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第154話 魔導装甲車
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季節は2月の中旬。徐々に気温も上がり、雪が降ることはなくなり雪解けが始まる頃だ。徐々に春が訪れているのだろう。マックたちも出発の頃合いが近づいているなとそわそわしている。マックたちもこの依頼さえ無事に完了したら晴れてB級冒険者パーティーだからな。
俺も孤児院のみんなとの別れの準備のために、俺がいなくても問題ないように使い魔たちを配置し始めた。仕事を任せられるノーマル使い魔が多いから多くの使い魔を配置できる。ユグドラシル国のミチナガ商会の店舗もすでに外観だけは完成した。あとは内装だけだ。割と凝った作りにしているので完成は俺がこの国を出発するときだろう。
それから映画館の方だが、こちらもなかなか順調だ。映画館に付属して飲食店をいくつか開店する予定だが、この辺りはシェフが任せて欲しいと言い出したので完全に任せてしまっている。かなりの人員が必要で、すでに何人か雇って仕事を教えているのだが余り好調とは言えなさそうだ。
人員は数十人ほど必要なのだが、なかなか集まらない。まあ俺はこの国で商人として活躍したのは貴族相手ばかりだ。だから一般庶民には余り知られていない。知らないところで働くというのは気がひけるらしい。
唯一顔見知りが多いドワーフたちは接客業には向いていない。エルフ街の知っている人々は植物関係ばかりですでに仕事についているものが多い。数人は働きたいと言い出したものがいたがその程度だ。まだまだ人員不足だな。
孤児院の方も何人か子供達の世話役を雇っているが現状子供達が多すぎるため、まだまだ人が足りない。人材不足というのは結構きついものだな。なんせ人がいなければ店は始められない。下手な人材を雇えば店に悪影響を与える。どっかで良い人材をスカウトしてきたいものだ。
『メンテ・今お時間よろしいですか?』
「ん?どうしたんだ?ちょうど一仕事終わったから良いぞ。」
『メンテ・魔動車の改造が一時終了したのでご報告に上がりました。もういつでも乗れますよ。』
おお!それをどれだけ待ったことか。早速車庫に案内してもらう。普段はスマホの中にしまっているのだが、取り出す時は驚かれないように誰にも見えない車庫の中で取り出している。早速車庫の中に入り誰もいないことを確認してから魔動車を取り出す。
「おお~…おお?これ魔動車?これって…もう装甲車……」
『メンテ・安全性を確保するために頑張りました。エンジンは新型魔法エンジンを搭載しています。最大でおよそ700馬力が出せる計算ですが、エンジンやパーツが持たないので普段は抑えめにします。重量は16トンですが魔法の起動で半分まで抑えられます。装甲は平常が3cm、窓を開けることも可能です。緊急時には屋根に乗っている特殊装甲板を下ろします。最大装甲15cmの上、1cmごとに強化と防衛の魔法陣を刻んでおきました。』
な、なんかものすごい化け物みたいな魔動車に変わっちゃった。なぜここまで進化を遂げたかというとフェッサーが研究員たちに面白半分で相談してみたところ白熱してしまい、この魔動車の設計図を完成させたということだ。そしてその設計図をドワーフたちに見せたところさらに面白がって不眠不休で作り上げてしまったとのことだ。
早速乗り込んでみると中は想像以上に広い。というか広すぎないか?確実にこの装甲車の幅よりも広い気がする。なぜこんなにも広いかというと魔法により空間が拡張されているらしい。通常の1.7倍まで広げてあるとのことだ。横並びで4~5人くらいは寝られそうだ。
シートにはモンスターの毛皮を使用している。ふかふかしていてすぐに眠ってしまいそうだ。運転席のフロントガラスは特殊強化ガラスを採用しているらしく、そこらの魔法ではかすり傷もつかないとのことだ。さらにバックモニターに上部には周辺を見回すカメラまでついている。
『メンテ・ただいくつか問題がありまして魔力消費量が従来の魔動車よりも高いです。まあそこは魔力タンクの方を倍増させた上に魔石による魔力供給を簡易にしています。それからまだ試作段階ですので、パーツの破損などが起こりやすいかもしれません。』
「まあこれだけやってりゃそうか。いやぁ…それにしてもすごいなこれは。」
『メンテ・すごいでしょ?なんせお値段金貨1500万枚だから。』
「へぇ~~……は?」
思わず怒気をはらんだ声を出すとメンテはいつのまにかスマホの中に戻っていた。あの野郎…逃げやがった。しかしいやいやいや…待てよ。金貨1500万枚ってなんだよ。スマホを確認してみるとすでに料金は払ってしまったようで俺の残金がごっそりとなくなっている。だいぶ溜まっていた一般に使える金貨がここまでごっそり無くなるなんて聞いてない。
いや、まあ確かにすごいよ?この魔動車は。多分これに乗っていれば大抵のモンスターに襲われても全く問題ないもの。なんならこれで引き殺せるもの。しかしだ。この魔動車は運用コストも高いし元手も高い。そして正直街乗りには向いてない。
しかしまあ…現状これしかないし乗らないと損だし乗るか。とりあえず気晴らしがてらまだ行ったことのない獣人街の方に行ってみるかな。ちなみに俺は運転する気にはならなかったのでポチに任せた。使い魔でも運転できるようにちゃんと設計しているあたりがこいつららしいよな。しかし8輪魔動車なんて…運転できんのか?
「う、うひょぉぉ!しゅ、しゅごいのぉ~~」
天井部分を開け、顔を出した俺はそのスピードと乗り心地に感激している。まあ街中では速度制限が決められているためそこまで速度は出せない。しかしこの乗り心地は半端ない。驚くほど揺れないのだ。コップになみなみジュースを注いでもこぼれそうな気配がない。めっちゃ快適。
『ポチ・恥ずかしいからそんな声出さないでって…聞こえないか…ああ、もう。』
「ひょぉぉぉぉ!!」
ひとしきり堪能した俺は車内でまったりとおはぎを食べながらお茶をすする。ただ一人だと暇なので何人か使い魔を呼んでおいた。新しい使い魔が入って何か変わりがないか現状報告も兼ねている。
『トギ・それで研ぐのは良いんだが砥石がないんだ。良い砥石を探しているんだが…なかなか見つからなくてな。』
「砥石かぁ…あれ?じゃあこの世界の人はどうやって砥いでんの?」
『トギ・基本金属ヤスリみたいなのだな。ある程度の切れ味は出るが…完璧じゃない。ただこの世界は魔法で強化できるからそんなに砥ぐことを重視してない。』
なるほどな。ある程度切れればあとは魔法で刃を形成してしまえば良いということか。むしろ下手に砥ぐとその分刃先が薄く脆くなる。だから砥ぐこともある程度で済ませちゃうのか。トギも現状は金属ヤスリで済ませている。ただシェフの包丁に関してはそこらへんの石でなんとか研いでいるとのことだ。一応ムーンに頼んでそれらしいものを探してもらっている。
『コークス・おらは人手不足だ。採掘速度が上がらなくていつもギリギリだ。何人か育ててるけんどまだまだだな。』
「う~ん…手の空いているときに手を貸させる以外には難しいよな。なんか採掘に使えそうな魔道具でも探してみるか。」
鉱石の採掘料は1日あたり上限があるからその上限までは採掘してほしい。もう少し余裕が出てきたら鉱山ガチャを回したいんだよな。現状はまだまだ難しいけど。色々と道具を充実させないとダメかもな。
『ファーマー#2・こっちも現状人手不足だ。ただこっちは消費が少ないぞ。そのせいで生産量が多すぎて在庫がたまり出した。いくつか農地を果樹園にして果物の採取量を増やしてる。果物なら酒とか加工品もできるぞ。』
う~ん…こっちも人手不足か。ちょっと色々考えないとな。使い魔増えたと思ったけどまだまだ全然足りないのか。あ、でも待てよ?
「こうして魔動車作れるよな?ならトラクターとか作れないか?」
『アルケ・難しいよ。魔動車のエンジン使い魔作れないよ。国に魔動車の所有許可いるよ。』
「あ~…そういやこの装甲車も外で依頼したものか。まだお前たちだけで作るのは無理…か。小型のエンジンだけでも作れればいいんだけど難しいよな。ちょっとリカルドに相談してみるか。…ただ金が厳しいか。魔動車単体でも結構な金かかるしそれを改造するってなったら…」
うっわ、マジで金欠だな。今は色々と工事しているからミチナガ商会の売り上げも心もとない。またナイトの討伐したモンスターをオークションで売るかな。利益の2割はもらえるからそれなりの収入になる。ちょっとリカルドに会っておいた方が良いか。
「おーいポチ、今からリカルドのところ向かえるか?色々野暮用あるんだけど。」
『ポチ・りょうかーい。通り道だから問題ないよ。』
リカルドの屋敷に寄ると顔パスですんなりと中まで入れてもらえた。屋敷の前に魔動車を止めてリカルドに会いに行こうとするとなんと向こうから俺に会いにきてくれた。そのまま挨拶を、と思ったら俺を通り過ぎて俺の魔動車に駆け寄った。
「これは…軍部で研究中の魔導装甲車?しかしなぜ…いや、第一まだ実用段階にも至っていないはず…ミチナガ、説明しろ。」
「説明も何もこの国の研究者の人に話して設計図を完成させて、ドワーフたちに作ってもらいました。乗ってみます?」
「ああ…しかしこの国の研究者?…お前が言うということはウィルシ侯の研究者たちか。まさかここまでの技術力とは…やはり一度なんとしてでも呼び寄せなければ…」
どうやら軍部の研究者たちとウィルシ侯爵の友人たちの研究者は別物という扱いらしい。リカルドから話を聞くと軍部の研究はとにかく実績を作るために無駄を徹底的に排除しているらしい。軍部の研究者たちも非常に技術力は高い。
しかしウィルシ侯爵の友人の研究者たちはその先を行く。こちらは純粋に好きだから研究をしている。だから実績なんてものはない。無駄な研究ばかりしている。そんな彼らをウィルシ侯爵は資金面で支えている。だから軍部の研究所と同等レベルの研究所を持てている。
リカルドにこの魔導装甲車を案内してやると非常に満足していたが問題点が残るらしい。それは防御面に優れているが攻撃面がおざなりとのことだ。まあ別に俺は戦う気は無い。この魔導装甲車なら戦わずに逃げることも可能だ。
「ミチナガ、これを売る気はあるか?」
「いや、無いですよ。これ一台に金貨1500万枚の改造費がかかっていますからね?」
「まあ特注品ならそのくらいかかるだろうな。その10倍だすと言ったらどうする?」
10倍ってことは…金貨1億5000万枚!?しかも流通制限金貨とかじゃなくて普通の金貨でだろ。そんなんもう売るに決まっている…と言いたいところだが。
「無理ですね。これは俺のために作ってくれたものですから。これを売ってしまったら俺の信用問題になります。」
「…それもそうだな。すまない、少し取り乱した。」
『ポチ・あ、これの設計図ならいいですよ。』
なんか俺の覚悟みたいなのをあっさり否定してポチが簡単に売り渡そうとしてる。何を言っているんだと止めようとするとすでに設計図を作成した研究者たちからは許可を得ているらしい。もちろん製作者として彼らの名前を乗せるのが条件だ。それからこの設計図の対価も。ちゃっかり製作者の一覧にフェッサーの名前も載っているし。
「本当か!任せろ、軍部の連中の予算からがっぽり貰ってくるとしよう。ああ、それからミチナガ。何か用があったんじゃないのか?」
「ああ、そうだった。またオークションを開きたいんですけど…人集めることってできますか?」
「オークションか…今の時期は忙しくなるから難しいな。ああ、なら今度この設計図を持って軍部の連中と会う。その時に奴らに売るか?お前の使い魔に任せれば良いだろう?」
そういう手もあるのか。リリーの元にプリーストとドルイドの眷属がいるから彼らに任せれば良いだろう。一応不安なのでリカルドにも同席しておいてもらおう。それから魔動車の買い足しについても相談してみると現状のこの国での魔動車の生産台数だと少し難しいらしい。
俺に売り渡してくれた魔動車も予約待ちの状況なのに無理を言って取り寄せてくれたとのことだ。そこまでしてくれていたんだな。まあそれでも一応は聞いてみてくれるとのことだ。
「それじゃあ俺はこの辺で。」
そういうと不思議そうな表情でどこかに用事があるのか訪ねてきた。俺だって忙しいんだぞ。正直に獣人街の方に行くというと随分と渋い表情をされた。一体なんだというのだ。
「獣人街はやめておいた方が良いぞ。彼らは人…特に貴族を嫌っている。獣人の奴隷文化がこの世界にはまだ残っているからな。ブラント国から来たのなら知っているだろう?」
「あ~…そういやバカ貴族が獣人奴隷を持っていたって言っていたな。ま、まあ軽くのぞいて無理そうなら帰って来ます。」
リカルドに別れを告げて最大限気をつけるようにして俺は獣人街へと向かった。後日リリーが私には会わなかったのとリカルドと俺に怒っていた。…ごめんなさい。
俺も孤児院のみんなとの別れの準備のために、俺がいなくても問題ないように使い魔たちを配置し始めた。仕事を任せられるノーマル使い魔が多いから多くの使い魔を配置できる。ユグドラシル国のミチナガ商会の店舗もすでに外観だけは完成した。あとは内装だけだ。割と凝った作りにしているので完成は俺がこの国を出発するときだろう。
それから映画館の方だが、こちらもなかなか順調だ。映画館に付属して飲食店をいくつか開店する予定だが、この辺りはシェフが任せて欲しいと言い出したので完全に任せてしまっている。かなりの人員が必要で、すでに何人か雇って仕事を教えているのだが余り好調とは言えなさそうだ。
人員は数十人ほど必要なのだが、なかなか集まらない。まあ俺はこの国で商人として活躍したのは貴族相手ばかりだ。だから一般庶民には余り知られていない。知らないところで働くというのは気がひけるらしい。
唯一顔見知りが多いドワーフたちは接客業には向いていない。エルフ街の知っている人々は植物関係ばかりですでに仕事についているものが多い。数人は働きたいと言い出したものがいたがその程度だ。まだまだ人員不足だな。
孤児院の方も何人か子供達の世話役を雇っているが現状子供達が多すぎるため、まだまだ人が足りない。人材不足というのは結構きついものだな。なんせ人がいなければ店は始められない。下手な人材を雇えば店に悪影響を与える。どっかで良い人材をスカウトしてきたいものだ。
『メンテ・今お時間よろしいですか?』
「ん?どうしたんだ?ちょうど一仕事終わったから良いぞ。」
『メンテ・魔動車の改造が一時終了したのでご報告に上がりました。もういつでも乗れますよ。』
おお!それをどれだけ待ったことか。早速車庫に案内してもらう。普段はスマホの中にしまっているのだが、取り出す時は驚かれないように誰にも見えない車庫の中で取り出している。早速車庫の中に入り誰もいないことを確認してから魔動車を取り出す。
「おお~…おお?これ魔動車?これって…もう装甲車……」
『メンテ・安全性を確保するために頑張りました。エンジンは新型魔法エンジンを搭載しています。最大でおよそ700馬力が出せる計算ですが、エンジンやパーツが持たないので普段は抑えめにします。重量は16トンですが魔法の起動で半分まで抑えられます。装甲は平常が3cm、窓を開けることも可能です。緊急時には屋根に乗っている特殊装甲板を下ろします。最大装甲15cmの上、1cmごとに強化と防衛の魔法陣を刻んでおきました。』
な、なんかものすごい化け物みたいな魔動車に変わっちゃった。なぜここまで進化を遂げたかというとフェッサーが研究員たちに面白半分で相談してみたところ白熱してしまい、この魔動車の設計図を完成させたということだ。そしてその設計図をドワーフたちに見せたところさらに面白がって不眠不休で作り上げてしまったとのことだ。
早速乗り込んでみると中は想像以上に広い。というか広すぎないか?確実にこの装甲車の幅よりも広い気がする。なぜこんなにも広いかというと魔法により空間が拡張されているらしい。通常の1.7倍まで広げてあるとのことだ。横並びで4~5人くらいは寝られそうだ。
シートにはモンスターの毛皮を使用している。ふかふかしていてすぐに眠ってしまいそうだ。運転席のフロントガラスは特殊強化ガラスを採用しているらしく、そこらの魔法ではかすり傷もつかないとのことだ。さらにバックモニターに上部には周辺を見回すカメラまでついている。
『メンテ・ただいくつか問題がありまして魔力消費量が従来の魔動車よりも高いです。まあそこは魔力タンクの方を倍増させた上に魔石による魔力供給を簡易にしています。それからまだ試作段階ですので、パーツの破損などが起こりやすいかもしれません。』
「まあこれだけやってりゃそうか。いやぁ…それにしてもすごいなこれは。」
『メンテ・すごいでしょ?なんせお値段金貨1500万枚だから。』
「へぇ~~……は?」
思わず怒気をはらんだ声を出すとメンテはいつのまにかスマホの中に戻っていた。あの野郎…逃げやがった。しかしいやいやいや…待てよ。金貨1500万枚ってなんだよ。スマホを確認してみるとすでに料金は払ってしまったようで俺の残金がごっそりとなくなっている。だいぶ溜まっていた一般に使える金貨がここまでごっそり無くなるなんて聞いてない。
いや、まあ確かにすごいよ?この魔動車は。多分これに乗っていれば大抵のモンスターに襲われても全く問題ないもの。なんならこれで引き殺せるもの。しかしだ。この魔動車は運用コストも高いし元手も高い。そして正直街乗りには向いてない。
しかしまあ…現状これしかないし乗らないと損だし乗るか。とりあえず気晴らしがてらまだ行ったことのない獣人街の方に行ってみるかな。ちなみに俺は運転する気にはならなかったのでポチに任せた。使い魔でも運転できるようにちゃんと設計しているあたりがこいつららしいよな。しかし8輪魔動車なんて…運転できんのか?
「う、うひょぉぉ!しゅ、しゅごいのぉ~~」
天井部分を開け、顔を出した俺はそのスピードと乗り心地に感激している。まあ街中では速度制限が決められているためそこまで速度は出せない。しかしこの乗り心地は半端ない。驚くほど揺れないのだ。コップになみなみジュースを注いでもこぼれそうな気配がない。めっちゃ快適。
『ポチ・恥ずかしいからそんな声出さないでって…聞こえないか…ああ、もう。』
「ひょぉぉぉぉ!!」
ひとしきり堪能した俺は車内でまったりとおはぎを食べながらお茶をすする。ただ一人だと暇なので何人か使い魔を呼んでおいた。新しい使い魔が入って何か変わりがないか現状報告も兼ねている。
『トギ・それで研ぐのは良いんだが砥石がないんだ。良い砥石を探しているんだが…なかなか見つからなくてな。』
「砥石かぁ…あれ?じゃあこの世界の人はどうやって砥いでんの?」
『トギ・基本金属ヤスリみたいなのだな。ある程度の切れ味は出るが…完璧じゃない。ただこの世界は魔法で強化できるからそんなに砥ぐことを重視してない。』
なるほどな。ある程度切れればあとは魔法で刃を形成してしまえば良いということか。むしろ下手に砥ぐとその分刃先が薄く脆くなる。だから砥ぐこともある程度で済ませちゃうのか。トギも現状は金属ヤスリで済ませている。ただシェフの包丁に関してはそこらへんの石でなんとか研いでいるとのことだ。一応ムーンに頼んでそれらしいものを探してもらっている。
『コークス・おらは人手不足だ。採掘速度が上がらなくていつもギリギリだ。何人か育ててるけんどまだまだだな。』
「う~ん…手の空いているときに手を貸させる以外には難しいよな。なんか採掘に使えそうな魔道具でも探してみるか。」
鉱石の採掘料は1日あたり上限があるからその上限までは採掘してほしい。もう少し余裕が出てきたら鉱山ガチャを回したいんだよな。現状はまだまだ難しいけど。色々と道具を充実させないとダメかもな。
『ファーマー#2・こっちも現状人手不足だ。ただこっちは消費が少ないぞ。そのせいで生産量が多すぎて在庫がたまり出した。いくつか農地を果樹園にして果物の採取量を増やしてる。果物なら酒とか加工品もできるぞ。』
う~ん…こっちも人手不足か。ちょっと色々考えないとな。使い魔増えたと思ったけどまだまだ全然足りないのか。あ、でも待てよ?
「こうして魔動車作れるよな?ならトラクターとか作れないか?」
『アルケ・難しいよ。魔動車のエンジン使い魔作れないよ。国に魔動車の所有許可いるよ。』
「あ~…そういやこの装甲車も外で依頼したものか。まだお前たちだけで作るのは無理…か。小型のエンジンだけでも作れればいいんだけど難しいよな。ちょっとリカルドに相談してみるか。…ただ金が厳しいか。魔動車単体でも結構な金かかるしそれを改造するってなったら…」
うっわ、マジで金欠だな。今は色々と工事しているからミチナガ商会の売り上げも心もとない。またナイトの討伐したモンスターをオークションで売るかな。利益の2割はもらえるからそれなりの収入になる。ちょっとリカルドに会っておいた方が良いか。
「おーいポチ、今からリカルドのところ向かえるか?色々野暮用あるんだけど。」
『ポチ・りょうかーい。通り道だから問題ないよ。』
リカルドの屋敷に寄ると顔パスですんなりと中まで入れてもらえた。屋敷の前に魔動車を止めてリカルドに会いに行こうとするとなんと向こうから俺に会いにきてくれた。そのまま挨拶を、と思ったら俺を通り過ぎて俺の魔動車に駆け寄った。
「これは…軍部で研究中の魔導装甲車?しかしなぜ…いや、第一まだ実用段階にも至っていないはず…ミチナガ、説明しろ。」
「説明も何もこの国の研究者の人に話して設計図を完成させて、ドワーフたちに作ってもらいました。乗ってみます?」
「ああ…しかしこの国の研究者?…お前が言うということはウィルシ侯の研究者たちか。まさかここまでの技術力とは…やはり一度なんとしてでも呼び寄せなければ…」
どうやら軍部の研究者たちとウィルシ侯爵の友人たちの研究者は別物という扱いらしい。リカルドから話を聞くと軍部の研究はとにかく実績を作るために無駄を徹底的に排除しているらしい。軍部の研究者たちも非常に技術力は高い。
しかしウィルシ侯爵の友人の研究者たちはその先を行く。こちらは純粋に好きだから研究をしている。だから実績なんてものはない。無駄な研究ばかりしている。そんな彼らをウィルシ侯爵は資金面で支えている。だから軍部の研究所と同等レベルの研究所を持てている。
リカルドにこの魔導装甲車を案内してやると非常に満足していたが問題点が残るらしい。それは防御面に優れているが攻撃面がおざなりとのことだ。まあ別に俺は戦う気は無い。この魔導装甲車なら戦わずに逃げることも可能だ。
「ミチナガ、これを売る気はあるか?」
「いや、無いですよ。これ一台に金貨1500万枚の改造費がかかっていますからね?」
「まあ特注品ならそのくらいかかるだろうな。その10倍だすと言ったらどうする?」
10倍ってことは…金貨1億5000万枚!?しかも流通制限金貨とかじゃなくて普通の金貨でだろ。そんなんもう売るに決まっている…と言いたいところだが。
「無理ですね。これは俺のために作ってくれたものですから。これを売ってしまったら俺の信用問題になります。」
「…それもそうだな。すまない、少し取り乱した。」
『ポチ・あ、これの設計図ならいいですよ。』
なんか俺の覚悟みたいなのをあっさり否定してポチが簡単に売り渡そうとしてる。何を言っているんだと止めようとするとすでに設計図を作成した研究者たちからは許可を得ているらしい。もちろん製作者として彼らの名前を乗せるのが条件だ。それからこの設計図の対価も。ちゃっかり製作者の一覧にフェッサーの名前も載っているし。
「本当か!任せろ、軍部の連中の予算からがっぽり貰ってくるとしよう。ああ、それからミチナガ。何か用があったんじゃないのか?」
「ああ、そうだった。またオークションを開きたいんですけど…人集めることってできますか?」
「オークションか…今の時期は忙しくなるから難しいな。ああ、なら今度この設計図を持って軍部の連中と会う。その時に奴らに売るか?お前の使い魔に任せれば良いだろう?」
そういう手もあるのか。リリーの元にプリーストとドルイドの眷属がいるから彼らに任せれば良いだろう。一応不安なのでリカルドにも同席しておいてもらおう。それから魔動車の買い足しについても相談してみると現状のこの国での魔動車の生産台数だと少し難しいらしい。
俺に売り渡してくれた魔動車も予約待ちの状況なのに無理を言って取り寄せてくれたとのことだ。そこまでしてくれていたんだな。まあそれでも一応は聞いてみてくれるとのことだ。
「それじゃあ俺はこの辺で。」
そういうと不思議そうな表情でどこかに用事があるのか訪ねてきた。俺だって忙しいんだぞ。正直に獣人街の方に行くというと随分と渋い表情をされた。一体なんだというのだ。
「獣人街はやめておいた方が良いぞ。彼らは人…特に貴族を嫌っている。獣人の奴隷文化がこの世界にはまだ残っているからな。ブラント国から来たのなら知っているだろう?」
「あ~…そういやバカ貴族が獣人奴隷を持っていたって言っていたな。ま、まあ軽くのぞいて無理そうなら帰って来ます。」
リカルドに別れを告げて最大限気をつけるようにして俺は獣人街へと向かった。後日リリーが私には会わなかったのとリカルドと俺に怒っていた。…ごめんなさい。
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