スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第74話 ブラント国

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 あれから2日ほど村人たちの看病を続けると、なんとか危機的状況から脱した。今では普通に食事ができるほどだ。予想よりも早い回復に正直驚いているが、魔力を持った人間ならこの回復力が普通とのことだ。

「ありがとうございます。本当にありがとうございます…」

「もう分かりましたから。それよりも何があったんですか?」

 村長は体が良くなってからというものずっと感謝の言葉を述べている。もうわかったと言っても言い続けているくらいだ。しかし元気になったのだから何があったのか話してもらう。

「虫の大群です。畑の食料はすべてやられました。しかしこれは時折あることなのです。なんせこの村は国から委託され作られた虫の大群を駆除するための村ですから。ですので殺虫剤を大量に散布し、いつものように虫を退治しました。そしていつものように国に報告し、食料を送ってもらうはずなのですが…それがいつまで経っても届かないのです。」

 この森は虫系のモンスターが湧くことが多く、放っておくと国中の食料を食い散らかされてしまう。なのでこの村は国から委託された虫を退治する専用の村なのだ。毎年殺虫剤と足りない食料をもらうのだが、今年はなぜか届かない。

 なんとかしなければと、何人も使者を送ったが誰も帰ってすらこない。その間の食事をなんとか食い繋ごうにも、この辺り一帯は殺虫剤を散布しているので食べることのできる野草はない。

 殺虫剤の毒素は土壌に沈着してから半年は消えないほど強力なものらしい。散布するときは防護服を着た上で上空に散布するので風に乗って広範囲に撒かれる。だからどこまで撒かれたかわからない。

 それでも我慢できなくて、野草を食べて殺虫剤の毒で死んだ村人が何人もいるらしい。この辺りなら大丈夫。この植物なら大丈夫。少しなら大丈夫。そう言って血を吐き、もがき苦しんで死んでいったそうだ。

「なんとか今まで生きていたものたちもここ数日で倒れていきました。だからあなた方がきてくれて本当に、本当に…うぅ……」

「なんてひどい話だ。許せねぇ!」

「落ち着けマック。これだけ重要な村だ。国が黙殺するわけがない。道中にモンスターが湧いたか、国で何かあったかだろうな。」

「私たちもそう思います。しかし確かめるすべもなく……お願いです!何があったか調べていただけませんか?」

「分かりました。それに道中ですからね。しかし国王にそう簡単に会えるはずがありません。何か方法はありませんか?」

「それなら問題ありません。この村は国から委託されておりますからいざという時のために紹介状を書くことができます。すぐにしたためます。」

 村長はそう言うとすぐに書状を書き始めた。問題が起きた時にすぐに国王に話がつけられるように考えられているのだろう。しかしここまで考えられているのに、この状況。本当に一体何があったのだろう。

「しかし俺らが行っちまったら食事はどうするよ…ミチナガだってそんなに食料は持ってないだろ?」

「20名ほどですよね?それなら問題ないですよ。念のために3ヶ月分ほど置いていきましょう。料金は国に請求させてもらいますかね。」

「マジかよ…」

 正直食料だけなら山ほどあるからなぁ。畑の数も日に日に増えているから生産量も増えている。むしろ消費が少なくて、困っているくらいだ。

 国王への紹介状をしたためてくれた村長から紹介状を受け取り、代わりに大量の食料を置いていくと大いに喜ばれた。これで問題が解決するまでこの人たちが飢え死にすることはないだろう。


 翌朝、出発する俺たちを村人たちは大きな声で見送ってくれた。見送る村人たちは別人のように元気になっている。これもすべて魔力による自己回復機能の一つだと言うのだから驚きだ。

 森の中を進んでいくが人気も生物の影もない。これもすべて殺虫剤の影響なのだからこれはもう兵器と言っても過言ではない。環境破壊しすぎだろ。まあ植物にだけは影響がないようにされているらしいけど。

 しかし何故ここまでするか話をよく聞いたのでその理由もわかってしまう。昔、なんの対策もしていない頃は数年に一度、虫が発生し植物がすべて食い荒らされたと言う。そのせいで餓死者が数千人も出ていたそうだ。

 それがこの殺虫剤を撒いてからと言うもの餓死者が激減し、安定した生活が送れるようになった。当時この英断をした国王は国の中央に銅像が建てられ国の誇りとまで言われている。

 森を抜けるまで2日かかった。ここまでの道中はモンスターが全く現れなかった。これで村から送られた使者がモンスターに襲われたと言う線は消えた。まあまだこの先の道中も長いのでまだ安心しきれないが、ここから先は村も増えていくので比較的安全ということだ。

 それからしばらく行くといくつか建物が見えた。もう夕方近いので今日はこの村で休ませてもらおう。ここは比較的人通りも多いと思われるのでそのまま村の中へ入る。しかし、

「おい、誰もいねぇぞ?」

「こっちも、もぬけの殻っす。荷物もないっすね。」

「戦争か?」

「それにしちゃ静かすぎる。それに戦争があるなんて話聞いたことねぇぞ。」

「疫病とか…はないですね。もしそうなら建物ごと焼き払うでしょうし。」

 俺の疫病発言にマックたちが一瞬ビクッとしたがさすがにその線は薄い。疫病なら死体を燃やして建物も燃やす。だからその線は薄いはずだ。しかし誰もいない村の中というのはあまりにも不気味すぎる。仕方なくそのまま馬車を走らせ村を抜け、少し離れたところで野営をする。

 その日の夕食の後、この事態がどういうことか話し合う。しかし一向に結論がまとまらない。何せ可能性だけで言えばいくらでも言える。今確実にわかっていることは国から離れた村には物資が届かず、その周囲の村は誰もいないということだけだ。

「これから行こうと考えている国はどんな国なんですか?」

「ブラント国か。こっちの方は来たことないからなぁ…そういうことはウィッシが知らなきゃ誰も知らないぞ。」

「小国だが政策によって飢饉も少なく、良いところ…くらいしか知らん。そんなに詳しくは調べん。」

 国についての情報もないとなるともうこれはお手上げだ。いくら憶測で語っても結果が出ることはない。地図を確認し、たどり着くまでの日数を確認。軽く旅程を話し合ってその日は眠った。

 翌日、さらにその翌日も、立ち寄る村々には人はおらず、もぬけの殻だった。ここまでくるとその異常性に拍車がかかる。これほどまで人のいない村が点在しているのはあまりにもおかしい。

 その翌日、ようやく目的のブラント国が見えて来た。まだ遠目にしか見えないが、戦争をしている雰囲気も、戦いの形跡もない。戦争による各村の避難、および徴兵という説はないだろう。しかし、このまま馬鹿正直に国へ入るというのも少し危険な気がする。

 そこで話し合いの結果、マックとウィッシが先に入国することとなった。二人に先に内部の調査を行わせて、安全が確認でき次第俺たちも移動することにした。それとわざわざマックたちに戻って来てもらうのも面倒なので、ピースをついて行かせることにした。そうすれば即座に連絡ができる。

 マックとウィッシは魔法で移動速度を上げるとあっという間に見えなくなった。本気を出せば十分馬車よりも早く移動することができるらしい。ただ、そんなことをしまくるといざという時に力が発揮できないので普段はしない。

 こちらも馬車である程度近づき、昼食を食べているとピースから連絡が入った。

ピース『“今入国しました。検問がなくてそのまま入れちゃいました。ものすごい人の数がいて、みんな楽しそうです。”』

ミチナガ『“本当か?お祭りか何かなのか?”』

ピース『“なのかもしれないです。だけど…本当に楽しい…この国はいい国です。マックさんもそう言っています。ウィッシさんは疲れたのか少し苦しそうです。ボスも来た方がいいです。楽しいですよ。”』

ミチナガ『“そうなのか?まあもう少し偵察を続けてくれ。1時間して何も異常がなければこっちも向かうから。”』

 そう言うと俺は連絡を切ったのだが、ピースはメッセージを切るのを忘れていつまでも送信し続けていた。確かにピースの反応はとても楽しそうだ。何か問題があるようには思えない。それは1時間後も変わらずだ。

 俺たちもここで待っていても仕方ないと判断し、ブラント国に向かうことにした。

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