スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

文字の大きさ
上 下
283 / 572

第274話 少し前のミチナガ

しおりを挟む
「アンドリュー自然保護連合同盟ねぇ…アンドリュー子爵もなんだか立派に……いや、あの人元々釣り好きだけど立派だったな。あ、足に当たった。右足な。」

『ポチ・はいはーい。』

 ミチナガは一人海の中に入って立っていた。その横にはポチがいる。ポチはミチナガの合図で海へ潜りミチナガの足元を探し、見つけたものを手にとって戻って来た。

「おお、今度もなかなか立派じゃん。良い型のハマグリ?っぽいやつだな。」

『ポチ・味はミル貝に似ているよね。あともう何個か見つけたら戻ろっか。』

「さすがに胴付き着ていてもこの時期の海は寒いからなぁ。あ、また見つけたかも。今度は左足。」

 ミチナガは一人貝取りに励んでいた。この辺りは遠浅の海であるため干潮時には少し沖の方まで歩いていくことができる。そして立ったままカカトを軸にして足を動かして砂の中を探る。足に何か硬いものが当たれば大体貝である。

 先日村の子供たちからこの貝をもらって食べたところ美味しかったのでミチナガは自分でも取りに来たのだ。子供たちからこの簡単な捕り方を教わったので運動がてら自分で貝取りに励んでいる。

『ポチ・今度もいい大きさ。それじゃあ戻って焼いて食べよう。』

「よし!早く戻ろう!さすがに足が寒い…足湯も用意してくれるか?」

『ポチ・もうみんなが先に用意してくれているよ。』

 浜に戻るとミチナガはすぐに足湯に浸かる。その横ではシェフがハマグリもどきを焼くための準備をしている。すでに炭火も起こして準備は万端だ。

「そういや砂抜きはしなくても平気なのか?」

『シェフ・もうスマホ内で砂抜きさせたから大丈夫。そうじゃなかったら食べるのは明日になっていたよ。準備するから待っていて。まずは蝶番を外して…』

「あ、どうせなら少しだけパカッと開くやつ残しておいて。あれ見るとテンション上がるし。」

『シェフ・はいはい。それじゃあどんどん焼いていくよ。』

 シェフによってどんどん焼かれていくハマグリもどき。その焼き加減はウオがしっかりと見張っている。ミチナガはプロの料理人であるシェフとウオに全て任せる。しばらく貝を焼いていくと貝の隙間からわずかに汁が吹き出て来た。思わず喉を鳴らすミチナガの前でウオはいきなりその貝を持ち上げて汁を捨てた。

「ああ!勿体無い…」

『ウオ・最初のうちは海水なんで捨てないと貝の旨味が消えちゃいますよ。大丈夫、ちゃんとこれから汁が出ますから。あ、もうすぐそっちのやつは開きますよ。』

 そういうとウオの言った通りハマグリもどきがパッカリと開いた。そこには肉厚で丸々とした貝の身が付いていた。しかしそれ以外のハマグリもどきは一つも開かない。シェフが蝶番を切ったおかげでハマグリもどきが開かなくなり、うまい汁を捨てずに済んだのだ。

 その後焼きあがったハマグリもどきを片手にミチナガは足湯に浸かりながら昼間から日本酒を飲んでハマグリもどきを食べている。

「いやぁ…うまい!前に村の子供達に貰って食べたのと同じだ。もうかれこれ1ヶ月以上この村に滞在しているのに全然知らなかったな。さてもう一個…あれ?こっちの方がうまい。こっちは普通のハマグリっぽいぞ。」

『シェフ・え!本当に?ちょっと一口……本当だ。見た目は一緒なのに味が全然違う……』

『ウオ・もしかしたらここにはハマグリとハマグリによく似た別種の貝が共存しているんですかね。例えばどっかで普通のハマグリと他の貝が交雑しちゃったとか。』

『シェフ・そうなると厄介だな。正直見分けがつかないし……』

「よくわからんけど頑張れぇ。あ、でもスマホに登録してあるなら鑑定で見分けつくんじゃないか?」

『シェフ・その手があった!…よし!ちゃんと見分けつく!初めて鑑定が役に立った!』

 その後も貝パーティーは続いた。すでにスマホに収納したことがあるので釣り馬鹿野郎のアプリで入手することも可能になり、貝ばかりたらふく食べた。そしてこの日も何事もなく終える。

 そして翌日、丸一日海を観察しているともう渦ができなくなっていた。例年より少し長く続いたホッケ柱はようやく終わったようだ。

「それじゃあ…一応念には念を入れて1週間後にここを出発しよう。ずいぶん足止め食らったけどいい加減出発しないとな。」

『ポチ・じゃあみんなにもそう伝えとくね。』

 ポチはすぐにミチナガとともに来た兵士、メイド達に出発の日時を知らせる。彼らはこの1ヶ月間セキヤ国とこの海岸を繋ぐ道路建設をしていた。セキヤ国としても海へ繋がる道ができれば避難民保護のための移動も、海産物などの食料入手にも役立つ。

「そういや…アンドリュー自然保護連合同盟にうちは加入しているのか?…ってポチいないのか。誰か知っているやついるか?」

『ピース・あ、僕から報告します。え、えっとですね。セキヤ国の加入はすでに正式決定しました。ただそこら辺のやり取りは基本的にイシュディーンに一任しときました。今後担当する人材を別に決める予定です。それからミチナガ商会としてもアンドリュー自然保護連合同盟に加入しています。ただこっちは少し普通の加入とは違って…雑務担当という感じです。主な役目は連絡のやり取りです。』

「まあこっちの世界は魔法があるせいで通信技術が発展しにくいんだよな。通信魔法はあるけど基本的に盗聴されて当たり前って感じだから各国暗号作成に躍起になっているらしいし。それに大事な時に魔力が遮断されて通信できない可能性が高いから使いどころが難しいらしいし。…大変だな。」

『ピース・はい。だからミチナガ商会はその通信の役割を担っています。その代わりに加入国ではミチナガ商会の運営を認められたので店舗拡大による儲けが出る予定です。まだ従業員教育と店舗建設が終わらないので儲けが出るのは先になります。』

「出費がかさむなぁ…金は大丈夫なのか?借金していたりするか?」

『ピース・え、えっと…いずれ返せるから少しの間だけセキヤ国の運営費とナイトさんの貯金をお借りして……ます…』

「お、おもいっきり汚職じゃねぇか……あれ?でもセキヤ国の運営費って基本的に俺の資産からだよな。じゃあ平気か。今年度使う分の予算を一度そっちに回したってことだろ?」

 本来国の運営費は国民からの税収などで行うが、セキヤ国はまだ貧しく、発展の必要があるためミチナガ商会から借りている、という名目で資金調達している。セキヤ国のミチナガ商会への借金はなかなかなものだが、どちらも運営者が同じなのでやりとりには特に問題はない。いずれセキヤ国で黒字になった時にゆっくりと返済してもらう。

「ただなぁ…国の運営資金なんてどんどん使って公共施設を拡充して、維持費をかけてだから借金取り立ては無理だろうなぁ…まあセキヤ国があるおかげで間接的なメリット大きいから気にしないけど。」

『ピース・国の発展は停滞したら他国に抜かされて衰退しますから仕方ないかと思います。今後ミチナガ商会が大きくなればすぐにお金が稼げるようになるから大丈夫だと思います!』

「そうだな。まあ所詮大金がなくなっても毎日有意義に過ごせる分はあるから問題ないでしょ。さてと!今日は何して遊ぼうかなぁ…」

『ピース・あ…今日は仕事が溜まってて……』

「ありゃ…残念。まあ船の上で仕事はしたくないから極力今の内に片付けるか。それじゃあ仕事するから夕方ごろに風呂の用意頼むな。この砂浜から夕日を見ながらお風呂に入るのがいいんだよなぁ…」

 ミチナガは建物の中に入って今日の仕事をこなす。もうこれだけ長いこと仕事をしているのでその手つきは慣れたものだ。それに難しい案件は基本的に使い魔たちが片付けてくれる。ミチナガが行うのは本当にちょっとした雑務だ。

「ん~…アンドリュー自然保護連合同盟関連の書類が多いなぁ。こっちの大陸で加盟しているのはセキヤ国だけだから加入国募集のために働きかけをしてくれ…それに自然保護に値する土地の発見か。うちまだ人材少ないから動くの厳しいんだよなぁ。でも他ならぬアンドリュー子爵のためだしなぁ。」

 ミチナガは椅子をグルグル回転させながら思案にくれる。やがて数名の人員と西のエルフの国の民と協力して美しい自然発見と、加入国探しのために動く部隊を編成するように依頼書を完成させた。

「まあこれくらいなら大丈夫でしょ。アンドリュー子爵には最初の資金稼ぎの時にお世話になっているからな。あの人がいなかったら釣りバカ野郎で入手した魚もあそこまで売れなかったし、その後のファルードン伯爵、ルシュール辺境伯に出会うこともなかっただろうし。そう考えると…もしもアンドリュー子爵に出会えなかったら俺、今頃どうなっていたんだろ?」

 妄想を膨らませるミチナガであるが、結局出会えなくてもなんとかなっていたんじゃないかという楽観的な妄想しかできない。やがて皆に出発の日時を知らせに行っていたポチが帰って来た物音で現実に引き戻され再び仕事に励んだ。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

処理中です...