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第52話 指と実験
しおりを挟むまさかの使い魔ガチャで変な空気になってしまった。この状況、どうやって改善しよう…何か話そうにも、なんというか息が詰まって言葉が出せない。しばらく沈黙が続いたが、突然ルシュール辺境伯が手を打ち鳴らした。
「ど、どうせなので他のも見せてもらえませんか?」
「そ、そうですね。では作物の収穫をしてみましょうか。ちょうど大豆の収穫ができますから。」
これ幸いとすぐに画面をファームファクトリーに切り替えた。あ、なんか端の方にさっきの使い魔いるんだけど、チラチラ映るんだけど。
また変な空気になりそうなんだけど。なんとか無視しよう。き、気になるなぁ……
「えっとですね…ここが大豆を育てている畑です。しっかりと乾燥しているので良い大豆になっていそうです。では収穫始めますね。」
いつものようにタップして収穫を始める。長くなりそうなので途中でルシュール辺境伯が飽きたら、残りは部屋でやろう。だけど操作していても何も言ってこないな。なんか予想と違ったのかな?
「あ、あの…その動きはなんですか?」
「動きですか?ああ、これはタップとスワイプと言ってですね、指を一瞬つけるか、つけたままスライドするか…」
「いえ、そうではなくてその指の動きの速さはなんですか……」
ん、指の動き?そんなに変なとこあるかな。まあこっちに来てから毎日のようにタップしているから、鍛えられて早くはなっているけど、そんなに早いかなぁ…
確かに指一本で1秒間に30くらいはタップできるようになったけど、そんなに変かな?ほら、高橋名人は1秒間に16連射してたじゃん。それと同じようなもんでしょ。
「まあ…鍛えているので。」
「……鍛えるところおかしくないですか?というかその速さいつまで続くんですか?」
「いつまでって……そりゃ終わるまで続けますよ?」
じゃないと終わらないしな。こっちに来た頃は途中で休憩していたけど、そんなことしていたら一つの畑だけで一日終わってしまう。
今では100個以上の畑があるのにそんなことをしている暇はない。やるときは素早くやらないと。
「…もしかしてとは思いますが、もっと早くできますか?」
「ええ、今は見せながらなのでゆっくりやっていますが。」
「……いつものようにやってみてくれますか?」
いつもの感じを見たいのか。別にいいけどそんなに面白いものではないんだけどな。いつものようにやるには体勢も大切なので、一応断りを入れてから床に寝そべる。
これがいつもの最適なポジショニングだ。普段はベッドなので、ふわふわしているから居心地が良い。このカーペットもなかなかいいな。いいもの使っているね。
そして俺がこの世界に来てから編み出した完璧な指の配置がこれだ。親指でスマホを固定し、残りの指をフリーにする。
肘の角度も完璧だ。いつもは枕を使って頭の位置を上げているのだが、ここにはないのでなんとか頑張ろう。
さて、ではみんなも試して見てほしい。この状態から作業を開始する。やり方は簡単、両手の人差し指、中指、薬指でタップをする。小指はスワイプ要員だ。
この状態だと指一本あたりの秒間タップ数が20まで減ってしまうが、6本の指全てで同時にタップできるので秒間タップ数が120になる。
ただし、時折スワイプが多くなり、小指だけでは追いつかなくなる。そういうときは薬指を応援に出す。それでも最低、秒間タップ数を100以上はキープしたい。
コツはタップする際、指が離れる前に他の指でタップしないこと。これがあると急に秒間タップ数が半分くらいまで減ってしまう。まあ言わなくてもわかる当たり前のことか。
この方法を編み出した今では大豆の収穫程度なら10分もかからないかな。根っこごと収穫した大豆をさやから取り出すまでがこの収穫作業なのだが、タップだけで良いので割と楽だ。
これが田植えだと結構大変だ。植える作業は全てスワイプなので、作業が遅れてしまう。俺もまだ秒間スワイプ数はこの方法を使っても50いかないくらいしかない。スワイプ用の指の配置も考えたほうがいいのかなぁ…
作業中、すぐにルシュール辺境伯にもう飽きたと止められるかと思っていたのだが、何も声がかからなかった。終わったので声をかけようと振り向くと、何か異様なものを見るような目で俺のことを見ているルシュール辺境伯がいた。
「えっと…ルシュール様?終わりましたけど…」
「……なんかもうすごいというよりかは、もうなんなんでしょうね…いや、すごいですよ。」
全く褒められている感じがしない。ルシュール辺境伯ももう満足したらしく、俺は部屋に戻ることとなった。なんだろう、この釈然としない感じ。まあルシュール辺境伯は全ての面で格上なので文句は何も言わないけど。
「さっき収穫したやつの確認をしておくか。実験も兼ねていたしな。」
本当はこの実験についても報告しようかと思っていたのだが、変な空気になってしまったのでまた今度にしよう。
今回、大豆を用いた実験はウィードの実験だ。俺の予想ではウィードは根粒菌のような、植物に良い影響を与えるタイプのモンスターだと考えている。なので根粒菌がつきやすい豆類の大豆でウィードの繁殖ができないか実験してみたのだ。
先ほど収穫した大豆の苗の根を見る。ちなみにウィードは大豆が多少成長した時に根の近くに植え込んだ。最初からウィードを植えると、寄生する根がなくて枯れてしまいそうだからな。
「うわ…めっちゃ増えている。膨らんだ根の中に潜り込んでいるのもあるな。こりゃすげぇ…」
根っこには数多のウィードの魔石がついている。こうして見ると何か宝石のようで綺麗だ。試しに一つ苗を取り出して見ると、根についた魔石同士が触れ合いシャラシャラと音を奏でている。
収穫した大豆にも何か良い影響がないか確認したいが、確認する方法ないなぁ…。あ、鑑定あんじゃん。全然使える気がしないけど。まあ試しにやって見るだけやって見るか。
大豆 魔力含有率12 評価F
なにこの評価って、魔力含有率はおそらくこのウィードのおかげだとは思うけど、評価は初めてみた。というかあんまり鑑定活用していなかったからな。
他の作物にもあるのかと思って鑑定してみたところ、ほとんどがH判定だった。おそらく…A~Jまでの10段階評価かな?
それから考えるとウィードを根に寄生させると評価が上がる可能性が出て来た。10段階評価で一番下でないのは、土のレベルを上げておいたからだと考えられる。良い土なら良い作物が収穫できる。
今後は全ての作物にウィードを寄生させて、作物の評価をあげよう。増えすぎたウィードは砕いて畑に混ぜれば土のレベルがさらに上がる。なかなか良い方法だろう。
「そういや、さっきあの酒米についての資料をもらったな。少し読んで見るか。」
ウィードの実験は無事成功したのだから、次の作業に取り掛かろう。今、最も大事な日本酒造りだ。この日本酒造りを成功させて、がっぽりと稼がねば。
「ん?この米は土壌や水の影響を大きく受けやすい。栄養素を多く含む水や土壌に変えることでより品質を上げることが可能。その代わり土壌や水によって大きく影響を受けてしまうため、味や品質を一定に保つことが難しい…か。」
つまりは栄養をガンガンあげればうまい米になるってことか。ただ、元がこれなのでそこまでは美味しくならないとも書いてある。しかしこれは使えるんじゃないか?美味しい水に良い土、この二つを揃えれば最高の酒米が作れるかもしれない。
「しばらく大豆を大量に育ててウィードを増やすか。ウィードを砕いて土に混ぜ込めばかなり良い土になるだろう。本当は街に肥料が売っているらしいからそれを買いたいけど金ないしなぁ…甘酒で稼いだ金じゃあとてもじゃないが田んぼ全てに肥料が行き渡らない。」
水の問題はなんとでもなるだろう。なんせ俺のスマホには湧水池がある。この水なら綺麗で美味しい最高の水だ。
「あ、けど飲んだ感じこの水は軟水だから栄養素はないな。人にはいいけど植物には微妙だ。」
ならどうするか。硬水の池とか川なんて、さすがにそこまで釣り場は細かく分かれていなかった。どっかで硬水を調達するか。それ以外に良い水なんてなさそうだしな。
「いや…待てよ?俺にはもっと最高の水があるじゃないか。限りはあるけど、田んぼ2つ分くらいならなんとかなるだろ。」
そうと決まれば急いで作業を行おう。土壌改善に2~3日を費やして、それから専用の田んぼを作り上げよう。収穫まで1週間以上かかるが、これが俺にできる最高の日本酒用の米作りだ。それと残っている酒米で酵母とその温度管理の情報を収集しよう。
今度こそ最高の日本酒を作り上げてみせるぞ。
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