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第68話 魔法とは

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 翌朝、アイマスクを外すと辺りはすでに明るく、マック達はすでに朝食の準備を始めていた。俺が起きたことに気がつくとなんだか苦笑いを浮かべる。

「おう、よく眠れ…たに決まっているな。まさか布団にアイマスクまでして寝るとはおもいもしなかったぜ。」

「まあこれが一番しっかり眠れますから。しかし汚れる問題もあるのでやはりこういった場所では寝袋がいいですね。」

 それに布団を敷くのもめんどうだな。汚れないように下にシートを敷かないといけないし、片付けるのもめんどくさい。

「じゃあピース。片付けるの頼んだ。」

 ビシッと敬礼すると布団を端から口の中に押し込んでいく。厚みがあるので少し大変そうだが、まあ問題ないな。昨日はあの口からこの布団出して用意してくれたし。しかしスマホが触れないと落ち着かない。なんだか気持ちがそわそわしてくる。

「朝食をとったら俺とケックで食料調達に行ってくる。その間の護衛はウィッシとナラーム、ガーグにまかせた。こっちになんか問題が起きたら魔法を打ち上げるからな。まあいつもどおりだ。じゃあ頼んだぞ。」

 まじか。まだ話しやすい二人がどっかいっちゃうの?まあ昨日酒飲みながら話したからある程度は大丈夫だけどさ。だけどなんか心細いなぁ…

 その後、朝食が終わるとすぐにマックとケックは食料調達に行った。俺はその間まじでやることがなくてスマホに収納されていく石油を眺めていた。

 しかし眺めているとこれが案外面白い。みるみる収納されていく石油だが、どこからともなく追加の石油が流れ込んでくる。死の湖の水位も目に見えてわかるほど減っている。この調子なら丸一日収納していれば十分な量になるだろう。

 そんなのを眺めている時にふと振り返るとウィッシが魔法で土の椅子を作り上げていた。しかもいい感じのリクライニングでゆったりできそうだ。仲間達にもねだられたらしく人数分作っている。俺が見ているのに気がつくと俺の分まで作ってくれた。

「ありがとうございます。しかし本当に魔法って万能ですね。俺は使えないんで羨ましいです。」

「魔法が使えないだと?」

「ええ。あ、私の冒険者カードを見てもらったほうが早いですかね。」

 そう言ってピースに頼んで冒険者カードを取り出して見せてみるとウィッシ達の表情が明る様に悪くなった。

「うおっ…まじか…俺も魔力は低いが、その代わりこの戦斧を使う力はあるからな。しかし筋力もここまで低いとはな。」

「まさかここまで低い人間がいるとは…これではまともな魔法一つ使えないぞ。」

「うわぁ…ギルドの特定保護に指定されているのか。こいつはすげぇ。」

「ははは…まあ他の数値はいいとして、そういうことで魔法が使えないんです。それとあまり魔法にも詳しくなくて。属性というものがあるらしいですが、魔法というのは一人一つの属性しか使えないものなんですか?」

「そんなことはない。どの属性も使うことは可能だ。しかし魔法使いというのは基本一つの魔法に特化するように訓練するものなのだ。」

「そうなんですか?いろんな魔法が使えたほうが強そうですけど。」

「魔力というものは一つの属性だけを使っているとその属性に自身の魔力の性質が変化する。私なら土の魔力に変化しているようにな。そうすると魔力を変換する手間が減る分魔法の威力が上がり、消費魔力が減る。それに防御魔法にも影響を与える。」

「防御魔法ですか。体内魔力が自然に行う自動防壁…でしたっけ?」

 魔力を持っている人間が自然と行なっている自動防御。これの影響で爆炎結晶を用いた拳銃はまるで意味がなくなってしまうのだ。この自動防御を貫通させるためには相手の魔力以上の魔力を込めた攻撃を行わないといけない。

「ああ、それもあるな。普通の防御魔法でも言えることだが、属性の影響を受けていない魔力での防御だとごく普通の堅い防壁となる。しかし魔力が属性に転じられている場合、例えば私の土の場合だとさらに強固な防壁となる。火なら防御と同時に火の反撃をおこなう。水なら熱の無効化、風なら攻撃を受け流すなどだ。だから魔法使いは必ず一つの属性に特化する。」

「なるほど…ではちょっと期になるのですが、神魔はなんの魔法に特化しているんですか?魔神の中でも最強と言われているんですよね?」

「神魔……あれは例外だ。あれはまさに天才。私も話しか聞いたことはないが、どの属性にも自由に魔力の性質を瞬時に変更できる。それに神魔の自動防御は…低レベルの魔法の完全無効化。低レベルといっても神魔にとって低レベルだ。魔神クラスでも最高の魔法でない限り無効化される。だから神魔を倒すには物理攻撃しかないと言われている。」

 さすがにむちゃくちゃすぎないか?ルシュール辺境伯も神魔に関しては色々言っていたがもう人間辞めているだろ。あ、確か正確には人間じゃないんだっけ?

「神魔に魔法が通る人間は氷神と煉獄だな。氷神は氷の魔神であらゆるものを凍らせると言われている。煉獄は魔帝だがその実力は魔神クラス。あらゆるものを燃やし尽くす怪物だ。気まぐれに村や国を焦土の地に変えてしまう悪魔だ。気をつけろよ。煉獄は魔神のように行動に制限がなく自由にどこにでも現れる。」

「お、覚えておきます。しかしそんな魔法を使っても自分にはなんの問題もないんですか?そんな高火力だったりすると自分にも悪影響を与えそうなものですけど。」

「高位の魔法使いになると自身の属性魔法に対応するために適応力が上がる。身の丈に合わない魔法を行使して自身の魔法で死ぬケースも稀にあるが、基本は自分で扱えるレベルの魔法の属性に対する適応力を持っている。つまり煉獄は火に対する完全適応力、氷神は氷に対する完全適応力を持っている。まあ基本は同じ属性同士の魔法対決ではより高い適応力を持った方が勝つ。」

「へぇ~…」

 化物しかいないなこの世界。なんだよ適応力って。そんなもん人間が持てるものじゃないだろ。マジで魔法ってなんでもありかよ。俺にも魔法使わせてよ。

「しかしミチナガ。お前も少しは自身を守るために何か鍛えておいた方が良いぞ。…とは言っても魔力がないんじゃどうしようもないか…」

「あ、一応一つだけ手段は考えてありますよ。この爆炎結晶でなんとかしようと思っています。」

「爆炎結晶か…確かにそれなら多少はなんとかなりそうだが、爆炎結晶も魔道具の一種だ。魔力を込めないと威力は出ないぞ。」

「そういえばそんなことを言われたような…ウィッシさん、手間賃は払うので試しに魔力を込めてもらっても良いですか?」

「そのくらいなら別に構わないぞ。じゃあ魔力を込めてほしい爆炎結晶を貸してみろ。」

 じゃあとすぐにスマホから爆炎結晶を出そうと…ってスマホは石油の中だったわ。すっかり忘れていたわ。

「あ、ピース。悪いけど爆炎結晶出してくれるか?」

 そういうとピースは口の中から小さな木樽を取り出した。大きさとしてはソフトボールくらいだろうか。その中に爆炎結晶が入っているのか?

「じゃあ中から取り出して…え、なになに?違うの?今スマホないから何言っているかわからないんだけど。」

 マジでスマホないと会話ができないから大変だな。するとピースは地面に文字を書き出した。

「え~っと…それは…簡易手榴弾です…おお!マジか。魔力入れれば完成するのか。」

 上についているピンを外せば爆発するらしい。早く言ってくれないと危うくそのピン抜くところだったよ。まあ今はまだ魔力が込められていないのでピンを抜いても爆発することなく安全らしい。

「これに魔力を込めてもらっても良いですか?簡易的な使い捨ての武器なんですけど。」

「そうか…なんと言うか……まあいい。…もう終わったぞ。とりあえず試して見たらどうだ?」

 なんと言うかゴゴゴって感じのアクションは無しか。ちょっと拍子抜け感はあるけどこれで本当に武器として成り立つなら手軽でいいな。それにしても一体いつの間にこれ作ったんだろ?また社畜のやつ勝手に金貨使って作ったんじゃないだろうな。

 あいつこんな適当に作ったようなやつでも金貨10枚くらいの研究費使うからな。マジで気をつけないと金がなくなる。

「じゃあピース。お前の眷属にこの手榴弾任せてもいいか?」

 ピースは何か了解したと言う合図を俺に送ると両手を上にあげた。すると光とともにピースの眷属の一体があらわれた。初めて見たけどこんな風になっていんのか。

「じゃあこの手榴弾の実験を頼むな。そうだな…この湖の下に降りると絶対に転んで面倒なことになるだろうから湖の中心あたりで頼むよ。結界があるか湖の石油に引火することもないからな。十分に離れてから頼むぞ。」

 ピースの眷属は言われた通りに湖の中心部の方まで移動していく。しかし眷属は小さいので移動するのが遅い。もうある程度のところでやっちゃうか。どうせ手榴弾ならそのあと投げるんだし。

「ピース。眷属にその辺でいいぞって言ってくれ。ちゃんと投げ…るのは無理か。俺たちとは反対側に転がしてから避難するように伝えるんだぞ。」

 眷属のあの大きさでは投げるのは無理だろうな。両手で抱えながら持って行ったし。

 眷属にピースからの通信がすぐに届いたようで、その場に手榴弾を置いて何かを待っている。ピースも何かそわそわしている。あ、これはなんとなくわかったかも。

「では実験を開始する。ピンを抜くまで3、2、1…抜け!」

 俺の合図とともに眷属はピンを引き抜く。本当は爆破って言いたかったけど手榴弾だからピンを引き抜いてから爆発までしばらく時間かかるからな。

 と、思ったらピンを引き抜いた瞬間に轟音を轟かせながら爆発した。手榴弾のそばにいた眷属は一瞬でバラバラになったことだろう。爆発とともに周囲に木片と鉄片が炸裂する。どうやら威力を上げるために木樽の中に鉄片も仕込んでいたようだ。

「ってこれやばくね!?」

 まさかその場で爆発すると思ってもいなかった。これでは爆発までの距離が近すぎる。それに内部に鉄片を仕込んでいるとか、爆発の威力が予想を上回ったとかもある。

 俺はとっさに両腕で頭を守る。ピースはどうしようもないのだろう。俺の足にしがみついている。耳に何かの破片が飛んでいく風切り音が聞こえる。

 10秒ほど経ってからだろうか。俺は恐る恐る腕の隙間から顔を覗かせる。もう爆発はしないはずだ。それに破片が飛んでくることもない。

 俺は自分の体をチェックする。すると意外なことに怪我の一つもない。服にすら穴は開いていない。ただ、俺のところまで飛んで来た木片やら鉄片やらが服にくっついてはいる。

「そこまでの威力はなかったか…ピースも無事みたいだな。良かったような悪かったような……あ、だけど足元の土にはいくつかめり込んでいるな。ウィッシさんたちは大丈夫でしたか?」

「ああ、とっさに魔法で防御したがそこまでの威力はなかったからな。なんの心配もない。」

 それにしてもなんであんな風に爆発したんだ?ピースに聞いても仕方はないが、スマホがないのでピース経由で開発者であろう社畜に連絡を取る。

 するとすぐに返事が来た。ただ話すことはできないので地面に内容をそのまま書き記した。

『ピン抜いてからしばらくしたら爆発するなんて構造はよくわからないのである。だからピンを抜いたら直接中のバネが作動して爆炎結晶を起爆する仕組みである。』

「あ~…社畜のポンコツさ舐めていたわ……」

 うん…あいつにそんな細かいことできるわけないよな。うん…

 まあ俺には使えないが、今みたいに眷属や使い魔達に使わせるのならば使い道は十分にあるだろう。しかし使い魔にやらせると復活に金貨10枚かかるから基本は眷属専用だな。だとするともう少し大きさを小さくして持ち運びやすいようにしてやったほうがいいか。

「あ、でも使う時に口から出せばいいか。威力も低いし下手に小さくしたらもっと使い道なくなるな。」

 じゃあ現状のままでいいかな。あとは量産とできたら威力向上くらいに考えておこう。とりあえずだが戦える力は手に入ったかな?

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