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第175話 神剣の儀

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 俺の世界貴族が決まりお祭りムードではあるが、まだ他の4人が残っている。そこからいくつか勇者神から質疑応答が行われる。そしてある程度終わったところでそれは唐突に始まった。

「ではこれより神剣による査定に入る。一人ずつ我が元へ。」

 一体何が始まるのかと見ていると、勇者神の前に行った一人の肩に勇者神の象徴である神剣を触れさせる。皆その様子を固唾を呑んで見守る。

「我が剣に問う。この者の輝きを示せ。汝の栄光の前に悪を撃ち払い善なる心を表したまへ。」

 そう言うと神剣がわずかに発光した。その光を観察している側近は何かを記入していく。この行為は他の者にも同じように行われる。その光は人によって明るさがわずかに違った。中でもラルドの時は光が強く見えた。

「さて、どうせだ。ミチナガ伯爵もこれをやっておこう。本来これは必ず行うものだったからな。」

「はい、ですがその…これは一体どういうものなんでしょうか。不勉強で申し訳ありません。」

「これを知らないのか…そ、そうか。まあ説明するとその者のこれまでの悪行と善行をこの神剣の明るさによって示すものだ。さらにこの神剣によってそのものがこの国にどれだけ良い影響を与えるかも考慮される。神剣の儀とも呼ばれるものだ。」

 知らないと言った途端俺を見る目がガラリと変わったな。おそらく超一般常識だったのだろう。ちゃんと調べておくべきだった。おそらく誰もが当たり前すぎて教えておこうとも思わなかったのだろうな。

 俺は勇者神の前で跪く。そして俺の肩に神剣が当てられようとしているのだが、ものすごくゾクゾクする。なんせその気になればそのまま俺の首をはねることも可能だ。そしてそんな凶器が俺の肩に当てられた。

 しかし俺は大事なことを忘れていた。いや、緊張のあまり気にもしていなかった。この神剣は異世界から来たものだ。それは俺のスマホと同じである。つまり遺産同士の接触。そしてその遺産の価値は今までのものとは比類にならない。

 強力な遺産同士の接触、現在もなお持ち手のいる遺産との接触は俺も初めてであった。さらに言うならこの神剣は良い影響を与える場合は強く発光する。それはどういうことか。つまりだ、強力な遺産同士の接触は遺産同士にとって良い影響がない訳ないではないか。

「っな!なんだこの発光は!!」

「ま、まぶしっ!」

『上位遺産を確認しました。コンタクト成功、交渉が開始されました。交渉成功。能力の一部を譲渡します。続けて能力の一部が譲渡されます。解析不要、回収能力のコンバートが開始されます。コンバート完了。上位遺産の交渉を終わります。』

 あまりにもまばゆい輝きを見せた神剣はやがてその輝きを鎮めた。その様子に誰もがあぜんとしている。俺も少し不用意であった。しかしまさかこんなことになるとは予想不可能だ。

「神剣の儀はこれにて終いにする。…伯爵位を与えたのは間違いではなかったな。ミチナガ伯爵、後日話がしたい。良いな?」

「っは!かしこまりました。」

 その瞬間、割れんばかりの大歓声が沸き起こった。前代未聞の神剣の儀である。すでに記者たちはこのことを記事にするために急いで原稿作業を開始していることだろう。

「さて、盛り上がっている中、悪いがこれから結果を発表する。静かにしてくれ。…皆ありがとう。それではここに発表する。ラルド・シンドバル伯爵、君をこの国の男爵に迎え入れたい。君の推薦状、さらに功績、それに神剣の儀の結果は申し分ない。」

「ありがとうございます。謹んで拝命いたします。」

 まばらな拍手が起きる。俺があまりに目立っていたが、ラルドの功績も十分凄いものであった。こうして二人も世界貴族が選ばれること自体凄いことだ。そしてこの結果はすぐに国中に広まった。

 新たなる世界貴族、ミチナガ伯爵とラルド男爵の誕生だ。国中でこの話題は持ちきりになっている。特に俺はいきなりの伯爵位と言うことで話題性には事欠かない。泊まっているホテルには多くの貴族たちが挨拶にやってきた。

 数日間はその対応に追われていた。ホテルとしては世界貴族の伯爵を泊めたということで箔がついたと喜んでいる。しかも験担ぎのために次回の世界貴族応募期間の客室の予約までしている。

 それからマックたちとカイドルとともに商業ギルドへ行き世界貴族の賭けの代金を貰ってきた。カイドルは金貨1000万枚、マックたちは金貨500万枚、俺は金貨5億枚だ。商業ギルドでは多くのものが涙目であった。俺に賭ければ大儲けだったのにね。

 まあ中には大穴を狙って俺にかけていたものもいたようだ。俺の姿を見ると大喜びで握手を求めてきた。興奮しすぎてよくわからなかったが、どうやら俺に賭けたことで借金全額返済してもお釣りが来たらしい。

 その日はマックたちと豪遊、と思ったのだがカイドルは用事もあったらしい。俺のことを勇者神がお呼びと言うことだ。待たせてはいけないのですぐに王城へと向かう。

 今回は玉座の間ではなく王の執務室に案内された。王の執務室だから金ピカなのかと思いきや意外と木々を多くあしらった大人しめの作りだ。あ、でも彫刻とかは細かい。やっぱ金かかっているわ。

「ああ、来たね。少し待ってくれ、もう少しでこの仕事が片付く。飲み物でも飲んで待っていてくれ給え。」

 どうやらなかなか忙しい時に来てしまったようだ。まあ時間はあるのでゆっくり待たせてもらおう。飲み物に紅茶が出されたが、この紅茶は驚くほど美味い。紅茶というのはここまで美味しいものなのかと初めて知った。そんな紅茶を満喫すると仕事が片付いたようだ

「ふう…ああ、待たせたね。では早速話をしようか。ミチナガ伯爵、君は…君自身が異世界からやって来たんだね?」

「はい、陛下の想像通りです。おそらく…その神剣の持ち手、初代勇者王と同じ世界から来たと思います。」

「やはりか…あの神剣の儀から神剣の力が増してね。この神剣と同じような神器を持っているんだね?見せてもらえるかい?」

 俺はその言葉に従ってスマホを取り出す。スマホを見た勇者神は一体なんなのか分かっていない。まあスマホなんてパッと見ただけではただの金属製の板だからな。

「陛下が神器と呼ぶこれは…生産に特化した能力を持っています。それこそ一国の食料を生産することも可能です。ただ戦闘能力に関してはほとんどありません。それから使い魔を召喚することができます。」

『ポチ・初めまして陛下。ミチナガの使い魔が一人、ポチと申します。』

「やあポチくん。アレクリアルだ。しかし生産系か。実に便利な能力だが…金がかかっただろう?」

 さすがに遺産の持ち主ということだけあって詳しい。俺もこの能力を十全に使えるようになるまで金貨何千万枚、いや何億枚もかかったからな。それに食料関連でこそ今ではなんとかなるが、それ以外はまだまだだ。まだ金貨はかかるだろうな。

 少しその場で愚痴るように話しているとなんだかどんどん楽しくなって来た。玉座の間で会った時は話しかけることすらおこがましいと思ったが、今は友達感覚で話すことができる。まあ相手は国王なのでちゃんと敬語は忘れていない。

「アレク様は今まで他の遺産…神器を見たことはありますか?」

「ああ、数点宝物庫に保管してある。接触により多少この神剣の力が増したが…もう必要はない。欲しいか?」

「よ、よろしいので?」

「構わない。それに此度のゴブリンの件では大いに助かった。色々と物資の提供や情報など何か礼をしなければならないからな。12英雄たちからも色々やってくれと言われている。まあまずはその辺りの話を詰めよう。」

 そういうと勇者神は、アレクリアルはいくつかの書類を取り出した。そこには今回の俺の、ミチナガ商会の活躍が書かれている。まあ戦闘面ではほとんどナイトの功績だ。しかし解毒剤や情報収集、物資の提供などはうちの使い魔の手柄だ。というかこんなことまでしていたんだな。

「今回の功績で輝かしいのはあのナイトという男の活躍だろうな。うちに欲しいくらいだが…ミチナガ伯爵の専属が気に入っているらしいのでな。諦めよう。それから情報提供も大きい、これのおかげで通常の数倍の速度で討伐が完了した。そして解毒剤だ。これがなければ我が兵の多くは毒に苦しみ死んでいただろう。ありがとう。」

「い、いえ…できることをしたまでです。少しでもお力になれたのなら幸いです。」

「ありがとう。…さて、この成果に見合うだけの報酬を渡さなければならないのだが…その前に君にはいくつか必要なものがある。」

 そういうとまた新しい書類を取り出した。しかも今度は冊子まである。その冊子を開き、俺に必要なものの説明を開始した。

「今、君は伯爵だ。そして伯爵には領土と兵団を持つことが許されている。というより伯爵であるのに領土も兵団もないのはおかしい。それに聞いたところ保有戦力はあのナイトだけだという。しかも普段は別行動だとも。」

「おっしゃる通りです。ナイトは縛られるのを好まないのであくまで専属という形にして自由にしてもらっています。」

「きっとそれが良い関係を築くために必要なのだろうな。しかしこれから先のことを考えれば己が身を守る戦力は必要だ。そこでこの冊子にはいくつかのあてが書かれている。伯爵の保有戦力ということで魔王クラスのみだ。ちなみにうちの兵を貸し出すことはできるが、保有戦力とすることはできない。だがちょっとした交渉の際には必要になるだろう。いつでも言え。」

 冊子を読んでいくとそこには多くの強者の写真と名前、さらに細かい情報まで乗っている。しかし読んでいくと分かる。誰も彼も一筋縄ではいかないことが。

「簡単に誘致できるものではないぞ。元犯罪者や性格の問題からうちでは雇うことのできないものたちばかりだ。あとは…魔王クラスではあるが誘致するほどの実力でないものも書かれている。そのあたりを狙ってみると良い。」

 まあ確かに実力者なのにこの国で雇わないのにはそれなりの理由はあるよな。しかし犯罪者や性格悪い奴をうちで雇える自信はない。下手をすれば寝首をかかれるぞ。そんなリスクは負いたくない。ここは実力が足りなくて誘致しなかったものの中から選ぼう。

「ん?これはなんですか?実力、性格ともに問題はないが誘致は不可って…」

「ああ、それは白獣の一族だな。白き体毛の獣人の一族だ。なんというか…変わり者でな。誰も住みたがらない砂漠のど真ん中で暮らしている。ただ…実力は本物だ。白獣の一族はかつて神獣と呼ばれた魔神を筆頭に生きていた戦闘種族だ。ただ今は誰にも仕えようとしない。誰かを待っていると言っていたが…まあおそらく次代の神獣を待っているのだろう。」

 話によると白獣はかつて獣人の中でも差別の対象にあったのだという。おまけに白い体毛を珍しがった人間によって奴隷にされた過去を持つ。そんな中、神獣と呼ばれる魔神が白獣を世界中から集めて彼らが安心して暮らせる国を起こしたのだという。

 ちなみに性格は温厚だという。アレクリアルも砂漠に住んでいるということで毎月物資の援助をしている。今月ももうそろそろ援助に行くとのことだ。

「ああ、どうせならミチナガ伯爵。その援助に行って来ないか?雇うのは無理だろうが良い経験になるだろう。それに君の能力ならばいくらでも援助は可能だろう?もちろんかかった費用はこちらで持とう。行っている間に君への報酬の準備と雇えそうな人材を探すように言っておこう。」

「そうですね…良い人生経験だと思って行ってみます。」

 どうせ暇だし行ってみよう。こういうちょっとした旅行感覚で他の街に行くのは初めてかもしれないな。護衛はアレクリアルの私兵を数人つけてくれるということだ。だけど王直属の私兵って…超精鋭じゃん。

「ああ、それから君はなんでも映像を記録する能力もあるとか、もしやあのゴブリン討伐の映像も残っているんじゃないか?」

「えっと…確認してみないことには私にもわからなくて…どうだポチ?」

『ポチ・あるよ!編集も完了しているから時間さえあれば上映するよ。』

「なら頼もうか。私も仕事がある程度終わったから時間もある。ミチナガ伯爵、よろしいかな?」

 まあ俺も断る理由はない。それにこのゴブリン討伐には何やら問題が起きたとのことだ。何が起きたのかその話は全く聞いていなかったので、この映像で確認させてもらおう。
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