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第232話 エルフの国の精霊

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「ここが精霊様の住まわれる場所になります。」

「森の中だから木かと思いきや…これは花?」

「正確にはここの地面深くにある球樹という不可思議な木です。数メートルほどの巨大な木の球から枝が伸び、地上に出ると草花のような葉と花をつけるのです。」

 エルフの案内人に連れてこられたのはひらけた土地にある花畑。しかし分類的にはこれは草花ではなく木らしい。不思議な場所に生える不思議な花だが、ここはこの西のエルフの国の中でも特別神聖な土地。たとえミチナガでも入ることはできなかったのだが、ドルイドがいたため軽々と案内してくれた。

「ドルイド、何かわかるか?」

『ドルイド・弱っている……だけどいまいち分からない……他を呼ぶ…』

「他…フラワーとファーマーか。あいつらいつも厳しく修行しているんだろ?すぐ来てくれるかな?」

 そんなミチナガの心配をよそにドルイドはすぐに連絡する。するとものの1分もかからずに二人とも集まってきた。フラワーはいつものようにほんわかとしているが、ファーマーはなぜか泣いている。

「どうしたんだファー…」

『ファーマー・うわぁぁぁぁん。よーやっと呼んでくれた!地獄だよぉぉ…草の大精霊様はド外道だよぉぉ…』

「あ~…うん。お疲れ様。」

 どうやら草の大精霊の修行は厳しいらしい。それもかなり。死んでも復活する使い魔がここまで怯えると言うのは本当によっぽどだ。いや、死んでも問題ないとわかっているからこその厳しい修行になっているのかもしれない。

『ドルイド・仕事…やる……』

『フラワー・は~い~この子はねぇ~たいへんだぁ~今にも死んじゃいそう~~』

『ファーマー・ほんとだ。ドルイドさんが呼んだのもよくわかる。弱りすぎて力を感じ取れない。こりゃあと1週間かそこらの命だな。』

「そんなに弱っているのか…何とかなりそうか?」

『ドルイド・難しい……』

『ファーマー・これは難題だな。いきなり力を与えるとそれがきっかけで寿命を終えるかもしれねぇ。う~~ん…こりゃ困った。』

『フラワー・僕ね~何とかできるかも~~』

 そう言うとフラワーは地上に咲いている花に近づき踊り出した。見た目はいつものフラワーと変わりないが、その周囲をよく見ると花たちが少しずつ動き出しているように見える。そして踊りといえばこの使い魔たち、オペラとダンも黙っちゃいない。

 音楽の能力を持ったオペラは最近使い魔が増えてきた影響もあり、使い魔30人による楽団を形成した。さらに踊りの能力を持ったダンも20人ほどのダンスユニットを結成した。まさかのちょっとした使い魔たちによる劇団が完成したことにはミチナガも他の使い魔も驚いている。

 そしていつものように音楽とダンスが始まり、ミチナガにもアプリ、ミュージックマイライフでの演奏を頼まれるのだが、新曲が増えている。その新曲の名前は森と精霊のセレナーデ。このアプリで楽曲が追加されたのは初めてだ。

 とはいえ追加という名の課金をしろという、このスマホのいつものことなのだが、使い魔たちはこの曲を今演奏したいということだ。仕方ないので金貨1000枚でこの曲を買う。まさかの1曲金貨1000枚という高値だが、最近のミチナガ商会の売り上げから考えれば大したことはない。

 早速追加された曲を演奏するのだが、ゆったりとした曲調とは裏腹にアプリの方の難易度は激ムズだ。1秒間に30タップという鬼畜難易度だ。しかしミチナガは初めてやる曲にもかかわらず曲を楽しみながらこなしている。

 森と精霊のセレナーデ。セレナーデとは一般的に恋人や女性に向けた甘く美しい曲のことだ。この場合は女性を森と精霊にあてたのだろう。森と精霊たちへ贈る美しく優しい曲。しかしこんな弱り切っている球樹に対して歌うとそれはレクイエム、鎮魂歌のようだ。

 しかし目の前で不思議な光景が起こった。それは球樹から生えている花々が左右に揺れ動き、フラワーやダンたちと共に踊り出したのだ。しかもわずかに発光しているようにも見える。これはおそらくフラワーの得た花の大精霊の力だろう。

 花とは美しく、楽しくあるべき。見るもの全てを笑顔にし、その香りは嗅ぐもの全てを癒す。フラワーが花の大精霊から教わった志だ。そして花の大精霊の精霊魔法の一つの極意である。花の力は癒しの力。フラワーはその力を踊りという見るものを楽しくさせる行動によって増幅させた形で発現している。

 しかしあくまでも球樹に負担をかけないようにゆっくりと、徐々に癒していく。間違いなく好転しているのだが、これではフラワーの力が尽きるまでに大した成果を残せない。正直、これでは延命措置と変わりないだろう。

 そうこうしているとミチナガの方のアプリの演奏が終わってしまった。まあそれもそのはずだ。この曲は数時間もかけて演奏する類のものではない。しかも演奏が終わるとフラワーたちは満足したように踊りをやめてしまった。

「おい、これじゃあ特に意味も…」

『演奏終了!結果発表!!楽器ボーナス、ダンサーボーナス、フルコンボボーナス、精霊ボーナス、オールパーフェクトボーナスが加算されます。楽曲能力を発動します。』

 今までこのアプリで曲を演奏しても出てきたことなどなかった。しかし今この曲、森と精霊のセレナーデを演奏し終えた時に出たこの表示はそれだけの意味を持つのだろう。そしてその意味はスマホから溢れ出た光とともに世界に影響を与えた。

 溢れ出た光は球樹の元へ飛んでいき花々に力を与える。どんな影響が与えられているのかはよくわからないが、これは一種の強化魔法だろう。先ほどまでより花々は力強く咲き誇っている。

 ミチナガは以前、このアプリ、ミュージックマイライフのことをただの音ゲーと評価したが、このスマホのアプリがそんなもので終わるわけがない。このアプリの能力、それは楽曲演奏による強化魔法。そして音楽を聞いた者を対象にしたこの強化魔法はどんな相手にも作用する。

 弱りきった球樹は強化魔法がかけられたことによって瀕死のラインから脱した。ここまで強化魔法がかけられればドルイドたちの魔法による影響にも耐えられる。

『ドルイド・我が名はドルイド…森の大精霊の弟子にして白獣の森を治める者……我が祈りを聞き届けよ……精霊魔法、森の雫。』

『ファーマー・おらの名はファーマー。草の大精霊の弟子。おらの祈りを聞き届けください。精霊魔法、十草の儀。』

 ドルイドとファーマーによる2つの精霊魔法の行使。どちらも大精霊から教わり、力を与えられた強力な精霊魔法。瀕死であった球樹はみるみる回復し、地上には花々が溢れんばかりに咲き誇る。あっという間に辺り一帯が足の踏み場もないほどの花畑に変貌した。

 しかしここでさらなる追い討ちを仕掛ける。ドルイドたちによる世界樹を用いた強力な世界樹魔法の行使だ。植物系魔法の頂点である世界樹魔法の行使を大精霊の弟子である使い魔3人が行う。

『ドルイド・我が名はドルイド…我らを見守りし世界を治める大樹よ…今ここに汝の力を……』

『ファーマー・おらの名はファーマー。我らを慈しむ世界を見守る大樹よ。今ここにあなたの力を。』

『フラワー・僕の名前はフラワ~~。僕たちに~世界に~幸せを与える大樹様~今ここに~君の力を~~』

 3人の大精霊の弟子である使い魔による世界樹魔法。この世界樹魔法は瞬間的にであるが白獣のあの砂漠を癒した時と同じくらい強力なものであった。しかし一つだけ誤算があった。それはこの世界樹魔法の対象が球樹というただの珍しい聖樹の一種であるということ。

 これほどまで強力な世界樹魔法の影響を受けたらタダではすまない。使い魔たちが世界樹魔法を行使していると突如地響きが起こり、地面が割れだした。その地面からは地中奥深くに眠っていた球樹が地上へとせり上がってくる。

『ドルイド・…やりすぎた……』

『フラワー・やりすぎちゃったね~~』

『ファーマー・こりゃ…元の球樹から上位存在へ進化しちゃった……ひぇ~…』

「…お前ら何やってんの。どうすんのよこれ。なんかものすごく発光しているんだけど。妙に神々しいんだけど…どうすんのこれ……」






 その後、急な地響きと死にかけていた族長や国の重鎮たちが妙にエネルギッシュになったことに驚いたエルフたちが押し寄せてきた。そして元の姿が見る影もない球樹を見たエルフたちはその場でしばらくこの状況を飲み込めず、ただ立ち尽くしたのちに平伏した。

 こんなにしてしまって怒られるかと思ったが、エルフたちはあらたなる国の守り神の誕生だと喜んでいる。それからこの球樹に宿っていた精霊ギギラカールなのだが、この精霊の正体にも驚かされた。

 この西のエルフの国で大層持てはやされている精霊の正体は、なんとミミズの精霊だったのだ。球樹は元々地面の下にある聖樹だ。つまり精霊も土の中で生きられる形に姿を変える必要があるため、ミミズという形になった。

 しかし球樹はこうして今地上に出てきてしまった。こうなると精霊もミミズという形を取るのは不自然になるため、新たにその姿を長い龍に変えている。龍という形に変わった精霊は球樹に巻き付くように居座っている。

「あの精霊、ギギラカールだっけ…結構力強そうだけど……どんな感じ?」

『ドルイド・…アマラードの精霊……あれと同じ………』

「あ~…村を守っているやつか。魔帝クラスの実力は十分あるってやつ。…そんなに強くなったのか。完全にやりすぎだけど…まあ喜んでいるしいっか。」
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