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第48話 米作り

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 部屋で少し休んだ後にメイドが夕食を運んできてくれた。運ばれてきた食事は一汁三菜の見た目は質素な食事だ。しかし、その味は格別であまりの旨さにご飯を5杯もお代わりしてしまった。やはりこう言った食事の方が性に合っているのだろう。

 さて、満足いくまで飯も食べ終わったことだし、やること始めよう。まず最初にやらなくてはいけないことは、田んぼを作ることだ。まあ畑はあるし、水も釣りバカ野郎で川があるのでそこから水を引けばいけそうな気がする。ただそのやり方はわからないけど。

「うーん…釣りバカ野郎で釣り場増やすのが必要だったりするのかな?金はあるし、少し増やしてみるか。」

 釣りバカ野郎の購入欄を開いて、使えそうな釣り場を探す。もともと川は標準でついているので、それ以外で探してみると小川があったのでそれを購入する。というか細かく分かれすぎだろ。本当にがめつい課金設定だ。しかしこれでも田んぼを作れそうな雰囲気はない。試しにポチたちにも聞いてみるか。

ミチナガ『“田んぼ作りたいんだけど作り方わかる?”』

ポチ『“田んぼ?わかった、調べてみるね………できそう!小川から水路引いてくれば用水路作ってやれば田んぼは作れそう。水路はこっちでなんとかするから、用水路と田んぼの課金はお願いね。後、水路用に金貨少しもらうね~”』

ミチナガ『“おっけー。よろしく!”』

 なんとかなりそうだな。わからないことはとりあえず聞いてみるのが一番か。しばらくすると釣りバカ野郎に用水路、ファームファクトリーに田んぼが追加されていた。用水路は金貨300枚で田んぼは畑に金貨20枚課金することで田んぼに変えることができるらしい。

 とりあえず田んぼはあまり多くてもしょうがないので5つだけ作ることにしておいた。課金するとすぐに反映されたようで田んぼが完成した。後は苗を植えるだけだ。

「あ、米って苗植えるから種のままじゃダメじゃん。なんかトレーみたいので苗作らないと。」

 もう考えるのも面倒なのでポチに丸投げしたが、どうやらすぐに作業が完了したらしい。さて、とりあえずここまでくれば米作りの方はもう大丈夫だろう。

 しかし、どうせなら普通に食べられる米も作りたいな。確かファームファクトリーの課金欄から米の種も買えたはずだ。お値段は…金貨5万枚か……まあうまい米かもしれないし。米は…やっぱ米は日本人の魂だしな!まだ金はあるんや!ここは買っちゃおう!

 じゃあ今回は酒米用の田んぼを2枚、普通の米の田んぼを3枚やるか。これがうまくいけば今後は1日一回は白米を食べられるかもな。ポチから米作りの予定を聞いたところ、明日の朝ごろには苗が完成するので田植えをする必要があるらしい。

 明日は朝から田植えかぁ…なんだか日本人らしい生活になりそうだな。田植えが終わったら、少しこの街を探索してみよう。今日はこのまま早く寝てもいいが、もう少し起きて入られそうなので問題点を解決しておこう。

 その問題は酒作りだ。ある程度の知識は知っているが、それ以上はよく知らない。俺が知っている知識は酒米の周りを削り、水に浸し、麹をつける。そして発酵がある程度進んだところで水を入れて酵母を入れる。あとは時々攪拌させながら酵母によってアルコールを作るのだ。

 さてさて、ここまでの知識があればできそうなものだが、その具体的な温度や管理がよくわからない。そもそも麹なんてないし、酵母もない。まあ酵母は空気中から自然に入ることもあるらしいのでそれに賭けるのもありだ。もしくは他の酒の酵母を使うかだ。

 まあいくつかの樽に分けて実験してみるのがいいだろう。しかしそもそもの麹はどうするかな。間違えればカビだらけになりそうだ。まあここも色々工夫してみよう。

 酒用の米は本来、削ってやる必要がある。米の中心ほどでんぷん質が多いため、より削ると米の雑味がなくなり、すっきりとした美味い酒になる。しかし、この雑味が酒の個性にもなる部分だ。

 雑味がなさすぎると酒の個性がなくなり、面白みがなくなる。より米を削る吟醸酒か純米酒か。好みは様々だが、今回は純米酒にする。なぜかって?そんな削る手段なんてねぇよ。

 そして最大の問題点。それは今回はスマホが使えないことだ。スマホの中に収納されたものは時間が止まってしまう。つまり発酵が進まないのだ。ここの問題は相当大きい。今まではスマホだから重たい荷物も、難しい作業も何とかなったが、スマホがなければはっきり言って俺は何もできない。

 ここはルシュール辺境伯に頼む他ないだろう。ある程度なら人は集められそうだ。技術が漏洩することに関してだが…まあ正直どうでもいいだろう。そこまで重要な技術でもないし、俺では今後も作り続けることは不可能だ。ここはルシュール辺境伯に技術を売ってしまうのが得策だ。

 しかし問題の麹はどうするかなぁ…空気中から自然に入ってくるかなぁ…
 麹なぁ…麹…こう……グゥゥゥゥ……



 寝落ちした。完全に寝落ちした。まああのまま考えていても仕方なかったけどね。俺も怒涛の展開で色々疲れていたんだろう。朝一で田植えを始めようかと思ったが、メイドさんが朝食を運んできてくれた。焼き魚に漬物など、まさに和食だ。しかもこの漬物はぬか漬けだ。このぽりぽりとした食感がたまらん。

 しかし汁物には文句を言いたい。山菜を入れた吸い物なのだが、正直朝はそんな上品な吸い物ではなく、味噌汁がいい。すぐにスマホから取り出してそのまま味噌を溶かす。溶かすとすぐに豆のいい香りがしてきた。これだよ、これこれ。

 ハァァ…まさに日本の伝統の食事だよ。何だろうね、この身に染みる旨さは。遺伝子にこの食事の素晴らしさが染み付いているんだろうね。日本の食事、最高ですわ。

 何よりこの漬物と味噌汁がたまらないほど美味しい。世界的にも乳酸菌発酵の食べ物というのは高い評価にある。ぬか漬けだって世界に誇れる素晴らしい和食だ。

 そして何よりこの味噌汁。一口飲むだけでホッとするよ。味噌だって立派な発酵食品だ。よく大豆を発酵させて食べようなんて思ったもんだよ。日本には大豆の発酵食品が多いよなぁ。納豆も醤油も大豆を発酵させたものだ。まぁ納豆は納豆菌で味噌や醤油は麹で作った発酵食品だけどね。

 ……ん?

「あ、味噌って麹で作るんじゃん。酒の時の麹と同じものだしこれでいけるじゃん。」

 どうやら麹はどうにかなりそうだ。うん…なんか釈然としない。



 朝食を終え、朝の食事も終えた俺は街に遊びにきている。もちろん田植えは忘れていないぞ。朝の30分もあれば終わることができた。ポチたちも手伝ってくれたんだが、正直遅すぎる。俺が田んぼ2枚の田植えを終える間に1枚しか終わっていないのだ。朝から2万近くタップしてきてしまった。

 まあすぐに終わったのでこうしてゆっくりと街を見物している。この街を見た正直な感想だが、活気にあふれている。この世界に来てから今までで見た街の中でトップクラスだ。先ほどから見たことのない食材がいたるところで売られている。はっきり言ってこの街で揃えられないものはないくらいだ。

 そしてこの町で俺が商売をすることができる方法がなくなっていくことも実感した。この街で俺が商売することができる余地がないのだ。この街には飯どころも多いため、俺みたいな新参者のそこそこ美味い飯くらいではすぐに潰れてしまう。仮に売れても大した値にはならないだろう。

 この街でやっていくには本当に日本酒しか方法がないようだ。いや、例えそれでも今後もこう言った展開は増えてくるだろう。ならばこう言った時に武器となるものを増やしていく必要は十分ある。

 俺にあるのは異世界の知識とこのスマホだけだ。それを生かして日本の料理を売るという方法はある。しかし正直なことを言えば大して売れるわけではない。人には人の、国には国の味というものがある。

 日本人には白米の甘みがわかり、納豆の旨みがわかっても、外人にはそれが分からないなんてことはよくある当たり前のことだ。日本人にだってシュールストレミングの味は分からないし、アザラシの生肉や、虫の味は分からない。この世界で日本食をやるのなら、この世界の人の味覚に合わせなくてはいけない。

 前回のうなぎの蒲焼、あれはズルのようなものだ。甘味は値が高くなるため、そうそう提供できない。それにうなぎの蒲焼だって、甘辛いのが受け入れられない人も大勢いた。それでも利益が出たのはこのスマホで簡単に作ることができたからだろう。普通に材料を集めたら大赤字間違いなしだ。

 今後も街や国を巡るのならば、俺だけの武器を、俺だけのものを作らないといけない。他に引けを取らず、一目置かれるものを作らなければいけないのだ。

「俺だけのものを、ミチナガブランドを作らないといけないな。全く…忙しいったらありゃしない。」

 自衛のための力、商売のためのブランド、そしてスマホを今後も成長させるための金貨。やらなければいけないことが多すぎる。しかしそれでもやらなければ。今、ルシュール辺境伯に守ってもらえているのはある意味、チュートリアル時間だ。

 この時間が終わったら俺はすべてのことを一人でやらないといけない。正直なことを言えば怖い。しかしそれでもこの世界で寿命を全うして死ぬためには、今のままではダメだ。恐怖に怯えながら死ぬのだけは嫌だ。誰にも知られずに死ぬのは嫌だ。

「何としてもやってやる。そのためには脳をフル回転させてアイデアを生み出し続けないとな。」

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