74 / 572
第73話 危険な村
しおりを挟む翌日、埋葬した二人に別れの挨拶をするとすぐに出発を開始した。これが意外にもすんなりと帰ることができ、まっすぐ馬車で移動していると昨日塞がれていた街道のその先の道についた。昨日あれほど迷ったのが嘘のようだ。
そこからの道中はこれといった障害もなく、のんびりとした道のりだった。俺はどうせなので昨日二人の遺体から回収した本の解読を初めていた。
片方はこの世界の言語のようだが、俺が読めるものではなかった。翻訳アプリでその文字を読めるようにするためには、金貨200万枚もかかるということなので当分は保留だ。
問題はもう片方の日本人のものと思われるものだ。草書なんて学校の授業で軽くやった程度なのでそんな簡単に読めない。しかも翻訳アプリでは対応していなかった。どうやらこの世界の言語のみ対応しているということなのだろう。
まさか同郷の人間のものの方がこれほどまでに読むのが辛いとは…しかもこの筆者はだいぶ文字にクセのある人物だ。通常の読み方では読めなさそうな文字ばかりだ。決して字が下手くそと言っているわけではない。達筆…ということにしておこう。
「まだこっちの遺書の方が読みやすいな。…え~っと、『これを読む同郷の者へ、私の遺産の』…これはゼロ戦ってことだよな。零戦って文字が書かれているし。それと…設計図だよな。それも託すと。良かった、ちゃんと全部回収してきて。」
ある程度意訳しないと読めたもんじゃないな。あと後半の部分は失われた~とか再び~とかはわかるけどそれ以外がちゃんと読めない。まあこんなもん読めていれば十分か。
遺体に握られていた本はおそらく…日記的なものだと思う。日付が書かれているし。なんの役に立つかわからないけど、ゆっくり読み解いていこう。
そういや、いろんな設計図が書かれていたけどその中から何か作れるものとかなかったのかな?こういうことは社畜に聞くのが一番手っ取り早いか。
社畜『なんも造れないのである。あれは酷い欠陥品である。』
ミチナガ『は?なんでだよ。結構しっかり書き込まれていたぞ。』
社畜『書き込まれていても関係ないのである。どんなに読み解いても関係のない部品まで描かれているのである。おそらくそれっぽく書かれただけである。』
まさかのなんの意味もない図面…信じられなくて自分でも確かめてみたが、確かに部品の大きさと完成したものの大きさが合っていないものがいくつもあった。
俺の予想だが、日本人と思われる方が『俺の世界にはこんなのがあったんだぜ』的なことを言って、もう一人がそれを作るならこんな感じの部品を作ればいけるかな?的な感じで書いたものなのだろう。
二人で楽しく描いた夢の設計図というやつだろう。作図されたパーツ自体は他のものに転用すれば何か面白いものができそうと思えるものであった。まあそのパーツ自体何に使うのかまるでわからないけど。
遺書に書かれていた俺の役に立つというのは、おそらくこの設計図を転用してうまいことすればきっと君の役に立つよ、ということなのだろう。その転用の仕方は今の所全くわからないので意味はない。まあきっと役に立つと信じてみよう。
社畜『それよりもこのゼロ戦である!これは素晴らしい状態である!燃料さえあればいつでも動き出せるのである!』
ミチナガ『マジでか!燃料もあるじゃん!前に死の湖でたんまりとったあの石油が!』
社畜『石油は石油である。製油しない限り使えないのである。』
ミチナガ『…ちなみに精油する方法は?』
社畜『ないのである。これから造るしかないのである。』
ミチナガ『じゃあ造れよぉ~とっとと造れよぉ~』
社畜『む、無茶である!まだ製鉄所も…』
ポチ『頑張ろうねぇ~』
断末魔のような社畜の叫びが聞こえたがまあ放っておこう。彼には当分頑張ってもらうしかない。しかしどうにもうまくいかないもんだなぁ…
「お、久しぶりの村だぞ。少し早いが今日はここで一泊するか?」
「いいですね、たまにはゆっくりと休みましょうか。というか休みたい…」
あれから3日。人気のない森の中を進み、時にモンスターに襲われ、時に塞がれた道を迂回して車酔いをしてと今までで一番ハードな旅だった。マックたちは慣れているようだが、俺は結構体がボロボロだ。
寝ても疲れは取れないし、夜もモンスターの恐怖で神経が張り詰めたままだった。ここら辺で一度ゆっくりと休みたいところだった。そんな時に現れた村。これはもう休めという天からの声に違いない。
このまま村へ直行と思ったら先にケックが村へ行き、話をつけるとのことだ。なんでも商人に偽装した盗賊もいるので、こういった大きな街から離れた村などでは一人が村長と話をつけてからの方が良いらしい。
ケックが話をつけている間、紅茶でも飲みながら待っていると遠くから数人の村人がこちらの様子を伺っている。しかしなんというか、痩せこけているように見える。
「大丈夫っす!話はついたっすよ。」
村の中からケックが大声でこちらに呼びかける。まあわざわざこっちまでくるのは面倒だからな。俺たちもすぐに馬車を出し、村へと向かう。そして村へ着くとよくわかる。この村は今、ギリギリの状態だ。
村にいる人々は全員痩せこけ、歩くのもやっとというくらいだ。辺りを見回していると、村人の中でも一番身なりの良い、とは言っても服が綺麗なだけで痩せこけているのは他の村人と変わらない人が来た。
「わ、私が…この村の…村長です…お、お願いです。食料を…少しでも良いので……」
「わかりました。すぐにでも用意します。ですので少し休んでください。」
村長は息も絶え絶えといった具合になんとか話している。弱々しい声だが、その必死さは痛いほど伝わってくる。俺はすぐにスマホから食事を取り出す。
しかしこの状況で肉料理でも出そうものなら、この村人たちは死んでしまう。これだけの飢餓状態の人間に下手な食事を与えると、却って死んでしまう。消化しやすく、それでいて栄養のあるものが必要だ。
ミチナガ『シェフ、甘酒を大量に用意してくれ。それから今ある甘酒を水で薄めてくれ。そのままだと今の彼らには濃すぎるかもしれないからな。』
シェフ『在庫が十分にあるので問題ないですよ。人肌より少し暖かいくらいのものを用意しときます。』
甘酒は飲む点滴と言われるほど栄養豊富で体にはいい。固形物はほぼほぼないので消化にも問題ないだろう。雑炊を今から作るよりも早いし、栄養も豊富だ。
「これを村人全員に配ってください。外にも出られなくて寝たきりの人も多いでしょう。一軒一軒回って配りましょう。」
「わかった任せとけ。」
マックたちにも手伝ってもらって村人全員に薄めた甘酒を飲ませていく。俺も使い魔たちを総動員させる。しかしそう時間はかからなかった。なぜならかなりの人数がすでに手遅れだったからだ。
「生きているのは20人ほどだ。元は100人以上いた村のようだが…それっぽっちしか助からなかったか。」
「多分この後も数人は死ぬかもしれません。しかし、なんとか今生きている人たちだけでもなんとか生かしましょう。ポーションか回復魔法はありませんか?」
「回復魔法は難しいんだ。俺は使えない。ポーションはあるが、この衰弱では却って死ぬかもしれないな。」
ウィッシの話によるとポーションは確かに傷を治すが、体が衰弱しきった今のような状態では治す際に体力を持って行かれてそのまま衰弱死してしまうらしい。その後、使い魔たちに生きている村人一人一人を注視させた。
しかし、翌朝までに3人が死んだ。
9
お気に入りに追加
545
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる