スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第231話 西のエルフの国

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「これがエルフの国か…想像以上に広いな。」

 森の中に暮らすエルフたちの国ということで小さい国を想像していたが、想像以上に広い国だ。国中に巨木が立ち並んでいるのだが、その巨木を用いて様々な高さに家々が建てられている。ツリーハウスというよりも木のウロの中にあるような特殊な家々が多いのだが、どれもオシャレだ。

 ミチナガたちがその場で感心したように周囲を見回しているとすぐに数名のエルフたちがやってきた。しかもなかなかの手練れと見える。体は細いが屈強なエルフたちはこちらを警戒しながら取り囲んできた。

「シェリク、それは誰だ。」

「以前報告したミチナガ様です。その後ろは護衛の方々。フィーフィリアル様がきた時に話は通しましたよね?」

「ふん!そうだったな。こっちだ。」

 あまり歓迎されていないような態度のエルフたちに着いていくとシェリクが近づいてきて耳打ちをし始めた。

「申し訳ありません。今日の警備隊は人間嫌いが多くて……ああ、獣人の方のようにかつて何かあったというわけじゃなく、単純に人間が嫌いな人たちなんです。すみません…」

「大丈夫ですよ。しかしそういった方は多いんですか?」

「多い…というほどではありませんが一定数はいます。自分たちこそが至高…という感じですね。まあ正確には自分たちは精霊に愛されているので至高だということです。いわゆる精霊信仰の中でも頭の固い人々です。」

 精霊信仰。この世界でおそらく一番多いと思われる宗教だ。法国の教徒たちも多いのだが、精霊信仰は間違いなくその倍はいる。とはいえ精霊信仰は自然を愛するという意味合いが強いため、宗教としてはあまりちゃんと成り立っていない。熱心な精霊信仰の教徒というのはかなり少ないだろう。

 彼らはどうやら珍しい熱心な精霊信仰の教徒らしい。よくよく話を聞くとエルフには熱心な精霊信仰の教徒が多いようだ。ある種の国教みたいなところもある。そんな彼らに案内されていくとひときわ巨大な大木にたどり着いた。どうやら聖樹の一種のようだが詳しいことはわからない。

「族長命令だ。お前だけが入れ。中で長老様がお待ちだ。」

「わかりました。失礼します。」

 中に入るとそこには数人の老人と一人の若いエルフがいた。老人の方が偉いかと思ったが、座っている場所的に一番偉いのは若いエルフだろう。ミチナガは少し前に行くとエルフたちと同じように座り、座礼をした。

「初めまして。新しく隣国に国を作ったセキヤミチナガです。」

「西のエルフ、この森を治めるトェークォトェーリだ。お前のことは他のエルフたちからもよく聞いている。我らに世界樹を渡した人間であるとな。褒めてつかわす。」

 トェークォトェーリはいかにも尊大にミチナガを褒める。しかしこれでは褒めているというよりもどこか馬鹿にされている雰囲気も感じる。なんというか国王が庶民の子供を褒めているような、たかが人間にしてはよくやったと言わんばかりの態度だ。

 どうやら歓迎されているわけでもなさそうだとミチナガは察した。正直もう帰ってしまおうかと思ったが、ここはエルフの国の中。彼らに森の外まで連れていってもらわないと森から出られそうにない。ミチナガがこの状況に甘んじるかどうするか悩んでいると思いもよらない言葉が発せられた。

「お前はまだ世界樹を持っているのだろう?我々に世界樹を与える権利をやろう。そうすればお前の国とも仲良くやってやる。」

「…おい、さすがにそれはないだろ。これでも俺は一国の王だ。それに対してなんださっきから。俺とお前はあくまで対等だ。そういうことでこの国に来たはずなのになんだこれは。」

「黙れ!お前と俺が対等だと?俺はこの国の族長の孫にしてこの聖樹、ギギラカールの精霊に愛された…」

「ま、待て待て…お前族長の孫って言ったか?じゃあお前族長じゃないじゃん!!下っ端じゃん!」

「だ、誰が下っ端だと!許さんぞ!」

 まさかの族長でもないやつと話しをしていたことを知ったミチナガはその場でトェークォトェーリと言い合いになる。そんな騒ぎを聞きつけたエルフの衛兵とシェリクが中に入って来た。そしてトェークォトェーリの姿をみたシェリクは絶句した。

「トェーク!お前そんなところで何をやっているんだ!!お爺様はどうした!それにお父様は!」

「ッゲ!シェリク!お前なんで入って来たんだよ!今は俺が…」

「うっさい馬鹿!」

 シェリクはトェークォトェーリにゲンコツをお見舞いする。それでも反論しようとしたトェークォトェーリに対してシェリクは反省するまで何度もゲンコツをお見舞いする。するとさすがに10回以上もやられたところでようやく謝りだした。

「さあ!まだ反省してないならもっと行くよ!お爺様たちはどうしたの!」

「ご、ごめんって!爺さんならあれからさらに具合が悪くなって今は寝ているよ。父さんもそれに付き添ってて…だから俺が代わりに…」

「代わりになるわけないでしょ!この馬鹿!あんた達もこの馬鹿に加担した罪は重いよ!…ミチナガ様、本当に申し訳ありません。」

 これはどういうことなのか詳しく話を聞くとトェークォトェーリの祖父である現在の族長は数年前から体を壊し毎日寝たきりに近い生活を送っているそうだ。さらに次期族長の父親も祖父の身を案じて世話をしているのだという。そんなことで次期、次期次期…族長くらいの立場にありそうなトェークォトェーリがミチナガを騙す形で族長と名乗っていた。

 ちなみにここまで連れて来た衛兵はトェークォトェーリを慕う者たちだ。こんな馬鹿でも、いやこんな馬鹿だからこそ慕うものもいるということだ。このトェークォトェーリも精霊信仰の過激派とでも言える人種に入る。

 それからこの周囲にいるエルフの老人たちはよく見るとどれも動いていない。どうやら人形を用いて騙そうとしていたわけだ。本来ちゃんと見ればわかりそうな人形だが、この建物の中の暗がりと、緊張でミチナガがそこまで確認しなかったため全く気がつかなかった。

「本当にすみませんでした。今からお爺様の元まで私自ら案内します。トェーク!あんたも来な!お説教じゃ済まさないからね!」

「シェ、シェリク!お、俺を誰だと…」

「うっさい!泣き虫シェリク!また昔みたいに泣かすよ!」

「ひぃぃ!」

 なんとも漫才のようなやりとりだがシェリクとトェークォトェーリの関係がいまいちわからない。族長のことを二人ともお爺様と呼ぶが、立場も違いそうだし色々ごちゃごちゃしていそうだ。気になったミチナガがそれとなく聞いて見るとすんなりと答えてくれた。

「トェークは本家の人間で私は分家の人間なんです。ひいお爺様が同じでその子供の兄が今の族長、妹が私の祖母です。まあ本家と分家といってもそこまで身分違いはありません。トェークは幼馴染であり私の弟的な存在なんです。生意気なんでいつも懲らしめていましたけど。」

「誰が弟だ、誰が。」

「あ?」

「…ごめんなさい……」

 さらに話を聞いて見るとどうやらシェリクは族長候補の中でもトェークォトェーリより上に位置しているらしい。だからミチナガの元まで出向くという重要な任務を任せられたのだ。トェークォトェーリは正直族長候補ではあるが、まず間違いなく族長になることはない族長候補というやつだ。

 ただシェリク自身も族長になることはまずない。その理由はシェリクが女だということだ。…本当にエルフというやつは性別の判別が難しい種族だ。ミチナガもここに来る道中の会話の中で知ったくらいだ。

 エルフは子供ができにくいため、族長が女だと世継ぎができない可能性が高い。だから今でも族長は男しかなれないと決められている。しかしそれでも族長候補の中にシェリクがいるのは族長の妻になるためらしい。やはり族長の妻というのはそれなりの家系であることが必要だということだ。

 そんな話をしていると族長が療養しているという自宅にたどり着いた。シェリクはミチナガに少し待つように伝え、一人中へ入って行く。それから10分ほどして再び戻って来たシェリクに連れられ、中へ入った。

 奥に進むと数人のエルフの魔法医師に看病されながら座る一人の老人がいた。その貫禄と風格を見ればすぐにわかる。これが本物の族長だ。

「初めまして、セキヤミチナガです。」

「トェーリウリウルです。申し訳ない…ゴホッゴホッ…馬鹿な孫が失礼をしたと…」

「お気になさらず。それよりも横になっていてください。楽な体勢で構いません。…随分とお加減が悪いようで……」

「申し訳ない…歳もありますが……重い病なのです…」

 トェーリウリウルはなんとも青白い顔をしながら必死にミチナガへ対応している。そんな無理をしなくて良いとミチナガはいうのだが、トェークォトェーリの失態を重く見ているらしい。というのもミチナガのエルフの中での立場はかなり上だ。それこそ族長クラスの立場だと考えられている。

 そんなミチナガに対する無礼を非常に恥じているのだ。ちなみにトェークォトェーリはどこか別の部屋に連れて行かれたのだが、何も聞こえてこない。一体どんな説教を受けているのか、物音ひとつしないというのが逆に怖い。とりあえずそこは気にせずにミチナガは話を続ける。

「重い病というのは…一体どのようなものでしょうか。私は諸国を巡ったので多少の知識はあるのですが、何かお役に立てればと…」

「これはありがたい。しかし病というのは私ではなく…精霊様なのです。私は修行によって半精霊になりました。しかしその半精霊の力を与えてくださった精霊様が最近力を落としまして…」

 半精霊、それは普通の生き物が精霊に近づいた存在である。ミチナガの所有する聖霊蜂も元々はこの一種だ。他にもドルイドも半精霊だった時代もあった。現時点で半精霊というと花の大精霊と草の大精霊の弟子になっているフラワーとファーマーだろう。

 半精霊になる方法は大きく2種類ある。ひとつは自然にあふれている精霊の力に呼応して精霊に近づく方法、もうひとつは精霊と契約して直接力を与えてもらう方法だ。トェーリウリウルは後者の方法をとったらしい。

 そして後者の方法だと精霊が弱ると力を与えられた者も弱ってしまう。いわば共存関係にあるのだ。その精霊と契約しているエルフはこの国の重鎮に多く、現在は国の運営に支障をきたし始めているという。

「わかりました…それではその精霊様はどちらにおられますか?状況を確認したいので。」

「人間の前に姿を現してくれるか…その辺りはわかりません。やめておいた方が良いでしょう。」

「まあ私相手だとダメかもしれないので…こいつに任せます。」

 スマホからドルイドを呼び出す。ドルイドなら同じ精霊として話をしてくれるかもしれない。するとドルイドが現れた瞬間、その場にいたエルフたちが目を見開き深々と頭を下げ始めた。

「私の名はトェーリウリウル。さぞご高名な精霊様とお見受けいたします。」

『ドルイド・この地より遠き…東にある白獣の森を治め…森の大精霊の弟子……世界樹の加護を受けた……名はドルイド……』

「か、かの森の大精霊様のお弟子様でしたか!さらには世界樹の加護も受けた!こ、これはありがたや~!!」

 全員平伏し始めた。中にはあまりの嬉しさに涙するものまでいる。エルフたちは精霊信仰が盛んであるため、森の大精霊の弟子でもあるドルイドはまさに神の使いという扱いなのだ。こんな状況になったミチナガは改めてドルイドのすごさを知った。

「お前…やるじゃん。もしかしてだけど…族長のことなんとかできる?」

『ドルイド・可能……だけど一時的……大元をやった方が早い。』

「まあそうなるのか。じゃあ…精霊様の場所…教えてもらっても良いですか?」
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