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第101話 スマホの限界
しおりを挟む「え…ちょ…あ……え?」
マザー『“落ち着きを取り戻すまでに他の使い魔の方々を集めておきます。”』
俺は言葉にならない声を出しながら、必死に混乱した脳を回転させていた。しかしあまりの動揺に混乱した脳が元に戻る雰囲気はない。なんせ2億枚あまりの流通禁止金貨が消え去ったのだ。その混乱を落ち着けることなんてすぐにできるはずがない。
マザーは使い魔たちの作業を止めさせて集合させている。しかし俺は全く混乱から正気に戻ることができない。だって2億枚だぞ。数万枚で町の復興ができるレベルなのにそれの10000倍近くの金貨がいつのまにか、いやおそらく一晩で消えたんだぞ。
マザー『“混乱しているようですがなぜそうなったかという理由を説明していきます。”』
マザーは混乱している俺にもわかるようにゆっくりと説明を始めた。まずは事の発端だ。マザーが解放されたことにより今まで明かされなかった真実が一つ明かされた。明かされてしまったのだ。
それはこのスマホの酷使だ。はっきり言って俺はこのスマホを酷使し過ぎてしまったのだ。このスマホはすごいからなんでもできる。しかしなんでもできることにデメリットがないわけがないのだ。
それはもちろん鬼畜的なスマホ操作というものもある。しかしそれも今回のことからすれば可愛いものだ。それにその鬼畜タップやシビアなタップのタイミングなども今回のことが起こらないようにするために必要不可欠なことだったのだ。
今回の問題、それはスマホの力の限界である。そもそもこのスマホだけでなんでもできるというのは異常なのだ。このスマホ一つの中に川も海も森も山も畑も家もなんでもある。もうスマホの中は一つの世界なのだ。
そんな世界に俺は山ほど建物を建て、畑を作り、そこから大量に収穫している。収穫すればするほどこのスマホの中の力を使用していることになる。持ち出せば持ち出すほどこのスマホの中の力は失われる。
新しく作物の種を、料理のレシピを解除することだってそうだ。難解なものを生み出すのにはそれだけ多くの力を消費する。俺はそれを全て解放してしまった。おまけに使い魔だ。自我を持つ生命を生み出すことなどどれだけ多くの力を使うのだろうか。
俺が今まで消費してきた金貨や鬼畜のようなタップ連打はその力を少しでも補うために必要不可欠なことだったらしい。作物を育てるのに畑のレベルがあったのは、そのシステムを少しずつ構築できた故の成果だったらしい。
マザー『“今回の一連の騒動で多くの作物がスマホから取り出されました。それは大きな力の減退に繋がります。今回多量の金貨を消費したのはその穴埋めです。”』
ミチナガ『“なるほどな…その力は他に戻る方法はないのか?”』
マザー『“複数あります。今までは使い魔の復活による金貨消費での補充、使い魔の社畜による研究による金貨消費での補充、それにスマホが持つ自己回復力です。”』
ミチナガ『“な、なんか色々気になるワードが出てきたんだけど…”』
ポチ『“僕たちの復活の時の金貨消費はほとんどスマホの力の回復に当てられていたらしいよ~”』
社畜『“我輩の研究による金貨の大量消費もそのほとんどはスマホの力の回復に当たっていたらしいのである。”』
話を詳しく聞くと使い魔の復活というのは使い魔の魂がスマホに自動転送され、金貨消費によって肉体を再構成する。その再構成に金貨の力を使うのだが、その力はほとんどスマホに還元されるらしい。
わかりやすく例えるなら金貨で型を作り、その中に使い魔の魂を注ぎ込む。注ぎ込まれた魂は金貨で作った型の通りの形になって完成する。完成してしまえばその型は必要なくなるので吸収されてなくなるということだ。
それと社畜の件も似たようなもので、金貨を消費して新しいものを研究し開発する。だがその際にポンコツなため作り出すものをはっきりと決めていないので無駄に金貨を消費してその力が霧散していく。その力をスマホに還元して吸収するのだ。だから社畜のポンコツさがこの件を多少解決していたらしい。
マザー『“本来は課金によるレシピの解放ももっとゆっくりと行われるはずでした。しかしそれが一気に解放されたため自己回復が追いつかなくなるほど力を消費してしまったのです。優秀すぎるが故の弊害というものです。”』
ミチナガ『“じゃあ…今後自己回復されるまでの間はスマホをあまり使わない方がいいってことか?”』
マザー『“それも厳しいです。現在もミチナガ商店で商品を大量に販売しています。多少流通量を減らしても自己回復を待っていたら数十年はかかります。”』
つまり今後はスマホの力を使用せずにうちの商会を運営しない限りは店を増やすことも難しいし、規模を大きくするのも厳しいってことか。もう完全な打ち止め状態だ。正直ここまでが順調過ぎたっていうのもあるな。しかしこのままの運営で現場と同じように数年先も続けていける気がしない。
マザー『“しかし一つだけ確実な打開策があります。それは遺産、遺品の回収です。”』
ミチナガ『“遺産や遺品?遺産はあのゼロ戦のことだよな?遺品はわからないけど。”』
マザー『“遺産、遺品はこの世界とは別の世界からきたものです。遺品はカイのような世界を渡り手に入れた特殊能力のことです。それにより私は生まれました。”』
遺産は力を持った物のことで、遺品は特殊な力のことだ。違いは、遺産は力をさらに生み出すことができる、遺品はただの力の塊のことらしい。価値としては遺産の方が高い。なんせ遺産はそのもの自体から常に力を生み出すことができるからだ。
しかし遺品に価値がないわけではない。遺品は年月が経ち能力が強化されると力が強くなり価値が高くなる。カイの場合まだ世界を渡ってすぐだったのでそこまで遺品に力はない。
ミチナガ『“それはつまり…異世界から来た人間を探して……殺して奪えってことなのか?”』
カイのように殺して奪い去る。殺して奪って奪いまくること、それがこの世界で成り上がるために必要なことだというのか。つまりここからは異世界人同士のバトルロワイヤルが始まるっていうことか。今まさにここから新たなダークファンタジーが始まろうと
マザー『いえ、遺品も普通に同意さえあれば受け取ることが可能です。必ずしも殺す必要はありません。それに重要なのは遺産です。遺産は持ち主が死んでもこの世に残り続けるので勝手に回収することが可能です。』
ミチナガ『“あ、そっすか。”』
なんか勝手に意気込んで覚悟きめようとしたのが恥ずかしい。そういえばこの世界には昔から異世界人が来ていたらしいから探せばいっぱい残っていそうだな。しかもマザー曰く遺産は破壊されても時間経過とともに元に戻るらしい。
そうなったら遺産がたくさんありそうなところを目的地にするか。あ、そういえば前にルシュール辺境伯から異世界人が作った超大国があるって聞いたな。確か…オリンポスだったかな?今では滅んだらしいけど跡地に行けば何かしら残っているかもしれないな。
ミチナガ『“ちなみに現状だと、どのくらい持つんだ?”』
マザー『“現状の支出では1%で5日ほど持ちます。残りが24%ですので120日は持ちます。ですが支出が増えればさらに短くなるでしょう。この計算はあくまで最長で120日です。”』
120日か。そう聞くと長いように思えるがこれからこの辺りは冬になる。そうしたら動けなくなってしまう。時期的に考えて期限は春頃までっていうことだろう。場合によっては春前になる可能性もある。動けない期間を含んで120日となるとかなり短いように思える。
ミチナガ『“ちなみに今回は金貨を消費したらしいが1%の回復にいくらかかるんだ?”』
マザー『“1%の回復に約1000万枚です。今回は金貨2億枚分を消費して20%回復しました。”』
そ、それはまずいだろ。下手をしたらあと1年もかからないでミチナガ商会全店閉店するぞ。ミチナガ商会潰れたら俺どうすりゃいいんだよ。異世界でニート生活始まっちゃうよ。いや、家もないからホームレスか。どっちにしろアウトだけどな!
ミチナガ『“ち、ちなみにその遺産とか遺品とかを感知するレーダー的なものは。”』
マザー『“あるのかもしれませんが現状はありません。それはこれから発見する遺産や遺品に応じてです。”』
それじゃあ完全に世界中をくまなく探すしかないな。ある程度情報があればいいんだけど、オリンポス以外にまともな情報もなさそうだしなぁ。いや、聞き込みをするだけの価値はもしかしたらあるかもしれない。とりあえずちょっとした噂話レベルでも良いから情報を集めるか。
マザー『“そこで一つの方法を提案します。我々使い魔を別行動させ探させるのです。そうすることでわずかですが発見する確率が上昇します。”』
ミチナガ『“それってあまり意味なくないか?死んだらすぐにこのスマホに戻ってくるし。”』
社畜『“それに関しては我輩の研究成果があるのである。我輩の生み出したこの皮袋を使えばその皮袋を起点に復活することができるのである。ただし家と違ってスマホに戻ることはできないのである。”』
いつのまにそんなものを。聞いたら前にルシュール辺境伯たちと一緒に妖精の隠れ里に行った時の道中で討伐したモンスターの毛皮を使ったらできたらしい。そういえばそんなものを貰っていたな。何かの役に立つと思って売らずにとっておいたわ。今確認したら色々な素材が実験の失敗によってほとんど在庫がなくなっていた。この野郎…だけど怒りにくい。
しかしみんなで探す戦術か。それは実に悪くない。頭の中で思い描いてみる。各地に散らばった使い魔達がそれぞれで行動して遺産を見つける。その道中、店で売れそうなものを探すなんてこともしたらさらに良いな。なかなかいいプランかもしれない。しかし
ミチナガ『“それはやめておこう。使い魔の大きさじゃあ移動速度もたかが知れているし、何か問題が起こっても嫌だしな。みんなと離れ離れっていうのも寂しいだろ。”』
マザー『“了解しました。では休憩中などに周囲に散会する程度にとどめておきます。それでしたら問題はありませんか?”』
ミチナガ『“そうだな。そうすればマップも埋まるし良いかもな。”』
話し合いはそこで終わり、俺はもう遅いので眠ることにした。なんだか最後の最後にどっと疲れたな。しかし遺産を探さないといけないのか。結構面倒だな。
そう考えるとやはり確かにマザーの案は良いのかも知れない。使い魔達を別行動させて探させるというのは少しでも可能性は高まるだろう。
しかし絵面で考えて欲しい。使い魔達はそれぞれ自分と同じ大きさの袋を持って森の中を駆けずり回る。モンスターに襲われ何度も死ぬだろう。雨風にさらされ、人に拐われるかも知れない。そんな中俺は悠々自適に宿のベッドでスマホをいじる。
そんなことになったら俺とんでもないド畜生じゃん。そういうこと考えたらやっぱり許可は出せないでしょ。
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