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第237話 ナイトとムーンでお祝いに

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「…うまいな……頭がスッキリする。」

『ムーン・お、気に入ってくれたんだ。それは今セキヤ国で独自生産している妖精猫コーヒーなんだよ。貴族限定でしか販売していない、うちのとっておきだけどナイトが気に入ったなら話通して飲めるようにしておくね。』

 ナイトの食後の休憩中にムーンが妖精猫コーヒーを提供したところかなり気に入ったようだ。元々お茶や紅茶を嗜むナイトだからこそ気に入ったのだが、そんなことよりもナイトは気になることがあるようだ。

「セキヤ国?セキヤとは…ミチナガの名前だったと思うのだが…」

『ムーン・そうだよ。あ、そういえばまだ言ってなかったね。実は…』

 ムーンはナイトにミチナガが建国したこと、その経緯まで詳しく話した。そんなミチナガの活躍に鼻が高いムーンであったが、ナイトも同じように鼻が高くなる思いがあった。一通り話すとナイトは満足そうに頷いた。

「困った人を放っておけない、そういう性分なのだな。やはりミチナガは良いやつだ。ミチナガと友になれたことを誇りに思おう。」

『ムーン・まあね。なんだかんだ色々言うけどやっぱり良い人だよ。だから僕たちも信用しているんだ。僕たちにも好きにやらせてくれるしね。』

「そうだな。……どうせならミチナガに何か贈り物をしたい。喜ばしい時には贈り物をするのだろう?」

 ナイトが自発的にミチナガに対し贈り物をしたいと言うのは初めてかもしれない。いつも自分の狩ったモンスターを好きにしてくれと言うばかりで特にこれといって贈り物をしたことは無い気がする。ナイトのこの行動をムーンは喜び、共に何を送るのか考えるが何が良いのか思いつかない。

『ムーン・ボスならお金で喜びそうだけど…それじゃあ特別感ないよね。そう思うと…あ!例えば孤児院立てるのとかはどうかな。避難民の中には孤児もいるし、母子家庭が多いから託児所なんかもいいかも。もうユグドラシル国で出資したことがあるしいいんじゃない?』

「悪くないが…特別感が欲しい。とりあえずそれは俺の稼ぎから好きに使って建ててくれ。何か他にはないか?」

 その後も学校建設や公園、公共の体育館の建設など様々な案が出てくるが、ナイトは満足しないらしい。とりあえず今出たものは全て建設することが決定したので、その件は使い魔経由ですぐにミチナガに知らされる。

 かなりの費用がかかるが、ナイトの討伐したモンスターの素材をいくつか売ればすぐに補填できる程度だ。ナイト財閥の資産は湯水のように使ってもいくらでも溢れてくるのだ。ナイトの億を超える金貨の出資が決定した後もミチナガへの贈り物を考える。

『ムーン・つまりこれからナイト自身が何かをとってきてそれを送りたいってことなんでしょ?だけどナイトにできることって結構限られているよね?』

「むぅ……俺にできるのはモンスターを倒すことくらいだ。もっと他に何かできれば良いのだが…」

『ムーン・まあ本来はそれだけで十分なんだけどね。珍しい鉱石とかそういうのが採掘できるところを見つけてそういったものを送ってみる?その鉱石を元に何か作るとか。』

 このムーンの発案を聞いてナイトは何か思いついたようだ。しかしその場所がなかなか思い出せないようでとりあえず手当たり次第に様々な場所に移動していく。毎日毎日走り回り山を越え、川を越え、海を越えてナイトはお目当の場所を探す。

 時には次々に大地がせり上がり新しい山が完成したと思えばいきなり溶けて溶岩に変わる火炎系モンスターの溢れる超危険地帯を探し。時には終わることがない竜巻の中を自由に飛び回るモンスターが溢れる超危険地帯を探し。時には重力が普通の数百倍になる超危険地帯を次々と見て回る。

 ムーンも感覚がおかしくなっているが、本来は魔王クラスがまず近づかない、魔帝クラスでも生存を困難極める超危険地帯ばかりだ。しかしこんな自然の中で生き続けてきたナイトにとって手馴れたものである。ナイトにとっては都会の人混みの方がよほど恐ろしい。

 そして数日間様々な場所を見てナイトはようやくお目当ての場所にたどり着いた。そこは周囲に島ひとつ見えない無人島だ。その島はなかなかの大きさで木々が茂っている。さらに青い海に輝く太陽。この常夏の陽気は人々に開放感を与える。

 実にバカンスにちょうど良い島なのだがひとつだけおかしな点がある。それはよく見ればおかしい、と言うわけではなく誰もがすぐに気がつくことだ。そしてそのおかしな点と言うのがこの島を無人島にしている要因でもある。

『ムーン・……山みたいに大きな…蜘蛛?がいるんだけど……』

「ああ、大きいな。足元に…黒い岩が見えるか?あれでレンガを作ると強固になるらしい。ミチナガは城壁を作るのだろう?」

 どうやらナイトはこの島にある黒い岩を取りに来たようだ。なんでもかなり強固なものでこの島にしかないらしい。昔はこの島も要塞として知られていたらしく、誰も近づけない鉄壁の要塞だった。

 しかし今では別の意味で誰も近づけない無人島になっている。なんでも数百年前、世界が100年戦争を続けていた時にあの山のようなモンスターによってこの島は乗っ取られた。とにかくこの巨大な蜘蛛が一体なんなのかムーンはすぐに映像を送り巨大なモンスターの情報を探る。するとなんとかこのモンスターの情報が入手できた。

 それは神話の物語として知られている。かつて海を荒らしに荒らした海賊がいた。そんな海賊を打ち滅ぼすべく幾多の軍が動いたが、その海賊は誰も近づけぬ無敵の要塞に立てこもり数万の軍を追い返したと言う。

 そんな海賊をどうにかすべく神に祈りを捧げたところ一匹の蜘蛛が送られてきた。人々はその蜘蛛をその要塞に送り込んだところ、ものの数日でその海賊が壊滅してしまった。これには人々も偉大な神の力だと喜んだ。

 しかし人々は知らなかった。その蜘蛛は神が送り込んだのではなく、悪魔が人の世に乗り込んできたのだということを。人々は海賊がいなくなった後の要塞から財宝を持ち出そうと乗り込んできた。しかしその全てを蜘蛛は喰らい尽くした。

 やがてその蜘蛛は要塞よりも大きく成長して、その要塞を根城にした。人々は恐怖し誰も近寄らなくなった。そしてその恐怖を忘れないためにその蜘蛛をアラクネと呼び、後世に語り継いだ。

『ムーン・まあ本来はうまい話には騙されるなって言う教訓なんだろうけど…教訓とかとそういうことじゃなくて本当にいるんだよねぇ…。で?これ倒すの?神話級モンスターだよ。あの原初ゴブリンと同じだよ?いや、むこうは群れで神話級だけどこれは単体で神話級だよ?』

「いや、こっちも群れだ。奴は毎日1万匹の子を産む。共食いもしているが…20万はいるだろうな。」

『ムーン・もっとやばいじゃん。しかも昔から生きているんでしょ?子供だって相当な実力だよ?それでも……やる気だね。というかどこからこの情報得たの?』

「昔の知り合いからだ。知識人でなんでも教えてくれた。」

 ナイトに知識を与えた知識人。昔もそんな話を聞いたような気がするが、今回ばかりはなんていう情報を教えてくれたんだとムーンは思う。正直止めるべきなのだろうが、これだけやる気満々のナイトを見ると止めようという気持ちが薄れていく。

「ゴブリンの時は最後に持っていかれた。今度は…邪魔は入らない。入念に準備する。」

『ムーン・じゃあ見守っているけど…あんまり無茶しちゃダメだよ?』

「ああ。」

 それからナイトはアラクネに気がつかれないように一月がかりで入念に準備をしていく。これほどまで入念に準備を行うナイトを見るのはムーンも初めてだ。

 少しの綻びもないように準備をし、ついにナイトと神話級モンスターアラクネとの勝負が始まる。その戦いは島の地形を変貌させ、二月にも渡り戦い続けたと言う。





「なんだこの黒いレンガは?これで城壁つくんのか?」

『親方・うちで作った特別製のレンガっす。試しに割ってみるっすかガルディン。』

「割るって…レンガくらい簡単に……か、かってぇぇ!!なんだこりゃ!ハンマーで打ち付けても傷一つつかないぞ!」

『親方・色々配合して焼成したらその固さになったっすよ。いやぁ…とんでもないもの仕入れてくれたっすね。こんなのが建国祝いで送られてくるんすから。それになんか丈夫な糸も大量に送られてきたし、必要な施設建設費用も大量に渡されたし、金銀財宝も送られてきたし……ボスもお礼をどうしたら良いか悩みっぱなしっす。』
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