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第165話 魔導列車1

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 出発することになった俺たちは魔導装甲車を収納し徒歩で移動していた。単純に人通りが多いから魔導装甲車に乗るのが面倒になったという理由もある。それに少し街中を散策したいという理由もある。しかし1番の理由はこれからの移動手段が理由だ。

「えっと…確かこの先…って言われたんだよな?おい、マック!」

「え?ああ…そういうことはウィッシに聞いてくれ。…おい、観ろよガーグ。あの戦斧すげえぞ。」

「おお…あれいいな。…値段もなんとかなりそうな気がするが…どうせなら中央国で買いたい。」

 だめだ、もう全員テンション上がって役に立ちそうにない。こいつらまだ依頼遂行中ってこと忘れているだろ。しかしマクベスもそわそわしている。どうやらこの国はそれだけテンションが上がってしまうということなのだろう。

 そんな彼らを連れて移動するとひらけた場所に出た。奥にはでかい建物が見える。どうやらここが目的の場所らしい。マックたちを引き連れて移動するとその先には行列ができていた。

「あちゃー…激混みだな。おいマックたち、誰でもいいから確認してきて。中央国まで7人分の席だぞ。」

 俺の指示でナラームが人混みの中へ消えていった。時間もかかることだろうし、とりあえず人の少ない場所に移動する。それにしても本当に混み合うな。しかしこの世界でも列車に乗ることができるとは夢にも思わなかったな。ここが14個ある列車の駅の一つ、4番目の弓の駅か。

 12英雄はそれぞれ別々の武器を扱う。だからその武器にちなんだ名前の駅になる。ちなみに12英雄が納める国にそれぞれ一つの駅、そして中央国には2ヶ所の駅がある。しかし今年か来年にもう12ヶ所駅は増える予定らしい。発展途中らしいな。

 近くの売店で買ってきた飲み物を飲んで待っているとナラームが戻ってきた。人混みに疲れたのかフラフラとしている。

「一般車両は6時間待ちだ。ただ特別車両なら2時間待ちで乗れそうだぞ。料金は半端ないけどな。」

 ナラームが得た情報によるとここから中央国まで4時間ほどかかる。本来はまっすぐ行けば中央国に1時間ほどで行けるはずなのだが、線路の問題で中央国に行けるのはここから3つほど隣の国らしい。

 そして一般車両は一駅の移動に金貨2枚、格安車両というものもあり、そちらは大銀貨3枚で済む。そして特別車両の値段は一駅金貨50枚。ここだけ一気に値段が上がるが特別車両からの景色は最高だし、どれもこれも最高クオリティらしい。

 なぜここまで値段に開きがあるかというと勇者神が誰でも乗ることができるようにという配慮かららしい。まあ普通はそんなことをすれば特別車両どころか一般車両すら乗りたがらない。しかしクオリティにかなり差があるのでどの車両も満席になるとのことだ。

 まず一般車両なのだが、ボックスシートで売り子が飲み物や食べ物を売ってくれる。まあ新幹線みたいなものだろう。これが一番スタンダードだ。そして格安車両。まず席がない。1車両あたりに乗員人数が決められ、その人数分を車両に押し込む形だ。だから乗客は自分の荷物の上に座って過ごす。

 まるでただの貨物のように人々を運ぶ形なのだが、なんの問題もないらしい。むしろそんな形にするだけでこれだけ値段を抑えてくれるというのはありがたいとのことだ。まあ座るスペースもないほど押し込められるというわけではないからいいのかな?

 さらにこの格安車両は軍が移動する際には強制的に途中駅でも下車させられる。もうこれだけ聞くと最悪なのだが、これでもまあ全く問題ないとのことだ。本当に問題ないのか?

 そして特別車両。これは最高だ。席はリクライニングシートでモンスターの皮を使った最高級品だ。そして乗客2人に対して1人の乗務員がつくとのことだ。ドリンクと食事は一定のラインのものが食べ飲み放題。さらに多少の金貨で食事のグレードを上げることもできるらしい。

 景色は全面ガラス張りなので最高だ。さらにプロによる生演奏が聴けるらしい。もうこれはすごいな。しかしそのさらに上の超特別車両というのがあるらしい。ただこれは車両一つ貸切ということで値段はさらにはねあげる。そんなの使うやついるのかと思ったらもう1月以上は予約でいっぱいらしい。

 さて、そんな価格によって大きく変わる車両のグレードだが、選ぶなら一般車両か特別車両のどちらかだ。しかし特別車両は一般車両の25倍だぞ。しかも中央国まで4駅ぶんはある。つまり一人金貨200枚、それが7人分なので金貨1400枚もかかるんだぞ。そんなに金をかけられるわけないだろ。

「じゃあナラーム、金渡すから席を買っておいてくれ。それから全員に使い魔か眷属預けておくから連絡はこいつら通してくれ。じゃあ出発の2時間前には集まっておけよ。」

「2時間ってことは…お、おいまじか!やるなぁミチナガ!っよ!さすが!」

「せっかくの記念だ。みんなで特別車両に乗ってやろうじゃんか。ただし遅れたら置いていくからな。絶対に遅れんなよ。じゃあそれまで自由行動!」

 マックたちは勢いよく散会していった。ナラームは俺から金を預かって一人チケットを買いに行った。まあ一人だけかわいそうなのでちょっとだけ手間賃をあげておいたら喜んでいた。このまま時間までぷらぷらしようと思っていたらマクベスだけ残っていた。

「あれ?マクベス、お前はいいのか?」

「迷子になったら困りますから。それに…正直子供一人だと不安ですし…特にやることもないですし…」

 しかし先ほどは色々と見て回りたいように見えた。なんでかと少し考えてみたらマクベスはもうお金を持っていなかった。だからどこか店に行っても冷やかしの客として追い出される可能性もある。そこらへんを考えていなかったな。

「じゃあ一緒に行こう。ああ、本屋さんはあるかな?少し歴史書とか物語の本が欲しいんだけど。知っているか?」

「来る途中で見かけました。フレイド英雄出版がありましたよ。こっちです。」

 マクベスに案内されるままついていくとなんとも大きくて賑わいのある書店にたどり着いた。店内に入るとそこら中に英雄の物語の書物が並んでいた。マクベスを見るとその表情はキラキラと輝いていた。

「すごい数の英雄の書物だな…なんでだ?」

「その昔に初代勇者王がこの出版社の創業者であるフレイド様に命じたらしいです。この国の英雄たちの紡ぎし物語を広めて天まで轟かせろと。多くに語り継がせてあの世に行く自分にも誰かが教えてくれるように広めてくれと命じたそうです。だからこの国に所属する英雄たちには全て記者がついているそうです。」

 なるほど、初代勇者王というと俺と同じ転移者の一人だよな。それなりに人望があったらしい。するとマクベスはこっそりと俺に耳打ちしてくれた。わざわざ初代勇者王が物語を書けと命じた理由の一つに英雄たちが自分の後を追わないようにするためという理由があるらしい。

 なんでも初代勇者王はものすごい人望でおそらく彼が死ぬ時には多くの人々がその後を追うと考えられていた。だから後を追わせないために言ったという説がある。しかしこの説は正しいのかもしれないが人々には好まれていないらしい。どうやら表向きの理由のほうが皆好きらしい。

「なるほどね。じゃあそんな英雄の物語をいくつか買って行こう。何かオススメはあるか?」

「それなら…まずは初代勇者王のお話ですね。それから黒騎士物語。この二つは絶対に外せません。それから13英雄物語も読んだほうがいいですね。この3つはこの国の誰もが読んだことがあるはずです。」

「へぇ~…あれ?なんで13英雄?今は12英雄だよな?」

 なぜか一人英雄が多い。何か問題が起きて一人減ったのかと思ったがそうではないらしい。この13英雄というのは初代勇者王を守るために集まったのだが、その中に初代勇者王の息子も入っていたらしい。

 そして初代勇者王が亡くなった後にその息子が王位を継承したのだが、その際に13英雄自体は誰も死んでいないのに新たに一人加えるというのはおかしいということで12英雄という形になったらしい。

「なるほどねぇ…じゃあこの黒騎士物語ってのはなんなんだ?初代勇者王の話と同じくらい大切にしていただろ。」

「黒騎士というのは初代勇者王の最強の騎士です。奴隷であった幼少期に初代勇者王に拾われて、その恩義を返すために戦ったらしいです。ああ、黒騎士様も13英雄の一人です。他の13英雄が認める歴代最強の英雄です!黒騎士の由来は初代勇者王にクロと呼ばれていたからだそうです。勇者王の家系を3代も守ったらしいです。」

 マクベスは興奮して黒騎士について語り出した。ガラン平原の数万を超えるモンスターを一人でなぎ倒した伝説に、初代勇者王を亡き者にするために送られた魔帝クラス数人を倒した話など数々の偉業を成し遂げているという。

 国民は誰もが初代勇者王を崇拝している。そして誰もがその偉大なる王を守った黒騎士に憧れているのだ。特に奴隷という最下層からこの国の最強の騎士に成り上がったというのは誰もが胸を熱くさせる。

 まあここで色々語っていても仕方ない。なのでとりあえずその3冊とマクベスのオススメの本をいくつか買い漁った。それから店員に聞いて歴史書やモンスターなどの図鑑を何冊も買い漁った。かなりの金を使ったが、まあ必要経費だ。

 随分滞在してしまったようでもう1時間は経過している。この後にどこか寄るのは難しそうだ。だからちょっとした時間で露店をいくつか覗いて商品を物色して行く。

 さすがにでかい国ということあって見たこともないものがいくつもある。だからここはどんどん買い漁って行く。こういったちょっとした所に新しい発見があるからな。

 そしてそんなことをしていれば時間はあっという間に過ぎ去る。もうすぐ集合時刻だ。俺が遅れて置いていかれるなんてそんな間抜け話は笑えないからな。少し急いだほうがいいかもしれない。さて、ようやく魔導列車に乗れるぞ。

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