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第102話 南国アラマード村

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 翌朝、再び俺は馬車に揺られている。今日は昨日と違って二日酔いも完全に抜けているので馬車酔いもなくゆったりとした旅を続けられている。予定では今日の夜にあの南国フルーツを栽培している村にたどり着く。

 それと今朝起きた時にスマホのマップを確認したところ野営地周辺のマップが埋まっていた。どうやら俺が寝ている間に使い魔達が働いてくれたらしい。すでに遺産を探すための行動は始まっているようだ。

 そんな中俺は、使い魔達を手伝うこともできないのでスマホをいじっている。しかしスマホでは現在作物の大量生産は中断している。毎日必要な分だけを生産するだけにとどめている。その分時間が空いたので今まで作ることが難しかったものを生産しようと試みている。

 前までは失敗すると材料を無駄に消費して嫌だったのであまりやらなかった。だがスマホがこんな状況になった今では失敗することはむしろプラスに働く。心置きなく失敗することができるようになったのだ。

『また失敗だ!一からやり直してこい!』

「やっぱ日本刀は難しいなぁ…だけど何回も失敗したからスミスも最初よりかは上達しているな。」

 今は日本刀を作ろうと模索している。レシピはすでに購入しているのであるのだが、レシピのレベルが高いらしくてなかなか良いものができない。本来は鉄は限りがあるのであまり消費したくはないのだが、鉄はそのほとんどが女神ちゃんガチャで手に入れたものだ。だから失敗して消費してスマホに還元しておこう。

 他にもやっていることはある。今も畑では見た目の悪い作物を堆肥に変えている。今までは何でもかんでも売っていたが、少しでも力を還元した方が良いので見た目の悪いものを堆肥に変えて畑に戻している。そうすることで畑のレベルも上がるし、スマホに力が還元される。

 やれることは全てやるつもりだ。ちょっとした省エネ対策だな。ちなみに社畜は現在もどんどん研究し、どんどん失敗している。本来なら怒るところだがそれで良いというのがなんというか…

 それと数名はゼロ戦を綺麗に磨いている。マザー曰く、今のゼロ戦は長年、誰の目にも止まることなく放置されていたので遺産としての力がだいぶ衰えているらしい。その力を少しでも取り戻せばスマホの回復力にもつながるので、一生懸命丁寧に磨いている。

 それ以外にも馬車を止めた休憩中には使い魔達は周辺の探索をするとともに枯れ葉を集めている。これも堆肥に変えるのだが、その際にほんの微量ではあるがスマホの力が回復するらしい。どのくらい微量かというと枯れ葉1トンで俺の飯一食分くらいだ。まあ気休め程度にもならないが、ファームファクトリーの畑のレベルも上がるのでやらせている。

 そんなこんなで日が沈みかけた頃、ようやく目的の村にたどり着いた。ここが南国のフルーツを育てることのできる村、北方の南国アラマード村である。

 村に入る際にはそれなりの手続きが必要なのだが、俺の名前を出したら1発で通れた。その後は村総出で歓待をしてくれた。普通に宿に泊まろうと思っていたのだが、村長に言われるまま今日は村長の家に泊まることとなった。

 村長の家では豪華な料理が提供されこれでもかというほど食べさせられた。どれも味わったことのない食材ばかりだ。おそらく南国系の野菜なのだろう。他に似たような野菜を見たことはない。香辛料の他にフルーツも混ぜたソースがあるのだが、これが案外病み付きになる。

 酒も勧められたのだが、一杯程度でやめておいた。二日酔いの悪夢をしっかりと覚えているからな。それに明日は一日農場を案内されるつもりだ。二日酔いの状態で案内されたくはない。

 ただ酒は果実酒らしく、独特の香りと甘みがある。これが癖になりそうなのだが飲めないのが残念だ。横目で見るとマックたちはこれでもかと言うほど飲んでいる。羨ましい。

「よくぞおいでくれました。まさか本当に来られるとは思ってもみませんでした。」

「ああ、あなたはあの時の商人の方ですか。いやいや、実に興味深かったので是非とも来たかったのですよ。」

 いつの間にか隣に前に俺がバニラビーンズを大量購入した商人が座っていた。少しその商人と話し込んでいると一人の女性がこちらに何かを持ってきた。

「新鮮なフルーツは提供できないのですがこちらを召し上がってください。以前収穫したフルーツを乾燥させたものです。」

 出されたのはドライフルーツだ。収穫するたびに必ず作るようにしているのでそれなりに数があるらしい。栄養価も高いので、食料不足になってもこれを食べて入れば飢えることは決してない。問題はどれも甘いのでしょっぱいものが欲しくなることくらいかな。

「ありがとうございます。しかし見た所多くの種類があるようですね。それほど多くの種類を栽培しているのですか?」

「貴族の方々に好まれるので一つ一つが良い値段で売れるのです。さらに貴族の方々は様々なものを食べたがるのでそれに合わせて栽培する数を増やしているんです。」

 つまりこの村は貴族御用達の村ということか。まあこれだけ珍しいものがあれば欲しくもなるよな。貴族は基本的に生のものを食べたがるのでバニラビーンズやドライフルーツは人気がないらしい。そういったものを街まで売りに来て稼いでいるようだ。

 とはいえ、村の運営資金は多くの貴族の人々が払っているので全く問題ないらしい。だから街まで売りに行くのはちょっとした小遣い稼ぎや、街に嫁いで行ったり働きに行った村人のためらしい。

 その日はほどほどにしてお開きにした。まあ俺はほどほどなのだがマックたちはすでに出来上がっている。そんなマックたちは放っておいて俺は久しぶりの馬車旅で疲れているのですぐに眠ろうかと思ったのだが、村長に手招きで呼ばれた。その手招きで呼ばれるままついて行く。すると村長宅の裏の別の建物についた。

「この村の名所の一つの温泉でございます。少しおかしな匂いはしますが体に害はないのでどうぞお入りください。」

「温泉!しかもこの匂いは硫黄ですね!ありがとうございます!」

 まさかの温泉!しかも硫黄の温泉だ。この匂いが嫌いな人もいるだろう。しかし温泉好きの俺には最高の香りだ。前世は成人してからはアフィカスだったのでなかなか温泉に行く気が起きなかったが、学生の頃はよく行っていたものだ。一人でだけど…

 すぐに温泉に入りに行く。温泉は村長がすでに貸し切ってくれていたおかげで誰もいない。まあ正直なことを言うと誰かいても全く問題はないんだけどね。おそらく裸の付き合いが苦手な人の方が多いから気を使ってくれたのだろう。

 俺は建物の中に入り二階へと上がる。随分と段数のある階段だ。しかしなぜ二階?と思ったのだが服を脱いで浴場に入ればそれがすぐにわかった。

「すげぇ…露天風呂だ……」

 全て木造の大きな露天風呂だ。少し危険だが手すりなどがないので視界を遮るものがない。しかもこの村の周囲は大きな街がないので無駄な明かりがない。それがどういうことかと言うと上を見上げればすぐにわかる。

 夜空一面の星空だ。しかも今日は雲がない上に新月なので星がよく見える。もうこれでもかと言うほど星がよく見える。じっと星空を眺めていると星が一筋の光を描く。流れ星だ。しかも一つ目の流れ星につられるようにいくつもの星が流れている。本当に綺麗な光景だ。

「やばい…これはやばいわ……ああ、もう最高。」

 人々はすでに夢の中なのだろう。聞こえる音は湧いた温泉が湯に注がれる音と風の音だけ。それに匂いも温泉の硫黄の匂いだけかと思ったら、その奥にかすかに木の香りもする。冷たい風が吹き顔に当たる。思わず身震いしそうな冷たい風は火照った体にはちょうど良い。冬の到来も近いのだろう。

 しかし先ほど村長の家で食事をしていた際はそこまで寒くなかった。いや、むしろ暖かいくらいだ。この建物の2階と言うだけでそこまで寒くなるのだろうか。ふと、身を乗り出し下を覗く。そこには建物があると思いきやうっすらと木々が見える。おそらくそこが農場なのだろう。

 その農場のある場所は窪地になっているように見える。窪地の中で作物を育てているようだが、なぜそんな面倒なことをしているのだろう。窪地では行くときも帰るときも面倒だ。まあその辺は明日聞こう。

 今日は面倒なことを考えずにとにかくこの湯を味わおう。はぁ…最高の湯だ。もうここに住みたい…もう働きたくないでござる。

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