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第47話 ルシュール城
しおりを挟む米の試食会が終わった後、米の作り方を色々教えてもらった。簡単な作りかたなら元々なんとなくわかっていた。しかしこの世界では違うところもあるかと思い、せっかくなので色々と話を聞かせてもらった。
話を聞いたところ、この世界にも畑に肥料をまくという概念はある。しかしその肥料の内容が独特なのだ。腐葉土やモンスターの骨粉などはわかる。しかし化学肥料の代わりに魔法肥料というものがあるのだ。
魔法肥料とは言葉の通り魔法を込められた肥料だ。基本的に魔法で生み出された物質は時間とともに消えてしまう。しかし特殊な方法で生み出された物質は消えることがないらしい。その製法は肥料の場合、エルフの秘術として一部の人間しか知らない。まあルシュール辺境伯は普通に知っているらしいが、それについては教えてもらえなかった。
まあこの方法で生み出された肥料は、あまり市井に出回らない。一般的なのは植物系、岩石系のモンスターの魔石だ。植物系のモンスターも魔石は養分的なものが溜まっていて、それを砕いて土に混ぜると良い土になるらしい。岩石系はミネラル豊富とのことだ。
「しかしそんなモンスターの魔石なんて簡単に手に入るのですか?」
「トレントのような大型のモンスターだと厳しいですね。しかしウィードのようなモンスターでしたら簡単に手に入ります。見た目は雑草なので畑の雑草抜きをしていると時折手に入るんです。数は必要になりますが、とても便利です。あ、今外の子供達が取ってきたようですので見ますか?」
お願いすると外の子供達が持っていたウィードを持ってきてくれた。見た目は雑草だと言っていたが、どれも同じ植物ではなくバラバラだ。
魔石は根っこのところどころについており、色は白っぽい。こんなモンスターもいるのか。俺のスマホのファームファクリーでも使えそうなので、少しだけもらっておくことにしておいた。モンスターを直接収納するということで、収納に少しだけ時間がかかり、モンスターに抵抗されたようだったがなんとかしまえた。
「よしよし、ちゃんとしまえたな……って収納数1328?俺一株しか収納してないぞ?」
表示ミス?いやいや、流石にそんなことはないはずだ。まだ収納していないウィードがあったので、もう一度よく見てみる。そんなにおかしいところなんてあるのかな?まあ普通のモンスターの魔石がどうなっているのかなんてよく知らないけどさ。
確定している情報は、植物体はバラバラ、根っこにいくつもの魔石がついている。多数が一度に収納される。それと危険性がないという点か。根っこに魔石がねぇ…
「あ、もしかして根粒菌の一種?」
「なんですかそれは。」
「えーとですね…確か空気中の栄養素を吸収する菌です。モンスターだし…もしかしたら空気中の様々な栄養素を吸収するとかかもしれませんね。まあ普通の根粒菌という可能性もあるかもしれませんけど。まあその能力はわかりませんね。」
野菜でいうと枝豆の根っこについているもので、この根粒菌が多くつくほど良い枝豆になる。それに空気中の窒素を吸収するので畑の土が良くなる。
「それは面白いですね。確かにウィードというモンスターは魔石を多数持ちます。これは上位のモンスターでなければそうそうないことです。しかしその仮説を当てはめるなら色々な疑問点が解決することでしょう。」
「これは人や植物に良いモンスターなのかもしれませんね。もしかしたら砕かずにそのまま撒けば、野菜に取り付いて野菜自体が美味しくなるかもしれません。」
「それは面白そうです。この村で少し実験してみます。結果が出次第ルシュール様に報告させてもらいます。」
「ええ、お願いします。それではそろそろ帰りますので、転移所の場所を空けておいてください。」
「かしこまりました。本日はありがとうございました。」
これでおいとまするようなので、俺は残りのウィードをもらい収納しておく。
家の外に出ると多くの村人たちが別れの挨拶をしていた。まあ俺ではなくルシュール辺境伯にだけど。しかし本当に大人気だ。少しルシュール辺境伯からそのカリスマ性を見習おう。
しばらく行くと石の塔に囲まれた広場に出た。しかしその広場には村人は一人もおらず、見た感じでは普段から誰も入っていないようだった。そこに全員入るとルシュール辺境伯は転移の魔法をかけ始めた。どうやらここが次の転移場所らしい。
村人たちはその様子を別れの言葉とともに見守る。次第に転移の魔法が完成し始めると、村人たちの様子は伺えなくなり、気がつくと石壁に囲まれた部屋の中にいた。
「さあ着きました。ここが私の屋敷です。」
これだから転移の魔法は…瞬時に違う場所に行くのでどこに行ったか、わけがわからなくなる。まあいつまでもここにいる必要はない。石壁の一箇所にある大きな扉を開き外に出る。するとそこは
「え、植物園?」
数々の植物に囲まれている大きな…庭?上を見上げるとうっすらとだが、光が屈折しているように見える。おそらくガラスだ。つまりここは本当に植物園だ。見たこともないような植物の数々を横目に進んで行くと突如、扉が現れた。お供の一人がおもむろに扉に手をかけ、丁寧に開く。
するとそこは城の中だった。地面も壁も全て木材だ。しかもなぜか継ぎ目がない。それにボコボコしている。
「え、これもしかして生きている木ですか?」
「ええ、特殊な大木でしてエルフはほとんどこの木の家に住んでいます。やはり家は木製に限ります。」
木製って…木製にもほどがあるだろ。横に窓があったので外をのぞいてみると、木の外皮が目の届かないところまで続いていた。時折伸びている枝の上にはテーブルや椅子が置かれ、おしゃれなカフェスペースとなっている。
「これって…一般的なんですか?」
「まあここまで大きくする物好きはいませんね。私の場合は領主として大きさが必要だったのでこうしました。成長させるのは魔力を与えれば良いだけなので簡単ですよ。なんなら今日泊まる部屋を今作りましょうか?」
別にそこまでしてもらうのは気が引けた。しかし部屋が増える風景を見てみたいと思うのは、普通の人ならば当たり前だろう。その二つがせめぎあった結果、俺は増やしてもらうことを選んだ。
ルシュール辺境伯は嫌な顔一つせず、まるで音楽でも奏でるかのように安らいだ状態で魔力を放った。するとみるみると枝葉が伸びていき、通路を形どり、部屋を作り出す。
「おお…一瞬ですね。」
「ええ、お客さんが来ると毎回これをせがまれるので私もだんだん楽しくなってしまって。ただいらない部屋がいくつもあるのが少々問題ですけどね。」
なんかすいません…だけど本当にいいものが見られた。本当にファンタジーの世界だ。こういうことが定期的にあるからこの世界は本当に楽しい。
「今日はこれから滞っていた政務をこなさないといけないので食事は部屋でも良いですか?後でメイドに持って来させますので。」
「ええ、私も疲れたので部屋でゆっくりと休ませてもらいます。酒造りの件は少し頑張ってみます。まああまり期待はしないでください。私はど素人なので。」
「ええ、でも足りないものがあったら言ってください。メイドに言えばある程度のものは揃いますから。」
それは助かるな。そこで手短に別れを済ませると、ルシュール辺境伯は消えてしまった。おそらく転移なのだろうが、それでもこんなに素早くできるのは少しおかしい。転移の魔法は時間がかかるはずだ。
おそらくこの木が関係しているのだろうが、それはおいおい聞くとしよう。向こうも政務で忙しいのだから。
「さてと…やることがいっぱいだな。米作りに麹作り、そして酒造りか。最近スマホのファームファクトリーはポチにまかせっぱなしだな。アプリが増えるとやること多くて時間が足りなくなる。そのくせ現実も忙しいんだから暇がない。」
とりあえずこの後は滞っていた作業をこなして、米作りの算段をつけないとな。金もあるから色々機能拡張しないといけない。寝る暇も惜しいくらいだ。
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