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第235話 国王同士の会談
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「少しこちらでお待ちください。すぐに王へ連絡致します。」
門番に引き止められたミチナガたちはすぐに王への謁見の話を通してもらうために門番に話を通す。こういった手続きは本来訪れる前に行い、相手方からの連絡がくるまで待つものだが、そこまで要領よくやっていない。
最悪、3日とか1週間とか王へ謁見できるまで時間がかかるだろう。しかしミチナガにはエルフたちからの紹介状がある。それがあれば早く謁見は叶うとのことであった。そしてその言葉は現実のものとなった。王へ連絡をした門番が今すぐにお会いになるという良い報告をしてくれた。
すぐに王城へと向かい、城の中の特別室に案内される。ここからはミチナガの戦いだ。王との交渉がこれから始まれば、ミチナガの采配ひとつで今後のセキヤ国の行く末が決まると言っても過言ではない。
ミチナガは頭の中で何度もシミュレーションを重ねる。使い魔たちとセキヤ国の役割、メリットデメリットを話し合った。この部屋に近づく足音が聞こえる。もうここからは緊張で喋れないとかそんな無様な真似はできない。
「お待たせしました。こちらがディラムス国王陛下でございます。」
「初めましてディラムス国王。私の名前はセキヤミチナガ。この度セキヤ国を建国したセキヤ国国王です。」
「風の噂で…聞いたことがある程度だ。周辺国の許可なく建国した愚か者がいるとな。エルフのものたちからの紹介状がなければこの場で捕縛したいくらいだ。それで?何用かな?」
「周辺国への通達が遅れてしまい申し訳ありません。ですが私は英雄の国で伯爵位を賜りました。英雄の国に属するものとして人々が苦しむ姿を見過ごすわけにはいきません。すでに建国したことはかの勇者神、さらに神剣にも報告してあります。両国からはすでに国として認められております。」
「だとしても…だ。周辺国に何も言わないというのは…あまりに無知というか愚かというか…なぁ?」
ディラムス国王はお付きの人々に賛同を求める。付き人たちはもちろんディラムス国王に賛同する。しかしそんなものに意味はない。狙いはミチナガの動揺。ここでミチナガがたじろげばその時点で侮られてミチナガの立場はなくなる。
「確かにディラムス国王の言われる通りです。周辺国に何も言わずに建国するなどもってのほかです。しかし…これだけ多くの人々で溢れていては…国などないのかと思いまして。なにぶん初めてくる土地で土地勘もなく、道ゆく人々に声をかければ行くあてもないと言われてしまいまして。内乱でも起きて周囲の国々は滅んだかと思いました。」
「ほう?それは面白い。この私に喧嘩を売っているのか?私の統治能力に問題があるとでも?わかっていないようなら教えてやろう。火の国からの避難民の数はすでに10万を超えている。それら全てを受け入れることが正しき国政だとでもいうのか?もしそういうなら…お前ほど愚かな男はいないだろうな。」
「まあそれだけの数なら受け入れることは困難でしょう。しかし…まさか今後のことを考えたことがないとは言わないでしょう?これだけ多くの避難民が行き場を失い、さらに今後も増えるとなれば…避難民との戦争も起こりかねない。もちろん疲弊した避難民に国が負けるとは言いませんが、そんなことをしたら…火の国はどうするでしょうね。」
今後の予想される展開。行き場を失った避難民たちは暴徒と化すだろう。今でさえ盗賊まがいのことをしているものたちもいる。それが徐々に増えていき、避難民全員が助けを求めて周辺国に襲いかかったら数万の人間が死ぬ。
しかし疲弊した避難民では国に勝てるはずもない。死ぬのは避難民ばかりだ。しかしこれは火の国のこちらへ攻め入るきっかけとなる。避難民とはいえ自国民が大量虐殺されたとなれば敵討ちという名目を立てられる。そうなれば火の国との全面戦争だ。
内乱の続く火の国が一致団結して襲いかかってくることは想像しにくい。それこそ火の国を統一してから攻め入るのならばわかるが、そうでもないのに一致団結することはないだろう。しかし火の国全体で一つの方向性が同じになることがある。
「火の国はそう遠くないうちに攻め入ってくるかもしれませんよ。色々理由をつけるでしょうが一番の理由は…食料問題。火の国は内乱が長く続いている。そんな状況でまともに食料生産ができるとは思えない。特に兵士の食料は普通より多く消費する。避難民が多いのも戦火を逃れてというより…食料を求めてでしょうからね。平和なこの国には十分な食料がありますから。」
「だからなんだ。お前の建国を認めろと?第一、避難民を全員まとめて…お前が我らに向けて挙兵する可能性もあるだろう?食料と装備を整えれば…避難民全員で10万以上の軍隊の完成だ。その方がよほど現実的で恐ろしい。お前とてこれだけの大人数を自給自足できるまで食料供給できるとは思えんからな。」
「正直その辺りの懸念は無用なのですけどね。避難民は女子供ばかり。戦える男は数少なく…老人ばかりですしね。軍隊を作っても…まともに使えるのは5000もいないでしょう。食料供給も我がミチナガ商会なら10万人の食料を用意することが可能です。とはいえこの辺りはあなたには確認しづらいでしょう。」
現在のミチナガのスマホ内の食料備蓄量と食糧生産量を駆使すれば15万人くらいなら1~2年食べ続けさせることができる。しかしこのことを話すつもりはない。返って余計な不安を煽るだけだ。だからミチナガはもっと別の話を考えてきた。ミチナガは目の前に手書きの地図を広げる。
「この地図は私たちが独自に書いたものです。正確性に欠けますが…まあこの程度で十分なので話を進めます。」
「なかなかよく書けているではないか。ここが私の国で…ここがお前が建国したという国だな。それにこの赤枠はなんだ。ここは…私の領地ではないか。」
「ええ、今回はこの赤枠の部分の土地を譲り受けたく思い話をしにきました。それにその土地を開発する資金提供もお願いしに。」
「ハハハハハハ……貴様…この俺を舐めるのも大概にしろ。土地を譲れ、金をよこせだと?……おい、こいつの首をはねろ。」
ディラムス国王の指示を受けた兵士は剣の柄に手をかける。ミチナガの後ろでもダリアたちが武器に手をかけ、まさに一触即発の状態だ。しかしミチナガはというと表情をにこやかにしたまま微動だにしない。
「ディラムス国王。このような茶番は結構です。私は商人です。商人が一つの取引にいつまでも時間をかけるのは損ですから。話は早く済ませたい。あなたもこの土地を割譲するメリットを十分理解しているでしょう?だから後ろの護衛もそれ以上動かない。」
「……ッチ!なかなかやるな。おい、もういいぞ。なかなかやり手の商人のようだな。これだけ脅してやれば少しは表情を歪ませると思ったのだがな。」
「正直ビビリなので内心びくびくでしたよ。しかし勝算はあると踏んでいたので。エルフたちからあなたのことを聞いていました。なかなか頭の回る男だと。ちなみに私は英雄の国、氷国、海上都市などで店を開いています。一応商人として魔王クラスまでなりました。」
「魔王クラスの商人か。それならもう少しこっちも情報を集めておくべきだった。この国での活動が少なく情報収集しきれなかったな。いきなり来たというのもある。なんと厄介な男だ。この土地の割譲はデメリットもあるがメリットが大きい。いざという時のな。」
土地割譲のメリット。それは割譲予定の土地が火の国に向けて壁を作るように横に伸びている点だ。つまりセキヤ国は火の国の侵攻の際の防波堤になる。ディラムス国王は火の国の侵攻が近いうちにあると踏んでいるからメリットと感じているのだ。
それに割譲予定の土地は避難民による不法占拠の多い場所で正直この国としては特にあってもなくても変わりない。つまりいらない土地を渡すことで火の国の侵攻を止める上に避難民の問題も片付くのだ。
それに火の国との戦争が起きてもセキヤ国と火の国の戦いで死ぬのはどちらも火の国の民。自国民の死者が出ないという大きなメリットがある。デメリットはミチナガが裏切った時に戦争になったら戦いの規模が大きくなる点だ。
「心配されているようですが私はわざわざ戦争など起こしませんよ。起こしたところで旨味がない。むしろ損しかありませんね。私は現状、1日で金貨数万を稼いでいますから。戦争を起こしてそちらに時間を取られたら損になります。私にとって戦争とは価値がないんですよ。」
「ッフ…魔王クラスの商人とはそんなに稼げるのか。羨ましいものだ。確かにそれならば…旨味はないだろうな。しかし現状でも旨味はないんじゃないか?避難民なんぞに金を使って…お前になんの得がある。」
「実は結構な徳になりそうなんですよ。国を持ち独自の食物の生産、品種改良。それに国を運営しているという点で他の貴族とも大きく差ができます。何より…こうして他国の王と話し、土地や資金提供までしてもらえる。商人として大成するためには目先の金なんぞ放っておいて遠くの大金を得るんです。私は着々と遠くの大金に近づいていますよ。」
「なるほどな…恐ろしいものだ。そこらの魔帝よりお前という商人の魔王の方がよほど恐ろしい。はるか先を見据えるか。こんな勝ち戦はとっとと終わらせて次なる大金を求める。確かに私のしたことは茶番だな。セキヤ国を正式に認めよう。それから少し話を詰めようか。これ以上無駄な話し合いをしても結果は見えているからな。」
ディラムス国王は先ほどまでの厳かな表情を崩した。ミチナガ、初の国のトップ同士の舌戦において初勝利を飾る。今すぐ歓喜の舞を踊り、パレードをしたい気分ではあるが、その前に話を詰める必要がある。それに胃薬を飲む必要もありそうだ。
「ここからここまでの土地の割譲で良いのだな。ならば問題はない。それから資金援助だが、そこまで多くの余裕はない。ただ周辺の避難民を運ぶことはしよう。資金援助は…金貨2000万分で良いか?これ以上は厳しい。」
「でしたら…流通禁止金貨と流通制限金貨もお願いできませんか?できるだけ多く。」
「ああ、流通禁止金貨は必要になるだろう。この国で保管分の8割を譲ろう。是非とも役立ててくれ。」
流通禁止金貨を役立てる。随分とおかしな話だが、何も役に立ちそうにない流通禁止金貨は実はこういった戦争の場面において役に立つのだ。本来、流通禁止金貨は一般流通できず、国の保管庫に厳重に保管する必要があるいうなんとも厄介なものだ。
しかしこれが戦争になると大きな意味を持つ。流通禁止金貨の管理者は国王、もしくはそれに準ずる地位の持ち主、もしくは力の持ち主にしかなれない。だからもしも流通禁止金貨を管理するもの、つまり国王が戦争で敵に殺された場合、その管理者はその殺した敵のかなり上位の上官、もしくはその国の国王へと移る。
そうなった場合、もしも流通禁止金貨が持ち出されでもしたらその敵の上官は金貨の呪いで死ぬことになる。もちろん持ち出した者も死ぬわけだが、それでも小さい労力で敵の上官を殺せるのならば楽なものだ。
このため、基本的に流通禁止金貨を所持する国と戦争を起こした場合、流通禁止金貨の管理者である国王は殺されにくい存在になる。だから大きな国などではわざわざ大量の流通禁止金貨を所持するようになるのだ。
以前、ミチナガがルシュール辺境伯やブラント国王から流通禁止金貨をもらい受けた際に所有者の変更を行わなかったのもその時のミチナガの地位と権力が流通禁止金貨を持つにふさわしいとされなかったからだ。
しかし今のミチナガなら地位も権力も申し分ない。流通禁止金貨を正式な理由で譲渡することができる。まあ正直、ミチナガは流通禁止金貨をこういった理由で使うことはせずに課金に使ってしまうだろう。
ちなみに以前死の湖から出土した流通禁止金貨に関してはまた少し違う。あれは元々の所有者が死んだ際に受け継げる者もおらず、殺した相手も存在しないため所有者なしの流通禁止金貨となっていた。そのため、最初に触れたものがその所有権を得る。つまり死の湖の流通禁止金貨に最初に触れた使い魔の総元であるミチナガが所有者になっている。
その後、ミチナガはヂュリーム国でのミチナガ商会の運営権を手に入れ、土地、支援金と当初予定していた全てものを入手した。ミチナガの大勝利である。その後ミチナガは王城で受渡しが完了するまでしばらく厄介になることになる。
「陛下、よろしかったのですか?確かに避難民の問題は深刻でした。それに火の国の侵攻の可能性も…しかしあの男に全て任せてよろしかったので?その…見るからに弱そうで……」
「あの男自身の強さなど関係ない。あの男は知略に優れている。あのまま話し合いをしても同じ結果になっただろう。それに…無理やり話を拒んであの男が避難民を煽動したらどうする。避難民との戦争になっても負けはしないだろう。しかしあの男が避難民を指揮すれば間違いなく我が国には大打撃になる。その後、火の国の侵攻が起きたらこの国は確実に滅ぶ。つまりあの男が敵に回った時点でこの国は滅ぶのだ。」
「そ、そこまで陛下はお考えで……それほど脅威に思っているのですか。」
「ああ、脅威だとも。火の国の侵攻だけならばこの国は負けはせぬ。しかしあの男が敵にいるなら間違いなくこの国は滅ぶ。正直…火の国よりも私はあの男一人の方がよほど恐ろしい……」
「よーし!祝杯だぁ!飲めや歌えや!」
『ポチ・ヒュー!おっとこまえ!よっ!日本一!』
『ピース・か、かっこいいですボス!』
『社畜・楽しいのは歓迎であるが…今回の話し合いの内容考えたの我々である。よくもあんなに得意げに…』
『アルケ・それは言わないでおくよ。楽しいのが一番だよ。』
「いっえーい!どーんなもんじゃーい!!フゥ~~~!!!」
門番に引き止められたミチナガたちはすぐに王への謁見の話を通してもらうために門番に話を通す。こういった手続きは本来訪れる前に行い、相手方からの連絡がくるまで待つものだが、そこまで要領よくやっていない。
最悪、3日とか1週間とか王へ謁見できるまで時間がかかるだろう。しかしミチナガにはエルフたちからの紹介状がある。それがあれば早く謁見は叶うとのことであった。そしてその言葉は現実のものとなった。王へ連絡をした門番が今すぐにお会いになるという良い報告をしてくれた。
すぐに王城へと向かい、城の中の特別室に案内される。ここからはミチナガの戦いだ。王との交渉がこれから始まれば、ミチナガの采配ひとつで今後のセキヤ国の行く末が決まると言っても過言ではない。
ミチナガは頭の中で何度もシミュレーションを重ねる。使い魔たちとセキヤ国の役割、メリットデメリットを話し合った。この部屋に近づく足音が聞こえる。もうここからは緊張で喋れないとかそんな無様な真似はできない。
「お待たせしました。こちらがディラムス国王陛下でございます。」
「初めましてディラムス国王。私の名前はセキヤミチナガ。この度セキヤ国を建国したセキヤ国国王です。」
「風の噂で…聞いたことがある程度だ。周辺国の許可なく建国した愚か者がいるとな。エルフのものたちからの紹介状がなければこの場で捕縛したいくらいだ。それで?何用かな?」
「周辺国への通達が遅れてしまい申し訳ありません。ですが私は英雄の国で伯爵位を賜りました。英雄の国に属するものとして人々が苦しむ姿を見過ごすわけにはいきません。すでに建国したことはかの勇者神、さらに神剣にも報告してあります。両国からはすでに国として認められております。」
「だとしても…だ。周辺国に何も言わないというのは…あまりに無知というか愚かというか…なぁ?」
ディラムス国王はお付きの人々に賛同を求める。付き人たちはもちろんディラムス国王に賛同する。しかしそんなものに意味はない。狙いはミチナガの動揺。ここでミチナガがたじろげばその時点で侮られてミチナガの立場はなくなる。
「確かにディラムス国王の言われる通りです。周辺国に何も言わずに建国するなどもってのほかです。しかし…これだけ多くの人々で溢れていては…国などないのかと思いまして。なにぶん初めてくる土地で土地勘もなく、道ゆく人々に声をかければ行くあてもないと言われてしまいまして。内乱でも起きて周囲の国々は滅んだかと思いました。」
「ほう?それは面白い。この私に喧嘩を売っているのか?私の統治能力に問題があるとでも?わかっていないようなら教えてやろう。火の国からの避難民の数はすでに10万を超えている。それら全てを受け入れることが正しき国政だとでもいうのか?もしそういうなら…お前ほど愚かな男はいないだろうな。」
「まあそれだけの数なら受け入れることは困難でしょう。しかし…まさか今後のことを考えたことがないとは言わないでしょう?これだけ多くの避難民が行き場を失い、さらに今後も増えるとなれば…避難民との戦争も起こりかねない。もちろん疲弊した避難民に国が負けるとは言いませんが、そんなことをしたら…火の国はどうするでしょうね。」
今後の予想される展開。行き場を失った避難民たちは暴徒と化すだろう。今でさえ盗賊まがいのことをしているものたちもいる。それが徐々に増えていき、避難民全員が助けを求めて周辺国に襲いかかったら数万の人間が死ぬ。
しかし疲弊した避難民では国に勝てるはずもない。死ぬのは避難民ばかりだ。しかしこれは火の国のこちらへ攻め入るきっかけとなる。避難民とはいえ自国民が大量虐殺されたとなれば敵討ちという名目を立てられる。そうなれば火の国との全面戦争だ。
内乱の続く火の国が一致団結して襲いかかってくることは想像しにくい。それこそ火の国を統一してから攻め入るのならばわかるが、そうでもないのに一致団結することはないだろう。しかし火の国全体で一つの方向性が同じになることがある。
「火の国はそう遠くないうちに攻め入ってくるかもしれませんよ。色々理由をつけるでしょうが一番の理由は…食料問題。火の国は内乱が長く続いている。そんな状況でまともに食料生産ができるとは思えない。特に兵士の食料は普通より多く消費する。避難民が多いのも戦火を逃れてというより…食料を求めてでしょうからね。平和なこの国には十分な食料がありますから。」
「だからなんだ。お前の建国を認めろと?第一、避難民を全員まとめて…お前が我らに向けて挙兵する可能性もあるだろう?食料と装備を整えれば…避難民全員で10万以上の軍隊の完成だ。その方がよほど現実的で恐ろしい。お前とてこれだけの大人数を自給自足できるまで食料供給できるとは思えんからな。」
「正直その辺りの懸念は無用なのですけどね。避難民は女子供ばかり。戦える男は数少なく…老人ばかりですしね。軍隊を作っても…まともに使えるのは5000もいないでしょう。食料供給も我がミチナガ商会なら10万人の食料を用意することが可能です。とはいえこの辺りはあなたには確認しづらいでしょう。」
現在のミチナガのスマホ内の食料備蓄量と食糧生産量を駆使すれば15万人くらいなら1~2年食べ続けさせることができる。しかしこのことを話すつもりはない。返って余計な不安を煽るだけだ。だからミチナガはもっと別の話を考えてきた。ミチナガは目の前に手書きの地図を広げる。
「この地図は私たちが独自に書いたものです。正確性に欠けますが…まあこの程度で十分なので話を進めます。」
「なかなかよく書けているではないか。ここが私の国で…ここがお前が建国したという国だな。それにこの赤枠はなんだ。ここは…私の領地ではないか。」
「ええ、今回はこの赤枠の部分の土地を譲り受けたく思い話をしにきました。それにその土地を開発する資金提供もお願いしに。」
「ハハハハハハ……貴様…この俺を舐めるのも大概にしろ。土地を譲れ、金をよこせだと?……おい、こいつの首をはねろ。」
ディラムス国王の指示を受けた兵士は剣の柄に手をかける。ミチナガの後ろでもダリアたちが武器に手をかけ、まさに一触即発の状態だ。しかしミチナガはというと表情をにこやかにしたまま微動だにしない。
「ディラムス国王。このような茶番は結構です。私は商人です。商人が一つの取引にいつまでも時間をかけるのは損ですから。話は早く済ませたい。あなたもこの土地を割譲するメリットを十分理解しているでしょう?だから後ろの護衛もそれ以上動かない。」
「……ッチ!なかなかやるな。おい、もういいぞ。なかなかやり手の商人のようだな。これだけ脅してやれば少しは表情を歪ませると思ったのだがな。」
「正直ビビリなので内心びくびくでしたよ。しかし勝算はあると踏んでいたので。エルフたちからあなたのことを聞いていました。なかなか頭の回る男だと。ちなみに私は英雄の国、氷国、海上都市などで店を開いています。一応商人として魔王クラスまでなりました。」
「魔王クラスの商人か。それならもう少しこっちも情報を集めておくべきだった。この国での活動が少なく情報収集しきれなかったな。いきなり来たというのもある。なんと厄介な男だ。この土地の割譲はデメリットもあるがメリットが大きい。いざという時のな。」
土地割譲のメリット。それは割譲予定の土地が火の国に向けて壁を作るように横に伸びている点だ。つまりセキヤ国は火の国の侵攻の際の防波堤になる。ディラムス国王は火の国の侵攻が近いうちにあると踏んでいるからメリットと感じているのだ。
それに割譲予定の土地は避難民による不法占拠の多い場所で正直この国としては特にあってもなくても変わりない。つまりいらない土地を渡すことで火の国の侵攻を止める上に避難民の問題も片付くのだ。
それに火の国との戦争が起きてもセキヤ国と火の国の戦いで死ぬのはどちらも火の国の民。自国民の死者が出ないという大きなメリットがある。デメリットはミチナガが裏切った時に戦争になったら戦いの規模が大きくなる点だ。
「心配されているようですが私はわざわざ戦争など起こしませんよ。起こしたところで旨味がない。むしろ損しかありませんね。私は現状、1日で金貨数万を稼いでいますから。戦争を起こしてそちらに時間を取られたら損になります。私にとって戦争とは価値がないんですよ。」
「ッフ…魔王クラスの商人とはそんなに稼げるのか。羨ましいものだ。確かにそれならば…旨味はないだろうな。しかし現状でも旨味はないんじゃないか?避難民なんぞに金を使って…お前になんの得がある。」
「実は結構な徳になりそうなんですよ。国を持ち独自の食物の生産、品種改良。それに国を運営しているという点で他の貴族とも大きく差ができます。何より…こうして他国の王と話し、土地や資金提供までしてもらえる。商人として大成するためには目先の金なんぞ放っておいて遠くの大金を得るんです。私は着々と遠くの大金に近づいていますよ。」
「なるほどな…恐ろしいものだ。そこらの魔帝よりお前という商人の魔王の方がよほど恐ろしい。はるか先を見据えるか。こんな勝ち戦はとっとと終わらせて次なる大金を求める。確かに私のしたことは茶番だな。セキヤ国を正式に認めよう。それから少し話を詰めようか。これ以上無駄な話し合いをしても結果は見えているからな。」
ディラムス国王は先ほどまでの厳かな表情を崩した。ミチナガ、初の国のトップ同士の舌戦において初勝利を飾る。今すぐ歓喜の舞を踊り、パレードをしたい気分ではあるが、その前に話を詰める必要がある。それに胃薬を飲む必要もありそうだ。
「ここからここまでの土地の割譲で良いのだな。ならば問題はない。それから資金援助だが、そこまで多くの余裕はない。ただ周辺の避難民を運ぶことはしよう。資金援助は…金貨2000万分で良いか?これ以上は厳しい。」
「でしたら…流通禁止金貨と流通制限金貨もお願いできませんか?できるだけ多く。」
「ああ、流通禁止金貨は必要になるだろう。この国で保管分の8割を譲ろう。是非とも役立ててくれ。」
流通禁止金貨を役立てる。随分とおかしな話だが、何も役に立ちそうにない流通禁止金貨は実はこういった戦争の場面において役に立つのだ。本来、流通禁止金貨は一般流通できず、国の保管庫に厳重に保管する必要があるいうなんとも厄介なものだ。
しかしこれが戦争になると大きな意味を持つ。流通禁止金貨の管理者は国王、もしくはそれに準ずる地位の持ち主、もしくは力の持ち主にしかなれない。だからもしも流通禁止金貨を管理するもの、つまり国王が戦争で敵に殺された場合、その管理者はその殺した敵のかなり上位の上官、もしくはその国の国王へと移る。
そうなった場合、もしも流通禁止金貨が持ち出されでもしたらその敵の上官は金貨の呪いで死ぬことになる。もちろん持ち出した者も死ぬわけだが、それでも小さい労力で敵の上官を殺せるのならば楽なものだ。
このため、基本的に流通禁止金貨を所持する国と戦争を起こした場合、流通禁止金貨の管理者である国王は殺されにくい存在になる。だから大きな国などではわざわざ大量の流通禁止金貨を所持するようになるのだ。
以前、ミチナガがルシュール辺境伯やブラント国王から流通禁止金貨をもらい受けた際に所有者の変更を行わなかったのもその時のミチナガの地位と権力が流通禁止金貨を持つにふさわしいとされなかったからだ。
しかし今のミチナガなら地位も権力も申し分ない。流通禁止金貨を正式な理由で譲渡することができる。まあ正直、ミチナガは流通禁止金貨をこういった理由で使うことはせずに課金に使ってしまうだろう。
ちなみに以前死の湖から出土した流通禁止金貨に関してはまた少し違う。あれは元々の所有者が死んだ際に受け継げる者もおらず、殺した相手も存在しないため所有者なしの流通禁止金貨となっていた。そのため、最初に触れたものがその所有権を得る。つまり死の湖の流通禁止金貨に最初に触れた使い魔の総元であるミチナガが所有者になっている。
その後、ミチナガはヂュリーム国でのミチナガ商会の運営権を手に入れ、土地、支援金と当初予定していた全てものを入手した。ミチナガの大勝利である。その後ミチナガは王城で受渡しが完了するまでしばらく厄介になることになる。
「陛下、よろしかったのですか?確かに避難民の問題は深刻でした。それに火の国の侵攻の可能性も…しかしあの男に全て任せてよろしかったので?その…見るからに弱そうで……」
「あの男自身の強さなど関係ない。あの男は知略に優れている。あのまま話し合いをしても同じ結果になっただろう。それに…無理やり話を拒んであの男が避難民を煽動したらどうする。避難民との戦争になっても負けはしないだろう。しかしあの男が避難民を指揮すれば間違いなく我が国には大打撃になる。その後、火の国の侵攻が起きたらこの国は確実に滅ぶ。つまりあの男が敵に回った時点でこの国は滅ぶのだ。」
「そ、そこまで陛下はお考えで……それほど脅威に思っているのですか。」
「ああ、脅威だとも。火の国の侵攻だけならばこの国は負けはせぬ。しかしあの男が敵にいるなら間違いなくこの国は滅ぶ。正直…火の国よりも私はあの男一人の方がよほど恐ろしい……」
「よーし!祝杯だぁ!飲めや歌えや!」
『ポチ・ヒュー!おっとこまえ!よっ!日本一!』
『ピース・か、かっこいいですボス!』
『社畜・楽しいのは歓迎であるが…今回の話し合いの内容考えたの我々である。よくもあんなに得意げに…』
『アルケ・それは言わないでおくよ。楽しいのが一番だよ。』
「いっえーい!どーんなもんじゃーい!!フゥ~~~!!!」
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