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第70話 旅立ち
しおりを挟む「みなさん。本日もお疲れ様でした。」
今日も順調に店が周り、特に問題なく店じまいを迎えた。今日の商品の販売数と売り上げから金額に問題がないかは全て使い魔達がスマホ内で行ってくれている。前に買った計算機アプリが役に立っているらしい。経理で人を雇わなくて良い分、儲けが増える。
「ミチナガさん!今日もお疲れ様です。」
「ああ、ローナさん。おつかれさまです。とは言っても私は何もしてないですけどね。」
本当に何もしてないな俺。俺が今日やったのは今まで買ってくれているお客さんの話を聞いて、味付けの調整をシェフに言ったのと今ある食材から新商品ができないか考えるくらいだ。まだまだ俺の料理はこの領地の人の舌に合っていない。
料理なんていうものは国によって味を変えなくちゃいけない。例えば日本なら普通のマグロの寿司を出せば問題ないが、アメリカに行ったらカリフォルニアロールのような別のものにしなくてはいけない。そこら辺の調整というのは実に難しいな。
とは言ってもこの辺のことは全てシェフ任せだ。正直俺が聞かなくても他の使い魔が聞けば十分。やることなくて罪悪感があったからやっていただけだ。あと店の細かい部分の改装も親方に依頼したけどそれもそこまで必要ない。俺…いらない子や……
「いえいえ、十分です。それよりも、もう直ぐこの街を出るんですよね?このお店は…大丈夫ですか?他の従業員のみんなも気にしているみたいで。それに借金もまだあるんですよね?」
「その辺は大丈夫ですよ。今引き継ぎのための資料も作っていますから。一応言っておくとこの使い魔の誰かを置いていこうと思っているんです。使い魔さえいれば店は大丈夫ですから。」
そう、ここで使い魔の誰かとお別れするつもりなのだ。なんせ使い魔さえいれば商品の納入や売り上げの保管も全てできる。実際に使い魔を置いて行っても大丈夫かは死の湖に行った時に確認済みだ。
あの時は3日だけだったが、途中経過の連絡も入れてくれていたので問題がないことは確認済みだ。
眷属ではなく使い魔を置いて行く理由は、使い魔さえいれば眷属はいくらでも復活できる。だから普段は眷属たちに仕事をさせて、使い魔は死なないように安全なところでのほほんとする。これでもしもの時にも十分対応できる。
借金の返済は従業員の誰かに金貨を運ばせれば良いだろう。ネコババされないように眷属を一緒に連れて行かせるが、まあ従業員たちは十分信頼できる人物ばかりだ。そこまでの心配はしていない。
「まあその引き継ぎの資料作りに少し手間取っているんですけどね。注意事項とか色々盛り込んでいったり、資料を見やすくしたりしているんですが、なにぶん手書きなのでやり直しが多くて。」
「そうなんですか、まあそれなら安心です。他の人にもそう伝えておきますね。それじゃあ私もそろそろ帰ります。……あっ!そういえばあの白い使い魔の子達なんですけど、なんか奥の部屋でごそごそしているんですよね。なにしているんですか?」
「奥の部屋?初めて聞きました。ちょっと確認してみますね。」
確かにここの商店はそれなりにでかいから使っていない部屋が数多くある。本当は住み込みで働けるようにと思ったんだけど、まだ材料費の問題でそこまで着手できていない。まあ今の所そこまで問題は出てきていなかったんだけど、あいつら一体何してんだろ?
ローナさんが帰った後、俺は話に聞いた奥の部屋に行くことにした。まあ別に使い魔たちがいるっていうだけだから特に危険はないだろう。しかしあいつら割と勝手なことするからな。今回は何しでかしているんだろ。
「ここかな?おーい、お前ら何して……家?」
奥の部屋にはなぜか家が建っていた。ミニチュアだが、使い魔たちにはちょうど良い大きさだろう。今も何か作業をしている。
家の作りは日本家屋そのものだ。土壁に屋根は茅葺き屋根、扉は障子になっている。確かにこれなら木材が少なくても稲藁と土壁をうまく使えばなんとかなるかもしれない。
木材もよくよくみたら短い端材をうまく繋いでいるようだ。材料的な面で言えば特に俺に問題はないだろう。しかしなんでこんなところに家なんて建てたんだ?
「この家はなんだ?」
親方『こっちで仕事する奴がいたから建てて置いたっす。材料ない中作るのは結構骨が折れたっすよ。』
「ふーん…餞別代わりみたいなもんか。まあ自分たちのプライベート空間も欲しいか。今はなんの作業をしているんだ?」
親方『今は内装っす。囲炉裏作ってこれから自在鉤を取り付けるところっす。そしたら表札つけるんすけど…誰にします?』
「ん~…仕事が問題なくできて、それでいてスマホに常時いなくてもなんとかなる…シェフかなぁ?」
飯作るくらいなら俺でもなんとかなる。毎日使い魔全員分ってなると面倒だけど、ポチも料理できるしまあなんとかなるだろ。
親方『了解っす。…あ、自在鉤もついたみたいなんで完成っすね。じゃあシェフの眷属の別宅に登録しとくっす。』
「ん?眷属じゃなくて…別宅?登録?」
『使い魔親方から申請が来ました。使い魔シェフの眷属の別宅を登録しますか?』
登録?何をいっているかよくわからないがとりあえず登録しておくか。登録しておくと何かあんのかな?
登録ボタンを押すとシェフの家が光り出した。何事かと思い見ていると家の中からぞろぞろと他の使い魔や眷属たちが出て来たではないか。そんなにこの家大きかったか?
親方『これで登録完了っす。これでいつでもこの家から出てくることが可能っす。』
ポチ『おお~いい家だねぇ。』
シェフ『システムキッチンが欲しい……この家じゃあ料理ができない…』
「な、なんかごめん。というかなに?家あればいつでも出てこられるの?そんなの初耳なんだけど。」
ポチ『使い魔と眷属一人一つ別宅が持てるんだよ。そこはいつでもスマホとつながっているから出てこられるんだって。僕も今初めて知ったよ。親方は…知っていたみたいだけど。』
そういう重要なことは早く言いなさい。俺結構これで悩みに悩み抜いたんだからな。本当に俺が知らないことが多すぎるだろ。急にポッと出されてもリアクションとりにくいんだけど。
本当に一回でいいから説明書読ませて。読まないと何があるのか全くわからないんだけど。あ、でも最近の家電とかは基本説明書なんてないよね。スマホの説明書なんて見たことないわ。そういう仕様はちゃんと盛り込んでいるのか…いらないことしやがって!
「そうなると今まで作って置いた引き継ぎの資料全部作り直しじゃん。嘘…これ作るのに2~3日かかっているんだけど。」
え?まじでか。俺こういう作業は苦手だから時間かかるのに。ちょっと待ってよ…まじで?まじで?
ポチ『また資料作りがんばろうねぇ~』
ピース『ぼ、僕も…お手伝いします!』
「う、うん…がんばろう…か…」
マックたちに出発の日を1日…2日伸ばすように言ってこよう。くそぉ…スマホで打ち込むのは早いけど、手で書くのは遅いんだよぉ…
あれから3日後。ようやくの思いで全ての引き継ぎの資料を完成させ、従業員全員に問題がないか最終確認を行った。また、借金をしているところには返済は従業員が代わりに行う旨を伝え、契約書の確認と一部変更を行った。
はっきり言ってこの3日間はろくに寝られていない。行きの馬車の中では当分寝て過ごすことになりそうだ。ちなみに旅に必要な馬車や道具の類は全てマックたちが揃えてくれた。流石にそこまで気を回す余裕はないからな。
そしてまだ店を開ける前、従業員のみんなが見送りをしてくれるということで集まってくれていた。本当に…よくできたやつらだよ。
「それでは、私はこれから英雄の国に向けて出立します。店にはなんの問題もないようにしておきました。私のいない間、このミチナガ商店をよろしくお願いします。」
「はい!精一杯頑張らせていただきます!」
「頑張ります。だけど…私はいつまで尻尾を出したまま仕事をしたら…」
「売り上げが~増えるから~そのままね~それと~…マックたち。わかっているわね?」
「「「うっす姉御!精一杯頑張ります!何が何でも依頼を遂行します!」」」
あ、メリリドさんちょっとだけ素が出たな。今目つきが怖かったぞ。
「それじゃあ出発しましょう。」
全員馬車に乗り込み出発する。馬車は歩くよりかは早いが、自動車に慣れている俺には遅く感じる。馬車の後ろから顔を覗かせ、いつまでも手を振ってくれている従業員のみんなに手を振り返す。
今はこの遅く感じる馬車の速度がなぜか早く感じた。それだけ別れが惜しいのだろう。初めての店に初めての従業員。みんな親切で働き者で俺にはもったいないくらいだ。こうして離れてみるとわかる。俺はこのミチナガ商店に愛着を持っていたのだ。
また他の街に行ったらこうして店を構えよう。全国チェーンにしてやろう。まあ今回みたいに上手くはいかないかもしれないけど、できるだけ店を構えよう。
「行っちゃいましたね。」
「行っちゃいました。」
「さぁ~みんな~今日も頑張るわよ~」
「頑張って店の切り盛りをしましょう。それにしても…ミチナガさんはいい店主ですね」
「ほんとね~私たちみたいな~元犯罪者の冒険者も~受け入れてくれるなんて~」
「え!?メリリドさんってそうなんですか!?」
「あら~ティッチちゃんは~違うの~?」
「わ、私の場合、獣人は飲食店に向かないので…その…毛が…だから他のところは落ちちゃって」
「そうなの~私~というより半数は~元盗賊よ~生きるために必死だったの~もう~脚は洗ったけどね~」
「残りの半数は他商店のスパイです。ティッチちゃん以外はそれなりの訳ありなんですよ。ちなみに情報を仕入れようにも、売り物は全て使い魔さんたちが出すので無駄骨でしたけどね。まあ今の店の方が楽だし、給料もいいんで前の店は完全にやめちゃいましたけど。他の人もおんなじ感じですよ。」
「ローナさんまで…じゃあ…この商店って意外と危うかった?」
「そうですね…もしも有益な情報が入っていたら半数はその情報を持ってやめていましたね。そしたら残りは元盗賊ですし…店の売り上げ持って逃げていたかも。」
「そんな~事は~しないわよ~?」
「うぅ…このお店…大丈夫かなぁ……」
シェフ#1『“今の話聞いちゃった。”』
シェフ#2『“聞いちゃったね。どうしようか。”』
シェフ#3『“ボスにも一応伝える?それとも…”』
シェフ#1、2、3『黙っとこうか。』
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