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第62話 砂糖加工
しおりを挟む今朝は早くから起きて、急いで行動している。あまり金銭的にも時間的にも余裕がないというのに今日しか砂糖の加工をする時間がないので、なんとか午前中のうちに終わらせてしまいたいのだ。
今日、工場の一部を借りるための資金はなんとか残しておいてある。それでも今日お金を使ったら本当に使える金貨が残りが0になってしまう。午後から店を開けて少しでも稼がねば…
「おお、お早いですな。もうすぐこちらも準備ができるので中に入ってお待ちください。」
「作業に必要な準備をしていただいてありがとうございます。料金は…後払いということでしたね?」
「ええ、作業が終了した時間までの料金ということにさせていただきます。作業の開始時刻は魔力を供給する者に任せておりますのでご安心を。」
すでに場所はわかっているので、そのまま工場内をスタスタ歩いて行く。俺も随分朝早くに来たというのにすでに工場はフル稼働だ。昼には出来上がった砂糖を大量に搬出するのだろう。
今日出来上がった砂糖は今日の午後のうちに積荷されて、翌朝に輸送される。まあすべて出荷されるわけではなく、ほとんど倉庫行きらしい。砂糖は腐るものではないので大きな取引の際にまとめて出荷される。
とりあえず、砂糖の加工場にたどり着いた。ここでの作業は担当の人が来ないとわからないので、ひとまず軽食でもとりながら待つことにする。
朝食を食べ終わって一休みしていた頃にようやく魔力を供給してくれる担当の人が来た。もう少し早く来てよという思いもあるが、彼にだって他に仕事があるのだから仕方ない。
「お待たせしました。それでは早速作業に取り掛かりましょう。上の…あの投入口から材料を投入してください。砂糖が出来上がりましたら横から出て来ます。一定量までは受け口がありますので問題はありませんが、途中途中での回収をした方が良いと思います。砂糖を搾り取ったカスはどうしますか?こちらで処分する場合は費用がかかりますが。」
「それもこっちで回収するので問題ありません。では投入を開始しても?」
「お願いします。それと絞りカスは砂糖の出る側の反対側に出ます。こちらはわりと放っておいて大丈夫ですが、あまりに大量の場合は先に回収してください。」
よし、そんなに難しいことはないから問題はないな。では早速上に登って材料を投入しよう。まあスマホから排出させれば良いだけなのでそこまで大変じゃない。というか簡単だ。スマホのアプリから倉庫を選び、その中の甜菜を排出するボタンを押し続けていれば良いだけだ。
一度に取り出せる限界というものがあるようで、そんな押したらドバッと出ることはない。ボトボトボトボトって感じだ。それでも結構な量が入っているはずなのだが、魔力が注入されると一瞬で材料が加工されて砂糖が出来上がる。これだけ早くできるならこのままだと効率が悪いな。
ミチナガ『“おーいみんな仕事だぞ。2グループに分かれて甜菜を取り出す係と砂糖を回収する係をやってくれ。”』
ピース『“りょ、了解しました。じゃあ手の空いている…みんな意外と忙しそう…だけどこの仕事大切だから…み、みんなー”』
ピースがなんとかみんなを取りまとめて仕事をこなしてくれている。あれ?あそこにいるのポチじゃんか。久しぶりだなぁ…さすがに人手がいるから出て来たか。
「じゃあみんなそれぞれ仕事頼んだぞ。」
ビシッと一同敬礼してくれる。まあ何か喋ろうにも喋れないからそういうジェスチャーの方がありがたい。
さて、全員配置について仕事を開始したのだが、魔力を注入してくれる担当の人が何か異様なものを見るような目でこちらを見ている。まあ俺も気持ち的にはよくわかるよ。俺もこんな光景になるとは思わなかったもん。
まさか甜菜の供給係の供給の仕方が、こんな二日酔いのおっさんが道端でゲロ吐いているみたいな光景になるとは思わなかったよ。いや、確かにそうだよ?使い魔のアイテムの取り出しとかは全部口からおこなっていたからさ。それをつい忘れていた俺が悪かったよ。
だけどこれだけ数が揃うとさすがに奇妙だよ。甜菜の投入口の周りをぐるっと囲むように俺の使い魔とその眷属たちが並んでいる。そして全員吐き出すようにして甜菜を投入している。
しかし見た目は奇妙だが、その投入速度は半端じゃない。先ほどまでの俺一人の時と比べれば10倍以上は早くなっている。
それを知った担当の人も魔力の供給量を増やして砂糖の生産スピードを上げている。こちらの甜菜の投入スピードはもっと早くしても良いくらいだ。
それを横目でチラッと見た使い魔たちは……吐き出すスピードをさらに上げている。これなら早く終わりそうだが…なんか見ていたら気持ち悪くなって来た。貰いゲロってやつかな。
ん?なんかあそこの眷属の調子が悪そうな…あれはピースの眷属だな?元々ピース自体の能力が低いのでその眷属はさらにその能力は低い。アイテムの排出能力も、もしかしたら低いのかもしれない。
「おい大丈……ちょ!それ出てる!違うもの出てるから!!」
それもう甜菜じゃない!朝食べて来た魚の塩焼きとご飯だろ!白いのに別の白いのが混ざっているから!もうそれ砂糖にならないから!異物混入だよ!一大問題だよ!ああ!味噌汁も混ざってるぅ!!
「おおい!下の砂糖回収係!誰かこっちと変わって………ビーチフラッグやっとるぅ…」
うそぉん。そこまで下は余裕あんのかよ。もう気分は海岸の砂浜で遊ぶ高校生じゃん。砂糖に首から上以外埋められて巨乳とかそんなのやんなくていいんだよ。ビーチバレーもしようとすな!
……おい、そこの砂糖の城作ろうとしているやつ。水かけて固めたらぶん殴るぞ。
「とりあえず、お前ピースの眷属だろ?気分悪そうだし少し休んで……いやいや、頑張ろうとしなくていいから。無理すんなって。まだ他にも使い魔は残って…」
スマホで残りの使い魔を確認して見るとまだいた。ただ、一体はあの植物に話しかけているヤバいやつだ。この前眷属出していたけど眷属もずっと植物に話しかけていた。さすがに関わりたくない。
何をしているか不安だが、まあ食事だけはしっかりしているらしい。話しかけていた植物を急に貪っている姿を見たとピースから聞いた。その時のピースは割と本気で震えていた。うん、気持ちは良くわかる。だけど頑張ってくれ。
それともう一匹、社畜が残っていた。今も頑張って研究を進めているのだろう。俺がなんとしてでも研究をさせようとしているからな。今の所ろくに成果は上がっていないけど。前にフォークの作り方を覚えたな。うん、そんなのどうでも良い。
しかしそれと同時にもう一つ知っている。お前、ちょくちょく俺の金貨と材料使っているだろ。もちろん研究には金貨も材料も必要だっていうのは十分わかっている。
しかしそれはちゃんとポチを通してどのくらい必要か聞いてから取り出す許可もだしている。だけどお前申請外の金貨も勝手に使っているだろ。それはさすがに許さんぞ。
「ポチ、今は人手が必要だから社畜も呼び出してくれ。」
ポチにいうとすぐに作業を止めて社畜とその眷属を全員呼び出してくれた。すぐに甜菜の投入作業にあたらせたのだが、作業を開始してから数分も経たないうちに何やらちょっとした騒ぎのようなものが起きている。
どうしたのかと確認してみるとどうやら久しぶりに研究室から解放されてテンションが上がっているらしい。まあそのくらいは許してやるか。ちゃんと仕事はしているみたいだしな。
そんな中先ほど吐いてしまったピースの眷属が、他の眷属に肩を貸して貰いながらゆっくりと移動していた。よほど先ほどの作業で疲れてしまったのだろう。足元がふらついている。
ゆっくりと邪魔にならないところに移動している最中についふらついてしまい、甜菜を投入していた社畜にぶつかってしまった。眷属なので使い魔よりも体は小さく、当たっても大した衝撃ではない。
しかし今、社畜は前のめりで下を向いて甜菜を投入していた。そんな社畜に後ろから軽い衝撃を与えればそれはもう、甜菜たちと同じ運命を辿ることになる。
「い、異物混入がぁぁ!」
社畜はゆっくりと落下していき、甜菜たちと同じように魔法で搾り取られる。すぐに社畜の姿は消え、スマホに死亡通知が来る。あいつ…すぐに消えたし異物混入は大丈夫だよね?
砂糖回収係に確認してみると今の所一切の異物は混入していないとのことだ。全部魔法で異物は弾かれているのかな?魔法って…すごいね。
砂糖を作り終え、午後からの仕事でなんとか多少の金ができた。そしてその日の夜。早速今日出来上がった砂糖を使っておはぎ作りを開始した。しかしここで重大な問題が起きた。
「…味が全然違う。やっぱ黒糖と上白糖じゃ同じものにはならないよなぁ。」
今回、甜菜から作ったのはよく知られている上白糖、あの白い砂糖だ。ほとんどのお菓子はこれで作られているだろう。グラニュー糖とかその辺の違いはよくわからんのでほっとく。
それに比べて黒糖はサトウキビの絞り汁を熱して水分を飛ばしたものだ。同じ砂糖のようにも思えるが、黒糖の方が糖分以外の不純物が多い。それは決して悪いわけではなく、雑味があるぶん味に深みのようなものが出る。それに甘さも違ったものになるのだ。
そんな黒糖と上白糖で作ったおはぎでは全く違ったものになる。黒糖だとあんこが黒糖味になるんだよなぁ。正直、俺は上白糖の方が好きだ。あんこ本来の味って感じがする。
さて、本当は今後黒糖で作るおはぎは中止する予定だったが、ここまで味が違うとなると黒糖おはぎを辞めてしまうとお客さんからなんらかの苦情が来るかもしれない。
「黒糖おはぎっていう名前でこれまでのやつは売っていくかぁ…だけどそうなるとサトウキビ作りと黒糖作りを今後も続けないとなぁ…これ結構手間かかるんだけど。」
スマホで作業をすれば時間はかなり短縮されるがそれでもなかなか時間がかかる。そうなると他の作業の時間が…まあそんな文句を言っていても仕方ないか。
サトウキビ作りに関してもなんとかなるか。すでにファームファクトリーの畑の数は300を超えている。俺一人では到底手が回らないが、使い魔と眷属がいるのでなんとかなっている。
「今後は上白糖のお菓子のバリュエーションも増やして…いや、当分は新店舗のことだけ考えよう。とりあえず明日からまた金稼がないと…」
こっちの世界に来てからの方が断然忙しいんだけど…
ああ…元の世界のアフィカス生活に戻りたい……
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