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第86話 異世界初戦闘
しおりを挟む「も、もう無理だ…もうここまで逃げれば…大丈夫なはずだ……」
「陛下!頑張ってください!まだ戦闘の音が聞こえています。まだそこまで離れられてはいません!」
遠くの方から金属の激突音が聞こえてくる。一体どれだけ激しい戦闘を繰り広げているんだ。スマホで確認するとすでに1キロ以上離れている。それなのに、ほんの数十メートルしか離れていないようにも聞こえてくる。まあそのおかげでだいぶ移動することができる。
しかしそろそろ馬での移動も限界だろう。カイは慣れない馬上にいるため足腰が限界のようだ。道中はゆっくりと馬を歩かせたためそこまでしんどくはなかった。
しかし今は馬を最大まで走らせている。そんなことを慣れないうちにすれば足腰、特に尻は限界だ。かくいう俺もすでに限界に達している。尻の皮がベロベロ剥けてしまいそうだ。馬から降りた後もまともに歩くのは辛いだろう。
しかしそれでも離れる必要がある。いざという時のためでもあるし、ある一つの要因を取り除くためでもある。確証はないが、それでもこの要因を取り除かない限り手段は限られてしまう。
「あ、ああ!まずい!お、おい!止まれ!今すぐに止まるんだ!!」
「ど、どうなさいましたか?」
尋ねても止まれとしか言わない。しかしあの焦りよう。どうやらうまくいっているようだ。取り除きたい要因。それはカイと城にある魔力タンクとのつながりである。俺は当初触れていない限り繋がりも何もないと思った。
しかし魔力タンクは常に王と繋がりがあり、いざという時に王の意思一つで国を守る防壁を展開することができるのだ。カイはその魔力を洗脳のために使っているが、その魔力との繋がりがある限りカイの魔力量は膨大なものになる。
そして魔力量の差が生じるため、俺の攻撃の一切はカイに通らなくなる。まあいくつか魔力タンクの利用に関しては欠点があるため、なんとかできないこともない。しかし魔力量が少ないに越したことはない。どうやら準備は整ってきたようだ。
俺はなんとか馬をカイの馬に寄せる。ミミアンたちにその馬術の技法は多少聞いておいたが聞くのとやるのでは全く違うな。かなり時間がかかった。しかし時間がかかるのも今は好都合だ。
「陛下!いかがされましたか?」
「まずい…本当にまずい…魔力の繋がりが切れた…い、いや大丈夫だ。俺の魔力はまだあの国に停滞しているはずだ。今すぐ戻れば…おい、この馬を止めろ!早く!」
俺はカイの馬の手綱を握る。あとはこれを引けば止まるのだが、もう少し移動しておきたい。なのでこっそり持ってきたカミソリのように小さく鋭い刃物で気がつかれないように手綱を切った。
「ダメです陛下。手綱が切られています。おそらく盗賊の攻撃の一部が掠ったのでしょう。それでは馬の首筋を撫でて落ち着かせてください。そうすれば馬が落ち着いて自然と速度を落とすはずです。」
「わ、わかった。首筋だな。ほ、ほら、いい子だから落ち着け…落ち着けったら!」
かなりテンパっているようだな。俺がちょっと怪しい行動したくらいじゃ全く気がつく様子がない。それに馬を落ち着かせようとしているが、焦っているせいでなかなか落ち着かせられない。いい感じだ。
それから数分はそのまま走り続けたが、流石に国王馬というだけあって素人でも随分落ち着かせられている。この調子じゃあもう時期止まるだろう。しかし馬を落ち着かせてそのまま馬に乗って移動されてしまってはかなわない。
なので馬の首筋をさすって落ち着かせることに集中しているカイに気がつかれないように、前にメリリドさんからもらった短剣をスマホから取り出してカイの馬の尻に刺す。
たちまち馬は痛みに驚き前足をあげて立ち上がる。カイはそれに耐えられるはずもなく無残に落馬した。俺はそのまま馬に乗ってカイの先に行く。背後から聞こえるうめき声にここまでの成功を喜ぶ。
そして俺も馬から降りなければならない。しかし俺も馬の扱いには慣れていない。おまけにこの馬はそこまできちんと調教されていないので華麗に止めるのは無理だ。それに俺の馬があっては二人乗って移動されてしまう。
だからここは華麗に馬から降りることにした。ここは森の中だ。木々の枝も多くある。俺は多少減速した馬上から手頃な枝にしがみついて馬から降りる。完璧、まさにそう思った。しかしいくつか問題があった。
それは俺がそこまで運動が得意でないことだ。俺は枝にしがみつくという名の体当たりを敢行し打ち身になる挙句、せっかく掴んだその枝はポキリと折れて地面へと叩きつけられた。頭から落ちたわけではないが背中が叩きつけられたので呼吸困難になりしばらくうずくまった。
せっかくのカイを殺すチャンスだというのに…。なんとか急いで回復しカイの元へ向かう。しかしその頃にはカイも起き上がり呼吸を整えていた。
「陛下、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけがあるか!ゴホッゴホッ……馬はどうした?」
「どこかへ逃げられました。私の方もあのあと暴れてしまい…申し訳ありません。」
「くそっ…仕方がない。歩いて移動するぞ。」
これでなんとか下準備は完了かな。しかも運の良いことにカイは武器を馬に備え付けていた。おそらく移動の際に腰に剣を携えておくと、馬が歩くたびに剣が体に当たって邪魔なのだろう。馬に乗ることが慣れていないカイならではの失策だ。武器を奪う算段も考えておいたのだが、苦労が減って助かる。
しかし大事なのはここからだ。俺はカイの先に立ち、道案内をする。まあ俺が案内するのはお前の最期の地だけどな。しばらく歩くと森が開け、畑に出た。そこは小さな民家がひっそりと国にバレないように作っていた畑のようだった。税金対策に農家も必死なんだな。
栽培されていたのは麦のようだったが、すでに収穫期が過ぎてから1月以上が経っている。鳥や動物に荒らされてしまい食べられる部分は少なさそうだ。その畑の中央には小屋が建っていた。
「陛下、あそこで一度休みましょう。それにその鎧も脱いだ方が良いでしょう。それでは移動が困難です。」
「そ、そうしよう…くそっ…あの盗賊たちだけは絶対にゆるさねぇ…」
しばらく歩いた甲斐があったな。自然な流れでカイに鎧を脱がせることに成功した。とりあえず小屋の中に入り、そこで鎧を脱ぐことになった。しかしカイが一人で鎧を脱げるはずもなく、俺が手の回らない背中の部分の留め具を外していく。
カイはずっと文句を言いながら鎧を脱いで行く。完璧すぎる。背後を自然な形でとることに成功した。ここまで全てみんなで考えた作戦通りだ。あとはカイにとどめを刺すだけ。しかしここでナイフなどの刃物は使わない。なぜなら魔力のない俺では決定打に欠けるからだ。
トドメの一撃の武器、それは何があるか悩みに悩んだ。しかしちょうど良い武器をルシュール辺境伯からもらっていた。俺はそれをスマホから音を立てずに取り出す。
拳銃、しかもこの世界でも使えるようにルシュール辺境伯がその開発を行い、銃弾にもその魔力を込めている。かなり口径のでかい弾なので1発しか装填できない。なのでチャンスも一度きりだ。両手でがっちりと握り反動で照準が狂わないようにする。
すでに胴体の鎧は外した。狙うは下腹部だ。おそらく下腹部を狙っても反動で照準が上に移動して心臓あたりを狙えるはずだ。俺はしっかりと狙いをつけて引き金を引く。
しかしなぜか引き金が引けない。どういうことかとよく見てみると撃鉄が降りたままだ。これでは撃てるはずもない。ゆっくりと撃鉄をあげる。
その瞬間、ガチリという鈍い音がでる。その音は予想よりも大きく、カイも気がついてしまった。鎧を外す音とは違うその音に気がつき振り向いたカイはすぐに拳銃の存在に気がつく。そのまま悲鳴をあげながら倒れて避けようとしているカイに俺は素早く引き金を引いた。
ガンッという拳銃とは思えないような巨大な音と真っ赤に咲く爆炎を散らしながら銃弾は発射された。その銃弾は真っ直ぐにカイの胴体を貫通するはずだった。
「ギィヤァァァァ!!!」
「くそっ!!」
ルシュール辺境伯の作ったこの拳銃はあまりにも威力を高め過ぎた。威力を高め過ぎたせいで反動が半端じゃないものとなってしまった。予想を超えるほど銃は跳ね上がり、下腹部を狙ったはずの銃弾はカイが驚きのけぞった際に振り上げた右腕の二の腕の中間に命中し腕をちぎり飛ばした。
俺はすぐにその場から飛び退く。その瞬間左腕に痛みと違和感を覚える。腕がだらりと垂れ下がってしまっているのだ。おそらく銃の反動を主に左腕で抑えようとしたため、その反動に耐えられず腕が肩から外れた。
しかしいざという時のために利き腕である右腕を取っておいてよかった。俺はスマホからカプセルを取り出す。それはジャギックの店から持ってきた防犯用の粘着剤だ。それをカイめがけて投げつけるとカプセルの中身が飛び出しカイの動きを封じる。
さらにそこに石油の入った瓶を何本も投げつける。しかしこの石油は全く生成していないためドス黒く、火の付きも悪い。だからただの火炎瓶としては使わなかった。単純な燃料として使ったのだ。
「終わりだカイ!」
俺はそこにアルコールで作った火炎瓶を投げ込む。アルコールは毎日あの街でも飲まれていたから簡単に手に入った。あの街で唯一まともに作れる武器といってもいいだろう。使い魔たちによってスマホの中ですでに火のつけられた火炎瓶は小屋の中にいるカイに命中する。
火炎瓶が割れるとともに内部のアルコールに引火し、さらに石油に燃え移り、燃えやすい木の小屋に燃え移る。中でカイが必死にもがいているのがわずかに見える。しかしその粘着剤はそう簡単には取れないとジャギックからのお墨付きだ。それに無精製の石油はガソリンなどと比べると燃え方は甘いが、粘性があるのでこべり付きやすさは抜群だ。
小屋の内部でカイが火だるまになっているのが見える。しかしチラチラ見えるということはまだ動けているということだ。俺はさらに石油の入った瓶を投げ込む。火は黒煙を撒き散らしながら濛々と燃える。やがてその火は周辺の麦畑にも引火する。収穫期を十分過ぎているほど乾燥しているので派手によく燃えるだろう。
俺もその火に巻き込まれそうなものだが、そもそもここは作戦のために連れてこようと考えていた場所の一つだ。俺を巻き添えにしないようにあらかじめ小屋の周囲一部の麦はメリリドたちが刈っておいた。暑さもスマホから水を取り出せばなんとかなる。煙はちょっときついけど身を屈めればなんとかなるな。
数分が経つと小屋の中から火ダルマの人間が飛び出してくる。どうやら熱で粘着剤がダメになったようだ。しかしすでに数分間は火の中にいるのにまだ動けるとは。すると火だるまだったはずのカイから火の粉が飛び散る。
「ぎ、ぎざまぁ!よ゛ぐも゛!」
「ッハ!随分いい男になったじゃねぇか。」
現れたカイは全身がやけどで爛れていた。見るも無残な姿だが、あの小生意気なガキの時よりも少しは好きになれそうな気がする。しかしあの業火の中で生きているとは。どうやら他の仮説も当たっていたようだ。
国王はその身を守るために防魔のネックレスをしている。そのネックレスは攻撃から身をある程度守ることができる。この攻撃には洗脳のような精神攻撃も含まれるので、前王がカイに洗脳される際にも発動したはずだ。その時は役に立ってはいないようだが。しかしそういった魔道具の類いのものは捨てさせるかと思ったが、自分でちゃんと有効活用していたらしい。
まあ完全に防げるわけではないので銃の攻撃や火炎瓶による熱から身を完全に守ることはできなかったようだ。しかし命を繋ぎ止めるという点ではちゃんと機能を果たせたらしい。
「なんで…なんでこんなことを…するんだ…」
「もうそんなに喋れるのか。それが魔力による自動回復ってやつだな。本来なら体を回復させたくはないが、それよりもお前の魔力を減らしておきたい。だからしばらくお前のおしゃべりに付き合ってやるよ。こんなことをする理由?お前の凶行を終わらせるためだよ。同郷のよしみってやつもあるかもな。」
「同郷?同郷だと?じゃあお前も日本人か…だったらこんなことはやめろ!なんでこんな酷いことをするんだ!やっと僕にも運が回ってきたっていうのに…どうして…」
それから聞いてもいないのに自分の身の上話を始めた。俺はそんなことよりも徐々に治っていくカイの体の方が気になっていた。あれだけ酷かったやけどが徐々に軽い火傷に、場所によっては元通りに戻っている。
これだけの回復力ということはそれだけ魔力を保有していたということだ。その魔力は魔力タンクとつながっていた際に体内に溜められていた魔力だろう。それをなくさない限り下手な攻撃では今のように治されてしまう。
本来ならその魔力で防御をすることも可能だったはずだが、カイは魔力の扱いが下手くそだ。カイにできることは魔力を垂れ流すことと止めること。その二つだけだ。この世界に来て日が浅い上に魔力の訓練もしたことがないのだろう。まあ魔力のない俺からしてみれば羨ましいものだけどな。
「……そして僕はいじめられにいじめられ…それが嫌になって消えてしまいたいと思った時、神様に出会ったんだ。神様は僕にこの力を与えてくれた上にこの世界での自由を与えてくれたんだ。だから僕はこうして王になったんだ!僕の行いは神様が許してくれたんだ!だからこれ以上僕の邪魔をするな!!」
神様なんているのか。まあ俺にあのアンケートとった存在がそうだったと言えるかもしれない。しかしこの世界に来る方法は人によって違うのか。同郷の人間と会うのは意外といいかもしれないな。さて、こいつももうおしゃべりが終わったようだし…神に許されたと自分に酔いしれたようだし…そろそろその酔いを覚ましてやるか。
「お前の境遇はわかった。いじめられるのは辛かっただろうな。だけど一つ聞いていいか?なぜお前は今、自分を僕といったんだ?王として振る舞った時は俺様だったのに。それってもしかしてお前をいじめていたやつの言葉だったんじゃないか?お前は弱い自分を消してしまうために自分より強いいじめっ子になろうとしてしまったんじゃないか?」
「な、何を言っている…そ、そんなんじゃない。僕は…」
「お前は知っているもんな。いじめられる側といじめる側、どっち方の人生が楽か。なんせいじめる側は将来更正したら立派だと褒められる。いじめていた相手には一言謝ってしまえばそれで過去のことはチャラだ。いじめられていた側のお前はよく知っている。だからお前は過去の自分を捨ててそちら側に立ったんだ。」
カイは大声をあげて喚き立てる。やはり図星のようだ。弱い自分を消してしまうのには身近な強い人間になればいい。そしてそれがカイにとっていじめっ子たちだったのだ。自分でも気がついていなかったのだろう。カイは頭を抱え呻く。
「お前は変わる必要があったのかもしれない。だけど過去の自分を捨てちゃダメだ。過去の自分を生かし、それを役立てるべきだった。お前はやり方を間違えた。そしてそれはもう取り返しのつかないところまで来てしまった。お前は…終わらなければならない。」
「…違う…僕はそんなんじゃない…違う…違う?何が違うんだ?…神様は言ってくれたじゃないか。だけど僕は…僕はどうして…い、痛い…頭が痛い……お前はもう黙れぇぇ!」
カイは半狂乱になりながら襲いかかって来る。しかしそれを黙って見ている俺じゃない。すでにやることは決めてある。俺はスマホから粘着剤の入ったカプセルを取り出しカイに投げつける。一直線にかけて来るカイはそれを避けようともしない。
カプセルに入った粘着剤がカイにまとわりつく。しかし地面にくっつけることはできない。何せ下は土だ。表面の土を剥がしてしまえば粘着剤が固定されることはない。しかし足につけば両足を固定することが可能だ。カイはまんまと両足がくっついてしまい砂埃を巻き上げながら倒れこむ。
「悪いがもう少しお前の魔力を減らさせてもらう。今のままだと俺の攻撃が通らない可能性が高いからな。」
「や、やめろぉぉ!!」
俺は再び火炎瓶をカイのいる地面めがけて叩きつける。さらに石油の入った瓶も投げつける凶悪コンボだ。みるみるカイは火だるまになっていく。正直心が痛む。俺は炎の中で泣き叫ぶ人間を見て喜ぶような人間ではない。しかしどんなに心が痛んでも止めることはできない。絶対にこいつを殺さないといけないのだ。
「今の俺は十分サイコパスって言えるような人間だな。そんなものになりたくないが、今更止めるわけにもいかない。これで終わってくれればいいんだけどな。」
しかしこれで死なないのは先ほど実証済みだ。次の作戦を立てなければならない。確実にカイを殺す方法。すでに銃は使ってしまった、残るは剣だけだ。メリリドさんからもらったあの短剣で近づいて突き刺す。それで終わらせるしかない。
再びカイの体から火の粉が飛び散る。おそらく火の粉を弾くために防魔のネックレスが魔力を貯めていたのだろう。それが作動して火の粉を弾き飛ばした。しかしその動作にも時間がかかるためしばらくは火だるまになるしかないという欠点がある。本来ちゃんと魔力を扱えるものならすぐに弾くことも可能なのかもしれないが。
火の中から現れたカイは全身大火傷の状態で棒立ちのまま意識が朦朧としている。これはチャンスだ。俺は短剣を取り出し、勢いよくカイへと突進する。その短剣はカイの心臓をめがけて突き進む。手に短剣が肉に突き刺さる感触が伝わる。左腕が使えないが右腕だけでも十分な威力を持った短剣はカイの体内にある心臓めがけて突き進んだ。
「っな!!これ以上刺さらない!?」
心臓めがけて短剣は一直線に進むはずだった。しかし3センチほどだろうか、短剣はそれ以上突き進むことができずにそこで止まってしまった。感触はまるで巨木。短剣では表面を傷つけることはできるが内部には決して到達しない。いくら押しても突き刺さる感触がしない。
これが魔力による圧倒的な差。それを初めて痛感した。魔力のない俺ではこれ以上の攻撃ができない。魔力差と言うものはこの世界においてこれほど重要視されてしまうものなのかと痛感した。このままではまずい、離れようとしたその時、ナイフを持っていた右腕を掴まれた。
「づ……づがま゛え゛だ…」
まずい、そう思った時にはすでに遅かった。カイは無茶苦茶な力で俺をそのまま横に投げる。俺はその時、投げられた反動を使ってとっさにナイフを投げ捨てた。カイにナイフを取られたらまずい。投げられたナイフは燃える麦畑の中へと消えていった。
「くそっ…っ!まじかよ…」
投げられた時に手首が外れたようだ。手が思うように動かない。左腕は肩から脱臼、右腕は手首から脱臼。これは…最悪な状況だ。
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