土地に干渉するような魔法…精霊魔法を使えるなんて…」

『サラマン#2・いや僕たち精霊だし。まあまだまだ精霊としては下っ端だけどね。とりあえず話の続きは温泉に入りながらしようよ。あ、背中流そうか?僕たち結構うまいんだよ。』

 賑やかに男風呂で背中の流し合いをしている頃、その隣の女湯ではここまで仕切ってきたローナとティッチとメリリドと他の女性従業員たちが同じくフルーツ風呂に浸かっていた。肩まで浸かり蕩けた表情をする彼女たちの元へサラマンの眷属が近づいて行く。

『サラマン#3・やあやあみなさんお疲れ様。どう?今日の温泉は。ここは柚子風呂にしたんだ。柑橘系の爽やかな香りに癒されるでしょ。実はあそこの部屋に泥風呂も作ったんだ。まだ時間が足りなくて女風呂にしか作ってないんだけど是非とも感想聞かせて。』

「あら~~いいわねぇ~~」

「泥風呂ですか。聞いたことないので是非とも入ってみたいです。」

「わ、私も入ってみたいんですけど…そ、その…サラマンさんって…男性なんじゃ…」

『サラマン#3・ああ、ミチナガは男だけど僕たちは基本的に性別とかないよ。使い魔だしね。男寄りの中性?って感じかな。まあ僕は精霊化している性もあってほぼ無性だよ。というかそんなこと気にした人初めてみた。ティッチちゃんはまだ温泉慣れてない感じ?』

「す、すみません。まだ大勢の人の前で裸になるのは…同じ女性同士でも……」

「まあティッチは獣人で尻尾を隠しながら生きてきたので特にそうだと思いますよ。私みたいに元冒険者は外で水浴びすることもあるのであまり気にはしませんね。それにしても…やっぱりメリリドさん…大きいですね。前々から聞きたかったんですけど、どうしたらそんなに大きくなるんですか?」

「ん~~…遺伝的な要素が大きいわねぇ~~。それに子供ができると一回り以上大きくなるわよ~。あとはストレッチと筋トレかしら~。」

 メリリドが自分の体に手を当てながらどこを鍛えてどこをほぐせば良いのか説明を始める。大きく膨らんだ胸の付け根に指を添え、一つ一つ説明を始めるといつのまにかメリリドの周りには多くの女性が集まってきた。

「でも胸よりも肌ツヤの綺麗なティッチが羨ましいわぁ~肌は年齢が出やすいから大変なのよ~」

『サラマン#3・そういうことなら泥風呂はおすすめだよ。肌を綺麗にしてくれるから。』

 サラマンの眷属が一度そういうと一斉に立ち上がり泥風呂へと向かう。そして簡単な説明を受けると全身に泥を塗りたくる。そうすると獣人はテンションが上がるのか、徐々にはしゃぎ出すものたちが出た。

 ティッチも我慢をしつつもうずうずとしているのか、尻尾がゆらゆら動き始めた。そしてものの10分後には泥風呂ルームは大人が子供のようにはしゃいでいた。その様子を見ていたサラマンの眷属はこのままではまずいと感じ、止めようと思ったその時。メリリドがはしゃいでいる女性の首を握った。

「静かにね?わかる?」

「は、はい……すみませんでした…」

 一瞬にして騒ぎが収まり、皆行儀よく泥風呂に浸かる。もうそれ以降誰も騒ぐことはなかったという。
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