スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第106話 男と使い魔の旅

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「それにしても本当に良かったのかよ。あんな出会ったばかりの男に任せて。人に会わなかったのもなんかの犯罪を犯したからって可能性もあるんだぞ。」

「なーんか信用できると思ったんだよ。それになマック。あんな強い男と専属契約を結べる利点があるんだからちょっとくらい細かいことは言わない方がいいんだよ。」

 何事もその場の感と適当さが大事なんだよ。もしも裏切られたとしても俺の感が外れただけと諦めれば良いだけだ。その時はあの使い魔に自分の復活ポイントの皮袋を破棄させて自殺すればこのスマホに戻ってこられる。割と痛手になるほどのことでも無いのだ。

 それにすでに利点の方が出始めている。スマホのマップを確認してみると一直線に新しい道が更新されている。おそらくあの男が今朝起きてから一気に場所を移動したのだろう。縮尺がいまいちわからないがおそらく100キロ以上は移動している。

「なあ、ここから南西に100キロくらいって何があるかわかる?」

「南西に100キロ…ちょっと待て」

 ウィッシがマップを見ながら確認してくれる。世界地図的なものではなくいくつかの地図を照合しながら確認するため時間がかかるのだ。数分後、ようやく確認が終わったようだ。

「おそらくだがメリアント遺跡の龍脈の噴出口近くだな。あのあたりはモンスターの多くでる危険地帯だが…何かあったのか?」

「いや、昨日の男がそこに行っているみたいなんだ。大丈夫かな…」

「あの男なら問題あるまい。それほどの実力者だからな。」

 よくわからないけど問題ないのならまあいいか。こっちの道のりはどんな調子かも聞いてみるとしばらくは周辺の村々に立ち寄ることもできず、のんびりとした旅になるそうだ。まったりできるのは実に良いな。あの新入り…大丈夫かなぁ…




 時間は早朝に遡る。ミチナガたちと別れた男と使い魔は一直線に走り出していた。男は律儀なもので、モンスターの素材を収集するという仕事を任せられたからと以前行ったことのあるモンスターの多く生息する地点に移動していた。

 男の移動速度は凄まじく、100キロ以上の道のりをわずか30分ほどで移動してしまった。使い魔はしがみつくことも困難だと判断し、皮袋の中でゆったりと過ごしていた。かなりの移動速度にもかかわらず、使い魔がゆっくりできたのは男が意識的に使い魔の入った皮袋を魔力で守っていたからだろう。

 男は目的地に到着し、一度立ち止まった。その瞬間を待っていたかのように周囲からモンスターが襲い掛かった。男が立った場所はオークの巣だ。100を優に超える数の巨体のオークたちが男に襲いかかる。

 襲いかかるオークは通常の種とは少し異なるものだ。魔力が土の性質に変化しているアースオークと呼ばれる異常種だ。皮膚は岩のように固く、一体一体がマックたちC級冒険者と同等の力を秘めている。

 しかし男にとってはそんなものは全く関係ない。襲い掛かってきた数体の首を手に持ち折り倒す。しかし数が多いのでさすがに男でもそんな戦い方では捌き切れない。だが、アースオークの攻撃が何度男に当たっても傷一つつかないどころか動かすこともできない。

 そんなことを続けているうちに100体はいたアースオークたちは全て倒された。しかしこれで終わりではない。その様子を遠くから他のアースオークたちが眺めていた。そのアースオークは今までのアースオークとは体格そのものが違う。

 そのアースオークはアースオークソルジャーと呼ばれるアースオークの上位種だ。しかもそのアースオークソルジャーの後ろにはアースオークジェネラル、さらにアースオークキングまでいる。本来アースオークソルジャーはB級冒険者、アースオークジェネラルはA級冒険者つまりメリリドクラスと同等の戦闘力だ。

 その上アースオークキング、これはS級冒険者、つまり魔王クラスと同等の力を持つ。しかもそのオークもアースオークという異常種だ。危険度はさらに上がる。この巣を潰すにはA級冒険者数十人が必要だ。いや、それでも厳しいかもしれないというレベルの脅威を持ったモンスターの集団である・

 しかし男はそんな他のアースオークを気にしないかのように皮袋の中の使い魔を取り出してナイフを手渡した。

「そいつらの首を切って血抜きをするんだ。血を抜き終わったら解体してくれ。…できるか?」

 使い魔はこくりと頷く。ナイフには使い魔でも解体できるように男の強い魔力が込められている。岩のように硬いはずのアースオークの首の頚動脈が豆腐のように綺麗に切れる。頚動脈からは血が勢いよく噴出する。

 男がわざわざ首を折ってアースオークを倒したのは心臓を動かし続けられるようにするためだ。実は首を折っただけなのでアースオークはまだ死んではいない。ただ動けなくなっただけなのだ。だから動き続けている心臓が血を頚動脈から勢いよく噴出させているのだ。

 男は使い魔が順調に作業に当たれているのを確認してから今までこちらの様子を伺っていたアースオークソルジャーたちの方へ向かう。そこからの戦闘もまた単純なものだった。

 向かってきた敵は首を折って倒す。それがジェネラルという上位種であろうが関係ない。同じことを繰り返すだけだ。首を折ったアースオークは使い魔が血抜きをしやすいように使い魔の近くまで投げ飛ばしてやる。そんなことをする余裕まである。

 やがて手下の半数以上がやられたところでアースオークキングが立ち上がった。その手にはかつて自分を討伐しにきたであろう冒険者から奪った武器を持っていた。そのアースオークキングは仲間ごと襲いかかる男を切り払おうとする。

 しかしその武器は仲間のアースオークを切る寸前で止められていた。武器はピクリとも動かない。男がその武器の切っ先をつかんでいるのだ。男は武器ごとアースオークキングを投げ飛ばした。男よりもはるかに大きい巨体が宙を舞う。放物線を描いた巨体はやがて巨大な地響きとともに地に落ちる。

 アースオークキングは何が起きたのかわからずしばらく混乱していたがなんとか起き上がった。しかしその時には仲間は全員、男によって起き上がることを許されない体にされていた。アースオークキングは自らの手下を奪われたことに怒り狂った。そして武器を振り回し、そこからは熾烈な戦いが始まる、はずだった。

 戦いは意外にも単純で簡単に終わった。アースオークキングが振り回す武器を男が避け、背後に回りチョークスリーパーにかけた。あまりのことにアースオークキングは男を振り払おうともがいたが、男がさらに首をきつく絞めたため、その場で意識を失った。男がこの地に降り立ってからわずか10分ほどの間に起きた出来事だった。



 使い魔は眷属を呼び出して5体がかりで血抜きを行なっている。細かい解体は男がやってくれている。しばらくして血抜きが終わった段階で使い魔は気になったことをいくつか質問し出した。しかし使い魔は言葉を発することができない。なので地面に文字を書いて筆談を試みる。

「む、なんだ…それは…確か文字というやつだな。すまない、俺は読めないんだ。」

 まさかの意思疎通の唯一と言える手段が通じなかった。思わぬことに使い魔も地面に文字を書いていた棒を手から落とした。このままでは何も会話が成立せずに過ごすことになる。そこからはなんとか伝えたいことを身ぶり手振りで伝えようとするが、男は感が悪い。

 なかなか伝えることができず、30分ほどが経過した。それでも伝えようと必死に頑張ったおかげでようやく男も何を言いたかったのかを理解したらしい。

「なぜ、オークが回復しなかったかということを聞きたいんだな。」

 そう、使い魔が聞きたかったのはなぜアースオークたちは首を折られた後に自然回復が起こらなかったのかということだ。通常なら首の骨を折られてもこのレベルのオークなら数秒で回復し元どおりに動けるようになる。しかし今回はそうならなかった。それはなぜかということを聞きたかったのだ。

「折った箇所に魔力をこめるんだ。すると回復しようとした魔力を遮ることができる。毒のようなものだ。」

 攻撃箇所に魔力を沈着させて回復を行わせない。実はこれは高等技術でもなく誰もが行う単純なことだ。魔力による自然回復があるこの世界ではいかに相手に回復させないかが肝になる。単純な話、心臓を刺されても魔力さえあれば回復して死ぬことはない。首を刎ねたり、心臓を抜き出しでもしないと死なないのだ。

 そうなるとどんな戦いも泥仕合になる。魔力が残る限り相手が死ぬことはないのだから。だから傷口に魔力を沈着させて回復阻害を起こし相手を倒すのだ。心臓を突き刺し、魔力回復を一定時間させなければ相手を殺すことができる。

 使い魔が頑張ってそんなことを聞こうとしているうちに、いつの間にか解体が全て完了した。後はそれを収納するだけなのだが、解体してもものが大きすぎる。この大きさでは使い魔の口には入らず、収納することが困難だ。

 そこで行う方法が一つ一つ収納するものを抱きしめてゆっくりと収納する方法だ。使い魔が収納したいものを抱きしめて念じていると大きさにもよるが解体した状態ならば10秒ほどで収納できる。これは出すときも同じで大きいものは大抵こうして念じている。

 今回はかなりの量なので収納だけで1時間はかかりそうだ。しかしこんなモンスターの多くいる中で血なまぐさい匂いを漂わせながらゆっくりしていれば次の来客が来る。すでに男は再び臨戦態勢に入っている。

 匂いにつられて集まったのは数十を超える様々なモンスターだ。しかもまだまだ集まって来る気配まである。しかし男に焦った様子はない。むしろまだまだ集まって来ることを予見していたようである。

 男は何も言わずに黙々と集まってきたモンスターを討伐し始める。それはモンスターが男を殺すことを諦めるまで行われた。そして使い魔は収納と解体だけの作業を日が暮れ、夜が明け、さらに日が暮れるまで続けた。




ミチナガ『“な、なぁ…なんか倉庫に大量のモンスターの素材があるんだけど…”』

ポチ『“なんかまだまだ送られて来るよ~。薬草も収穫しているみたい。なんの素材なんだろうねぇ~”』

「お、おい、誰かこの素材なんのモンスターかわかるか?」

「それは…確かアースオーク…それに大地蛇…おい、こういうのはウィッシ、お前が詳しいだろ。」

「……なんの素材かわからないのもあるが、一つ言えることは今あるそれだけの素材を売った金だけで家が建つぞ。それもそこそこ立派なのがな…」

「ま、まだおんなじようなのが山のようにあるんだけど……一体どんな旅しているんだよ…」

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