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第246話 ミチナガの参戦と父と子

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「マクベス、泣くなって。全くお前は…まあいいや、現場指揮官に会えるか?現状を知りたい。マック、案内してくれよ。」

「あ~~…今の…現状からいうと…現場指揮官というか…総指揮官は今お前の胸で泣いているやつだ。」

「あっはっはっは…なかなか良いジョークだ。だけどわかっているだろ?今は一刻を争う時だ。だからそういう冗談はまた今度に……まじでか?」

「マジだ。」

 ミチナガはあまりの驚きにおもちゃのようにマックとマクベスを交互に見る。やがて泣き止んだマクベスはミチナガの前に堂々とたち現状を報告する。ミチナガは動揺しすぎてあまり頭に入って来ていないがスマホから出て来たヘカテとポチが全て確認した。

「以上になります。兎にも角にも必要なのは食料と医療品です。それに武器も…すみません、何もかも不足しています。」

『ポチ・分かりやすくて良いね。それじゃあボス、どうする?』

「え?あ~…うん。そうだな。使い魔全員に通達!各自散会して物資の補給に当たれ!ヘカテ、お前はマクベスについていてやれ。」

『ヘカテ・了解ボス。というわけでまたよろしくね。今度はどっか行ったりしないから。』

「うん、またよろしくね。」

 そこからミチナガの行動は早い。歩きながら周囲を見回し怪我人がいればミチナガ商会特製ポーションを与え、腹をすかせているやつがいたらシェフ特製の食事を与える。物資の輸送に人手が足りていないといえば使い魔たちは急いで荷物を運ぶ手伝いをする。

 もうこの国中にミチナガの使い魔、眷属が散会している。その数5000を超える。診療所で怪我にうめき声を上げていたものたちはポーションを振りかけられて全員復活している。弓矢が尽きた前線では矢筒から溢れるほどの矢を供給している。

 ボロボロの剣も盾も新品同様、いやそれ以上に以前持っていたものとは比べ物にならないほど良いものに変わっている。ありとあらゆる物資が補給されていく。爆裂魔法で物資が焼けてしまった食料庫はあふれんばかりに食料が詰め込まれている。

 ボロボロになっていた道も綺麗に掃除され、補修されている。この国中が魔法にかかったかのようにみるみる綺麗になっていく。その様子をマックたちは呆れたように見て、マクベスは尊敬の眼差しで見ている。

 それ以外の兵士たちはまるで化け物を見るかのようなものもいれば、英雄が現れたと歓喜するものもいる。はたまた神が降臨したとその場で祈りを捧げるものまで現れる始末だ。ミチナガはそんな彼らのことを特に気にすることもなく他にやることがないか周りを見ながら、スマホをチェックして使い魔たちの報告をまとめている。

「よ~し…とりあえずこんなもんで良いかな?今すぐ城門が破られるようなことはないんだろ?じゃあちょっと国王の元まで案内してくれるか?挨拶しとかないとな。」

「ああ、案内する。それにしても相変わらずお前は…おかしいだろ。それにあの空から飛んで来たのはなんだよ。というかよく無事に入れたな。」

「無事に入れたな?なんで?ただ上空から降りて来ただけだろ?まあ降り立つ途中でかなりやばい感じはしたけど。最初囲まれたもんな。」

「いやいや…そうじゃなくて対空防衛魔法によく引っかからなかったなって言ったんだよ。」

「は?なにそれ?」

 ミチナガが本当になんの事かわからないという表情をするとマックたちは頭を抱えた。一体どういう事なのか説明してもらうと本来、国の上空には飛行できる魔法使いの侵入を阻止するために対空魔法が組み込まれているのだという。

 そもそも空を飛べる魔法使いというのはそれなりにいる。そんな魔法使いがいれば城壁など関係なく空から侵入されてしまう。そのため城壁には対空防衛魔法が練りこまれている。それによって国の上空から侵入するものを高火力の魔法で即死させる。

 どの国でも行われているごく一般的な常識魔法なのだが、ミチナガはそんなことなぞ全く知らなかった。もしかしたら自分も黒焦げになって死んでいたか、灰になって死んでいたかもしれない。そんな突然の情報に口をパクパクさせることしかできないミチナガの代わりにポチが説明を始めた。

『ポチ・その防衛魔法には一つ弱点があってね。小さな鳥なんかを誤って殺さないために一定以上の魔力を持つ存在にしか反応しないんだ。つまり小鳥よりも魔力のない、というか魔力ゼロのボスには意味がないってこと。一番危険なのは兵士に攻撃されることだったからね、マクベスに伝わるように花をばらまいたんだ。』

「やっぱりそうだったんですか。ヘカテなら僕がこの花が好きなことを知っていると思ったから。ありがとう。」

『ヘカテ・分かりやすいように派手にやるにはこれが一番だったからね。それに綺麗だし。』

「…ポチ?後でお話があります……はぁ…通りで説明を引っ張ったわけだよ。」

 ミチナガは知らず知らずのうちにそんな危険を冒していたと知り、今になって恐怖で震えて来た。そんなミチナガを連れて一同は国王の元へ向かう。

 ミチナガは一体どこに案内されるのかと不安になる。それもそのはずだ。本来案内される会議室や応接室などを通り過ぎたその先へ向かっている。そしてようやくたどり着いたのは王の寝室だ。

 扉を開くとそこには在中の医師と数人の護衛が立っていた。そしてベッドにはなんともやつれた国王が横たわっている。国王はあの騒動から心労がたたり今では寝たきりになっている。扉をあけて入って来たマクベスたちのことも横目で見るくらいだ。

「陛下、客人を連れて来ました。こちらは…」

「お初にお目にかかる。俺の名はセキヤミチナガ。商人であり貴族であり…今はセキヤ国国王として、マクベスの友人としてこの国の危機に駆けつけた。」

「あぁ…すまない……今は体を起こすことも難しい…私がこの国の…シェイクス国国王…っふ…私なんぞが国王か…」

「なにがあったか聞いてはいる。その心境は察し難いものだろう。だが今は国の危機だ。俺はマクベスの友人としてこの国の運営に関わらせてもらう。異論はないな。」

「構わない……好きにやってくれ…」

 ミチナガはその場から立ち去る。その後にはマックたちもついていくが国王はマクベスだけを呼び止めた。ミチナガはそんなマクベスに先に行くとだけ伝え、マクベスは国王の、父親の元へ向かった。



「なんでしょうか陛下。」

「お前は…一度も私のことを父と呼んだことがないな。まあそれも…すべて私が悪い。だが聞いてくれ…私は…私はお前の母を愛していた。もちろん伴侶となったすべての妻を愛していた。だが…王族という重圧を忘れさせてくれる…お前の母に…ジュゼに安らぎを得ていた…そんなジュゼも…流行病で亡くした……お前は辛い目にあったというのに…なにもしてやれなかった……一人でいさせた…」

「………」

「お前は…私を恨んでいるだろう……この国を恨んでいるだろう…そんなお前が…ここまでやってくれるとは思いもしなかった……都合の良いことはわかっている…だがそれでも…この国を…頼む…」

「…僕は…誰かを恨んだことがないといえば嘘になります。なんで僕だけがこんな目に、そう思わなかった夜はないくらいです。それでも…この国はお母さんが育った国だから。お母さんとの思い出がいっぱい詰まった国だから。だから誰かに言われなくても僕はこの国を守ります。それに…僕には頼りになるマックさんたちや…ミチナガさんがいます。」

「そうか…考えてみれば……お前は…頼れる仲間がいるのだな。お前に…頼んだお使いは…お前を大きく成長させたようだ…行かせて正解だった……」

「あのお使いの意味はわかっています。あのお使いは本来達成できるものじゃなかった。本当は僕を国外に逃がすためだったんでしょ。英雄の国なら僕が襲われることもないと思って…シェイクス国にいるよりもはるかに良い思いができると思って…火の国の情勢を考えて逃がした。そうなんでしょ?」

「…さあな……」

「お母さんが大好きだったカランコエの花。お母さんは大切に育てていました。誰からもらったのかよく知りません。使用人だったお母さんが唯一の安らぎのため自分で買ったものかもしれません。だけど…カランコエの花言葉…この花には花言葉がいっぱいある。その中の…永遠に続く愛……。お母さんはちゃんとわかっていたと思いますよ。僕も…わかっています。」

「…ジュゼは…あの花を大切にしていてくれたのか……」

「僕はこの国を守ります。何が何でも守り抜きます。僕はもう一人じゃない。僕を助けてくれる人たちがいる限り僕は頑張れ続けます。だから…早く良くなってください。この国にはまだ…父さんが必要ですから。」

「あ、ああ…そうか…まだ私を必要と…こんな不甲斐ない私を父と……わかった。私ももう一踏ん張りするとしよう。だから…それまでの間は頼んだぞ…息子よ……」
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