スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第255話 理不尽

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 突如現れた3000ほどの騎士たち。明らかに精鋭と思われる者達に新しい増援が駆けつけてくれたと再び喜ぶ味方。しかしポチもスミスもすぐに情報確認を行うがあんな騎士は知らない。敵か味方かはっきりしないところではあるが、ポチはすぐさま敵だと判断して傭兵団に付いている眷属に指示を出し、傭兵団を新しく来た増援の対処に当たらせる。

 指示に従ったのは周囲にいた7つほどの傭兵団たちだ。総勢5000弱の傭兵団たちは3000ほどの騎士たちの元へ押し寄せる。たとえ精鋭であったとしても倍近い数の差があればすぐに潰せるはず、そう思った。

 しかしその3000ほどの騎士たちの元へ向かっていた傭兵団のうち、4つの傭兵団が突如反転し逃げ始めた。向かっているのは3つの傭兵団だけだ。数は1000にも満たない。その1000の傭兵団は敵の元へ進軍し、そして。

 たったの2撃で半壊させられた。


「なに…が…なにが起きたんだ……お、おい……ポチ…ポチ!!」

『ポチ・敵の増援…あの先頭の2人の仕業だよ……なんで……なんで魔帝クラスが二人も来るんだよぉぉ!!!』

 魔帝クラス。その言葉を聞いた瞬間まるで心臓が鷲掴まれる気がした。魔帝クラスの実力はよく知っている。しかし知っていても、ミチナガはこれまでの経験のせいでまだ心の中では、平気なのではと少しだけ思ってしまった。

「ま、魔帝クラスって言ったって…い、今更来たところで何か変わるわけ…ないよな?お、俺たちの増援の中にも…魔帝クラスが一人くらい…」

『ポチ・いないよ……せいぜい魔帝クラスに近い魔王クラスくらいだけだよ……』

「そ、そんなわけ…だ、だって今まで何度も魔帝クラスに会って来ただろ?これだけ大勢の人数がいれば一人くらい……」

『スミス・ボス、魔帝クラスはそんな簡単にいないっすよ。今まで出会った魔帝クラスを考えてみてくださいっす。魔帝クラスは辺境伯や国の重鎮として扱われるんすよ。』

 ミチナガはそう言われてはっきりとわかった。ルシュール辺境伯もフィーフィリアルも国の重鎮として扱われていた。魔帝クラスで国に重用されていないのはナイトやヴァルドールのような世捨て人だけだ。

 しかしそれでもこちらはシェイクス国に残る兵に加え、増援のセキヤ国軍も合わせれば7万近い兵力がある。いくら強いと言っても魔帝クラス2人ならどうにかできると信じている。しかしそれは大きな間違いであった。

『ポチ・魔帝クラス…それも上位はあるかな。それが2人……どうする…どれだけの兵力が必要になる……』

「ぽ、ポチ…」

『ポチ・1人に1万…魔王クラスを5人ずつに分けたら…2万は必要か?4万の兵と10人の魔王クラスをぶつければ…だけど…』

「そ、そんなに…そんなに必要なのか?そこまでしないと…」

『ポチ・ボス、魔帝クラスっていうのは常人の数倍以上の魔力を保有しているんだよ。そうなると通常とは異なる戦い方ができる。広範囲に影響を与える大規模魔法を何度も使うことができる。それはもう…一国の兵力と同じだけの強さがある。価値がある。ただの寄せ集めの人間なら一人で10万人殺せるほどの力があるんだよ。だから魔帝クラスは国でも重用される。』

「そ…そんな…」

『ポチ・今来た3000の騎士はうちの軍の…5万人と同じだけの強さがある。いや、それよりも多いかもしれない。後ろに控えている騎士もかなりのものだと思う。それに…ほら、見てごらん。』

 ミチナガは戦場をもう一度見る。すると戦場が大きく変動して来た。今までごちゃ混ぜになっていた両軍は少しずつ、少しずつばらけ始めて来た。そして30分も経つと敵軍は現れた3000の増援の元へ集い、逆にこちらの混合軍はその増援から離れるように距離をとった。

『スミス・……やばいっすね…』

『ポチ・敵は指揮系統がめちゃくちゃになっていた。だけど今じゃまとまりを見せた。これでチャンスを失った。これ…勝てる見込みが……』

「それ以上…それ以上言わないでくれ……」

 ミチナガは小さく悲痛の叫びを漏らす。使い魔たちは必死に作戦を立てようとするが良案が思い浮かばない。城壁の上で必死に考えているが混乱するだけでなにも思い浮かばないのだ。そして安全な城壁の上でこの混乱では、前線で戦っているものたちの混乱はさらに大きいだろう。




「まったくよぉ…なかなか終わった連絡が入らないから来てみれば窮地に陥ってんじゃねぇか。こいつら4カ国の連合軍だろ?それがたかが一国にどれだけ時間かけられてんだよ。使えねぇ奴らだ。」

「はぁ…おそらく薬物の使いすぎだろう。だから洗脳するときにもう少し量を減らせと言ったのだ。これから土地整備の時間もあるのに、今からこれでは先が思いやられる。時間も限られている。早いところ終わらせるぞ。」

 増援でやって来た2人の魔帝クラスの男は頭に手を当て、この現状を嘆いている。それでもすぐに切り替え、仕事に取りかかろうとする。

「私は城門を破壊してこいつらを中へ送り込む。それまでお前はあの有象無象を相手にしておけ。」

「俺に指図すんじゃねぇよ。…だがその案は気に入った。あの虫ケラどもを排除する方が面白いからな。数が多いからお前も終わったら早く来い。…何人か使えそうな虫ケラがいるからそいつらは頭ん中ぐっちゃぐちゃにして最前線送りだな。おいお前ら!準備しておけよ。」

「「「っは!」」」

 ひときわガタイの良い魔帝クラスの男に指示され付随していた3000の騎士たちはなにやら怪しい薬品や道具を取り出した。おそらくこの薬品や道具はシェイクス国の王子たちを洗脳していたものだろう。そしてシェイクス国に派兵した敵の国々の重鎮や王族も同じように洗脳されている。

 動き出した魔帝クラス2人にミチナガの6万を超える増援は思わず一歩下がってしまった。さらに傭兵団の面々は命の方が大切だからと逃げる算段をつけ始めている。

「まずいですね…黒翼傭兵団の方々。あれに勝てそうですか?」

「現状ではまず無理だ。俺たち幹部全員で行っても…うちの大将が行っても勝てない。間違いなく死ぬ。」

「……魔力量を半分まで減らせば……どうですか?」

「…6割だ。6割減らせば勝てる見込みがある。だが……わかっているのか?」

「覚悟を……決めなくてはならないでしょう。2万の兵が総当たりすればなんとかそこまで減らせえると思います。もしくは…我々が注意を引く間になんとかお願いします。」

「……あんたの強さはかなりのものだ。俺たちもあんたの…イシュディーンの名は聞いたことがある。あんたが率いれば確かに2万の兵でそこまでやれるかもしれない。だが教えてくれ……なにがあんたをそこまで掻き立てる。それに…死ぬとわかっていて2万の兵がついてくるのか?」

「簡単なことです。今、我々の王様はあの国にいます。我々は王を助けに来たのです。……王が助かるというのなら私の…我らの命を賭すだけの価値がある。」

「…そいつは……すげぇ王様なんだな。あんたたちみたいなのが命を賭けられる王様なんて…なんだか……あんたらが羨ましいよ。」

 イシュディーンは黒翼傭兵団の幹部、マーガイウルと顔を合わせて軽く笑う。なんとも簡単に命を捨てる覚悟をしたイシュディーンであるが、それに追従するセキヤ国国軍もまたその命を使う覚悟を決めた。

「皆行こう。我らが王を救いに。我らが王、ミチナガのために!」

「「「「王のために!王のために!王のために!!」」」」

「全軍…突撃せよ!!」

 イシュディーンが死刑執行の合図を出す。その合図に合わせ、誰もが死の恐怖で震える体を無理やり動かす。その原動力はただ一つ、国であり、王であり、友であるミチナガのためである。

 一度動き出した3万を超える軍勢はその勢いを徐々に増して行く。敵との距離が近づくにつれ死の恐怖を忘れた。全ての恐ろしさを忘れた。その心にあるのはただ一つ、偉大なる王であり大恩あるミチナガという友のことだけである。それ以外のことは全て忘れた。

 その突撃は待ち構える魔帝クラスの男の目にも美しく見えた。そしてその男の後ろに控える数万の敵軍に恐怖を与えた。彼らの戦う姿は見るもの全てに感動も恐怖も美しさも感じさせた。だが一人だけ、絶望と悲嘆を感じた人物がいる。彼らが慕う張本人ミチナガである。

「やめろ…やめてくれ……頼む!誰か!!誰かやめさせてくれ!!!…お願いだ……やめてくれ……俺のために死のうとしないでくれ……なぁポチ!止めてくれ!止めてくれよ!!」

『ポチ・も、もう止められない…止められないよ。それに……これ以外に方法はない。傭兵団は命を捨てる覚悟はない。敗色が濃厚になれば一目散に逃げ出す。だから…だからもう……』

「ふざけるな!…ふざけるなぁ……なぁ…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!……誰か…誰か助けてくれ……なんで…なんで俺はこんなにも…無力なんだよ……」

 ミチナガは嘆いた。嘆き悲しんだ。そして恨んだ。それは神でも仏でもない。自分自身を恨んだ。みんながこんなにも自分のために動いてくれているというのになにもできない自分を恨んだ。

 やがてセキヤ国国軍の進む先で待ち構えている魔帝クラスの男の拳に強力な魔力反応を感じた。あの拳が振られた時、強大な魔法が行使される。そしてそれはなすすべなくセキヤ国国軍を飲み込み、大勢を殺すだろう。その時が来るまでもうわずかである。

「良い兵だと褒めておいてやる。だが相手が悪すぎたな。この俺相手にそんな無謀は通用しねぇよ!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 魔帝クラスの男はその拳を振るう。強力な魔力反応は膨張し、やがて魔法が発現する。その魔法は男の拳から放たれ、巨大な爆風を巻き起こした。そしてその爆風により起きた土埃から1人の人間が飛び出した。

 その人間は大きく吹っ飛び敵軍に衝突した。あまりの衝突の勢いで数百人を吹っ飛ばしたその人間は頬をさすりながら起き上がった。

「いってぇ……くそ…なにも感じ取れなかった。なにもんだ…テメェは。」

 吹っ飛ばされた魔帝クラスの男は、未だ砂埃の巻き上がる先ほどまで自身が立っていた場所に向けて声をかける。その砂埃の巻き上がりでセキヤ国国軍もその進行を思わず止めた。やがて風が吹くとその砂埃の中から一人の巨漢が現れた。

「ただの……ミチナガの友だ。」

 現れた男が誰かわからず敵味方ともに動揺し動きを止めている。しかしその正体にすぐ気がついたのは使い魔たち全員とミチナガである。

「なんで…なんでお前がここに……」

『ポチ・え!な、なんで…』

『ムーン・いやなんでって言われてもね。話したから来ただけだよ。』

「ムーン!お前いつの間に!な、なんで…」

『ムーン・そんななんでなんで言わないでよ。まあボスから直接口止めされた覚えはないしね。つい話しちゃったんだよねぇ。ただちょうど大物討伐中で来るまで時間かかっちゃったけどね。間に合ったようで何より。それも超ギリギリ。』

「だけど…」

『ムーン・あ、批判は受け付けておりません。伝言だけ伝えるよ。ミチナガ、お前が友を助けるために危険な場所に向かったと聞いた。なぜ俺にも声をかけない。俺もお前の友だ。そしてお前の友は俺の友でもある。以上!まあ僕からは……水臭いこと言わずにさ、ちょっとは頼ってよ。』

 決して巻き込まないと決めていた。しかしそんなミチナガの思いは全て無視されたようだ。しかしそれで良い。それで良いのだ。

 もともと一人ではなにもできない男が不器用なくせに自分の力だけでなんとかするなどというからいけない。助けて欲しい時は助けて欲しいと素直に口にすれば良い。そうすればミチナガには最高に頼もしい友がいるのだから。

「…ありがとう…ありがとう……ナイトォォ!!助けてくれぇ!!!」

 ミチナガは城壁の上から叫んだ。そしてその叫びを聞いたミチナガ商会が保有する最強の男は笑みを見せた。

「ああ、任せておけ。」

 ミチナガ商会最強の一人、ナイト参戦。
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