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第157話 再びの旅立ちへ
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「おーいミチナガ。出発はもう来週の予定だが…大丈夫か?」
「安心しろマック、なんとしてでも間に合わせる。おい、こっちの資料のチェック終わった!現場に連絡してくれ。」
『ピース・は、はい!』
3月になった。もう街中に雪は残っていない。道中にはまだ残っているだろうが、完全に溶けるまで待つ必要もない。もう出発は来週で決定した。そしてそこに合わせてユグドラシル国のミチナガ商会の全店舗の営業を始める。まあ獣人街の店舗に関してはまだ先だ。あくまで人間街のミチナガ商会の店舗だけだ。
そうと決まればそのために仕事をこなさないといけない。大々的な告知に幾人かの貴族にも声をかけておいた。ミチナガ商会初の映画上映もしなくちゃいけないからな。店員もなんとか確保して今は急ピッチで教育が始まっている。
それから孤児院もいくつか新しい宿舎と校舎が完成する。内装まで細かく指示を出すために使い魔を総動員して作業にあたらせている。本当は炎龍の高炉も完成すればよかったのだが、そちらは後もう少しらしい。
出発のために準備もしなくてはいけないがそちらは使い魔に完全に任せてしまっている。全部をこなすのは不可能だ。やれるところだけをやって、無理なところは使い魔に完全に任せてしまう。使い魔たちは優秀だから安心して任せられる。
「まあ大丈夫ならいいんだ。無理そうなら日にちずらすからいつでも言えよ?」
「そういうわけにはいかない。もうミチナガ商会の開店日を決めてあるからそこに間に合わせるだけだ。日程の変更はありえない。おい!ここの資料なんだ!お前らまた金使ったな?」
『アルケ・バレたよ?』
『親方・あちゃー…このゴタゴタでいけるかと思ったけど…まあ竣工しているから問題ないっす。』
こいつら時々勝手に色々やってんだよな。まあ俺も任せてはいるけどさ。最近金欠なんだからそうやって金使うんじゃないよまったく。しかもこいつらバレても問題ないように終わってから言うんだもん。ずるい奴らだよまったく。
「ミチナガ先生ありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
「ありがとう。みんな…ありがとうな。」
出発の2日前、孤児院の子供達がお別れ会をしたいということで盛大にパーティーを開いた。何人かは泣きながら別れを告げている。しかしなぜ2日前のこの日にしたかというと明日はミチナガ商会の開店日で忙しくなるからだ。だから休める今日のうちにまとめて祝ってもらおうということだ。
ちなみにリカルドたちの元へは出発当日に少し挨拶をしに行く。本当は今日行ってもよかったが、今日もさっきまでは書類の最終確認をしていた。結構時間はかつかつなのだ。ただ今だけはゆっくりと過ごしたい。
「ミチナガ先生…また来てくれる?」
「ああ、もちろんだ。必ずみんなに会いにくるよ。」
みんな別れを惜しんでくれている。俺はこの子たちのためにどれだけのことができたんだろうな。まあそれがわかるのはこの子たちが大人になる数年先のことだ。数年後にこの子たちが笑顔で暮らせるように育ってくれれば俺は何もいうことはない。それ以上の喜びはない。
「ミチナガさん、本当にありがとうございます。あなたに神のお導きがありますように。」
「ありがとうございますシスター。それからハジロさん、この子たちをよろしくお願いします。…もうそんなに泣かないでくださいよ。一番泣いているじゃないですか。」
「う…うぅ…ミチナガさん…本当に…本当にありがとうございました。あなたのおかげで…私は…私は…」
ハジロさんはこの国に残る。というか元々その予定だったからな。ハジロさんは今後この国で歯医者としてこれから頑張って行く。すでにハジロさんの店舗も完成している。こちらはハジロさんの要望通りの造りとなっている。やはり医者らしく白を基調とした清潔感のある店だ。
それからハジロさんは何か俺に見せたいものがあると言い出した。しかし泣きじゃくってしまいなかなか言い出せずにいる。しばらく待つとようやく泣き止み、早速見せたいものというのを見せてくれた。
「見ていてくださいよ。まだあまり持続はできないのですが…」
そういうとハジロの指先で何かが動いたような気がした。もっとよく見てみると何やら渦が回っている。くるくると回るそれは水滴と風のようであった。
「も、もしかしてそれって魔法ですか?」
「ええ、実は以前の幻影能力があったときはどんなに頑張っても普通の魔法は使えませんでした。しかしミチナガさんに受け渡して以来、徐々に普通の魔法というものが使えるようになったんです。ちなみにこれは私が編み出した歯石除去魔法です。風と水で優しく歯を磨いてくれます。あとでミチナガさんにもやらせてください。子供達からは好評なんですよ。」
なんと!まさかのハジロは魔法を使えるようになったのか。詳しく話を聞き、それを俺の解釈でまとめると以前の能力、俺でいうところの遺品を保持していた際はその遺品の力に自身の魔力のリソースを全て割いていた。だから使えたのは遺品の能力と簡単な身体強化、それに自然回復能力だけだ。
しかしそのリソースを割いていた遺品の力を失ったハジロの魔力はなんの能力も持たなくなった。だからその魔力を自由に使えるようになったということだ。だからハジロは歯医者に使えそうな魔法をどんどん覚えて行った。
「もしも今後、私の時のように能力を回収するのならこのメリットを教えてあげてください。そうすればスムーズに話がつくと思います。ちなみにこの魔法を使えるように慣れるまでは大変ですけどね。」
「ありがとうございますハジロさん。」
これはかなり有益な情報だ。能力を受け渡したくないという人もこのことを伝えれば話に乗りやすいだろう。そしてパーティーも終わった後にハジロの魔法による俺の歯の治療が始まった。子供達からは注目の的だ。
まあ結果から言ってしまえば最高だ。ハジロはかなり頑張ったようで魔力コントロールは抜群だ。ただ歯の治療以外の魔法は使えないらしい。しかしこの歯茎の中の方まで魔法で綺麗に磨かれるというのは最高の気分だな。
歯の一本一本までキュッキュと音がなりそうだ。しかも歯もかなり白くなっている。歯石除去にホワイトニングまでしてくれるとは。さらに話を聞くと歯槽膿漏になりそうな部分まで完全に治療してくれたらしい。
ハジロ曰く定期的にこの治療をすれば死ぬまで丈夫な歯で入られるだろうとのことだ。これはこれだけでもこの国に定期的に帰ってくるだけの理由になりそうだ。
「さて、それではみなさん、よろしいですか?」
「「「はい店長!」」」
早朝から準備を開始してもう開店時刻間近だ。外にはお客さんが集まり出している。頑張って告知した甲斐がある。孤児院の子供達もこっそりと告知してくれたらしい。店員たちも今日に備えてしっかりと教育しておいた。あとはなるようにしかならない。俺は2階に上がり集まったお客に見えるように移動した。
「皆様!早い時間からお集まりいただきありがとうございます。それではここにユグドラシル国ミチナガ商会を開店いたします!」
一斉に扉が開かれ多くの人々が流れ込んでくる。ここにいるお客は新しい物好きの人々だ。中には見学するだけというお客もいるだろう。だからそんなお客の心をがっちりと掴まないとな。情報は逐一使い魔たちを通して俺に伝えられる。まだお客も様子見の段階のようでなかなか売り上げは出ていないようだ。
カントク『“そろそろ上映が開始します。お客はまばらですね。”』
ミチナガ『“わかった。まあ初めはそんなもんだ。だから今来た客に思いっきりぶちかませ。そうすればその人たちが呼子になるはずだ。”』
どうやら初の一般向け映画上映が始まるようだ。初回はナイトのケリュネイアの討伐映像だ。ただケリュネイアはレアすぎて名前がマイナーのようだ。カントク曰く腕のたちそうな冒険者が幾人か集まっているとのことだ。冒険者ギルドでも告知しておいてよかった。ミチナガ使い魔輸送に貸し出している使い魔に告知させたのが一番効いたかもな。
映画の第一部が終わる頃にはお客もだいぶ動いて来た。徐々に売り上げが上がって来ているとのことだ。ブラント国のような大賑わいはないが、まあまずまずだろう。そして映画の上映が終わり出て来たお客の様子を見に行ったのだがどうやら大成功だ。
「観たかよ!あの男…あれが魔帝クラスの実力者なんだろうな。」
「俺は突っ込んで来た時に思わず声出ちまった…やべぇ……恥ずかしい…」
「あんな寡黙な男いいよね~稼ぎも良さそうだし…はぁ…近くにあんないい男いないかしら。」
「うちの冒険者ギルドじゃ無理無理。ねぇ、次の上映も観てみない?ここで食べ物買って持ち込むのもできるって。」
やはりお客の素直な感想というのはいいな。他のお客も気になって来たようだ。それに映画館の中に併設した飲食店にも目をつけてくれた。飲み物から食べ物まで色々揃えておいた。珍しいものもいくつか揃えておいたからな。
その後、各店舗の売り上げは徐々に上がっていき、閉店間近には多くのお客が最後にこれだけでもと買って行ってくれた。初日としてはまずまずの出だしだろう。しかし今日の雰囲気を見る限り今後さらに売り上げは上がっていくだろう。
「それではみなさん、お疲れ様でした。明日から私はいませんが、何かあったらこいつらに聞いてください。どんなことでもお答えできますから。」
『ユグ・明日からもよろしくお願いします。』
ユグと名付けたこいつはこのユグドラシル国のミチナガ商会の店長だ。なんでも最近まで社畜の依頼で掃除ばっかりしていたらしい。他の使い魔に仕事を取られるんじゃないかと心配だったそうだ。
それから映画館の館長に新入りのドラ、併設した店舗の店長にシルを着任させた。カントクも映画館の館長をやりたかったのではと思ったらあくまで自分は脚本家と編集者なのだそうだ。
それから孤児院には5人の使い魔を置いて来た。仕事は教育、子供達の世話といった雑務だ。それでもかなりの激務なので大変だろう。名前はどうしようかと思ったら、その使い魔たちが子供達に見せていたヒーローものの遊びの影響でレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクとなっていた。
まあなんとも単純だが、使い魔本人も子供達も気に入ってすでにそう呼んでいるので、今更名前を変えるわけにもいかないだろう。まあ名前を考える手間がなくなってこちらも楽だ。
そして翌日、とうとうこのユグドラシル国を出発する。早朝から魔導装甲車に荷物を積み込んで準備を始めている。とはいえ基本的にすぐに使わないものは俺のスマホの中だ。即座に使えるものやちょっとした私物を乗せるだけだ。
出発間近になると子供達は全員出て来て俺のことを見送ってくれた。それからマクベスも俺と一緒に英雄の国に行く。だからせっかく仲良くなれた孤児院の友達達ともお別れだ。マクベスは泣きながら別れを告げている。
マクベスのためにももう少し時間を割いても良いかと思ったが、ここであまり時間をかけてしまうと今日の予定に影響を与える。いや、それは建前だな。ここでゆっくりするといつまでもズルズルと留まってしまい出発できなくなる。だから俺たちはちゃんと別れを告げてすぐに出発した。
そしてこのまま英雄の国に向かう、わけにもいかない。リカルドたちにも別れを告げなくては。しかしこれが大変だった。まあリカルドは大丈夫だ、リッカーも大丈夫。しかしリリーだけは俺の服を掴んで離そうとしてくれない。
「やだぁぁ…ミチナガくん行っちゃやだぁぁぁ……」
「リリーちゃん…」
リリーは子供のように泣きじゃくっている。まあ子供だから仕方ないことなのだけれど。この様子にはリカルドもリッカーもメイドも執事もマックたちもたじろいでしまってどうして良いかわからないようだ。正直俺もどうしたら良いかわからない。それでもなんとかしないとな。
「リリーちゃん、俺は必ずまたリリーちゃんに会いに来る。だからリリーちゃんはその時まで待っていてほしい。リリーちゃんはきっとその頃にはもっと大人の立派な女性になっているよ。お母さんみたいな人になっているはずだ。」
「お母さんみたいな?リリーもなれる?」
「ああ、そのためにはいっぱい頑張らないといけないだろうけど、リリーちゃんならきっとなれるよ。だからその時までお別れだ。リリーちゃんが立派な女性になったらまた会いに来るよ。」
よし、なんかいい感じにいけたはずだ。リリーも泣き止んで涙を拭っている。涙を拭ったリリーは一つ大人になったようにも思えた。そしてリリーはにっこり微笑んだ。
「じゃあリリー頑張る!お母さんみたいな大人の女性になってミチナガくんと結婚する!」
「え?い、いやぁ~…それは…あ、な、泣かないで!わ、わかった!わかったから!じゃあリリーちゃんがその時まで俺のことを好きだったらね?他にいい人見つけなかったらね?」
っく!ついそんな約束をしちゃったよ。だけどここで泣かれたらまた慰めるのが大変だ。まあリカルドやリッカーが色々言っていたけど大丈夫だろ。だってまだまだリリーは子供だ。だからきっと大丈夫。…大丈夫だよね?
「それではリカルドさん、リッカーさん、リリーちゃん、それからみなさん。それではまたいつか会う時まで。」
「ああ、ではな。それから世界貴族の件、よろしく頼んだぞ。それからリリーを泣かせるような真似をしたらお前を…わかるな?」
「ミチナガさん、あなたに出会えてよかった。またいつでもいらしてください。」
「またね、ミチナガくん。」
俺は魔導装甲車に乗り込む。出発した魔道装甲車から俺は身を乗り出して大きく手を振る。なんとか気丈に振る舞っていたが、リカルドたちの姿が点のようになり、見えなくなった頃、俺の眼からは涙がこぼれ落ちていた。
ただ冬の間、雪が溶ける間だけ軽く過ごそうと思っていた。しかし想像以上にこの国での暮らしは俺を大きく成長させてくれた。俺に大きく影響を与えてくれた。
俺がこの世界に来てからこの世界での1年がもうすぐ経つだろう。この1年間、本当に濃い日々を過ごさせてもらった。次の1年は一体何があるんだろうな。
「さて、行くか英雄の国!ポチ、この国抜けて街道に出たら思いっきり飛ばしてくれ!」
『ポチ・りょうかーい!超特急で向かっちゃうよ!』
「安心しろマック、なんとしてでも間に合わせる。おい、こっちの資料のチェック終わった!現場に連絡してくれ。」
『ピース・は、はい!』
3月になった。もう街中に雪は残っていない。道中にはまだ残っているだろうが、完全に溶けるまで待つ必要もない。もう出発は来週で決定した。そしてそこに合わせてユグドラシル国のミチナガ商会の全店舗の営業を始める。まあ獣人街の店舗に関してはまだ先だ。あくまで人間街のミチナガ商会の店舗だけだ。
そうと決まればそのために仕事をこなさないといけない。大々的な告知に幾人かの貴族にも声をかけておいた。ミチナガ商会初の映画上映もしなくちゃいけないからな。店員もなんとか確保して今は急ピッチで教育が始まっている。
それから孤児院もいくつか新しい宿舎と校舎が完成する。内装まで細かく指示を出すために使い魔を総動員して作業にあたらせている。本当は炎龍の高炉も完成すればよかったのだが、そちらは後もう少しらしい。
出発のために準備もしなくてはいけないがそちらは使い魔に完全に任せてしまっている。全部をこなすのは不可能だ。やれるところだけをやって、無理なところは使い魔に完全に任せてしまう。使い魔たちは優秀だから安心して任せられる。
「まあ大丈夫ならいいんだ。無理そうなら日にちずらすからいつでも言えよ?」
「そういうわけにはいかない。もうミチナガ商会の開店日を決めてあるからそこに間に合わせるだけだ。日程の変更はありえない。おい!ここの資料なんだ!お前らまた金使ったな?」
『アルケ・バレたよ?』
『親方・あちゃー…このゴタゴタでいけるかと思ったけど…まあ竣工しているから問題ないっす。』
こいつら時々勝手に色々やってんだよな。まあ俺も任せてはいるけどさ。最近金欠なんだからそうやって金使うんじゃないよまったく。しかもこいつらバレても問題ないように終わってから言うんだもん。ずるい奴らだよまったく。
「ミチナガ先生ありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
「ありがとう。みんな…ありがとうな。」
出発の2日前、孤児院の子供達がお別れ会をしたいということで盛大にパーティーを開いた。何人かは泣きながら別れを告げている。しかしなぜ2日前のこの日にしたかというと明日はミチナガ商会の開店日で忙しくなるからだ。だから休める今日のうちにまとめて祝ってもらおうということだ。
ちなみにリカルドたちの元へは出発当日に少し挨拶をしに行く。本当は今日行ってもよかったが、今日もさっきまでは書類の最終確認をしていた。結構時間はかつかつなのだ。ただ今だけはゆっくりと過ごしたい。
「ミチナガ先生…また来てくれる?」
「ああ、もちろんだ。必ずみんなに会いにくるよ。」
みんな別れを惜しんでくれている。俺はこの子たちのためにどれだけのことができたんだろうな。まあそれがわかるのはこの子たちが大人になる数年先のことだ。数年後にこの子たちが笑顔で暮らせるように育ってくれれば俺は何もいうことはない。それ以上の喜びはない。
「ミチナガさん、本当にありがとうございます。あなたに神のお導きがありますように。」
「ありがとうございますシスター。それからハジロさん、この子たちをよろしくお願いします。…もうそんなに泣かないでくださいよ。一番泣いているじゃないですか。」
「う…うぅ…ミチナガさん…本当に…本当にありがとうございました。あなたのおかげで…私は…私は…」
ハジロさんはこの国に残る。というか元々その予定だったからな。ハジロさんは今後この国で歯医者としてこれから頑張って行く。すでにハジロさんの店舗も完成している。こちらはハジロさんの要望通りの造りとなっている。やはり医者らしく白を基調とした清潔感のある店だ。
それからハジロさんは何か俺に見せたいものがあると言い出した。しかし泣きじゃくってしまいなかなか言い出せずにいる。しばらく待つとようやく泣き止み、早速見せたいものというのを見せてくれた。
「見ていてくださいよ。まだあまり持続はできないのですが…」
そういうとハジロの指先で何かが動いたような気がした。もっとよく見てみると何やら渦が回っている。くるくると回るそれは水滴と風のようであった。
「も、もしかしてそれって魔法ですか?」
「ええ、実は以前の幻影能力があったときはどんなに頑張っても普通の魔法は使えませんでした。しかしミチナガさんに受け渡して以来、徐々に普通の魔法というものが使えるようになったんです。ちなみにこれは私が編み出した歯石除去魔法です。風と水で優しく歯を磨いてくれます。あとでミチナガさんにもやらせてください。子供達からは好評なんですよ。」
なんと!まさかのハジロは魔法を使えるようになったのか。詳しく話を聞き、それを俺の解釈でまとめると以前の能力、俺でいうところの遺品を保持していた際はその遺品の力に自身の魔力のリソースを全て割いていた。だから使えたのは遺品の能力と簡単な身体強化、それに自然回復能力だけだ。
しかしそのリソースを割いていた遺品の力を失ったハジロの魔力はなんの能力も持たなくなった。だからその魔力を自由に使えるようになったということだ。だからハジロは歯医者に使えそうな魔法をどんどん覚えて行った。
「もしも今後、私の時のように能力を回収するのならこのメリットを教えてあげてください。そうすればスムーズに話がつくと思います。ちなみにこの魔法を使えるように慣れるまでは大変ですけどね。」
「ありがとうございますハジロさん。」
これはかなり有益な情報だ。能力を受け渡したくないという人もこのことを伝えれば話に乗りやすいだろう。そしてパーティーも終わった後にハジロの魔法による俺の歯の治療が始まった。子供達からは注目の的だ。
まあ結果から言ってしまえば最高だ。ハジロはかなり頑張ったようで魔力コントロールは抜群だ。ただ歯の治療以外の魔法は使えないらしい。しかしこの歯茎の中の方まで魔法で綺麗に磨かれるというのは最高の気分だな。
歯の一本一本までキュッキュと音がなりそうだ。しかも歯もかなり白くなっている。歯石除去にホワイトニングまでしてくれるとは。さらに話を聞くと歯槽膿漏になりそうな部分まで完全に治療してくれたらしい。
ハジロ曰く定期的にこの治療をすれば死ぬまで丈夫な歯で入られるだろうとのことだ。これはこれだけでもこの国に定期的に帰ってくるだけの理由になりそうだ。
「さて、それではみなさん、よろしいですか?」
「「「はい店長!」」」
早朝から準備を開始してもう開店時刻間近だ。外にはお客さんが集まり出している。頑張って告知した甲斐がある。孤児院の子供達もこっそりと告知してくれたらしい。店員たちも今日に備えてしっかりと教育しておいた。あとはなるようにしかならない。俺は2階に上がり集まったお客に見えるように移動した。
「皆様!早い時間からお集まりいただきありがとうございます。それではここにユグドラシル国ミチナガ商会を開店いたします!」
一斉に扉が開かれ多くの人々が流れ込んでくる。ここにいるお客は新しい物好きの人々だ。中には見学するだけというお客もいるだろう。だからそんなお客の心をがっちりと掴まないとな。情報は逐一使い魔たちを通して俺に伝えられる。まだお客も様子見の段階のようでなかなか売り上げは出ていないようだ。
カントク『“そろそろ上映が開始します。お客はまばらですね。”』
ミチナガ『“わかった。まあ初めはそんなもんだ。だから今来た客に思いっきりぶちかませ。そうすればその人たちが呼子になるはずだ。”』
どうやら初の一般向け映画上映が始まるようだ。初回はナイトのケリュネイアの討伐映像だ。ただケリュネイアはレアすぎて名前がマイナーのようだ。カントク曰く腕のたちそうな冒険者が幾人か集まっているとのことだ。冒険者ギルドでも告知しておいてよかった。ミチナガ使い魔輸送に貸し出している使い魔に告知させたのが一番効いたかもな。
映画の第一部が終わる頃にはお客もだいぶ動いて来た。徐々に売り上げが上がって来ているとのことだ。ブラント国のような大賑わいはないが、まあまずまずだろう。そして映画の上映が終わり出て来たお客の様子を見に行ったのだがどうやら大成功だ。
「観たかよ!あの男…あれが魔帝クラスの実力者なんだろうな。」
「俺は突っ込んで来た時に思わず声出ちまった…やべぇ……恥ずかしい…」
「あんな寡黙な男いいよね~稼ぎも良さそうだし…はぁ…近くにあんないい男いないかしら。」
「うちの冒険者ギルドじゃ無理無理。ねぇ、次の上映も観てみない?ここで食べ物買って持ち込むのもできるって。」
やはりお客の素直な感想というのはいいな。他のお客も気になって来たようだ。それに映画館の中に併設した飲食店にも目をつけてくれた。飲み物から食べ物まで色々揃えておいた。珍しいものもいくつか揃えておいたからな。
その後、各店舗の売り上げは徐々に上がっていき、閉店間近には多くのお客が最後にこれだけでもと買って行ってくれた。初日としてはまずまずの出だしだろう。しかし今日の雰囲気を見る限り今後さらに売り上げは上がっていくだろう。
「それではみなさん、お疲れ様でした。明日から私はいませんが、何かあったらこいつらに聞いてください。どんなことでもお答えできますから。」
『ユグ・明日からもよろしくお願いします。』
ユグと名付けたこいつはこのユグドラシル国のミチナガ商会の店長だ。なんでも最近まで社畜の依頼で掃除ばっかりしていたらしい。他の使い魔に仕事を取られるんじゃないかと心配だったそうだ。
それから映画館の館長に新入りのドラ、併設した店舗の店長にシルを着任させた。カントクも映画館の館長をやりたかったのではと思ったらあくまで自分は脚本家と編集者なのだそうだ。
それから孤児院には5人の使い魔を置いて来た。仕事は教育、子供達の世話といった雑務だ。それでもかなりの激務なので大変だろう。名前はどうしようかと思ったら、その使い魔たちが子供達に見せていたヒーローものの遊びの影響でレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクとなっていた。
まあなんとも単純だが、使い魔本人も子供達も気に入ってすでにそう呼んでいるので、今更名前を変えるわけにもいかないだろう。まあ名前を考える手間がなくなってこちらも楽だ。
そして翌日、とうとうこのユグドラシル国を出発する。早朝から魔導装甲車に荷物を積み込んで準備を始めている。とはいえ基本的にすぐに使わないものは俺のスマホの中だ。即座に使えるものやちょっとした私物を乗せるだけだ。
出発間近になると子供達は全員出て来て俺のことを見送ってくれた。それからマクベスも俺と一緒に英雄の国に行く。だからせっかく仲良くなれた孤児院の友達達ともお別れだ。マクベスは泣きながら別れを告げている。
マクベスのためにももう少し時間を割いても良いかと思ったが、ここであまり時間をかけてしまうと今日の予定に影響を与える。いや、それは建前だな。ここでゆっくりするといつまでもズルズルと留まってしまい出発できなくなる。だから俺たちはちゃんと別れを告げてすぐに出発した。
そしてこのまま英雄の国に向かう、わけにもいかない。リカルドたちにも別れを告げなくては。しかしこれが大変だった。まあリカルドは大丈夫だ、リッカーも大丈夫。しかしリリーだけは俺の服を掴んで離そうとしてくれない。
「やだぁぁ…ミチナガくん行っちゃやだぁぁぁ……」
「リリーちゃん…」
リリーは子供のように泣きじゃくっている。まあ子供だから仕方ないことなのだけれど。この様子にはリカルドもリッカーもメイドも執事もマックたちもたじろいでしまってどうして良いかわからないようだ。正直俺もどうしたら良いかわからない。それでもなんとかしないとな。
「リリーちゃん、俺は必ずまたリリーちゃんに会いに来る。だからリリーちゃんはその時まで待っていてほしい。リリーちゃんはきっとその頃にはもっと大人の立派な女性になっているよ。お母さんみたいな人になっているはずだ。」
「お母さんみたいな?リリーもなれる?」
「ああ、そのためにはいっぱい頑張らないといけないだろうけど、リリーちゃんならきっとなれるよ。だからその時までお別れだ。リリーちゃんが立派な女性になったらまた会いに来るよ。」
よし、なんかいい感じにいけたはずだ。リリーも泣き止んで涙を拭っている。涙を拭ったリリーは一つ大人になったようにも思えた。そしてリリーはにっこり微笑んだ。
「じゃあリリー頑張る!お母さんみたいな大人の女性になってミチナガくんと結婚する!」
「え?い、いやぁ~…それは…あ、な、泣かないで!わ、わかった!わかったから!じゃあリリーちゃんがその時まで俺のことを好きだったらね?他にいい人見つけなかったらね?」
っく!ついそんな約束をしちゃったよ。だけどここで泣かれたらまた慰めるのが大変だ。まあリカルドやリッカーが色々言っていたけど大丈夫だろ。だってまだまだリリーは子供だ。だからきっと大丈夫。…大丈夫だよね?
「それではリカルドさん、リッカーさん、リリーちゃん、それからみなさん。それではまたいつか会う時まで。」
「ああ、ではな。それから世界貴族の件、よろしく頼んだぞ。それからリリーを泣かせるような真似をしたらお前を…わかるな?」
「ミチナガさん、あなたに出会えてよかった。またいつでもいらしてください。」
「またね、ミチナガくん。」
俺は魔導装甲車に乗り込む。出発した魔道装甲車から俺は身を乗り出して大きく手を振る。なんとか気丈に振る舞っていたが、リカルドたちの姿が点のようになり、見えなくなった頃、俺の眼からは涙がこぼれ落ちていた。
ただ冬の間、雪が溶ける間だけ軽く過ごそうと思っていた。しかし想像以上にこの国での暮らしは俺を大きく成長させてくれた。俺に大きく影響を与えてくれた。
俺がこの世界に来てからこの世界での1年がもうすぐ経つだろう。この1年間、本当に濃い日々を過ごさせてもらった。次の1年は一体何があるんだろうな。
「さて、行くか英雄の国!ポチ、この国抜けて街道に出たら思いっきり飛ばしてくれ!」
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