スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第224話 ミチナガの国造りによる他国の思惑

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『ユウ・陛下、うちのボス、ミチナガ伯爵からの報告書です。』

「ああ……問題なく順調なようだな。よろしい、今後もこまめな報告を頼んだぞ、それから問題が起きた場合は私も力になる。」

『ユウ・ありがとうございますアレクリアル陛下。ああ、それと今日の分の焙煎したてのコーヒーです。焙煎も陛下の好みに合わせてあります。』

「ありがとう。…やはり香りが良い。これだけでも国造りに協力した甲斐があったというものだ。」

 英雄の国の王城の執務室でアレクリアルはコーヒーに舌鼓を打つ。ミチナガの妖精猫コーヒーはアレクリアルのお気に入りの品になった。今では毎日欠かさず飲むほどである。アレクリアルはなんとも幸せそうに飲むのだが、それはコーヒーだけの幸せではない。

『ユウ・想像以上に順調で嬉しそうですね。そんなにうちの国ができたことが嬉しいですか?』

「もちろんだ。ミチナガ伯爵の成果は私がかねてから望んでいたものだ。ここからかの魔神、神剣の領地は近いようで遠い。海からは法国や9大ダンジョンの影響で向かえない。かといって大陸を横断して行こうとすれば他国からの干渉が起きる。しかしミチナガ伯爵の国ができたおかげで神剣と繋がりができた。それに向こうからも同盟の申し出があった。これほど喜ばしいことはない。」

 アレクリアルは心の底から喜びの声を上げる。イッシンと…神剣と繋がりを持てるということは世界3強の一角を味方にできるということだ。これで法国も下手なちょっかいはかけにくくなるはずだと踏んでいる。

 さらに神剣の領地は世界最大派閥の武術、ロクショウ流発祥の地である。これでロクショウ流の武術者を獲得しやすくなる。武力面でかなりの強化が見込めるのだ。しかしそれだけではない。今の火の国にも干渉できる可能性がある。

「火の国は戦争が続いているが、実はその戦争の裏に法国の者が暗躍しているという噂がある。火の国の問題もその元凶は法国で、かの国が火の国を乗っ取ろうとしているとな。しかしミチナガ伯爵が国を作ったおかげで火の国の戦争に干渉できる可能性が増えた。これ以上法国に力をつけさせるわけにはいかない。これだけの手札ができたのはなんたる幸運か。」

『ユウ・それは同意します。いざという時は武力介入もお願いしますね。』

「もちろんだ。すでに腕利きを神剣殿の元へ内密に同盟のための会談で送り込んでいる。とはいえ法国感づかれると面倒だ。少数をごく内密に。表向きの名目はミチナガ伯爵の国の視察だ。」

 ミチナガの功績は本人が全く知らないところで随分と評価されていた。しかもこの功績は国の重鎮の一部しか知らない。下手な情報の拡散は法国との問題の悪化や、まだ建国中のミチナガに不易になると考え、伏せてあるのだ。

「おそらく…私の代で法国と大きな戦争が起きるだろう。戦力の増強、一つでも法国に対する手札を増やすことは急務である。全てが終わったその時は…ミチナガの地位も考えなければな。」

『ユウ・ありがとうございます陛下。全てはやがてくる戦争のために、そして未来の平和のために…』




「えっと…書類ってこんな感じでいいのかな?」

『ケン・はいはい確認しますね……あ、ここはこうしたほうがいいです。それからここはこうして…』

「うん、こうすれば良いのね。いやぁ…助かったよ。こういったことはしたことがなくて。妻も自力でできるようになれって言うもんだから。」

 イッシンはミチナガの置いていった使い魔に教わりながら勇者神アレクリアルとの書類を作りつつある。イッシンは本当にこういったことには疎く、使い魔の手を借りなくてはまともな書類一枚作ることができなかった。

『ケン・だけど随分簡単に同盟結んだね。本当に良かったのかな?』

「妻が言うんだし良いんじゃないかな?こういったことは全部任せておくのが一番だから。私は家で家事をして子供たちの世話ができれば十分だから。それになんだっけ?英雄信奉者はこの国にも多いから勇者神とつながりを持てることは武術者たちのモチベーションにも繋がるんでしょ?」

『ケン・色々言っていたよね。それ以外にもこの国は龍の国が近くにあるから色々とつながりがあったほうが良いって。』

「なんか龍の国を警戒していたよね。正直なんでかよくわからないけど。まあ妻の考えることに間違いはないよ。」

 アレクリアルが法国を警戒するようにイッシンの妻、サエは龍の国を警戒していた。なんせ龍の国は魔神第1位神龍を王とする国だ。魔神の中でも神の字が初めに来る世界3強の一人神龍。かの国がこの国に攻め込んできた場合、神剣は神龍との戦いになる。そうなればあとは国力の差だ。

 しかし龍の国は魔神第1位と言うだけあって強大だ。保有する魔王クラス、魔帝クラスの数は他の国と比べても桁が違う。つまり龍の国と戦えば神剣の国は確実に負ける。しかしここで勇者神と同盟を組むことができればその状況はわからなくなる。

 魔神第2位の勇者神、そして魔神第10位の神剣が同盟を組めば、魔神第1位の神龍でも勝つのは難しい。戦況は五分五分だ。いや、神剣の方に部があるかもしれない。

 しかしこの想定はあくまで龍の国が攻め込もうと考えていると言う条件を元に建てられている。まるでサエは龍の国が攻めてくると確信しているかのような…

『ケン・まあ僕たちは小難しいことを考えずに書類仕事をこなしていれば良いってことだよね。あ、もうすぐ子供達帰ってくるよ。それまでにここまでは終わらせちゃってね。』

「はいはい。まあ私にとってはそんな問題よりも今日の夕飯何にするか考えるほうが難題なんだけどね。」

『ケン・それは違いないね。じゃあ今日の夕飯は僕と同盟を組んで考えるってことで。同盟条件はうちから食材を買うこと。』

「むむむ、これはなかなか厳しい条件になりそうだけど乗った!よろしく頼むよ盟友。」




「ふ~~ん…それで?他に隠してることはないの?」

『ヒョウ・ほ、他にはございません!ミスティルティア様!本当です!』

 氷の城の玉座に座る美しくも恐ろしい女性。かつて煉獄との戦闘でミチナガを吹き飛ばした魔神第7位氷神ミスティルティアだ。その玉座の前には氷国のミチナガ商会を担当しているヒョウが座っている。

 すでにヒョウが呼び出されてから数時間が経過している。氷神によってこってりと情報を聞き出されてしまったヒョウはぐったりとした表情だ。

「なるほどね、神剣と勇者神が手を結んだ。そうなると龍の国が狙うのはうちになるわね。」

『ヒョウ・剣聖様も気にしていましたけど……龍の国はそんなに危険なんですか?戦争なんて誰も起こしたくないと…』

「普通ならね。だけど龍の国は別。もともと龍人は戦闘種族よ。むしろここ数十年戦争を起こさなかったのが不思議なくらいのね。」

 氷神はため息をつきながら語る。かつては龍人というと血気盛んな野蛮人で、戦争の匂いを嗅ぎつければすぐに参戦したほどだという。なんならお互いに別の国に参加してお互いに戦いあうこともよくあったという。しかしそんな戦闘狂の龍人たちはここ数十年、どこの戦場にも顔を出していないという。

「龍人が戦争に出なくなったのは魔神…神龍が誕生してから。奴らは神龍の誕生と共に戦力を溜め込んでいるの。世界戦争を起こして世界統一を果たすために。」

『ヒョウ・そ、それってかなり危険なんじゃ……』

「危険よ。そして奴らはまずは同格の神剣から襲うと思ったけど…勇者神と同盟を結んだ今、狙うのはうちね。一番近くて手頃な相手。魔神の中で滅びやすいのはうちだから。もしかしたら直接手は下さないかもね。だけど…勇者神も神剣も知らない情報を私は知っている。知りたい?」

 氷神は不敵に笑う。なぜそんな神剣も勇者神も知らない情報を知っているか。それは氷国の輸出品に関係する。氷国は芸術品の輸出が外貨獲得のほとんどだ。そして芸術品を買うのは主に貴族や王族。国の中枢部につながる情報を持つものたちばかりだ。つまり他では得られない情報を入手することが可能な唯一の国。

『ヒョウ・お、教えて欲しいです。』

「良いわよ。それはね、法国と龍の国は繋がっている。それも想像を超えるほどの融和関係よ。もしも法国、龍の国どちらかが動けば……もう片方も動く。魔神第1位と第3位よ。神剣と勇者神の同盟くらいじゃ簡単に消し去れる。」

『ヒョウ・そ、そんな……だ、だけどその証拠は?』

「無いわ。確たる証拠はない。だけど怪しむところがいくつもあるっていう報告が上がっているわ。それに私の女の勘を加えたらまず間違いない。魔神第1位と第3位…一度戦争が起これば間違いなく世界大戦になる。それも過去最大の戦争よ。そうなると最初に滅ぶのはうちね。」

『ヒョウ・……それはこの国の食料事情に関係しますか?』

「正解。私の国は食料の自給ができないからその大半を輸入に頼っている。世界戦争が起きれば食料の輸入ができなくなって最初に滅ぶわ。それに魔神の持つ国力のレベルもうちが一番低い。」

『ヒョウ・魔神第7位のあなたがですか?』

「第7位といってもかりそめよ。私より下の魔神は全員国を治めていない。神剣は妻のサエが国力のすべてを握っている。合わされば魔神5位以上には上がる。神魔ちゃんなんて魔国の王女よ、現国王の父親の力を合わせれば3位以内は確実。そして崩神は国を持たない。各国に点々とする武術の一門だから国を攻める攻めないの位置にいない。そうなると国を持つ魔神の最下位はわ、た、し。」

 氷神は笑みを浮かべる。その表情には今の言葉とは裏腹に焦りも恐怖も感じられない。なんとも余裕しゃくしゃくな氷神には生き残るための今後の作戦が全て立てられているようだ。

「私の今の情報を手土産にすれば…神剣と勇者神の同盟に加われると思うんだけど…どうかしら?」

『ヒョウ・そ、それなら可能だと思います。むしろ喜んで迎え入れてくれるでしょう。』

「でしょうね。だからあなたは私にこの情報をペラペラと喋ったんでしょ?大方、ある程度龍の国の危険さを知って、それなら隣接する氷国も加わりたいだろうってね。……私狡い子は好きよ。」

『ヒョウ・え、えへへ…バレてましたか。うまくいくと良いなぁ~くらいで考えていたんですけど、ここまで順調にいって良かったです。』

「良かったわね。まあ私としてもミチナガ商会に逃げられるのは困るから。なんせ今ではかつてほどの食料問題はおきない。全てはミチナガ商会が賄ってくれるおかげ。あなたたちがいれば世界大戦が起きてもこの国は生き残れる。頼りにしているわよ?代わりに功績として魔神3人の同盟の立役者として世界に名を残させてあげる。」

『ヒョウ・これ以上ない功績ですね。まあ任せておいてください。うちとしてもこの国の芸術品が手に入らなくなるのは困りますから。』

 魔神と使い魔、お互いに不敵な笑みを交わす。この日から1週間後、誰にも知られることもなく、水面下で魔神3大連合が誕生する。そしてこの功績が称えられるのは、来るべきその日までお預けである………

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