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第142話 新年

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 早朝、教会の子供達の朝は早い。毎日起きてから布団をたたみ、顔を洗い、歯を磨く。上級生は下級生の面倒を見なければならないため、簡単な作業ではあるのだが時間がかかる。そんな子供たちのいつもの習慣はいつものようにこなすはずだったのだが、今日ばかりはいつものようにいかなかった。

「み、みんな起きろよ!すげぇ!プレゼントだって書いてある!これ俺のだ!」

「な、なんだようるさい……俺のもある…プレゼントだ!」

「私のクマのぬいぐるみ!かわいい!」

「僕のおもちゃだ!僕だけのおもちゃだ!!」

 子供達の枕元にはそれぞれメッセージカード付きのプレゼントが送られている。取り間違えが決して起こらないように配慮されている。しかもそのプレゼントはどれも子供達が欲しがっていたものばかりだ。子供達はいつもの習慣など忘れ、自分に送られていたものを見て喜んでいる。

 泣いて喜ぶものもいれば、もらったものを抱きしめたまま動かない子もいる。飛び跳ねて壁に頭をぶつけ、涙目になるがそれでも飛び跳ねることをやめない子もいる。みんなそれぞれ喜びを噛み締めている。やがてシスターがその様子を見にきて、何とかなだめた所でようやくいつものように布団をたたみ始めた。

 そしていつもよりもずいぶんと遅くなった朝食では誰もがもらったプレゼントを抱えている。誰かに取られるのではないか、もしかしたらこれは夢でいつの間にか消えてしまうのではないか。そんなことを思いながらもらったものを決して離そうとはしない。

 そして誰かが話し出した。一体これは誰がくれて、なんのためのものなのだろうかと。確かに子供達にはこんなものを貰う理由がわからない。一体誰がなんのためにくれたのかと気になった子供達はシスターに理由を尋ねるがシスターは困った表情だ。やがていつものように遅く起きてきたミチナガがやってくると子供達はミチナガにも尋ねた。

「お?みんなプレゼントもらったのか。そうか、こっちじゃ元々そういうことがなかったんだな?じゃあ俺に付いてきたのかもしれないな。」

「何がついてきたんですか?」

「あそこに飾ってあるだろ?スマホに飛行機に十字架に…金槌もあるな。いつの間に…。そんなことはどうでもいいな。あそこに飾ってある八百万の神様たちだ。あの神様たちはいろんなところにいてみんなを見ている。それでみんなが年末に頑張ったから神様たちがご褒美をあげたんだ。」

「か、神様たちがくれたんですか!?」

「ああ、そうだぞ。まあ神様たちは多分みんなのためにお金を出しているナイトさんに何か頼んだのかもしれないな。だからみんな、八百万の神様とナイトさんにちゃんとあとでお礼を言っておけよ?」

 子供達はそれを聞くとその場で祈りを始める。みんなそれはそれは熱心に祈っている。どうやらうまくいったな。これが俺の考えていた大掃除、クリスマス、お正月を組み合わせた新しい祝日、その名も八百万の日だ。

 子供達に大掃除と露店を開かせて社会性を身につけさせる。そして頑張ってくれた子供達にはお年玉とプレゼントを与える。年末年始周辺の行事を全て盛り込んだオリジナルの特別な祝日だ。これによってスマホやゼロ戦などの使い魔たちが設置した遺産を模写したものを通じて子供達の祈りの力がスマホ内にさらに送られる。

 俺としては子供達のプレゼント代がかかるが、それ以上のものが手に入っている。実に完璧だ。これによって悲しむ人間は誰もいない。Win-winの新行事の誕生だ。まあ一番の難所は使い魔たちを使って子供達から欲しいものを聞き出すことだ。お父さんお母さんに会いたいなんて子供もいて、その報告聞いている時が一番辛かった。

 ちょっとリアリティを出すためにナイトから出資してもらったみたいなことにしておいたが、この別設定はいるかな?まあみんなの今の生活はナイトのおかげでもあるからナイトに感謝する気持ちは忘れないようにしてほしい。おっと、もう一つの大事な行事を忘れるところだった。

「じゃあみんな、朝ごはんを食べたら年末のみんなの稼いだお金の結果発表をするぞ。ちゃんとその時お金も渡すからな?ほら、早く食べた食べた!あ、でもしっかりと噛んでゆっくり食べろよ?」

 子供達はそれを聞くと祈りをやめて食事を取り始めた。その表情はもう嬉しくて嬉しくてどうして良いか分からないといった感じだ。それから40分ほど経って食器もすべて片付け終わったところで結果発表を始める。とはいえそこまで大きな差はない。原価を引いた額を報酬として渡すのだが大体平均して大銀貨2枚にも満たない。人数で割ると大体、一人当たり銀貨2枚ほどだろう。

 しかし子供達はそれでも大喜びだ。まあ銀貨2枚ってそこそこの金額だ。飯に換算すれば10食分くらいはギリギリなんとかなる。これで終わりにしても良かったのだが、使い魔たちからある報告を受けている。それを加味しないとな。

「ではここから特別ボーナスの発表だ。まずは第1班!大荷物のおばあちゃんの手伝いをして家まで運んであげたな?よって大銀貨1枚のボーナスだ!次に第2班は泣き止まない赤ちゃんをみんなであやしてくれた。よって特別ボーナス大銀貨1枚!」

 そう、子供達は使い魔たちの教育によって実に良い子に育っている。そして様々なところで善行を重ねている。それに対して子供達は何かを求めているわけではないだろうが、大人としては良いことをした子供は十分褒めてあげたい。だから使い魔から報告にあった善行に対して特別ボーナスを与えることにした。

 発表されるたびに子供たちからは歓声が上がる。報酬の受け渡しは全員にやっていると時間がかかるので使い魔たちに任せている。ちなみに下級生の報酬は銀貨1枚だ。上級生と差をしっかりとつけて、将来大きくなった時に頑張りたいと思わせる。

「以上で発表はおしまいだ。さて、みんなはもうお金をもらったな?この後は、今日のお勉強はお休みだから自由に遊ぶと良い。いろんな遊びを準備しておいた。ああ、それからお金の管理が不安だという子には今からミチナガ銀行を作ろう。みんなが必要になった時にいつでもお金を下ろせるようにしておく。」

 子供ではお金の管理は不安だろう。だから俺がちゃんと預かれるようにしておく。もちろんネコババなんてしない。ちゃんとしっかり預かって、この子たちが将来ここを出て行く時に少し色をつけて渡すつもりだ。そう考えていると子供達はヒソヒソと何やら相談し始めた。もしかして俺って信用ないのか!?嘘だろ…

「あ、あの…ミチナガ先生。お願いがあります。」

「ん、なんだ?」

 子供達は語り出した。俺は静かにそれを聞いていたが、もうダメだった。途中で返答できなくなった俺は使い魔たちに返事を任せる。それから再び子供達は会議を始め、やがて一つの結論に至った。俺はそれを大いに賛同し、すぐに子供達のために行動した。




「…今日も豪勢だな。」

『ムーン・まだ年明けの二日目だからね。だけど明日は普通の食事に戻すよ。あんまりご馳走ばっかりだと飽きちゃうし。』

 ムーンとナイトは今日も森の中で新年を祝っている。豪勢な食事だが、連日の豪勢な食事にナイトは少し飽きている。来年からはもう少し考えなくてはいけないとムーンは考えているが、今日ばかりは仕方ない。なんせ今日は新年の中でもさらに特別な日だ。

『ムーン・それからね、これを渡してほしいって頼まれたんだ。』

「…指輪か?……俺はこういうのは」

『ムーン・孤児院の子供達がナイトにって送ってくれたんだよ。みんな年末に掃除したりお店やったりして頑張って稼いだお金だって。授業の一環でやってそこで稼いだお金を渡したらナイトにこれを渡してほしいって頼まれたんだ。みんなナイトに感謝してる。』

「…そうか。それは……なんて言っていいか分からない。こういうのは…経験不足だ…」

 孤児院の子供達がミチナガに語ったこと。それは日頃の感謝の気持ちとしてナイトに何か贈り物をしたいというものだ。みんなで話し合った結果、壊れにくくて身につけられるものということで指輪が選ばれた。

 子供達が稼いだお金だけで買ったものなのでそんなに高価なものではない。しかし気持ちだけならどんなものでも敵わない。この指輪からは子供達の溢れんばかりの気持ちがナイトにも伝わってくる。

 ナイトはこんな気持ちになったのは初めてだ。どんな風に反応して良いか困ってしまっている。そんなナイトを見てムーンは笑っていた。そしてムーンは察していた。きっとこれから先もこんな風なナイトを見ることになるのだろうと。

『ムーン・戦う時は預かっておくよ。もしくはボス…ミチナガからの贈り物でこの丈夫なネックレスチェーンに通しておけば大丈夫だと思うよ。無くさないようにしないとね。』

「ああ…これは宝物だ。私の大切なものだ。」

 ナイトは壊さないように優しく子供達からもらった指輪を握りしめる。大切に、とても大切にすると心から誓う。そして今はムーン経由でしか礼を言えないが、いつか子供達の元に赴いて礼を言おうと心から誓った。そしてその日はきっとそんなに遠くないはずだ。





『ポチ・もー…いい加減泣き止んでよ。ほら、今日の分の仕事もあるんだよ。』

「だ、だって!…だって…うぅ…あの子達…お、俺にもって…俺にもって…うぅ…」

『ポチ・そうだね、ボスにもナイトとお揃いの指輪買ってくれたね。それは分かったからさ…いい加減泣き止んでよ。』

「きょ、今日は無理!絶対…無理!うわぁぁぁん…ええ子やぁ…」

『ポチ・だめだこりゃ…みんな~滞ったらまずい分だけなんとかするから手伝って~』

『使い魔一同・あ~い。』

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