上 下
280 / 572

第271話 アンドリュー自然保護連合同盟

しおりを挟む
 アンドリュー自然保護連合同盟誕生から1週間後。両国王によって戦争の完全決着。並びに今後戦争を起こさないことが決定された。もちろん両国の民の間では不平不満が巻き起こった。暴動も起こるのではないかと思われるほど荒れた両国であるが、両国王が毎日数時間演説を行い、これまでの戦争による愚かさ、そして明るい未来を語り、必死に国民を押さえ込んだ。

 それでもやはり不平不満は残っている。しかしそんな中、国王の元へ客人がやってきた。それは隣国の王太子であった。

「これはミーテイル殿。此度はいかなる要件で?」

「ゼッペリクルセン王。用件はもちろん一つです。あの映像は見させていただきました。父も私も大いに賛同させていただきます。そしてどうか我が国もアンドリュー自然保護連合同盟へ加入させていただきたく思います。どうかお願いいたします。」

 まさかの申し出。しかしゼッペリクルセン王は一体どういうことなのか理解できていない。するとミーテイル王太子はご存じないのかとわざわざ持ってきてくれた映像を見せてくれた。それはアンドリュー子爵シリーズの最新作。この前の釣りと連合同盟の話の映像であった。

「これは…一体…」

『リュー・あ、もうきてくれたんだ。アンドリュー子爵!加入者きたよ!』

「リューくん待ってください。まだ書類が…」

「おお!あなたがアンドリュー子爵ですか!お会いできて光栄です。私は隣国のテイメルン国の王太子、ミーテイルと申します。この度はアンドリュー子爵の話に感銘を受けまして是非とも我々も仲間に入れて欲しく…」

「まさかもう来られたとは!ミーテイル様、ありがとうございます。」

 実はあのアンドリュー自然保護連合同盟の話が終わった直後に、それまで撮影した全ての映像をすぐに動画にまとめてミチナガ商会の流通網を使い各国の国王へ無料で配布していた。まだこの辺りの諸王国にはミチナガ商会の流通網は少ないため、なかなか出回らないがそれでも必死に配布した甲斐があったようだ。

 それから1ヶ月間。ちょくちょく現れる加入者によってアンドリュー自然保護連合同盟への加入国はすでに15カ国を超えている。どれもそこまで大きくはない国だが、それでもこれだけの加入国が1月ほどで集まるというのは異例の事態だ。

 喜ぶアンドリュー子爵とゼッペリクルセン王とリグリンド王。しかし1月経った今日この日、予想もできない人物が現れた。それは突如、本当になんの前触れもなく現れた。彼らの訪れを知らせに来た兵士からその真偽を聞き、アンドリュー子爵とゼッペリクルセン王は急いで出迎えに行く。

 大慌てで向かった先には兵士が告げた通りの人物が立っていた。慌てて近づき、何か言おうとするが言葉が詰まり上手く話せない。そんな中、アンドリュー子爵の肩の上に乗ったリューが気さくに話しかけた。

『リュー・やっほーハク。もう来たんだ。それに他の友達も連れて?』

『ハク・たまたま出会ってね。話をしてみたら是非ともってことで連れてきたんだ。』

「我が弟子のハクから教えてもらってね。人が自然を守るために同盟を結んだという。我らが族長も大いに賛同された。エルフの国の代表、聖弓フィラクス。是非とも我が国も同盟に参加させてほしい。」

「エレウロゲエレエピアエエレ…」

『リュー・あ、こちらで翻訳します。はいはい……え~我々はエテルペ族。我ら妖精族の隣人である。此度は妖精族としても実に喜ばしいことである。自然は妖精族にとって国であり家である。人がそれを守るために一つになるのは喜ばしい。よってキシュタルの森の妖精族、並びに我らエテルペ族も人が作りし同盟に参加させてもらいたい。』

「そ、そんなまさか…エルフ族の…世界最高の弓術を持つ準魔神クラス、聖弓フィラクス様に…妖精族の番人エテルペ族、それに妖精族まで……こ、これは…す、すごいことになりましたよアンドリュー殿。」

「あ、ありがとうございます……す、すみません…もう何が何だか……」

 混乱しつつも気が変わらないうちにと急いで加入の調印の準備が始まる。そしてここにエルフの国、並びにエテルペ族、キシュタルの妖精族のアンドリュー自然保護連合同盟への加入が決まった。そしてこの加入をきっかけにアンドリュー自然保護連合同盟は世界に名を轟かせることになる。




「おい見たかよ!アンドリュー子爵の最新作!」

「当たり前だ!もう3回は見たぞ。こんな偉業ありえるかよ!アンドリュー自然保護連合同盟への加入者見たか!かの聖弓フィラクスに白幻のルシュールの国まで加わったんだぞ!同盟に加入した国が保有する魔帝の数は20以上だ!」

「何よあんたたち。まだ情報そこまでしか持ってないんだ。まあ噂の段階なんだけどね。…勇者神もアンドリュー子爵に一目置いているらしいわよ。近々世界貴族入り…さらに英雄として認められるって話もあるんだから。」

 アンドリュー子爵のシリーズ最新作。アンドリュー自然保護連合同盟結成の話を一般公開し、最後のテロップに同盟国を全て記載したところ大騒ぎだ。

 エルフの国に妖精族が加入したことで、一気に加入希望者が増え、すでにその加入国は50を超えている。中には名の知れた魔帝を保有する国も含まれており、アンドリュー自然保護連合同盟の保有する戦力はすでに超大国並みに膨れ上がっている。

 そしてこの映像はミチナガ商会を通じてミチナガと交流のある魔神にも知らされた。アンドリュー自然保護連合同盟の結成とその加盟国を見た勇者神アレクリアルはこの事態を非常に喜んでいる。

「アンドリュー自然保護連合同盟…すごいな。本当にすごい。あのバラバラだった諸王国をまとめ上げたか。アンドリュー・グライド……この国に招いて褒美を取らせたいくらいだ。当面はアンドリュー自然保護連合同盟への資金援助でもしておこう。このおかげで法国からの魔の手が伸びづらくなった。わが国としても嬉しい限りだ。そして…立役者の中にはミチナガ商会か。随分と旨味があるんじゃないのかい?」

『ユウ・加盟国にはミチナガ商会の建設ができたのでかなりの旨みですね。アンドリュー子爵の映像の売れ行きも過去最高です。ちなみに…アンドリュー子爵の人間性の保証もできますよ。この国に牙を剥くこともないでしょう。』

「それも朗報だ。アンドリュー自然保護連合同盟と戦争になったら…この国の被害も甚大だ。それこそ世界戦争のきっかけになりかねない。よろしく頼んだよ、ミチナガ商会。」

 アレクリアルは非常に上機嫌で、思わず鼻歌まで出ている。そして資金援助としてユウも思わず言葉を失いかけるほどの大金をポンと支払ってくれた。これでまず資金難になることはないだろう。

 そしてもう一人、氷の国でこの情報を聞いた氷神ミスティルティアは思わず高笑いをした。こんな風に笑うミスティルティアを見るのは初めてだ。報告に上がったヒョウも驚いている。

「まさか…あの諸王国をまとめ上げるなんてね。私が知る限りあそこまでバラバラの国をまとめ上げることができるなんて……初代勇者王くらいなものよ。アンドリュー・グライド。すごいカリスマ性ね。ふふ、是非とも会ってみたいわ。」

『ヒョウ・しばらくは無理でしょうけど、いずれは来られると思います。それから…何か援助を…』

「この国には援助するほどの余裕はないわ。……でもそうね、資金援助は無理でも武力としての援助は可能よ。それから…氷国はアンドリュー自然保護連合同盟の結成を支持します。これだけじゃダメかしら?」

『ヒョウ・いえ、ありがとうございます。』

 貧しい氷国としては資金援助が難しい。そのためいざという時の武力援助を約束してくれた。そして氷国はアンドリュー自然保護連合同盟の結成を支持した。これにより結成そのものへ反発する者達の抑止力になる。

 本来、2~3カ国が同盟を結ぶことくらいならまあ問題はない。しかし50以上もの国が同盟を結ぶというのは一大勢力の完成でもある。そんな危険な同盟を放置できないということで周囲からの反発を起こし、アンドリュー自然保護連合同盟そのものを敵対視されてしまう可能性もある。

 そうなれば、魔神を保有する超大国から非難を受け、最悪危険組織として排除される可能性だって起きてくる。そうならないためにも魔神たちからの支持を集める必要がある。現在氷神、そして勇者神はアンドリュー自然保護連合同盟の結成を強く支持してくれる。問題が起きた時も味方してくれるだろう。

 さらにできるだけ多くの票を集めたいため、使い魔たちは他の魔神にも接触する。ミチナガと交流のある魔神、魔神の中でも世界最強の一角と言われる剣神ロクショウ・イッシンだ。

 彼と話をするために使い魔たちは手土産を持ってイッシンに会いに行った。手土産はイッシンのためのものではない。その子供たちへのものだ。イッシンへの賄賂は一番これが効く。

「お菓子だぁ!」

「いつもすまないね。それで…今日はどんな用事で?」

『ケン・知り合いが同盟つくったんだけど、予想よりも大きくなっちゃってさ。もしも問題が起きた時に味方して欲しいなって。あ、これその契約書ね。』

「アンドリュー自然保護連合同盟…ああ、アンドリューって確かミチナガ商会でやっているあの映像の人か。うん、いいよ。それじゃあサインしとくから…」

『ケン・ありがと!あ、それから奥さんの方のサインもお願いね。じゃあ僕は遊んでいるから。』

 すんなりと話は済んだ。あまりにもあっけないが、大変なのはここからだ。帰ってきた剣神の妻サエにもその話を通すと重要なことを軽々決めるなと1時間ほど説教を受け、その後2時間かけて話を通してようやく書類にサインをもらえた。

 これでアンドリュー自然保護連合同盟は3人の魔神から支持を受けた。これで文句をつけられるものはいなくなったと言える。そんな中、一応念のためにと密かに動いている使い魔がいた。


 暗い暗い海の底。天から降り注ぐ太陽の光も届かない深海。そのまたさらに奥の、生存できる生物が限られるほどの深海の最奥。そんな深海へ向かうと突如暗闇の世界に光が降り注ぎ、まるで地上さながらの光溢れる都市がそこにあった。

 そこは海に浮かぶ海上都市の本拠地。水深1000mを超える海の底に作られた国だ。かつて魚人が迫害され、人魚が乱獲された時代に人の手の及ばぬ国を作ろうと建国された魚人族の国、アトランティス。

 そこは人が決して立ち入ることのできぬ、魚人と人魚だけの国。そんな国の端に建てられている巨大な城の城門を一人の男がくぐり、城の中へ入っていった。男は緊張の面持ちで歩みを進め、やがて王のいる場所にたどり着いた。

 そこには玉座などはない。ただの巨大な広間。王がいるとは思えないほど質素な作りの場所にはこの国の王であり、魔神第5位、この世界の海全てを手中に収めている海神ポセイドルスが鎮座していた。

 ポセイドルスはクジラの魚人であり、その体の大きさは20m近くある。あまりにも巨体であるため玉座も用意することができず、ただの広間に座っているのだ。そしてその手には初代海神が9大ダンジョンの一つ、深海のアトランティスを史上初めて踏破した証でもあるトライデントが握られている。

 人類史上最強の魔道具と呼ばれるものの一角であるトライデントは代々海神が受け継いできた由緒ただしき武器である。その一振りは津波を巻き起こし、地上を海の底に沈めるほどだと言われている。

 男はそんなポセイドルスの前で最敬礼を行なっている。男は初めての王への謁見であった。その緊張でいまにも倒れてしまいそうなほどだ。そんな男の胸元がゴソゴソと動き中から2人の使い魔が現れた。

「汝がミチナガ商会の店主か。おもてをあげよ。」

「は、はい!ミチナガ商会店長代理のジョーイマリアスと申します。以前は役所で書類仕事をしておりました。それからこちらの使い魔が…」

『ウミ・ウミです。こんちゃ!』

『マリン・ちょ…だからあなたはいつももう少ししっかりとしなさいと言って……ああ、申し訳ありません。ミチナガ商会海上都市担当、店長代理のマリンと申します。』

「話は聞いておるぞ。地上の食物や品をこの海上都市に定期的に仕入れる店があるとな。店長代理ということは本来、地上に店を構える商会か。汝らのもたらす恵は海上都市、並びにこの海底国を豊かにした。褒美を取らせよう。一つずつ求めるものを言うが良い。可能な限り叶える。」

 ミチナガ商会の海上都市支店はこれまでの間にその影響力を増し、この海上都市、並びに海底国でも有数の巨大商会まで成長した。そしてその功績から今回、この国の王、海神から呼び出され、その褒美をもらえる機会が訪れたのだ。

 ポセイドルスの申し出を受けてそれぞれが事前に考えた望むものを口にした。ジョーイマリアスは地位を求めた。それに対しポセイドルスはこの海底国の貴族の位を与えた。これによりジョーイマリアスの地位は海底国で保証されるものとなり、危険が迫った際にはこの国が守ってくれる。

 そして使い魔のマリンは海底国から少し離れた位置にある海底峡谷での商業権を求めた。この海底峡谷は魚人であっても限られたものしか立ち入ることのできないほどの深海だ。さらに時折流れ着く9大ダンジョンのモンスターにより危険度は更に増す。

 そんな危険な場所ではあるが、ここは世界的に数少ない深海鉄が産出される場所だ。ここでの商業権を入手すれば深海鉄が入手できる。そしてマリンの願いをポセイドルスは叶えた。これによりミチナガ商会は5大伝説鉱石の一つである深海鉄を入手できるようになった。

 そしてもう一つの願い。ウミが願う褒美はもちろん…

「アンドリュー自然保護連合同盟?」

『ウミ・うちの商会に所属する友達が結成した同盟でね、自然を守ろうっていう同盟なんだ。もう50カ国が加わっている大きな同盟でね、大きくなりすぎて大変だから後ろ盾が欲しいんだ。もう勇者神、氷神、剣神が支持してくれているんだけど…ポセイドルス様もお願いします。』

『マリン・だから言い方!申し訳ありませんポセイドルス様。』

「気にするな。儂を前にしても臆さぬその度胸気に入った。よし、署名してやろう。」

 ウミは書類をポセイドルスに手渡した。できるだけ大きな耐水性の紙で用意したのだが、それでもポセイドルスには小さいようだ。しかし器用にさらりと署名するとこれで問題ないかと確認する。するとポセイドルスは違和感に気がついた。

「ん?もう1枚?これは……ほう?」

『ウミ・どうせだからそっちにもサイン欲しいなぁ…なんて。どうですか?』

「強欲が過ぎるな……しかし、ふむ…まあ悪くはない。なるほど……ふっふっふっ…奴らは川を汚して大いにこちらとしても問題視していた。よかろう!汝の策に乗ってやろう。」

 ポセイドルスはもう1枚の書類にも署名をした。さらに間違いなく署名したという証に王印を押した。

 これにより、勇者神、氷神、剣神の3魔神同盟に新たに海神ポセイドルスが加わり4魔神同盟が誕生した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,388

ボク地方領主。将来の夢ニート!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,699

異世界で魔工装具士になりました〜恩返しで作ったら色々と大変みたいです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,195pt お気に入り:1,335

婚約破棄されたはずなのに、元婚約者が溺愛してくるのですが

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,737

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:3,335

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:2,538

処理中です...