スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第184話 アンドリュー子爵の旅立ちと使い魔達

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「これで準備は大丈夫そうですね。では私がいない間、頼みましたよ。」

「はい旦那様、いってらっしゃいませ。」

 アンドリュー子爵は期待に満ちた表情で屋敷内にいる執事やメイドたちに後のことをよろしく頼んでいる。アンドリュー子爵は何も問題ないことが確認できるとすぐに屋敷に背を向けて歩き出した。

『リュー・アンドリューさーん。早く早くー!』

「ははは、リューくん置いていかないでくれよ?さあさあ、みんな乗った乗った。これから冒険の始まりだぞ。」

 アンドリュー子爵は自身の身を守るために連れてきた3人と共に魔導装甲車に乗り込む。この魔導装甲車はミチナガのものだが、しばらくは乗る予定もないので使い魔のリューが使っている。

 ちなみにリューはすでにユグドラシル国で魔動車免許を取得している。さらにアンドリュー子爵のために急ピッチで新しい魔導装甲車を作成している。ちなみに今作られている魔導装甲車は現行のものからかなり改良を加えられている。

 アンドリュー子爵がこのように魔導装甲車に乗ったのはミチナガが世界貴族の伯爵位を手に入れた時に遡る。ミチナガが世界貴族の伯爵位を手に入れたため、ウィルシ侯爵との約束であったアンドリュー子爵の諸国釣り漫遊映像を撮影することにしたのだ。

 しかし当初はアンドリュー子爵も冗談だと思い、特に取り合ってくれなかった。それもそのはずだ。一国の貴族であるアンドリュー子爵が他国を、世界中を釣りして回るなどできるはずもない。

 しかしそこはミチナガの得た世界貴族の伯爵位という権力でなんとかなる。さらにアンドリュー子爵を説得するために今までアンドリュー子爵の映像で稼いだ金額のうちからアンドリュー子爵の報酬を渡した。

 さらに後援者であるウィルシ侯爵やその他貴族、研究者たちからの出資金を渡すとさすがのアンドリュー子爵も冗談では無いと分かり、まともに話を聞いてくれた。

 そしてそこから数日の後に全ての準備を整えたアンドリュー子爵はこうして旅立つこととなった。元々貴族の知り合いも少ないアンドリュー子爵だからこそ、この短い日数での出発だ。

「しかし諸国釣り漫遊とは…しかも釣りをしてお金までもらえる!こんな夢のような暮らしができるとは思いもしなかった!ああ…お祖父様が知ったらきっと血の涙を流して羨むことだろうな。」

『リュー#4・興奮しすぎて倒れないでくださいね。それから危険な真似もしないようにお願いします。護衛の方がいるとはいえ…危険なのに変わりはないから。』

「この3人は魔王クラスまでは行かないまでも元B級の冒険者ですよ。執事のバトリスに至ってはA級冒険者ですから、大抵のことはなんとかなります。釣りに関しては妥協しませんよ!」

 アンドリュー子爵の家は元々、軍人上がりの貴族のため、腕利きが数人雇われている。さらに元冒険者ということでモンスター相手もできるが、アンドリュー子爵の召し抱えとなってからは対人向けの戦闘術も多く学んでいる。

 盗賊だろうがモンスターだろうがなんでも相手にできそうだ。かなり頼もしい。それにいざという時にはアンドリュー子爵と顔見知りになったナイトに頼むこともできる。大体のことには対応できるだろう。

「それで…これはどこに向かっているのですかな?」

『リュー#4・出資者でもあるウィルシ侯爵がいるユグドラシル国を目指す予定だけど…とりあえずはルシュール領に向かう予定だよ。今日の目的地はムーン先輩が記録しておいてくれた釣りに向いている川だよ。』

「それはもしやこの辺の…ああ、そこなら何度も行っているからわかりますよ。確かにあそこはいい場所ですな!旅の始まりにはちょうど良い!」

 アンドリュー子爵はなんとも嬉しそうに窓からの景色を楽しみながら今日の目的地に着くのを今か今かと待っている。

 そしてここから始まるのだ。ミチナガ商会、映像産業初の俳優にして初の冠番組を持ったアンドリュー・グライド。アンドリューの諸国漫遊釣り日記という何気無いきっかけから始まるアンドリュー子爵の物語が。




「えっとね、ここのデザインをもう少し変えて欲しいんだって。可愛らしい感じにして欲しいって言っているよ。」

「そうなのか。よし、わかった。じゃあそうするから他の人にも聞きに言ってくれ。」

「はーい、じゃあ次行こう。」

『タン・行こう行こう。じゃあ次はあっちです。』

 ナイトが以前助けたあの製糸産業の盛んな村で、なんとか子供に文字の読み書きを教えることに成功した使い魔のタンは子供を介して大人たちに指示を出している。

 今はこの布の滑らかさに目をつけて貴族の婦人向けのドレス作成に勤しんでいる。ドレスのデザインはこの村の人々任せだ。いずれは何かドレスのイラストを描いて彼らにそれを再現してもらうつもりだ。

 それまでの間になるべく難しい仕事をこなしてもらい、その腕前を上げておいてもらいたい。それにここの服の品質ならば作れば確実に売れる。当分の間の資金稼ぎもできることだろう。

 ある程度資金を稼げたら設備に投資してさらに良い服を作れるようにしたい。この村は聖樹によって外界から隠されているので戦士の必要はない。さらに食料は全てミチナガ商会が用意するので製糸産業だけに打ち込むことができるのだ。

 そんなタンの元に他の使い魔から依頼がきた。それはアンドリュー子爵についているリューからだ。その要件を聞いたタンは表情を曇らせた。

『タン・釣りに使える釣り糸を作れないか?さらに耐水性、防靭性に優れたウェーダー(水に入るための胴付きの長ズボンのようなもの)を作れないかだって?うちは絹糸系を扱っているんだからそんなの無理に決まっているのに…』

 タンがぶつくさと文句を言っているとそれを見た他の人々が子供達に何を言っているか聞いてきた。説明しようにもよくわからないので何となくで話してみるとそんなことかと笑われた。

「つまり水に強い、水を弾く布を作ればいいんだろ?昔作ったことがあるからすぐに作れるぞ。ただ色が茶色味がかるぞ。それでもいいか?」

『タン・できるの!?じゃ、じゃあ…こんな感じのデザインで…』

「このデザインでやって欲しいって。父ちゃんできるの?」

「あ~…ここはなんて書いてあるんだ?……なるほどな。このくらいなら問題なくできるぞ。それから釣り糸に関しても何とかなるかもしれんな。昔ここの糸をくすねて釣りをしたことがある。少し改良すればいいのができるんじゃないか?」

 まさかのトントン拍子で話が進んでいってしまった。文句を言っていた自分が恥ずかしいとタンは己を恥じている。すぐにリューには試作品をいくつか作ると返事をしておいた。

『タン・何でも決めつけずに話してみるべきなんだな…あ、例えばこんなのはできる?』

「父ちゃん、これできるかだって。」

「あ?……こいつは複雑だな。だが…まあ何とかなるだろ。だがこれを作るなら…最近聖樹の葉っぱを与えていたら新種が現れた。そいつのを使うのがいいかもしれんな。」

『タン・聖樹を与えていたら新種が…なら世界樹を与えれば……あ、今の内容は伝えないように。とりあえず以前から頼んでいた芋虫をもらうという話はそろそろいけますか?』

「幼虫早くもらえないかだって。」

「ああ、それならこの前卵から孵った奴がいるからそれを渡そうと思っていたんだ。最近は必要な糸の量が増えていたからなかなか渡せなかったが、ようやく渡せるな。」

 早速芋虫の受け取りと釣り糸の開発を始めることにした。これからしばらくは色々と忙しそうだ。今後はどこまでのことができるか色々と情報蒐集する必要もありそうだ。タンは大変だとは理解しているがそれ以上にやりがいのある仕事だと感じている。

 タンの仕事がミチナガ商会の主力の一つになる日もそう遠くないのかもしれない。




「て、店長!また試作品作ったので見てください!」

『ムーン#1・はいはい、新しい口紅だね。色は薄めのピンクに近い感じだね。塗り心地は…問題なさそう。以前言っておいた色落ち問題も問題なさそうだね。艶もある…成分的に人体に影響はなさそう。うん、これならいけそうかも。じゃあ今度他のみんなにも使ってもらおうか。』

 アンドリュー子爵の領地で経営しているミチナガ商会では、新しく化粧品開発を始めたメリアが数十回目になる試作品の検分を眷属のムーンに依頼し、無事了承を得ることができた。ここまでの道のりが長いものであったため、メリアは感激のあまり涙を流して喜んでいる。

 メリアの作った新しい口紅はすぐに他の女性従業員に使用させ、使用感を確かめるとともに広告となるように宣伝もさせた。

 正直、この世界には普通に口紅は存在する。それゆえ別に珍しいものではない。使用している女性は実に多いだろう。だからこそ口紅を作った。だからこそ、ごくごく自然に浸透しやすい口紅をミチナガ商会の化粧品産業の始まりとしたのだ。

 口紅は様々な商会が作っているが、商会によって全く違う。色艶の悪いもの、必要以上に口紅が塗れてしまうものなど、粗悪品のようなものも多い。何より色の濃いものが多い。

 だからメリアは派手すぎず、違和感を感じさせない良質な口紅を作成した。そしてコストカットも努力して買い求めやすい値段にしたのだ。

 ミチナガ商会は品質第一で商売をしている。だから新しい口紅を開発してもきっと品質が良いと思ってくれるはずだ。そしてムーンの眷属の狙い通り、女性従業員に口紅をつけて働かせてみたところ大勢の女性客、さらには男性客も新しい口紅に食いついた。

 これで女性受けすることがわかった。さらに男性にも好まれる色合いだとわかった。何度も試作をさせた甲斐があるというものだ。

「本当にいい色の口紅ねぇ…まだ売っていないということだけれど、売り出す予定はあるのかしら?」

「え、えっとですね。今は量産の目処を立てている途中で…それからカラーバリエーションも増やしていて…なるべく早いうちに売り出そうと考えております。」

「本当?なら売り出したら私の分を確保しておいてね。必ず買いに来るから。ところで…なんて名前なのかしら?買いに来た時になんて言えばいいの?」

「な、名前ですか?そ、それはまだ…」

『ムーン#1・メリア…そう申します。この口紅を皮切りにミチナガ商会ではオリジナル化粧品ブランド、メリアを立ち上げる予定なんです。メリアの口紅と申していただければすぐにご用意します。』

「あら本当?メリアの口紅ね。忘れないように覚えておくわ。」

 ムーンの眷属がそう告げると客は実に満足そうに帰って行った。そんなムーンの眷属を今まで客の対応をしていた店員のメリアは目を見開いて見ている。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「て、店長…今……」

『ムーン#1・これは君が作ったものだよ。ミチナガ商会は手伝いをしただけ。メリア、今後は店員としても働いてもらう予定だけど化粧品開発により一層力を入れて欲しい。ミチナガ商会初のブランドにして初の化粧品開発だ。失敗なんてことがあってはならない。君をミチナガ商会、化粧品部門の総責任者にしたい。やってくれるね?』

「は…はい…はい……はい…頑張り…ます…頑張ります!」

 メリアはその場で感動のあまり泣き崩れてしまった。そして後日、ある程度量産できたメリアの口紅は5色の商品を用意したが、販売を開始すると、少し昼をすぎた頃には全て売り切れてしまった。

 想像以上の品質と低価格が多くの客にウケた。すぐに化粧品開発、および生産のための工場の建設が始まる。ミチナガ商会初の化粧品産業がこの世に広まっていくのはもう少し先のこと。

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