83 / 572
第82話 偽王カイ
しおりを挟む目の前に城が見える。本当に目の前だ。城門ですら目の前にある。門の前にはいつものように群がる美女たち。そしてそれを遮る門兵。俺はその美女たちをかき分け、門兵のところまで行く。
「何者だ。ここは国王カイ様の城だぞ。」
「き、緊急の用件があり、参上しました。これを拝見してください。」
俺は胸ポケットから手紙を…手紙がない。あれ?手紙はどこ?手紙、手紙は…内ポケットだ。やばい、超緊張して汗が止まらない。またお腹が痛くなって来た。
「具合が悪そうだな。む?その手紙は!とりあえずこっちに来い。」
そう言われて無理やり腕を引かれながら城内へ入る。すぐに手紙の真偽を調べているのだろう。しかしそれは本物だ。すぐに封を解かれ内容を確認する。
「だいたいは理解した。細かいことは国王様へ直接申し立てるように書かれている。すぐに来い。今の時間ならちょうど空いておられるはずだ。」
あの村長グッジョブ。手紙の内容確認していなかったけど、ちゃんと国王に会えるように書いておいたんだな。これで第1段階完了だ。
兵士に案内され、城内を案内されるがまま進む。内部の作りはしっかりしたものだ。それに警備体制も至る所に兵士が配置されており完璧だ。これでは侵入は難しいだろう。どうやら日頃から暗殺に対する警戒は強いようだ。
作戦を考えている時に案としてやはり暗殺しようと考えた時がある。しかしこれを見る限りでは暗殺を決行しようとせずに良かった。きっと城に侵入しただけであっさりと捕まってしまうだろう。なんせその暗殺役は洗脳が効かない俺だからな。こっそり行くのなんて無理!
俺は兵士に案内されながら頭を低くし、へこへこと頭を下げながら進んで行く。揉み手もしながらだと余計媚びへつらっているように見えるだろう。
しかしこれも作戦の一つでちゃんと意味がある。まあ媚びへつらう演技も含まれているのだが、最も大事なのは手だ。ルシュール辺境伯から買ったこの洗脳から身を守る抗魔の指輪を何度も細かく着け外しをしているのだ。
もしもの時のことを考え、この指輪が外れても俺自身が耐えられるように短い間に訓練をしておく。正直、指輪を外しても嫌な感じがするだけで特にこれといって洗脳されそうになる感じはしない。外しっぱなしでもよいが、気がつかないうちに洗脳されるかもしれないので念のためだ。
この道を進めば進むほど洗脳の効果は強くなり嫌な感じは増していく。ここまでくるとこの洗脳を防ぐ抗魔の指輪つけて来てよかったかもしれないな。つけてこなかったらこの嫌な感じで気分が悪くなり、その感情が顔にでるかもしれない。
あくまで今俺は国民みんなに愛されている国王カイに出会えると言うことで喜ばなければいけない。本来はそういう風に洗脳されているのだから。だから表情は明るくにこやかに、そして嬉しそうにしなければならない。うん、いろんな意味で吐き気がこみ上げて来た。お腹も痛い…トイレ行きたい…
そして案内されたのは巨大な扉の前。この先に国王が鎮座する玉座の間がある。今も抗魔の指輪を試しに外してみるが、嫌な感じがさらに強まっただけで洗脳されるような気配はない。これならきっと大丈夫だ。中で多少のやりとりが行われたのち、兵士の声とともに扉が開く。
そこは玉座の間というだけあって豪華絢爛だ。兵士に美女たちが並んでいる。その誰もが洗脳により無理やり作らされた笑顔で立っている。真実を知っていればなんとも不気味な場所だ。
兵士に連れられて歩いていく。俺の先には国王カイが鎮座していた。年はまだ若い。中学生やそこらだろう。一目でよくわかるほど調子に乗っているガキだ。嫌にニヤついた笑みがこちらの神経を逆なでする。しかし俺は決してこの笑顔を崩してはならない。決して俺の、俺たちの思惑を察しされてはいけないのだ。
俺は案内された先で跪いて頭をさげる。緊張感がマックスだ。腹の痛みも吐き気も最高潮だ。しかしこれからが本番だ。なんとか頭をリセットさせて、これからの会話の内容を思い出す。大丈夫、ミミアンたちとのリハーサル通りやればきっとうまくいく。
「よく来たな。面をあげよ。俺がこの国の国王のカイ様だ。」
ゆっくりと顔を上げる。もう何から何まで腹立たしい。そこで足を組むんじゃねぇ。威厳も何もあったもんじゃねぇな。今すぐにぶん殴りたい。このクソガキが。しかしそんなことを思っても決して表情は変えずに笑顔、歓喜の表情のままだ。
カイの隣には二人の女性がいる。これもすでに情報を確認済みだ。彼女たちはこの国が保有する魔王クラスの騎士だ。護衛としては最高だろう。この国には5人の魔王クラスがおり、そのうちの3人は男ということだったが、ここにはいないようだ。
これも考察済みで、魔王クラスの洗脳は魔力の保有量が桁違いなのでとても難しい。だから彼女たち二人はじっくりと時間をかけて徹底的に洗脳されたのだろう。そして魔王クラスの男の方は興味がないのでおそらく牢獄に閉じ込めてある。
「それで…確か俺様が保護した村人以外にも他に村があるという話だったか?そしてそこがまずい状況だということだったな。……ああ、発言を許可する。ったくめんどくさいな。これ言わなくても勝手に喋っていいぞ。なんせ俺様は偉大で寛大だからな。」
「まあカイ様はお優しい。このようなものにも自由を与えるとは。」
「本当にカイ様は素敵なお方です。」
両隣に控えている魔王クラスの女性二人がうっとりとした表情でカイに話しかける。その表情は他の洗脳を受けているものたちとは違うように思えた。おそらく洗脳のかかっているレベルの桁が違うのだろう。それこそ元の精神がおかしくなるほどに。
「私のようなものの発言を許可していただき、ありがとうございます。実は森奥の村の周辺に盗賊が現れたのです。その盗賊は人攫いを専門としているようで何人もの女性が囚われているのです。」
「森奥の村ね、俺はそんなのは知らないぞ。それに人攫いの盗賊?なんか胡散臭いな。」
「森奥の村は魔虫の大量発生からこの国を守る役割の村です。すでに魔虫の大量発生が起き、その討伐も完了しましたが、食料が底をつき何人もの餓死者が出ています。」
まるで何も知らなかったようで、宰相を呼んで事実確認をしている。宰相と呼ばれている男はすらりとしたイケメンだ。そのたたずまいはこっちが国王と言われてもなんら違和感のないほど威厳あるものだった。
「なるほどな。確かに事実らしい。じゃあその村人を助けて、盗賊を退治すればいいんだろ。じゃあ誰かにやらせよう。それで村には一体どれだけの人間がいるんだ?それによっても兵士の数と馬の数は変わるからな。」
「20人ほどです。全員若い女性です。私の方から食料を多少分けましたが、微量ですので急がないとまずいでしょう。」
「全員若い女?なんだかお前の話には女ばかり出てくるな。なんか怪しいぞ?だけど俺の魔法は効いているはずだしな……そうなっている理由を説明しろ。」
「はい、村の生き残りが若い女性だけというのは、まず老人たちは若い者を生きながらえさせようと自ら食事を絶ちました。そして男たちはこの国へ救援を呼ぼうとした際に盗賊に襲われ、死んでしまいました。盗賊たちにとって女は良い商品です。だから女は殺さずに村で管理して買い手がつき次第拐って売ってしまうのです。」
これも台本通りだ。カイは無類の女好きだ。年寄りが生き残っているなんて言われても助ける気が起きない可能性がある。しかし女ならば率先して助けに行くだろう。
「まあ、なんて酷いことを。カイ様、ぜひお助けになられて。」
「ああ、そうだな。今の話は嘘がなさそうだ。ぜひ助けに行こう。村の若い女に盗賊に捕まった女、奴隷女か…いいねぇ。」
カイは舌なめずりをする。その表情は人間をただの道具、おもちゃのようにしか思っていない下卑たものがあった。流石の俺も気持ち悪さで鳥肌が立ち、表情が崩れかけたがなんとか必死にこらえた。
「じゃあ兵士を1000人送ってその盗賊どもを討伐して、女たちを助けるか。じゃあ早速準備を…」
「お待ちになってください、カイ国王陛下。1000人もの人数を送っては盗賊たちに感づかれ逃げられてしまいます。ここは少数精鋭でお願いします。」
「あ?この俺に意見を言うだと?何様のつもりだお前。……だけどまあお前の言うことは一理ある。仕方ないからこの件が終わったら牢屋に1週間で済ませてやる。じゃあ精鋭を50人送る。それでいいな。」
よかった、まさか1000人も兵士を送られたらたまったもんじゃない。まあこの可能性も考えて盗賊という下手に大勢で行けば逃げられるという結論に至るようにしたんだけどな。というか今のだけで1週間の牢屋行きって…こいつマジで頭おかしい。
「じゃあこれで話は終わりだな。お前には兵士たちの道案内をしてもらう。いいな。ではこれで終わ…」
「陛下は出られないのですか?」
「何?なんで俺がわざわざ行かないといけない。そんな面倒なことをする気は無い。」
「しかし精鋭といえば陛下のそばに使えるお二人のようなこと。つまり陛下の身の回りを警護する人間こそが精鋭です。その精鋭を出動させるためには陛下にもお出になっていただかねば…」
「なん度も言わせるな!俺はそんな面倒なことをする気は無い。精鋭といっても城から出ても問題ないレベルの精鋭だ。この俺様になん度も意見してんじゃねぇ!」
かなりイラついている。しかしカイに城から出てもらわないと困るのだ。そうでなければ計画の前段階が完了しない。ここからはおだて作戦だ。
「申し訳ありません陛下。しかし私は陛下の現状では物足りないと思うのです。ここから遥か先にある英雄の国、その国の国王は勇者王と呼ばれる英雄の王です。しかし私は思うのです!陛下こそが英雄の王、英雄王たる器であると!」
「俺が…英雄の王……英雄王…それはいいな。話を聞かせろ。」
「はい。すでに陛下はその素晴らしきお知恵を持ってこの国を素晴らしい方向へ変えております。しかし英雄と呼ばれるにはその武力を示す必要もあるのです。武力は己の力だけではなく、兵の力、そしてその兵を束ね導く力が必要なのです!陛下にはすでにその力が備わっておられると思います。あとはそれを民に示せば良いだけ。此度の盗賊はそれなりに名うての盗賊のようです。陛下の覇道の足がかりにはちょうど良いかと思います。」
「なるほど…それはいいな。すごくいいぞ。やっとらしくなってきたじゃないか。内政チートはもう済んだ頃だし、そろそろ俺つええの時間だろ。兵を動かして戦う…武力チートか。俺ならできるぞ。強い奴らをみんな洗脳して兵力を高めて…きたぞ…これはきたぞ!」
カイはその場で勢いよく立ち上がる。その顔は無駄な自信に満ち溢れ、血気盛んといったところだ。どうやらうまく乗ってくれたらしい。やりやすいバカでよかった。
「2日後!2日後に俺は自ら兵を出して盗賊を打ち倒し!村人たちを助けるぞ!ついてこい!」
「「「おおおお!」」」
歓声が上がる。しかしその歓声も洗脳によるもののため、俺にはどこか機械的に聞こえた。しかしそんなことよりもこれで俺の任務は完了だ。無事に済んで何よりだ。その時宰相がどこからか現れ、カイに耳打ちをする。すると宰相は俺の元へやってきた。
「珍しい指輪をつけていますね。カイ国王陛下がそれを見てみたいとのことです。渡してくれますね?」
「え、ええ……」
俺は震えそうになる声を必死にこらえ、指輪を外して手渡す。宰相が指輪を受け取った。その瞬間突如カイから溢れ出た何かが俺の中に駆け巡り、俺は指一本うごかせなくなった。
どうやら俺は洗脳されたようだ。
9
お気に入りに追加
545
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる