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第120話 アップデート、世界樹

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 翌朝、こんなに豪華だと落ち着かないと言いながらも今朝の目覚めは最高だった。体の疲れは全てなくなっているし、かなりリフレッシュした。今日はもう孤児院に戻るのでリッカーが来るのを待つだけだ。だからこうして外の景色を眺めながら椅子に座りスマホをいじる。

「あれ?電源切れてる。……なんか読み込み始まったな。」

 俺昨日電源消して寝たっけ?いや、そんなことはしていないはずだ。寝ている時に寝ぼけて消したのかな?それならあり得そうだ。だけど電源つけたら読み込み始まったのはなんでだろ。理由がわからないのでとりあえず電源がつくまで待とうと思ったのだが、読み込みが長い。仕方ないので先に朝食をとることにする。

 ここのホテルの食事はなかなか美味しい。今朝はフレンチトーストだ。贅沢を言えば白飯が良かったが、まあこの国では米は主流ではないので仕方ないだろう。朝食を取り終え、食後の紅茶を楽しんでいる頃にようやく読み込みが終わった。そんなスマホを手に取ると真っ先に一つのことに気がついた。

「の、残りのバッテリー8%!?!?最低でも60%はあったぞ!」

 あまりの事態に手が震える。一体何が起きたのか確認して見るとなんら変わりがないように見える。一つのアプリを除いて。

「シティアプリのアイコンが変わっているな。これは…木?」

 そのままシティアプリを開いて見るとなぜかチュートリアルらしきものが始まった。どうやらこのシティアプリに何かが起きたらしい。これだけの異常事態がなぜ起きたのか説明してもらおう。

『シティアプリへようこそ。シティアプリでは世界樹の確認ができたよ。……実績が解除されました。特定条件の達成を確認。以下の項目から発展内容を選んでください。』

『聖国・精霊、妖精の力を確認したことにより神聖な領域をもつ国を入手できます。精霊の力の向上、妖精の力の向上が見込まれます。』
『熱国・熱系の精霊の力を確認したことにより熱帯の気候をもつ国を入手できます。国全体が熱帯と化します。』

 この原因は世界樹?だけどなんでだ?世界樹はこの世界では成長することはできない。俺が手に入れたことによって何か変わるわけでも…

 いや、そうだ。俺は前に一度思ったじゃないか。このスマホのバッテリーが、このスマホの力が限界なのだとわかった時、俺は思った。このスマホの中は一つの世界なのだと。つまり世界樹は俺の今いるこの世界には拒絶されてしまったが、このスマホの中の世界には拒絶されていない。だから成長することができた。

 つまり世界樹はこのスマホの力を使って成長することに成功した。その成長の代償としてバッテリーが50%以上持って行かれはしたけど世界樹は再び力を取り戻したのだ。そして世界樹には本来9つの世界があるという。まだこの世界樹は力不足なので一つしか国を持てないのだろう。

「じゃあこの選択はかなり重要か。次に手に入るのはいつかわからないしな。…と言ってもこれはもう1択か。」

 俺が選ぶのは聖国だ。なぜならそっちの方が金になる。それに熱国では育てられる作物がかなり限られる。まだその時ではないはずだ。俺が選択し終えると世界樹が成長し、世界の形成が始まる。これにはもうしばらく時間がかかるそうだ。

 しかしそうなると今までの場所はどうなるのかと心配したが、ごくごく普通に世界樹の根本周辺に存在していた。使い魔達の様子を見てみると早朝からお祭り騒ぎだ。世界樹が手に入ってよほど嬉しいのだろう。しかもサラマンとドルイドは引越しの準備を始めている。どうやら世界樹にできる聖国に引っ越すようだ。まあこの二人はいつも精霊のそばにいるからな。

 それはそうと俺は一番大事なことをやらないといけない。それはリッカーの孫娘のための薬作りだ。そのために俺はドルイドとヤクに連絡を取る。するとすぐに作業に入ってくれた。

ドルイド『“世界樹……根……葉…”』

ヤク『“そうですな。世界樹の根には強い解毒の作用がたまっております。葉には強い治癒の力が。根に少し傷をつけてそこから樹液をとりましょう。葉は10枚もあれば十分でしょう。”』

ミチナガ『“しかしよく作り方がわかるな。”』

ドルイド『“……教える…”』

ヤク『“世界樹が教えてくれますから、と申しています。まあ実際のところ適当に作っても世界樹ならば大抵は治ります。今回は特別のようですが。”』

 こいつら案外仲良いのかな?意思疎通がバッチリだ。それから数分も経つと薬が完成した。あとはこれをリッカーに渡せば良いだけなのだが、どうやったら渡せるだろう。いきなり世界樹の薬できました、なんて言っても怪しまれるし、信じても問題になりそうだ。

 何か自然な感じに渡せる方法はないものか…。まあなんか無理やりやってみるか。しばらくそのまま待っているとホテル側から迎えが来たと連絡が入る。俺はウィッシとナラームを連れてそのまま下に降りる。ホテルの目の前にはすでにリッカーが待っていた。

「それでは孤児院までお送りします。」

「すみませんリッカーさん。その前にお孫さんに合わせてもらえませんか?私の旅の道中で手に入れた薬がありますのでそれを使って欲しいんです。気休めにしかならないかもしれませんが…それでも何もしないわけにはいかないんです。」

「……ありがとうございます。ではお願いしましょうか。何もしないよりかは良いでしょう。」

 そういうとリッカーは行き先を変更する。なんとかこれで向かうことができた。あとはこの薬さえ飲ませればミッションコンプリートだ。

 リッカーの移動していった先は柵に囲まれた公園だ。しかし遊具などがあってもそこで遊ぶ子供はいない。しかしなぜ公園になんて連れて来たのだろうと思ったらそこからさらに先に進む。するとそこには門があった。

「え?…もしかしてこの柵で囲まれたところって…」

「うちの敷地です。まあ広いだけで使い勝手の悪いところです。門を通っても屋敷まで10分はかかりますから。」

 どんだけ広いんだよ。その後門をくぐると確かに屋敷まで10分ほどかかった。道中には様々な趣向を凝らした庭が見えた。しかしウィッシやナラーム曰く薬草系が多いらしい。やはり世界樹以外の治す方法もずっと考えて来たのだろう。

 そのまま魔動車は屋敷の前に止まると執事の人は俺たちが降りたのを確認してから魔動車を何処かへ仕舞いに行った。リッカーは俺たちを屋敷の一室に案内した。その部屋は朝日が出たのにもかかわらずカーテンを閉め切っている。そこには幾人かの使用人とベッドの側にいる老人とベッドで寝ている人らしきものがいる。

「暗くてすみません。日光に当たることもできない状態なんですよ。」

「いえ、近づいても大丈夫ですか?」

「ええ、それと…そのベッドの傍にいるのが私の息子のリカルドです。もう意識も朦朧とした状態なのでご挨拶もまともにできません。」

 俺はそれを聞いてギョッとする。なにせそのベッドの傍にいるのはどっからどう見ても老人だ。リッカーとさほど変わらないと思うほど老いた男が息子だと言われて驚かない方が無理だ。

 一体何をしているのかと聞くとベッドで寝ている孫娘に常に癒しの魔法をかけているのだという。自分の娘が痛みに苦しまないように、必ず治るように、毎日祈るように魔法をかけているのだという。

 自分の娘のためにここまでやれるなんて親の鏡だ。まともに眠ることすらできていないだろう。この人のためにも早くなんとかしないと。俺はスマホからドルイドとヤクと出す。そしてベッドに横たわる孫娘に近づく。

 俺は暗い中、ベッドに近づくとそこに寝ている孫娘を見て思わず悲鳴をあげそうになった。その孫娘はもう人の形をしているだけで、もう人間とは呼べないような状態だったのだ。全身はまるで炭のように黒く、靄が出ている。もう表情も読み取ることは難しい。

 正直もう死んでいると確信してしまうほどの状態だ。しかしよく見て見ると胸のあたりが動いている。ちゃんと呼吸しているということはまだ生きているのだろう。俺は早速ヤクに頼み、薬を貰おうとする。しかしなぜか返事がない。スマホで話しかけるとようやく返信が来た。

ヤク『“これは無理です。もう治しようがありません。今も生きているのが不思議なくらいです。世界樹の薬ごときじゃどうしようもありません。”』

ミチナガ『“な、なんでだよ!世界樹ならどんな病いも治せるんだろ!だったら…”』

ヤク『“もうこれは世界に呪われていると言えます。正直…死なせてあげるのが唯一の救いだと…”』

 そんな、そんなことってないだろ。これで治せると思って意気揚々とやって来たのに蓋を開ければやっぱり無理ですなんて。それにまだ子供だぞ、ここに来る道中のリッカーの話だと今年でようやく10歳になるそうだ。そして呪われたのは4歳の頃だ。

 まだ生きることがどんなことか、どんなことが楽しいかわからないような子供に対して死ぬことが唯一の救いなんてそんな理不尽なことがあってたまるか!それとも何か?死んだら異世界に行って今度は楽しくってか?そんな夢のような理想だけを言ったって何の救いにもならない。


 俺は…俺はこんなにも無力なのか……

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