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100万字到達記念 番外編 ミチナガ商会の夏祭り

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『社畜・ここにこれと…これを混ぜてみるのである。それからこれを入れて……』

『アルケ・これも入れよ。後これも入れよ。』

『社畜・面白そうなのである。じゃあさっそく…』

 アルケから手渡された薬品を社畜が用意したものに入れる。しっかり混ぜ合わせていくと化学反応を起こした薬品は変色して真っ黒になった。

『社畜・む、失敗である。仕方ない…もう一度やり直しである。これは捨ててしまうのである。次の準備をするのでアルケ殿、処分を頼むのである。』

 そういうと社畜は材料を取りに何処かへ行ってしまった。アルケは片付けをしようと考えたのだが、他の研究の方へ興味が移ってしまい片付けを全くしない。まあこれはいつものことだ。だから今も定期的にやってきた使い魔が片付けをしに来てくれた。

『名無し・じゃあ捨ててきますね。ちょうど今焚き火しているんで燃やしちゃいます。』

『アルケ・ありがとね。』

 名無しの使い魔は社畜たちの失敗作を持ち、そのまま近くで焚き火をしている使い魔の元へ行く。そこではせっせと落ち葉を燃やして何かを待っている使い魔がいる。

『名無し・このゴミここで燃やしちゃっていい?』

『名無し・あー…今こっちで芋焼いているからそっちの端の方で燃やして。なんなら一本食べる?』

『名無し・食べる食べる。いやぁ…大変だよ。社畜さんとアルケさん。あの2人片付けしないからすぐ散らかっちゃって。よいしょっと。』

 使い魔は社畜たちの失敗作を焚き火の端の方で燃やしていく。中には燃えないものもあるのでそういったものはまた他のところで処分しなければならない。二度手間になるのだが、こうでもしないと処分品が山のように増えてしまう。

 使い魔は一つ、また一つと火の中に放り込んでいく。すると妙に黒々しい塊に触れた。なんなのか分からないそれは使い魔の手を真っ黒にした。これでは手を洗わなければならないと嫌そうな顔をしている。

『名無し・芋焼けたよって…手真っ黒だね。洗ってきな。』

『名無し・そうする。全くもう…』

 そう言って使い魔は手に持った黒い物体を火の中に投げ込んだ。放物線を描きながら投げ込まれた黒い物体は火に触れた途端すぐに着火し、

 七色に爆発した。

『名無し・ものすごい音したけど大丈…あ、あれ?焼き芋の番を任せておいた奴は?それに…僕たちのお芋は?』

『社畜・あーー…間に合わなかったのである。さっき処分を頼んだものの中に可燃性の危険物があったのであるが……アルケ殿。わかっててやったであるな?だけどこれは使えそうである。』


「それで…花火が出来たのか。」

『社畜・色々混ぜていたら出来たのである。いっぱい作って打ち上げ花火を上げたいのである。その許可を欲しいのである。』

「花火って…それなら祭しなきゃ勿体無いだろ。どうせならミチナガ商会全店舗でイベントしたら面白そうだな。各国に花火の許可取りに行け。花火をやるなら派手にやろう。」

 こうして社畜たちの失敗とミチナガの思いつきの元、ミチナガ商会による花火大会のイベントが開催されることが決定した。



『マッシュ・ということで花火の許可をもらいにきました。それから花火大会当日の見回り強化もお願いします。』

「面白そうな企画ですね…いいでしょう。どうせなら街の一角を祭のスペースにしましょう。他の露店商人にも参加させてもらえますか?」

『マッシュ・問題ありません。ですが基本はうちの商会がメインです。露店の募集は多くなった場合抽選を行います。それから甘糖マンドラゴラの砂糖を大量購入できませんか?それにこの品種の米も大量購入したいんです。』

「砂糖は最近生産量を増したので問題ありませんよ。米も問題ありません。」

 マッシュはルシュール辺境伯から無事花火大会の許可を取り付けた。さらに他の露店もかませることで祭の規模をさらに大きなものにできそうだ。それに祭りに必要な材料の確保も順調にできている。



「おお!そういうことならいくらでもやってくれ。巡回兵をいつもよりも増やそう。祭り期間は3日間ということなら巡回兵も非番の時にでも祭りへ参加できるだろう。」

『ブラン・突然の申し出に対し許可していただきありがとうございます。』

「はっはっは!天下のミチナガ商会の申し出は断れまい。それに…これはなかなかに面白そうだ。貴族用の観覧席も用意してくれるのだろう?他の貴族達にも声をかけておこう。」

『ブラン・何から何までありがとうございます。陛下のために特別席をご用意しますので期待していてください。それからアマラード村での大規模購入の許可もよろしくお願いします。』

 ブラント国での許可取り付けも問題なくいけるようだ。アマラード村でも別途で花火を打ち上げようと考えたのだが、あそこは精霊もいるし温泉のガスの中には可燃性のものもあるということなので許可は降りなかった。代わりに食材の仕入れは問題ないようだ。



『ユグ・いやぁ…想像以上に大きくなっちゃったね…』

『ドラ・リリー様が気に入っちゃったから。ミチナガくんのお祭りなら行きたいってリカルドさんに駄々こねたらしいよ。』

『シル・それで駄々こねたリリー様が可愛くて議会で花火大会の話ししたらエルフ街、獣人街、ドワーフ街の代表が賛同して街中に横断幕つけちゃったんでしょ?』

 ユグドラシル国では初めての4つの街合同での祭りが開催されることになった。ここまで4つの街が一丸となるのは初めてじゃないかというほどだ。これにはリカルドも4街の連携強化に繋がると言い喜んでいる。

 今回の花火大会を受けてドワーフ街では祭りに必要な大量の備品を作成にあたっている。獣人街では花火大会に合わせ屋外の特設闘技場の建設が始まっている。エルフ街でも臨時の植物の展示会が行われるそうだ。さらに人間街では孤児院の子供達が花火大会で一儲けしようと使い魔達と合同で模擬出店をする。皆、思い思いの夏祭り計画を立てているようだ。



『センチョウ・漁場に着いたぞ!さあどんどん釣れ!』

「「「おぉ!」」」

 漁師町では連日男達は祭のために漁へ出かけている。夜にも漁へ出かけることになるとは思っていなかった男達だが、ミチナガ商会から臨時報酬が出ると聞き毎日大盛り上がりで釣りをしている。

『ウオ・それにしても英雄の国ではうちで花火できないっていうのは残念だね。まあ英雄の国は毎年この時期に英雄祭っていう祭やっているんだけど。しかも花火も打ち上げるし。』

『センチョウ・まあうちからの出費が減る分良しとしよう。それよりも漁獲量は足りているか?』

『ウオ・今の状況なら多分大丈夫かな?だけど祭りで人気が出たら足りなくなるよ。そしたら釣りバカ野郎で入手したらいいんだけど…どうせならねぇ?あ、でも昼の部の方は確実に足りてない。』

『センチョウ・じゃあ明日からは昼の人員増やすか。蛸壺も足さないとな。』



『ヒョウ・次はそっちの氷切り出して~。おい、そこはまだだぞ。さっき水入れたばかりだから。』

「忙しそうですね…手伝いましょうか?腕はなくても魔法を使えばなんとか…」

『ヒョウ・ああ、岡上さん。でしたら水を入れてもらえますか?氷の量がまだまだ足りなくて。』

「了解です。…しかしこれは……氷作りですか。昔は冬の時期に水を貯めて氷を作りました。うちにはありませんが隣の家に氷で冷やす冷蔵庫があって…懐かしい。」

『ヒョウ・それはまた貴重な体験を…今は天然氷って言われて人気なんですよ。ただ氷国は寒すぎるからちゃんとした天然氷作りづらくて……この氷の洞窟の中なら少し暖かいのでなんとかいいのが作れました。』

 氷国の氷の洞窟では毎日毎日巨大な氷を切り出している。何百本という氷の塊を切り出しているが、ヒョウとしてはまだまだ欲しいようだ。なんせここで人気が出たらミチナガ商会の各店舗で期間限定、もしくは通年で売り出そうと考えているからだ。

『ヒョウ・みんな頑張っているけど…開催までに間に合うかなぁ?まあなんとしてでも間に合わせるけどね。』



 そして迎えた花火大会当日。セキヤ国では避難所や街中に多くの露店が立ち並んでいる。店舗で売られている商品はミチナガ商会で必死に集めたものばかりだ。どれも原価ギリギリの低価格で販売されている。家族連れや子供などが手軽に食べられるように人件費はミチナガ商会の負担だ。

「お母さん!あれ何!あれ何!」

「お母さんもわからないけど…買ってみようか。すみません、一つください。ちなみに…これはなんですか?」

『名無し・これはたこ焼きです。海に住む生物で…ウニョウニョっとしていて見た目は怖いですけど美味しいですよ。ああ、反対側にあるイカ焼きの親戚みたいな感じです。』

 たこ焼きは漁師町で蛸壺を沈め、昼間のうちに回収したものだ。あの漁師町では型の良いマダコがよく採れる。それからイカ焼きに使用するイカだが夜間、船を光源魔法で照らし、光に集まってきたイカを釣り上げた。

 まだその見た目に慣れていない人が多いが、ルシュール領やブラント国では初めて見聞きするイカやタコに興味津々でなかなか良い数が売れているという報告があがっている。なおたこ焼きに使用しているこの窪んだ鉄板はユグドラシル国のドワーフ街で作られたものだ。

 そんなたこ焼きやイカ焼きを焼いていると遠くの方から何かの爆発音が聞こえた。花火でもないその爆発音に住民達は驚き見に行く。するとそこでは不思議な機械を使っている使い魔達がいる。

『名無し・ポン菓子できたよ~うまいよ~安いよ~甘いよ~出来立てで美味しいよ~。』

「不思議な食い物?だな。面白そうだ一つくれ。」

『名無し・毎度!』

 男は出来上がったポン菓子を早速口の中に放り込む。軽い食感と甘みに手が止まらなくなる。どこか病みつきになる味だ。ポン菓子とは米に圧力を加え、一気に圧力を放出させることで作るお菓子だ。圧力を放出させる際に先ほどの爆発音が出る。使い魔達はこの音を使って人を集めている。

 しかしせっかく集まってきた人々は数件隣の他の店に持って行かれてしまう。なんせそっちの方が見た目も面白い。今も使い魔達がパフォーマンスをしながら作っているそれは人々の注目を一気に集める。

『名無し・よっ!ほっと!さあさぁ!甘いよ美味しいよ!今出来立てのふわっふわのわたあめ食べていって!』

 わたあめ機から放出されるわたあめを数メートル離れた位置まで伸ばしていき回収していく。さらに時折色付きのザラメを機械に入れることでカラフルなわたあめが完成する。このカラフルさには人々がどんどん食いついていく。

 しかしそんなわたあめの反対側には常に長蛇の列ができている店がある。その店は美味しさもそうなのだが、普通では食べられない高級食材ということで、他の国でも大人気だ。使い魔達もこれほどまで人気が出るとは思ってもおらず、在庫の心配をしている。

『名無し・チョコバナナ現在15分待ちで~す。……ものすごい人気だね。どうしよ。』

『名無し・頑張るしかないでしょ。チョコは火の国でも貴族しか食べられない高級品として知られていたらしいよ。そんなのがこの値段で…ってことでみんなこぞって買いに来るらしい。』

 アマラード村で入手しておいたバナナとカカオを使ったチョコバナナだが、元々が貴族しか食べられない食材を合わせたものということで、一度食べてみたいと人々が集まっているようだ。原価も高いのでそれなりの値段はするのだがそれでも食べたいらしい。

 ミチナガも試作品を食べたのだが、その時あまりの美味さに長蛇の列を予想して少し値上げをしたくらいだ。結果としてそのおかげで今程度の列になっているのだが、確かにこれは美味しい。

 このバナナは木の上で完熟させたものだ。日本で輸入されるバナナは法律によって未熟なものしか輸入できないと決められている。つまり日本のスーパーで売られているものよりも香りも甘みも数段上なのだ。チョコレートはそこまで良いものではないが、バナナの甘みに合わせて少しビターにしてある。

 正直バナナだけでも1本500円以上はする代物だ。この世界では入手の困難さからさらなる高音がつく。それだけ良いものを庶民が入手できる価格で販売するというのは異例なことだ。

 そして甘いものを食べた人々はしょっぱいものを求めてお好み焼きや焼きそば、焼き鳥にフランクフルト、焼きとうもろこしなどといったものを片手にビールを飲む。大人達はこれだけでも大満足だ。

 そして子供達のためにも射的やくじ引き、輪投げなどを用意してある。それから定番の金魚すくいも用意しようと思ったのだが、金魚が見つからない。そこでアンドリュー子爵が入手した色鮮やかな魚をスマホで増やし、それを金魚すくいの代わりとしてすくわせることにした。

 ただ名前をどうするか考えた使い魔達は、ここはアンドリュー子爵にあやかろうとアンドリューすくいと名前を変えたところ、子供よりも大人に人気が出てしまった。子供がアンドリューすくいをできなくて困ると子供専用の店まで作る有様だ。

 そうこうしているとついに花火の打ち上げ時間になった。人々は花火をよく見える特別会場へ移動している。人々が一堂に会したことで会場の熱気は上がりに上がっている。暑さを紛らわすためにビールを飲み続けている男達の中にかき氷を持った子供や女性の姿が見える。

 このかき氷は氷国で作られた天然氷だ。この熱気の中でもかき氷を食べて涼むことができる。さらに時間をかけて作られた天然氷は通常の氷よりも溶けにくい。子供達は花火を待つ間ゆっくりかき氷を楽しむことができる。

 そしてついに花火を打ち上げる時間になる。ミチナガによるアナウンスが5分ほど行われた後、ついに花火の打ち上げが始まる。打ち上げられた花火は闇夜を照らし、見るもの全てを笑顔に変える。丸く広がる花火はなんとも立派だ。しかしこの花火に満足できていないものもいる。

『社畜・あ、また少し開きが悪いのである。もう少し圧力を加えないと駄目であるな。』

『アルケ・発色が良くないよ。もっと色鮮やかに変えないと駄目だよ。』

『ポチ・う~ん…構成ももう少し考えないとね。今のところさっきの前にやるべきだったでしょ。』

「お前らな…そういうのもいいけど花火が打ち上がっている時くらい花火楽しめよ。」

『ピース・そ、そう思います。あ、ボスと一緒に屋台の食べ物買ってきました。一緒に食べよう。』

『『『ポチ、アルケ、社畜・わーい!』』』

 わたあめやたこ焼き片手に再び花火鑑賞が始まる。再び花火の評価を始める使い魔達だが、渾身の3尺玉が上がった時はその声を歓声に変えた。そして再び来年はもっと大きいやつを打ち上げようとか、もっと規模を大きくしてやってみようとかそういう話に変わる。






『ムーン・お待たせ。みんな忙しくしてて時間かかっちゃった。場所はここで問題ない?』

「ああ…ここからならユグドラシル国が見える。」

『ムーン・よかった。ユグドラシル国での花火が一番大掛かりだからね。はいこれ焼きそばにお好み焼き…広島焼きも買ってきた。食後のデザートもあるからね。あ、もうすぐ始まりそう。』

 ムーンとナイトは遠く離れた森の木の上からユグドラシル国の花火を眺める。ずいぶん小さく見える花火だが音はかすかにここまで聞こえてきた。本当はもっと近くで見れば大きな花火が見られるのだが、ナイトはここで良いらしい。

 しかしこんな遠くからでは花火は指先ほどの大きさでしか見えない。これで満足できるのか正直不安なムーンであったが、ナイトの顔を覗き込むとムーンは満足そうに再び花火を眺めた。

『ムーン・来年はもう少し近くから見ようね。その方がもっとすごいから。』

「…そうだな。来年はもう少し努力する。」

 もうすぐ夏が終わる。しかしまた来年の夏の楽しみができたとミチナガもナイトも使い魔達も、花火を眺める人々も皆、笑顔だ。
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