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第123話 新産業設立
しおりを挟む久しぶりに孤児院に戻った翌日、街では大騒ぎだった。一体何事かというとリカルドの復活に対する騒ぎだ。俺にとってはなんだそんなことかと軽く流してしまうようなことに感じたのだが、この国の住民にとってはそうではないらしい。
リカルドは人々にとって優秀な議員として知られていた。彼が評議会を休むと知った時はそれはそれは落胆したとも聞く。そんなリカルドが復活したのだからこの国の先行きは明るいと皆大騒ぎだ。街ではリカルド復活で景気が良くなると思い、商品の売れ行きが好調だ。
そんな中俺は未だに孤児院周辺の土地を整備している。雪も降るためなかなかに作業が難航しているのだ。とりあえず孤児院周辺の建物を建てる土地の区画整備は終了したのでそこに何を建てるか検討中なのだが、これ意外と難しい。土地をもらい過ぎてしまったためにどう使って良いか分からず持て余しているのだ。
俺もこの景気に早く便乗したいがなかなかうまく進まないなぁ…とりあえず教会の礼拝堂に行くと今日も孤児達が祈りを捧げている。神への祈りというのはここの孤児達にとって毎日の日課だ。現在ではその孤児達も200人を超えている。俺がもらった土地の区画の大半はこの孤児達のために使ってしまおう。そうすればナイトから金を取れる。
どうせなので俺も祈りを捧げておこうかと思い孤児達の中に混ざると何か異様なものが見えた。それは礼拝堂の十字架のあたりに見えた。俺は思わずその異様なものが何かを確認する。するとそこには石像のスマホが飾られていた。
しかもそれだけではない。ゼロ戦まであるではないか。さらに小さな十字架まで飾られている。こんなことをするのは絶対にうちの使い魔しかいない。礼拝が終わってから俺はシスターに話をしに行った。するとその答えは意外だった。
「ええ、確かにあなたの白い使い魔が飾ったものです。なんでもそういう風習があるそうですね。大切に扱ったものには神様が宿るという…付喪神という神様だと。実に素晴らしいと思います。子供達にも物を大切にする感謝の心が芽生えますから。」
「だ、だけど…いいんですか?他の神様を祈っても…」
「元々の神様では私たちを助けられませんでしたから。それにいろんな神様がいた方が楽しいですよ。子供達も面白がっております。」
い、いいのかよ。絶対こいつらノリと勢いだけでやったって。スマホで使い魔達になんでこんなことをしたか確認して見ると意外とこれが重要なことだったことを知った。
マザー『“信仰とは聖なる力をもたらします。現在の祈りにより世界樹の聖国ではその力が上昇しております。”』
ミチナガ『“つまりそれは…スマホの力の減少を食い止めることができるってこと?”』
マザー『“そういうことになります。”』
それならどんどん祈りを捧げてもらおう。なるほどうまくできているな。しかしスマホの力の減少を食い止めるか。俺はスマホを確認する。現在のスマホの力の残量。リリーを助ける際に使用してしまい、残り1%だった残量。そこが現在では100%に到達している。
あの遺体の持っていたロザリオは長年封印を施されていたため力が溢れかえっていたのだ。それがスマホに還元され、こうして100%に到達している。つまり何も心配することはないのだ。ブラント国で大量の金貨を入手、ユグドラシル国でスマホの力を入手、もう今の俺は完璧の状態だ。
しかもロザリオという遺産を手に入れたことによりスマホの回復量も上がっている。現在のスマホの消費量なら10日で1%減るくらいというマザーの報告も入っている。よほどこのロザリオは遺産として格の高いものだったのだろう。
「そういや今度またナイトの倒したモンスターを売らないとな。あっちは元気でやっているのかな。」
あまり連絡を取っていないのでどうしているかよくわかっていない。というか使い魔達からそれぞれの店の現状を聞いたことがない。まあ特にこれといって何か異常があったという話を聞いていないので問題はないだろう。
「それよりも俺はやることをやらないとな。ドワーフのいるとこにも行きたいし、店をどうするかも考えないといけないし…」
とりあえず早急に考えるのはこの国にどんな店を出すかだ。まずは普通に商店だ。食品を多数取り扱おう。しかしそれ以上が思い浮かばない。まあそれだけでも良い気がするが、土地が有り余っているのだ。もっと色々なものを作らないといけない。
ミチナガ『“誰かぁ…なんか良い情報ない?この国に関することから考えられる売れそうな仕事なんかないかぁ…?”』
カントク『“情報が欲しいということでしたらとりあえずこれを参考にしてください。”』
そう言って監督に観せられたのは動画だ。どうやら孤児院に俺がいない間も使い魔達を周辺に散会させて映像を記録しておいたようだ。そしてその映像をつなぎ合わせて一本の映像として何か俺に参考になりそうなものがないか見てもらうということだ。
時間としては結構長いが意外と見ごたえのありそうな動画だ。なかなか映像の編集技術が高い。まるで一本の映画を観せられているようだ。まあ主人公もヒロインもいないけどね。
「ん、映画?…画像をつなぎ合わせて…例えばナイトのモンスターの討伐映像…貴重なモンスター。それだけじゃない、他国の映像を紹介しながら…映像産業か…土地はある…映画館だ!」
キタキタキタキタァァ!!映画館だよ!映像産業は間違いなく売れる!貴重なモンスターの生態を紹介することだって十分価値のあるものだ。それこそ冒険者はこぞって観るはずだ。それに他国の生活を紹介することだって面白いかもしれない。他国の食文化を映像として発信させ、うちのミチナガ商店でそれを提供する。
まだまだ他国との交流が難しいこの世界なら間違いなく興味を持つ。それに元手も大してかからない。使い魔達に上映させれば良いだけだ。それこそ映画館がなくてもそこらへんで上映しても良い。今のうちからどんどん上映させて、映画館ではそれがゆっくりと見られるという付加価値を持たせる。
ミチナガ『“カントク!映像産業だ!これからどんどん他の使い魔達に映像を撮らせて映画を作るんだ!”』
カントク『“最高!それ最高です!どんどん映画を作りますよ!しかしそのためには面白い被写体も必要です!”』
ミチナガ『“じゃあ…冒険者だ!冒険者達に同行しよう。そうすれば良い映像が撮れるはずだ。金を払えばいくらでも……いや、待てよ?”』
金を払ってわざわざ映像を撮る?そうじゃない。むしろ金を貰おう。同じことをすれば良いだけだ。ムーンのように冒険者達のアイテム回収として働けば良い。貸し出しの手数料をこっちで貰う。いや、そうじゃない。回収した素材を瞬時にギルド側に納品してその手数料をもらった方が利口だ。
冒険者達は無限に入る収納ボックスが手に入る。いや、それだけじゃない。出前システムを導入しよう。冒険者達はいつでもどこでも好きなものを温かい状態ですぐに食べられる。冒険者達は少ない荷物で行動ができる。ただ全員にそれができるようにするのは無理だ。一定以上のクエストのみに限定しよう。
やばいぞこれは。どんどんイメージが膨らんでくる。かなりの大金が動くはずだ。そうと決まれば早速マック達を連れて冒険者ギルドに向かう。そして男爵という爵位を利用してギルドマスターに直接話ができるようにする。
そんなにうまくいくかと思うが、これがすんなりとうまくいくのだ。何せ俺はナイトのモンスター素材の販売でこのギルドに多額の恩恵をもたらしている。すでに冒険者ギルドでは重要人物扱いだ。おまけに男爵ならば無下には扱えない。そういえば初めてギルドマスターと会うが結構若いな。まだまだ現役って感じだ。
「私が当ギルドのギルドマスターのガンツです。この度はミチナガ男爵様にお会いでき誠に…」
「ああ、そういうのはいいんですよ。今日は商人としてやってきました。実は私の護衛をしてくれている冒険者のマック達から聞いたのですがこのギルドはモンスターの納品が少ないとか?」
「ええ、お恥ずかしいことに。」
マック達はここ数日毎日のようにこの冒険者ギルドに来ていたので色々な情報を知っていた。この冒険者ギルドは、というよりこの国は周辺の環境がかなり良い状態で保たれている。そのため討伐依頼などは少し遠方まで出向かないといけない。だからモンスターの討伐後、素材を持ち帰ることが実に困難だという。なんと嬉しいことだ。
「そこでです。是非ともうちが提供するシステムを導入したいのです。」
俺はそう言ってこのギルドに来る道中のうちに完成させた企画書を提出する。まあ作ったのはうちの使い魔達なんだけどね。発案は俺だから許してくれ。そこには俺が考えた使い魔収納ボックスを用いた冒険者たちの納品率の向上が事細かに書かれている。それを読んだギルドマスターはいかにも怪しんでいる。まあ誰もが怪しむよね。
「まあ百聞は一見にしかずと言います。一度冒険者にこのシステムをやらせて見てはくれませんか?無論依頼するのはこちらなので依頼料を払います。それを見て判断してほしい。誰かうってつけの冒険者とうってつけの依頼はありませんか?」
「……これが本当ならうちのギルドは間違いなく栄えるでしょう。わかりました。私自ら判断させてもらいます。メンバーも集めましょう。依頼も適当に見繕います。依頼料は結構です。しかし…もし本当だとして、契約内容はこれで良いのですか?使用料金は使い魔を通して納品したものの15%、出前料金は全額、他必要なものを頼んだ際の料金のみ。それでそちらに旨味は出るんですか?」
「十分出ますよ。使ってもらっただけうちは儲かりますから、なるべく手が出しやすい金額でやらせてもらいます。」
すぐにそこで仮契約を結ぶとまずは冒険者ギルドの納品所の近くに使い魔の家を建てる。そして使い魔の復活ポイントとなる、冒険者たちが持ち運ぶ皮袋を手渡す。そして翌日にはギルドマスターは数人の冒険者を連れてモンスター討伐に出発した。
それから数日後、ギルドマスターたち一行が帰って来ると仮契約だった俺の話は本契約となった。その後、この話はブラント国、ルシュール領にも伝わりすぐに本採用となった。
この使い魔輸送は後にミチナガ使い魔輸送と呼ばれ、ミチナガ商会の大きなの収入源となる。
ミチナガ『“なぁ…ミチナガ使い魔輸送って長くないか?ミチナガ輸送にしない?”』
ポチ『“ダメ!僕たちだって頑張っているんだから!だったらミチナガの方を消して!元々なかったでしょ!”』
ミチナガ『“それはうちの宣伝もあるから無理だよ…やっぱそのまんまか。冒険者からも短くしてくれって言われるけど…まあ無理だな。諦めよ。”』
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