219 / 572
第212話 トウのそれから
しおりを挟む
あれから一月後、トウはとうとう賢者の石の精錬に着手しようとしていた。この一月の間にミスリル合金だけでなく、オリハルコン合金、ヒヒイロカネ合金、ドラゴメタル合金といった錬金術の最難関をいともたやすく生成していた。
1トン以上の様々な希少特殊合金を入手できたとミチナガも大喜びなのだが、その場にはいない。さすがに毎日錬金の作業に付き合うというのは疲れる。すでに街に戻り街を散策し、ホテルで休んでいる。
代わりに使い魔のスミとアルケ、それに名無しの使い魔を数人置いて来た。これで作業に問題はない。早速たたらを作り始めているのだが、いつも以上に慎重に丁寧に仕事をしている。それだけ難易度の高い作業ということなのだろう。
「よし…こんなもんだな。炭を持って来い。ただし中に入れるなよ。俺が一個一個配置して行く。」
『スミ・わかりました。』
さすがに賢者の石の精錬ということだけあって一つ一つ丁寧に慎重に作業を開始して行く。そして準備が終わり、精霊を使って火を入れて行く。そこからは丸一日、常に火を絶やさず集中力を欠けることなく作業に没頭する。
そして翌日、ついにたたらを破壊して中の賢者の石を取り出すのだが、なんとも奇妙なことが起きていた。通常、たたらの中に入れられた金属はドロドロに溶けて流れ出てくるはずだが、賢者の石は元のようにさらさらと砂つぶのまま出て来た。
これは完全に失敗、そう思ったのだがトウはずっと何かを探している。そしてお目当のものを見つけたようで取り出して来た。それは直径1cmほどの大きさになった球体の賢者の石だ。そんなものが5つ出てきた。
「はぁ…なんとか5つできたか。初めてにしては上出来だ。」
『アルケ・それはすごいの?』
「師匠なら一度に20個、さらに一回り大きいのを造れる。それを考えればすごくはないが、これが一個もできないことが普通だから、まあすごい方だ。次からはこの小さいやつを核にしてどんどん大きいものを作る。時間はかかるが完成させるぜ。」
この小さな賢者の石の塊から直径10cmの賢者の石の塊を作り出すことができれば完成なのだという。しかし一度の作業で1~2cmしか大きくならないので、後最長9日はかかる。しかも一度の作業でかなり疲労困憊するので休み休みやったらさらに時間がかかるだろう。
とりあえず少し休むということなので、アルケとスミが一つの提案をする。それを聞いたトウは渋い顔をしたが、色々と説得をするとなんとか許諾してくれたようだ。
「親方ぁ!見てもらっていいですか?」
「ん?どれどれ…まだまだ火入れが甘いし叩きが足りねぇ。それに少し歪んでいるじゃねぇか。そのくらいちゃんと見られるようにならんと一人前にはなれん!」
『スミス・親方!ちょっといいっすか?』
「なんだ?まあちょうど良い。休憩がてら話を聞こう。」
ここはユグドラシル国、その中のドワーフ街随一と言われるグスタフの工房。今日も弟子たちが鉄を打ち続けている。この工房の長であるグスタフは今日丸一日弟子の面倒を見る日として見回りを続けている。そんな中、弟子の一人であるミチナガの使い魔のスミスに呼ばれ、椅子に座り冷たいお茶を飲みながら話を聞こうとする。
「それで?どうした。」
『スミス・実は見て欲しい、というより会って欲しい人がいまして。いいっすか?』
「まあ俺に会いたい奴なんて腐るほどいるからな。まあお前の頼みだ。そのくらいは聞くぜ。」
『相変わらずの自信家だな。このクソガキめ。』
「誰だおま……ってトウの兄貴!!!」
スミスから投影されたのはトウの映像だ。使い魔経由でトウとグスタフが数十年、数百年ぶりに顔を合わせた。トウは不機嫌そうな表情で、グスタフは驚きのあまり目をまん丸にしている。グスタフの表情を見たスミスはドッキリが成功したと喜んでいる。
そしてグスタフの声に反応した弟子たちが一人、また一人と集まってきた。グスタフはなんとか気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。
「ま、まさかトウの兄貴に出会えるなんて…音信不通だからもしかしたら死んだとばかり……」
『誰が死ぬかよ。それにしてもトウの兄貴だぁ?人を敬う心を知らねぇお前からそんな言葉が聞けるとは思いもしなかったぜ。師匠にもイタズラばっかりしていたクソガキのくせに。』
「そ、そんなこと覚えていたんですかい!?あ、あの頃はまだ俺も子供だったからですね…」
『俺のこともバカにして逃げ回っていたのは忘れねぇぞ。お前が八百屋で食い物盗んで俺が謝りに行ったこともな。大体お前は……』
そこからトウの説教が始まる。グスタフは俯いたまま怒られ続けている。この光景をみた弟子たちは信じられないものを見たと動揺してざわついている。なんせグスタフはこの工房の、いやこの国トップの鍛治職人だ。怒られる相手などいるはずもない。
そして一通りトウの説教が終わったところでトウは一本の剣を手に持った。その剣はグスタフが作ったものだ。事前にスミスがグスタフの剣を入手してトウに送っておいたのだ。
『お前の作品を見た。随分と腕を上げたみてぇじゃねぇか。』
「ま、まああれからただひたすらに練習を積み重ねてきたからこのぐらいは…」
『だがまだまだだな。良い剣ではあるが最高の剣ではない。』
「ま、待ってくれ!そいつは量産品だ。ちょ、ちょっと待っていてくれ。今一番の出来のやつを持ってくる。」
そういうとグスタフは大慌てで何処かへ駆けていく。そしてすぐに大剣を抱えて戻ってきた。その剣はグスタフの傑作の一つだ。誰にも手渡さずに手元に置いておいたグスタフお気に入りの一振りである。
「これが俺の実力だ。是非とも見てくれ。」
そう言って使い魔経由でトウの元に送られる。トウはそれを握り締めるとじっくりと観察している。グスタフはその様子を固唾を飲んで見ている。そして一通り見終えたトウは鼻を鳴らす。
『なかなかよくできている。師匠ほど…とはお世辞にも言えないが当時の他の弟子たちの作品とは比べ物にならないほどだ。』
「まあな、あれからずっと研鑽を積んできたんだこれくらい…」
『だが、まあこんなものか、ってくらいだな。及第点くらいはやれるんじゃねぇか?』
トウがそういうとグスタフは顔を真っ赤にして震え出した。自身の最高傑作をそんな言い方されたら頭に血も上るし怒りで体も震えるだろう。グスタフは立ち上がってその場で怒鳴り上げた。
「忘れるところだった!トウの兄貴はいつもそうだ!そうやっていつも粗を探して文句をつける。自分では剣を打てないくせにそうやって文句ばかりつけるんだ!師匠はいつもみんなを褒めてくれた!」
『師匠は優しかったからな。だが優しいというのは良いことばかりじゃない。師匠はどんな作品でも満足せずに常に自分で悪いところ、もっとよくできるところを見極めろとおっしゃった。お前みたいに褒められて有頂天になり、腕を落とすようなことになったらどうすんだ!』
「う、腕を落とすだと…?俺がいつ手を抜いた!」
『さっきの量産品だよ。量産品ってことはあのレベルで何本も剣を打っているんだろ。そんなことでどうする!鍛治師にとって剣は己の魂だ!己の作品だ!生涯残り続ける作品だぞ。金儲けに走るようなものばかり作るようになったからこの程度で満足するようになっちまうんだ。これを作ったのは何年前だ?この剣以降これを超えるものをお前は作れたのか?』
グスタフはぐうの音も出なかった。確かにトウの言う通りなのだ。近年のグスタフは弟子の育成に力を入れており、自身で打つ剣は簡単なオーダーメイド品ばかりになっていた。お世辞にも腕前が良くなり続けているとは言えない。
しかしグスタフがこうなったのには理由があるのだ。しかしグスタフは反論しない。トウの言っていることは間違いなく事実であるのだから。
『ったく…なんて顔してやがる。少しは俺を見返そうって言う気にならんのか。お前にやる気があるのなら1週間やる。どんな鉱石でも良いから剣を一本作ってみろ。やる気はあるか?』
「…ある。もちろんあるに決まっているだろ!やってやる!」
『よし、じゃあ1週間後だ。お前の入手経路で入手できる合金を使って今できる最高のものを作ってみろ。じゃあまた連絡する。』
そう言って使い魔を使ってのテレビ電話が終了する。グスタフは顔に力を入れていたが、テレビ電話が終了するとなんとも情けない泣きそうな表情に変わる。
「くそ…あんな大見得切ったけどどうすんだよ。材料が入手できるわけないだろ。」
グスタフはおもわず頭をかかえる。そう、グスタフがこうなった大きな理由、それは合金の入手経路の乏しさだ。近年、英雄の国の発展が著しく、錬金術を扱えるものは中央国に行ってしまった。今ではレベルの高い合金を入手することが叶わないのだ。
良い材料がなければ良い剣も打てるはずがない。材料の良し悪しで完成品は大きく変わる。特級の新魔剣を作るためには高位の錬金術師の存在は必須なのだ。するとスミスがグスタフに一つの合金を手渡す。
「こ、こいつはミスリル合金!しかも見たことないほどの最高の出来じゃねぇか!一体これをどこ…ま、まさかトウの兄貴が作ったやつか!そいつはダメだ。俺と兄貴の勝負に兄貴の作った合金を使ったら…」
『スミス・これはうちの商会が入手したものっすよ。言ってたじゃないっすか。お前の入手経路で入手できる合金を使って作れって。』
「そ、そうだが…やはりそれはダメだ。兄貴に認められるためには…」
『スミス・じゃあこれは独り言っす。ほんとーに独り言っす。明日トウさんがなんの合金を作るか考えていて、その案をぼくたちに任せたんだけど何にしようかなかなか決まらないなぁ。トウさんは知り合いの鍛治師から案を聞いてくるのも一つの手だぞって言っていたなぁ。どうしよっかなぁ。』
「そ、それは………ッチ!あの野郎め。……あ~そうだな、アダマンタイト合金なんかは良いんじゃないか?」
『スミス・おや、どこからともなく聞こえてきたな。なるほど、アダマンタイト合金を作ってみるのも面白いかもなぁ。じゃあ提案してみよう。』
トウという人物についてよくわかってきたような気がする。どんなに他のトウショウの弟子たちと仲が悪そうでも、実は一番心配しているのだろう。同じ師の元で学んだ者同士やはり切っても切れない何かがあるようだ。
後日、グスタフはトウの作った合金を使い人生最高の出来と言える大剣を完成させる。ミスリル合金とアダマンタイト合金、ヒヒイロカネ合金を用いた最高傑作だ。これをトウに見せたところさすがにグスタフを褒め称え、仲直りする。と思ったのだが。
『な~にが最高傑作だ。俺のおかげじゃねぇか。お前はまだまだこのレベルの合金を使いこなせてねぇんだよ。』
「うるせぇこの野郎!またいちゃもんつけやがって!もうこうなったら殴り合いで決着つけてやる!今すぐ俺の目の前まで出てこい!」
『残念でした~お前のところから遥か彼方にいるから無理で~す。そんなに殴り合いしたけりゃそっちからきな。俺も暇じゃないんでな。じゃあ仕事あるから、あばよ暇人。』
「このクソ野郎がぁぁぁ!!!」
からかうトウに怒るグスタフ。かつての立場が逆転したような構図に変わっている。これはこの後のグスタフは荒れるものだと弟子たちは思ったのだが、なぜか上機嫌だったという。
やはり喧嘩するほど仲が良いという言葉は本当らしい。
1トン以上の様々な希少特殊合金を入手できたとミチナガも大喜びなのだが、その場にはいない。さすがに毎日錬金の作業に付き合うというのは疲れる。すでに街に戻り街を散策し、ホテルで休んでいる。
代わりに使い魔のスミとアルケ、それに名無しの使い魔を数人置いて来た。これで作業に問題はない。早速たたらを作り始めているのだが、いつも以上に慎重に丁寧に仕事をしている。それだけ難易度の高い作業ということなのだろう。
「よし…こんなもんだな。炭を持って来い。ただし中に入れるなよ。俺が一個一個配置して行く。」
『スミ・わかりました。』
さすがに賢者の石の精錬ということだけあって一つ一つ丁寧に慎重に作業を開始して行く。そして準備が終わり、精霊を使って火を入れて行く。そこからは丸一日、常に火を絶やさず集中力を欠けることなく作業に没頭する。
そして翌日、ついにたたらを破壊して中の賢者の石を取り出すのだが、なんとも奇妙なことが起きていた。通常、たたらの中に入れられた金属はドロドロに溶けて流れ出てくるはずだが、賢者の石は元のようにさらさらと砂つぶのまま出て来た。
これは完全に失敗、そう思ったのだがトウはずっと何かを探している。そしてお目当のものを見つけたようで取り出して来た。それは直径1cmほどの大きさになった球体の賢者の石だ。そんなものが5つ出てきた。
「はぁ…なんとか5つできたか。初めてにしては上出来だ。」
『アルケ・それはすごいの?』
「師匠なら一度に20個、さらに一回り大きいのを造れる。それを考えればすごくはないが、これが一個もできないことが普通だから、まあすごい方だ。次からはこの小さいやつを核にしてどんどん大きいものを作る。時間はかかるが完成させるぜ。」
この小さな賢者の石の塊から直径10cmの賢者の石の塊を作り出すことができれば完成なのだという。しかし一度の作業で1~2cmしか大きくならないので、後最長9日はかかる。しかも一度の作業でかなり疲労困憊するので休み休みやったらさらに時間がかかるだろう。
とりあえず少し休むということなので、アルケとスミが一つの提案をする。それを聞いたトウは渋い顔をしたが、色々と説得をするとなんとか許諾してくれたようだ。
「親方ぁ!見てもらっていいですか?」
「ん?どれどれ…まだまだ火入れが甘いし叩きが足りねぇ。それに少し歪んでいるじゃねぇか。そのくらいちゃんと見られるようにならんと一人前にはなれん!」
『スミス・親方!ちょっといいっすか?』
「なんだ?まあちょうど良い。休憩がてら話を聞こう。」
ここはユグドラシル国、その中のドワーフ街随一と言われるグスタフの工房。今日も弟子たちが鉄を打ち続けている。この工房の長であるグスタフは今日丸一日弟子の面倒を見る日として見回りを続けている。そんな中、弟子の一人であるミチナガの使い魔のスミスに呼ばれ、椅子に座り冷たいお茶を飲みながら話を聞こうとする。
「それで?どうした。」
『スミス・実は見て欲しい、というより会って欲しい人がいまして。いいっすか?』
「まあ俺に会いたい奴なんて腐るほどいるからな。まあお前の頼みだ。そのくらいは聞くぜ。」
『相変わらずの自信家だな。このクソガキめ。』
「誰だおま……ってトウの兄貴!!!」
スミスから投影されたのはトウの映像だ。使い魔経由でトウとグスタフが数十年、数百年ぶりに顔を合わせた。トウは不機嫌そうな表情で、グスタフは驚きのあまり目をまん丸にしている。グスタフの表情を見たスミスはドッキリが成功したと喜んでいる。
そしてグスタフの声に反応した弟子たちが一人、また一人と集まってきた。グスタフはなんとか気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。
「ま、まさかトウの兄貴に出会えるなんて…音信不通だからもしかしたら死んだとばかり……」
『誰が死ぬかよ。それにしてもトウの兄貴だぁ?人を敬う心を知らねぇお前からそんな言葉が聞けるとは思いもしなかったぜ。師匠にもイタズラばっかりしていたクソガキのくせに。』
「そ、そんなこと覚えていたんですかい!?あ、あの頃はまだ俺も子供だったからですね…」
『俺のこともバカにして逃げ回っていたのは忘れねぇぞ。お前が八百屋で食い物盗んで俺が謝りに行ったこともな。大体お前は……』
そこからトウの説教が始まる。グスタフは俯いたまま怒られ続けている。この光景をみた弟子たちは信じられないものを見たと動揺してざわついている。なんせグスタフはこの工房の、いやこの国トップの鍛治職人だ。怒られる相手などいるはずもない。
そして一通りトウの説教が終わったところでトウは一本の剣を手に持った。その剣はグスタフが作ったものだ。事前にスミスがグスタフの剣を入手してトウに送っておいたのだ。
『お前の作品を見た。随分と腕を上げたみてぇじゃねぇか。』
「ま、まああれからただひたすらに練習を積み重ねてきたからこのぐらいは…」
『だがまだまだだな。良い剣ではあるが最高の剣ではない。』
「ま、待ってくれ!そいつは量産品だ。ちょ、ちょっと待っていてくれ。今一番の出来のやつを持ってくる。」
そういうとグスタフは大慌てで何処かへ駆けていく。そしてすぐに大剣を抱えて戻ってきた。その剣はグスタフの傑作の一つだ。誰にも手渡さずに手元に置いておいたグスタフお気に入りの一振りである。
「これが俺の実力だ。是非とも見てくれ。」
そう言って使い魔経由でトウの元に送られる。トウはそれを握り締めるとじっくりと観察している。グスタフはその様子を固唾を飲んで見ている。そして一通り見終えたトウは鼻を鳴らす。
『なかなかよくできている。師匠ほど…とはお世辞にも言えないが当時の他の弟子たちの作品とは比べ物にならないほどだ。』
「まあな、あれからずっと研鑽を積んできたんだこれくらい…」
『だが、まあこんなものか、ってくらいだな。及第点くらいはやれるんじゃねぇか?』
トウがそういうとグスタフは顔を真っ赤にして震え出した。自身の最高傑作をそんな言い方されたら頭に血も上るし怒りで体も震えるだろう。グスタフは立ち上がってその場で怒鳴り上げた。
「忘れるところだった!トウの兄貴はいつもそうだ!そうやっていつも粗を探して文句をつける。自分では剣を打てないくせにそうやって文句ばかりつけるんだ!師匠はいつもみんなを褒めてくれた!」
『師匠は優しかったからな。だが優しいというのは良いことばかりじゃない。師匠はどんな作品でも満足せずに常に自分で悪いところ、もっとよくできるところを見極めろとおっしゃった。お前みたいに褒められて有頂天になり、腕を落とすようなことになったらどうすんだ!』
「う、腕を落とすだと…?俺がいつ手を抜いた!」
『さっきの量産品だよ。量産品ってことはあのレベルで何本も剣を打っているんだろ。そんなことでどうする!鍛治師にとって剣は己の魂だ!己の作品だ!生涯残り続ける作品だぞ。金儲けに走るようなものばかり作るようになったからこの程度で満足するようになっちまうんだ。これを作ったのは何年前だ?この剣以降これを超えるものをお前は作れたのか?』
グスタフはぐうの音も出なかった。確かにトウの言う通りなのだ。近年のグスタフは弟子の育成に力を入れており、自身で打つ剣は簡単なオーダーメイド品ばかりになっていた。お世辞にも腕前が良くなり続けているとは言えない。
しかしグスタフがこうなったのには理由があるのだ。しかしグスタフは反論しない。トウの言っていることは間違いなく事実であるのだから。
『ったく…なんて顔してやがる。少しは俺を見返そうって言う気にならんのか。お前にやる気があるのなら1週間やる。どんな鉱石でも良いから剣を一本作ってみろ。やる気はあるか?』
「…ある。もちろんあるに決まっているだろ!やってやる!」
『よし、じゃあ1週間後だ。お前の入手経路で入手できる合金を使って今できる最高のものを作ってみろ。じゃあまた連絡する。』
そう言って使い魔を使ってのテレビ電話が終了する。グスタフは顔に力を入れていたが、テレビ電話が終了するとなんとも情けない泣きそうな表情に変わる。
「くそ…あんな大見得切ったけどどうすんだよ。材料が入手できるわけないだろ。」
グスタフはおもわず頭をかかえる。そう、グスタフがこうなった大きな理由、それは合金の入手経路の乏しさだ。近年、英雄の国の発展が著しく、錬金術を扱えるものは中央国に行ってしまった。今ではレベルの高い合金を入手することが叶わないのだ。
良い材料がなければ良い剣も打てるはずがない。材料の良し悪しで完成品は大きく変わる。特級の新魔剣を作るためには高位の錬金術師の存在は必須なのだ。するとスミスがグスタフに一つの合金を手渡す。
「こ、こいつはミスリル合金!しかも見たことないほどの最高の出来じゃねぇか!一体これをどこ…ま、まさかトウの兄貴が作ったやつか!そいつはダメだ。俺と兄貴の勝負に兄貴の作った合金を使ったら…」
『スミス・これはうちの商会が入手したものっすよ。言ってたじゃないっすか。お前の入手経路で入手できる合金を使って作れって。』
「そ、そうだが…やはりそれはダメだ。兄貴に認められるためには…」
『スミス・じゃあこれは独り言っす。ほんとーに独り言っす。明日トウさんがなんの合金を作るか考えていて、その案をぼくたちに任せたんだけど何にしようかなかなか決まらないなぁ。トウさんは知り合いの鍛治師から案を聞いてくるのも一つの手だぞって言っていたなぁ。どうしよっかなぁ。』
「そ、それは………ッチ!あの野郎め。……あ~そうだな、アダマンタイト合金なんかは良いんじゃないか?」
『スミス・おや、どこからともなく聞こえてきたな。なるほど、アダマンタイト合金を作ってみるのも面白いかもなぁ。じゃあ提案してみよう。』
トウという人物についてよくわかってきたような気がする。どんなに他のトウショウの弟子たちと仲が悪そうでも、実は一番心配しているのだろう。同じ師の元で学んだ者同士やはり切っても切れない何かがあるようだ。
後日、グスタフはトウの作った合金を使い人生最高の出来と言える大剣を完成させる。ミスリル合金とアダマンタイト合金、ヒヒイロカネ合金を用いた最高傑作だ。これをトウに見せたところさすがにグスタフを褒め称え、仲直りする。と思ったのだが。
『な~にが最高傑作だ。俺のおかげじゃねぇか。お前はまだまだこのレベルの合金を使いこなせてねぇんだよ。』
「うるせぇこの野郎!またいちゃもんつけやがって!もうこうなったら殴り合いで決着つけてやる!今すぐ俺の目の前まで出てこい!」
『残念でした~お前のところから遥か彼方にいるから無理で~す。そんなに殴り合いしたけりゃそっちからきな。俺も暇じゃないんでな。じゃあ仕事あるから、あばよ暇人。』
「このクソ野郎がぁぁぁ!!!」
からかうトウに怒るグスタフ。かつての立場が逆転したような構図に変わっている。これはこの後のグスタフは荒れるものだと弟子たちは思ったのだが、なぜか上機嫌だったという。
やはり喧嘩するほど仲が良いという言葉は本当らしい。
10
お気に入りに追加
545
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる