上 下
193 / 572

第188話 新しき森

しおりを挟む
『マーカー・隊長!あそこに新種らしき植物発見であります!』

『ポチ・よし回収!』

『パワー・あれも新種だと思うっす!』

『ポチ・それも回収!』

 ポチを筆頭にした探検隊は現在、浄化された砂漠であった森の中を探検している。新種を見つけるたびにスマホ内に収納しているのだが、目につくもののほとんどは新種だ。あまりの新種発見に回収作業が間に合わないほどである。

 ポチ達使い魔はこの森が危険かどうか調べているのだが、今の所危険はない。モンスターが全くいないのだ。本来、モンスターは魔力の滞った土地に発生する。この森もどこかに魔力の滞りがあればモンスターが発生するはずなのだが、滞る気配すらない。

 危険度0の新種だらけの森ということになれば、学者たちは大勢駆けつけるだろう。これはある意味、ビジネスチャンスでもあるので入念に危険がないかチェックしている。

『マーカー・隊長!カニがいます!』

『ポチ・カニ!?ここって森の中だよ!?』

『パワー・少し遠いっすけど水辺もあるっす。そこから来たんだと思うっす!』

『ポチ・よし!パワー回収!』

 まだできたばかりの森だというのに動物や魚などは普通にいる。一体どこから来たのかと疑問に思うが、まあ大精霊の力だと思えばそのくらいなんとかなりそうな気もしてくる。

 そして今から、カニVSパワーの対決が始まる。カニの大きさは30cmくらい優にありそうだ。この大きさにはパワーもたじろいでいる。それでも勇猛果敢に突撃するパワーはカニと正面衝突した。

『パワー・アタタタ…は、挟まれたっす。だ、誰か…』

『ポチ・頑張れパワー!君ならいける!』

『マーカー・頑張って!パワーくん!』

 全く手伝う様子がない二人を見たパワーは、カニのハサミに挟まれたまま無理やりバックドロップを決めた。これにはカニもたまらないかと思ったが、全く効いているそぶりがない。

 裏返しになったカニは必死に起き上がろうとする。その隙を逃さずパワーはカニのハサミが届かない部分を掴み、持ち上げた。

『パワー・と…獲ったっす!』

『マーカー・や、やったぁ!やったよパワーくん!』

『ポチ・よーーし!それじゃあそのまま帰還するぞ!』

 カニを持ち上げたまま楽しそうに来た道を歩いて戻る使い魔たち。そしてそのまま白獣の村まで着くと一軒の家に入った。奥の方から話し声が聞こえてくる。使い魔たちはその方向へひたすら歩いていく。するとそこには正座させられているミチナガがいた。

「いいですか!あなたのやったことはあまりに無謀です!わかっているんですか!」

「わ、わかっています…もう10回は言われたんで……」

「そんな減らず口が出るのならもっと説教が必要ですかね…」

『ポチ・ボス~まだ怒られていたんだ。色々見つけて来たよ。おっきなカニもいたし。これでご飯作って~。』

「あ、ほ、ほら。こいつら来たし…一回ご飯にしよう?ね?」

「…いいでしょう。その代わり食べ終わったらまた説教ですからね。」

 この砂漠が浄化され、森が発生してから数日。ミチナガは毎日のようにミラルから説教されていた。まあこんな大事なことを独断で決めたミチナガが悪いので、使い魔たちも庇いようがない。そのため暇になっていた使い魔たちは、こうして毎日探検に出ていたのだ。

「そ、それにしてもでっかいカニだなぁ…身もありそうだし……そのまま蒸すのもありだな。だけど毒とかないかな?一旦割ってみるか。」

『パワー・まだ生きているっす。どうするっすか?』

「ああ、鉄串があるからそれをカニの口からぶっ刺してやれば大丈夫だ。…結構硬いけど…なんとかなったな。」

 ミチナガが鉄串をカニの口に差し込むと一瞬暴れた後に大人しくなった。ここからは簡単だ。カニの甲羅を外してガニというエラの部分を取ってしまえば、後は美味しいカニミソが出てくるはずなのだが。

「な、なんか…物凄い鉄っぽくない?金属が溜まっている?生体濃縮ってやつか。これは食えないだろ。」

「金属といえばどうするんですか?あの希少な鉱物、賢者の石も採掘は厳しいですよ。砂漠だからこそ採集できたのに…これだけ地盤が固まってしまうと採掘方法も変えないと。」

『ポチ・え~…一生懸命取って来たのに食べられないのぉ?』

「み、ミラルさん。その話はまた後で…。ああ、これは食べるのは無理だな。体内に溜まっている金属が何かはわからないけど鉛とか水銀だったら大変だから……あれ?この金属って…み、ミラル。これって…賢者の石じゃね?」

「説教されたくないからってそんな嘘は……似ていますね。いや…そのものかも。もしもそうなら大発見ですよ!」

 何気なくポチたちが捕まえて来たカニだったが、どうやらお手柄だったのかもしれない。カニは魚などを食べるイメージがあるかもしれないが、中には砂を食べて、その中の微生物を摂取するものもいる。

 このカニはその一種で、砂を食べた際になぜか賢者の石だけ体内に取り込んでしまうようだ。ミラルはすぐにこのカニから賢者の石を取り出す。すると重さにして8gの賢者の石が採取された。

「こ、これって…かなりすごいよね?8gとるのに何日かかった?」

「もしもこのカニを大量に獲ることができれば…いえ、養殖して数を増やして採掘させればあっという間に数百キロになります!」

 この大発見はすぐに村中に広まり、カニ獲りが始まることになる。そしてミチナガもこの流れでお説教回避かと思いきや、それは別問題ということらしい。ミチナガの苦悩は続く。




『それにしてもまさかこんなことになるとはね。いくつかの兵団を向かわせたけど、調査は進んでいるのかな?』

「はい。今の所、新種が376種見つかっています。それから新発見ではありませんが、この辺りでは確認できなかった品種や希少種も多数確認できました。」

 ミチナガはミラルのお説教が終わった後に毎日のように勇者神と会議を行っている。砂嵐がやんだ後に巨大な森が出現したので周辺の村々はかなり動揺しているのだ。事態の鎮静を図るために勇者神は兵団をいくつか派遣し、危険がないように警備をしてくれている。

『はぁ…事後処理が大変だよ。ああ、それから明日の昼頃に学者たちが到着する予定なんだが…出迎えることはできるかい?』

「問題ないと思います。今のところ森の危険は確認されていないので、行けます。」

『それじゃあよろしく頼んだよ。到着した学者たちからの報告次第で…ミチナガ伯爵の処遇が決まるから覚悟しておくように。最悪の場合は貴族位の剥奪もあり得る。わかったね?』

「はい…申し訳ありませんでした。」

 俺の今回の行動はあまりにも早計すぎたため、実は勇者神もかなり怒っている。本来はすぐに俺の伯爵位剥奪もあり得たのだが、この森がどの程度有用なのかによって俺の処遇が決まるのだ。

 まあもしかしたらモンスターの大量発生や、さらなる土地の状況悪化もあったのだからこの処罰は優しいものだ。俺は貴族なのだから結果良ければ全て良し、ということにはならないのだ。それ相応の協議や準備が本来は必要だ。

 そして翌日、学者の一団の出迎えをしなくてはならないということで説教を回避した俺は急いで学者たちが来るであろう場所に移動した。すぐに到着すると大勢の兵士となぜかすでに到着している学者たちがいた。

「おお!あなたがミチナガ伯爵だね。よく来てくれました。此度の学者団のまとめ役のゲンドイリアルと申します。早速なのですが…案内してもらっても?」

「は、初めましてゲンドイリアル様…確か昼頃に到着という話でしたが……」

「これほどのものを前にして我慢などできるはずがない!遠目からでもわかりました。いえ、わかりませんでした!長いこと学者をしておりますが、初めて見るものばかりだ!これを前にしたら我慢などできるはずがない!」

 めちゃくちゃ興奮している。どうやら早く調査をしたいようだが、一応この土地は俺の所有だ。だから勝手に調べることはできないと兵士たちに止められていたのだろう。俺はすぐに使い魔たちを展開させ、学者一人一人に随行させる。

「ああ、そうだ。私は水生植物が得意分野なのだが……この森には滝もあるという報告を受けているのだが本当かね?」

「ええ、ありますよ。ではそこまで案内しましょうか。では滝に行きたい方はついて来てください。」

 俺が一声かけるとぞろぞろと俺の元へ集まって来た。そんな彼らを従えて森の中に入る。するとものの数分ほどで滝の近くの川辺までたどり着いた。この状況に学者たちは大口開けて驚いている。

「ば、バカな!滝の音など聞こえなかった!ま、まさか…」

「ええ、この森の手形を持っているので行きたい場所にはすぐに行けますよ。皆さんについている使い魔たちが森の手形になりますので離れないようにお願いします。」

 森の手形。それは一般的に大精霊の住む森にしかないものだと言われている。しかしこの森は大精霊が作るのに関わっている。そのため森の手形を作成することは可能だ。というか、そもそもの話、森の手形は土地を所有している精霊ならば作ることが可能らしい。

 なぜ大精霊しか森の手形を作れないということになっているのかというと、普通の精霊は面倒なので作っていないだけだ。そして森の手形を持っているということを知った学者たちは一つの結論に達する。

「こ、この森の精霊と関わりがあるのか!」

「ええ。友であり仲間ですよ。ああ、今木の上から見ているあいつがそうです。」

 そう言うとこの森の精霊、ドルイドがやって来た。その手には果物が握られている。俺はドルイドからその果物を受け取る。

『ドルイド・…うまかった……皆に…』

「サンキュー。ああ、紹介しますね。この森の精霊のドルイドです。ドルイドからのおすそ分けということなので食べて見てください。…あ、これ美味いな。」

 食感はさくらんぼのようだが、味は桃に近いだろう。見た目はレモンみたいなのに面白いな。ただ頭が混乱しそうだ。俺が果物を渡すと学者たちは感激しながらそれを食べている。

「こ、こうして精霊さまにも出会えるとは…わ、我々がこの森で調査することをお許し願えますか?」

『ドルイド・……そういう話…問題ない……』

「元々そういう話だったから別に問題ないですよ、だそうです。ちゃんと許可出ているんで好きにやってください。」

「あ、ありがたや…ありがたや……」

 なぜか学者全員が拝み出してしまった。精霊というだけでものすごい扱いだ。俺にとっては精霊であっても俺の使い魔という認識が強いので特にありがたみはない。

 そしてここから俺の運命をかけたこの森の査定が始まる。頼むからうまくいってくれよ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...