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第55話 流通禁止金貨

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 屋敷の中の複雑に入り組んだ道を進んで行く。はっきり言って、もう来た道全く覚えてないや。あ、また道曲がった。もうどこだよここ。ルシュール辺境伯…置いてかないでよ?

「い、今はどこら辺なんですか?」

「木の根っこの部分ですよ。あともう少し進んだら到着しますから。」

 根っこ…この屋敷の形を作り上げている木の根っこの部分か。これだけの大樹を支えるためには根っこも相当奥深くまでしっかりと根付いていないとな。地下何メートルくらいまで降りているんだろう。

 それから歩くこと30分。ようやく目的地らしいところまでたどり着いた。マジで長いな。勘弁してくれよ。もう足腰立たないよ。

「それでは封印を一時的に解除するので1時間ほど待ってください。」

「1時間!?そんなにかかるんですか?」

「それだけ厳重に保管しないといけないのですよ。まあゆっくりしていてください。」

 ゆっくりって言ってもなぁ…まあスマホで時間は十分に潰せるけど、そこまで厳重に保管しないといけないなんて本当に面倒だな。しかもそんなに厳重に保管しているのに自分では使えないなんてふざけた話だ。

 しばらくスマホをいじりながら待っていたが、この静寂が続くとさすがに気まずくなってくる。しかしルシュール辺境伯は封印を解除するので忙しそうだ。話しかけたらいけないだろう。とりあえず、この気まずさを解消するために飲み物をスマホから取り出して渡した。

 するとルシュール辺境伯から普通にお礼を言われた。話してみると、どうやら別に無言でやる必要はないとのことだ。それならそうと早く言ってよ。そこからは色々話しながら待つことにした。

 最初は他愛もない会話だったが、会話が進むにつれて、次第に気になっていたことを色々とぶつけてみることにした。

「そういえば前に流通禁止金貨は国で扱っているって話を聞いたんですけど、なぜここにはあるんですか?ここは確かにすごい領地ですけど、あくまで領地であって国は別にあるような…」

「そうですね。確かに流通禁止金貨の基本的な取り扱いは国が行います。ですが、それにも一部例外があります。それは私のように魔帝クラスで長寿な場合です。数百年単位で強力な力を保持し、生涯封印できるなら安心して預けられますから。」

「へぇ…だけど、そもそもそんな封印いるんですか?盗まれても使うことなく何かが起こるんでしょ?盗む人もいないような…」

「そうですね。盗まれたのが流通制限金貨の場合は強力な呪いによって生涯苦しみが続きます。流通禁止金貨の場合は死に至ります。それが保管者にも及ぶので、自身を守るために適切な封印を行います。ですがもう一つ理由があるんですよ。流通禁止金貨を盗んだ人間と保管していた人間の両方が呪いで死んだ場合、その流通禁止金貨を第3者が手に取った場合どうなると思いますか?」

「それは…その人も呪いで死ぬ?」

「普通はそう思うかもしれませんね。ですがそれでは国中にばらまかれた場合、大量に人が死にます。当時の魔神達もそれを危惧したのか…それともそこまで力が及ばなかったかはわかりません。ですが盗まれた流通禁止金貨が流通した場合、普通の金貨と同様に使えるんですよ。」

 へぇ~そうなんだ。まあホイホイ呪いで死んで行くよりかはいいかもな。だけどそれがもう一つの理由になるのかな?呪いで死にたくないから封印しているだけでしょ。それ以外のことは理由になるのかな?

「ちなみにどれくらいが封印されているんですか?」

「私のところは金貨100兆枚ですね。国では金貨5000兆枚が封印されています。」

「え!?そんなにですか!」

「世界的には数垓枚は流通禁止金貨として封印されていると言われています。それの一端でも流通してしまえば…わかりますね?」

 数垓って…もう垓って何枚のことだったっけ?確か1兆の1億倍?ああ…もうよくわかんねぇや。確か地球のお金の総額が何京かだったかな?それの千倍くらいか。うん、そりゃ金貨の価値なくなるわ。

「だけど金貨とかってダンジョンから取れるんですよね?ダンジョンがある限り金貨は増え続けるのでは?」

「ええ、ですからダンジョンからは金貨の類が取り出せないように封印措置が取られています。そのせいで9大迷宮は金貨で埋まってしまい、入ることができなくなってしまいました。ダンジョンは金貨以外にも特別なアイテムを産出していました。この事件は世界的にかなりショックな出来事でしたよ。」

「へぇ……そのダンジョンはどこらへんにあるんですか?」

「ダンジョンに行って金貨を回収するつもりですね?残念ですが無理ですよ。ダンジョンは本来多量の魔力を保持し、その魔力がモンスターを創り上げていました。そのモンスターを形づけていた魔力は金貨によって埋まってしまったダンジョンの中では利用されず、外へ出てきてしまいました。つまりダンジョンの周囲は世界有数の危険地帯です。私だって近づきたくないですよ。」

 おう…
 何だよ、せっかく楽に金貨が入る予定だったのに。魔帝のルシュール辺境伯でさえ近づきたくないってどんな危険地帯だよ。世界有数ってことは他にもあるのか…まあ9大迷宮って言っていたし9箇所は確実にあるな。

「ち、ちなみにダンジョンとか関係なく一番危険なところって…」

「…終末の地。元々は人も住まないただの荒れ地でした。しかし数年前に神剣と神魔が1週間に渡り戦い、変わってしまった。断絶された空間が至る所に存在し、空気すら凍りつくほどの極寒の次の瞬間にはオリハルコンすら溶かす灼熱地帯へと変わる。雷が雨のように降り注ぎ、触れただけで骨まで溶かす瘴気が立ち込める。魔帝クラスでは1分も持たない、魔神ですら近づかない場所です。ちなみにその土地にもモンスターはいます。その環境に適応した最強のモンスター達が。一体で大国さえ滅ぼすようなモンスター達が蔓延っています。」

 ……予想の倍くらいやばいところだったわ。というか神剣と神魔が戦うだけでそんなことになるのか。ちなみにその戦いは両者引き分けで終わったらしい。終わった理由は不明とのことだ。そのクラスの魔神のやることはよくわからない。

 ちなみにその土地は神魔によってモンスターが出られないように封印措置が取られている。さらに定期的に神剣と神魔がモンスターの間引きを行なっているらしい。そんな危険地帯でもまるで関係なく歩き回れるという神剣と神魔ってどんなやつだよ…

 ちなみにその周辺国は、そのモンスターの素材をもらえているので、世界的にも裕福な国が多いらしい。これから行こうと考えている英雄の国もそこに飛地を持っているらしい。

「しかしルシュール様ほど強い人でも恐れる場所なんて…俺も近づかないようにします。」

「まあ封印されているので、危険はないですけどね。観光で見てみるのもアリだと思いますよ。」

「へぇ……じゃあ機会があったら行ってみます。しかしルシュール様はどこでそんな力を得たんですか?普通に長生きしていればそれだけの力がつくとかですか?」

「確かに長命種は力の強いものが多いですね。ですが私の場合は師匠に鍛えられました。霧の魔帝と呼ばれる人で、おそらく準魔神クラスの力はある…はずです。本気で戦ったところは見たことありませんから正確にはわかりませんが。っと、封印が解けましたよ。では入りましょうか。」

 え、もうそんなに時間が経ったのか。スマホで確認してみたけど確かに結構な時間経っていた。しかし封印が解かれたんだからもっとこう…なんかあっても良さそうなものなのに。ちょっと期待していたんだけどな。

 入り口は小さな扉だった。ここはいわゆる宝物庫なのだからもっと凄そうな扉でもよかったのに。しかし開かれた扉の中は…すごかった。

 一面に積み上げられた金貨。山のような金貨。目がくらむほどまばゆく輝く金貨の山。
金貨金貨金貨金貨、どこもかしくも金貨だらけ。それに何と広い部屋だ。金貨さえなければ屋敷が十分に建てられそうなほど広い部屋だ。

 俺が呆然と立ち尽くしているとルシュール辺境伯はすでにどこに向かうか決めていたようでスタスタ歩いていく。ちらりと見てみると、部屋の片隅から一つのカバンを手にとった。

「ありました。このカバンの中身が今回の報酬です。」

「それって…もしかして魔法の収納バックですか?」

「ええ、その昔に師匠の特訓で私が9大迷宮の一つに入った時に獲ったものです。良いものだし、思い出深いものなのでどうにかしたかったんですよ。」

「ち、ちなみに…中にはどれくらいの金貨が?」

「どれも枚数を同じに決めようとしていたので覚えていますよ。金貨500万枚です。」

「ご、ごひゃ!?」

 ご、500万枚って何枚だっけ!?えっと…500万枚だから…500万枚だな。ああ、落ち着こう、500万枚は500万枚だ。

「いいんですか?そんなにたくさん。」

「ええ、そもそもあっても使えないものですから。本当はもっと渡しても良いのですが、国からの調査が数年おきにあるのでバレない程度にしておきましょう。それよりも収納後、外に出ても大丈夫ですか?」

「一旦しまってから試して見ます。」

 ルシュール辺境伯から収納バックを受け取り、スマホにしまう。収納した収納バックから金貨を取り出すと、一瞬でスマホに金貨を取り出すことができた。この方法楽だな。今度からこうしよう。あ、収納バック持ってないから無理だわ。

「収納終わったんで金庫の外に出てみますけど、出た瞬間死ぬみたいなことはないですよね?」

「ちゃんと収納されていなくてもすぐには死にませんから大丈夫ですよ。私だってその反動で命が危険に晒されるんですから注意はしていますよ。」

 すぐなら平気か。なら試しに出てみよう。金庫の出入り口に立つとかなり緊張してきた。心臓がバクバクと脈打っている。大丈夫だ。大丈夫だと言ってくれた。ならそれを信じよう。

 一歩踏み出る。確かに金庫の外にいるはずだが、何の問題もない。ほっと息を吐く。

「何の問題もないようですね。では戻りましょうか。」

 やけにあっさりしているな。俺はこんなにも冷や汗でびっしょりだというのに。

「この後、少し細かい話があるので一度いつもの私の部屋まで来てください。」

「わかりました。」

 そのままルシュール辺境伯は歩いて帰っていく。あれ?もしかして帰りも歩き?行きは下りだったけど帰りは登りだぞ?嘘だろおい。
 冷や汗の次は普通に汗をかくのかよ……

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