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第173話 世界貴族選考開始

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「あ~~…あ~~……あ~~…」

『ポチ・もう朝からあ~あ~うるさいよ。静かに待とうよ。』

「だって今日一次審査の発表だろ?もう緊張しまくりで…」

 世界貴族への志願書の提出は終え、それから1週間が経過していた。たったの1週間で審査が終わり、その結果発表が今日なのだ。俺はそれを高級ホテルで待っている。こういうのは泊まっているホテルも影響しそうなので良いところを選んだ。

『ポチ・それに今日は一次審査だけど三次審査まであるんだよ。この調子じゃ身体がもたないよ。』

「二次審査は世界貴族の選考委員会との面談だっけ…それで三次審査が勇者神による直接選考だっけ。先がなげぇなぁ…もうすぐにパパッとやってくれれば良いのに。」

『ポチ・もうちょっと気楽に待とう。ほら、あんな風に。』

『ピース・えっと…王手!』

『社畜・あ!ま、待つのである!一手戻すのである!』

 ピースと社畜はなぜか将棋を指している。社畜の待ったはこれで5度目だ。ピースが強いのか社畜が弱いのか。しかし気楽で良いなぁ…ちなみに社畜は王城の研究所で十分働き、その技術を盗んで来た。おかげでなかなかスマホ内の技術力が上がったと思う。

 それからこの1ヶ月の間に色々と完成した。ブラント国ではミチナガ牧場がついに完成した。今は牛と羊と鶏を集めて育てている。ものが収穫できるようになるまではしばらくかかりそうだが、今のところ順調らしい。

 それからユグドラシル国でも、ようやく炎龍を利用した溶鉱炉が完成した。これでようやく俺の持っている鉄鉱石などが鉄に変えられる。これで金属製品事業を始めることができる、と思ったのだがそう言うわけにはいかなかった。

 完成した初日から利用したいという問い合わせが殺到したのだ。しかしそんなのは関係ない、俺のものだから俺が使ってからだ、そう言おうと思ったのだが、貸し出すだけで毎日金貨2万の純利益が出ると言うことなので快く貸し出した。

 そんなわけで俺の金属製品事業が始まるのはまだまだこれから。炎龍の溶鉱炉はすでに2週間は予約でいっぱいと言うことだ。つまりこれだけで金貨14万枚の儲けが確定している。

 しかもこれだけ人気なら値上げをすることも検討できる。まあはじめのうちは試運転も兼ねているので現在での値段でキープする。

 そういえばナイト達は今もゴブリン討伐を頑張っているらしい。使い魔達もゴブリンの魔石を回収して頑張っているとのことだ。おかげで魔石だけなら数千個は軽くある。ひと財産稼げそうだ。

 しかもまだまだゴブリンが増え続けているとのことなのでゴブリンの魔石はまだまだ回収できそうだ。最近はワープの能力で使い魔を何人か送っている。魔石回収頑張ってくれ。

「ミチナガさん!来ましたよ!今部屋の外観たらホテルの人と一緒に!」

「マジか!えっと…じゃあマクベス、予定通り頼むぞ。」

 ぼんやりとしていたら、俺と同じようにそわそわしていたマクベスが部屋の外を確認して、客人の到着を教えてくれた。すぐに使い魔達を別室に移動させ、俺はソファーに座って待つ。突然のことで社畜は将棋の勝負がうやむやになったと喜んでいた。

 ホテルマンが扉をノックするとマクベスがその対応をする。俺はメイドも執事もいないのでマクベスに執事の代わりをしてもらっている。奥の方でマクベスが何か対応をしたのちに王城からの使いの人がやって来た。

「ミチナガ様、世界貴族選考委員会の使いの方が参りました。」

「ああ、よく来てくれました。どうぞお座りください。」

「お心遣い感謝します。ですが時間も限られておりますのでまずはこの書類から確認していただきたい。」

 そう言うと一つの封筒を手渡された。使いの人曰くこの封筒の中身に合否が書かれている。この封筒は渡された本人しか確認することが許されず、使いの人も内容は知らないらしい。

 厳重な封印のようで、封蝋に俺の血を一滴垂らすと封印が解除されるらしい。そういえば応募するときに血液検査みたいのをやられたな。あれにはこの意味があったのか。俺はすぐに内容を確認する。緊張で手が震えているため、なかなか取り出すことができない。

「えっと…この度は応募ありがとうございます…結果は…合格です!後日面接がありますので詳しいことは使いの者に聞くように!」

「おめでとうございます。それでは失礼して着席させていただきます。すみません、不合格の場合は難癖をつけられるので早く立ち去れるように座らないようにしているんです。」

 結構大変なんだな。ちょっと話を聞くと以前不合格だった人に数時間単位で拘束されたのでかなり警戒しているらしい。ちなみに合格者には簡単な話がある。

「では書類を確認させていただきます。……確かに合格です。合格番号は7番ですね。では面接は明後日になります。場所は王城になります。この書類を門兵に見せれば案内されますので。」

「ちなみにこれの合格者ってどれくらいとかわかりますか?」

「聞いたところによると今年は20名です。まあ例年通りですね。」

 応募総数は200を超えていたはずだ。俺はその中の1割に入り込めたのか。その後、簡単な話をするとすぐに次があるということで去っていった。立ち去ってから少ししたところで俺とマクベスは飛び上がって喜んだ。

「よぉぉぉし!!やったぞ!やったぞマクベス!」

「さすがです、ミチナガさん!おめでとうございます!」

「はぁ~~…あ!喜んでいる場合じゃない!明後日のために用意しないと!服とか靴とか色々!てか間に合わないかも!」

『ポチ・服も靴もとびっきりのを用意してあるから問題ないよ。ただ言葉遣いとかマナーとか色々やっておく?』

「ナイス!じゃあマナー方面頼んだ!」

 早速ポチの指導が始まる。俺自身基本的なことはできるかと思っていたのだが、全然ダメだった。というかなんでポチはこんなに詳しいんだよ。ここからの指導は苛烈で俺の一挙手一投足にいたるまで矯正されていく。

 そして矯正されること2日、ついに面接当日だ。魔導装甲車で王城まで行くと門番の一人にカイドルがいた。魔導装甲車から降りて声をかけるとすぐに寄って来てくれた。

「ようミチナガ!まさかここにいるってことは…」

「まずは受かりましたよ。これから面接なので案内お願いします。」

「おお!本当か!ああ、書類の確認をさせてくれ…よし!大丈夫だ。じゃあついて来てくれ。しかし本当に受かるとはなぁ…まあ頑張ってくれよ。実はお前に賭けてんだよ。金貨2万もな。お前大穴だから当たれば金貨1000万だぞ。」

「知っていますよ。あの商業ギルドのやつでしょう?実は俺も自分に賭けたんです。…当たれば金貨5億です。」

「おま!…じゃあ賭けた当初よりも倍率下がったのはお前のせいだな?自分に金貨100万も賭けるなんてお前なかなかやるなぁ…」

「友人の冒険者も金貨1万賭けているんですよ。外れたらこの国までの護衛費0になるのに。」

 なかなかの大バクチに出ている。マックたちにカイドルに俺の一世一代の大勝負だ。当たれば億万長者だ。俺の人気は最下位付近なので500倍というなかなかの倍率になっている。商業ギルドで地味な服装をした甲斐があるというものだ。

「それにしても今日はなかなかいい服を着ているな。それを着ていると貴族っぽいぞ。」

「ぽいんじゃなくて貴族ですぅ。ほら、さっさと行きますよ。これからどこに行くんですか?」

「今日面接があるやつの待合室だ。そこで他のやつらと顔合わせになるぞ。緊張せずにリラックスしろよ。」

 そう言われると逆に緊張する。どことなく動きが硬くなるとカイドルは笑って俺の背中を叩く。そんなことをしていると少しだけ俺の緊張も和らいできた。そして待合室の前まで来るとカイドルの表情が硬くなった。

「それでは呼ばれるまでの間、こちらでお待ちください。」

「ありがとうございます。それで…は……あ、」

 待合室の扉が開き、カイドルに別れの挨拶をしたところで俺は待合室の中にいた一人の人物が目に入った。俺はその人物の元へと近づいて行く。

「ラルドさんですよね?ラルド・シンドバル。覚えています?ミチナガです。お久しぶりです。」

「…え?まさか…え、ええ…覚えています。だ、だけど…どうしてここに?」

「まあ色々ご縁がありまして…数人の方に推薦してもらったんです。」

 ラルド・シンドバル。シンドバル商会の2代目だ。俺がこの世界に来て初めて買い物をした店の店主だった。割とお世話になった人の一人である。まさかここで出会うとは思いもしなかった。

「まさかここでラルドさんに出会えるとは思いもしませんでしたよ。」

「…私もミチナガさんにここで出会うとは思いもしませんでした。私と会った時はまだお店も持っていませんでしたよね?」

「ええ、あれから頑張って今では4国でお店を開いています。そういえばラルドさんは俺と出会ったあの街の店はやめてしまったんですね。」

「…ああ、あの店ですか。世界貴族のために色々と忙しくなったのであそこの店は辞めたんですよ。よくご存知ですね。」

「実はその場所を買って今ではうちがお店を開いているんです。あそこは立地もいいですから。」

 ラルドは未だに驚いた様子だが、俺は嬉しくて話が止まらない。昔会った人にもう一度出会えるというのはこんなにも嬉しいものなんだな。

 そのまま話していると俺が呼ばれた。どうやらラルドよりも早い順番だったらしい。その場で別れの挨拶をして、早速面接に向かう。

 俺はラルドに会って話をしたことで緊張などほぐれてしまった。おかげでポチに教えられた通りにやることができた。面接官の反応も上々である。

 そして後日の結果発表では無事合格だ。俺の持てる力全てを出し切ることができたおかげでもあるだろう。次は最終面接だ。勇者神による査定か。うまく行くかは分からないが出せる力を出し切ろう。




「…なぜ彼が?ありえない……1年前は確かに見込みがありそうだったがただの男だぞ。商人とも呼べなかったあの男がなぜ……」
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