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第34話 妖精の隠れ里

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 あれから戦闘は何度か行われた。しかしどの戦闘も余裕たっぷりである。相手が決して弱いわけではない。なんでもC級モンスターが基本で、時にはA級も混ざってくるらしい。とはいえ、そんなことを言われても強いのかどうか基準がわからない。

 アンドリュー子爵の話によると、普段俺についてくれている護衛のボランティ一人でE級のモンスターとなんとか張り合える。C級になるとボランティ20人でも危ういくらいの強さらしい。そもそもボランティが強いのかも疑問だ。なんせ初めて喋ったのが、モンスターにやられて死にかけていた時だからだ。

「そういえばこの国に来るときはなぜファルードン伯爵は戦わなかったのですか?モンスターに襲われて危なかったのに。」

「何でもかんでもわしが助けていたら奴らは成長しないじゃろ。少しくらい死にかけた方がいい勉強になる。それにあの怪我では死にはせんかった。街に着くまで傷の痛みで眠れないくらいじゃ。」

 それってものすごい重症のような。ファルードン伯爵って考えているようで、あんまり考えていない気がするんだよなぁ。今のももっともな意見だが、単にめんどくさかっただけのような気がするし。

「お、入り口に着いたぞ。ミチナガ、面白いものが見られるから馬車の外に顔を出しておけ。」

 言われるがまま、と言うよりも無理やり頭を掴まれて馬車の外に顔を出させられる。風景になんら変わりはない。どこが面白いと言うのだろうか。

「うちの大将が結界をこじ開けとる。ほれ、開いたぞ。」

 先ほど先頭の馬車に乗り換えたルシュール伯爵のところから、辺りの景色がガラリと変わっていく。なんと言うのだろうか、先ほどまでは荒々しいジャングルのような場所だった。しかしその変わっていく景色は外敵を知らないような柔らかそうな草花が咲き乱れ、艶やかな木々が並ぶ、なんとも神秘的な光景だ。

「これは……」

「これが妖精の隠れ里じゃ。普段は決して人目につくことはない。魔王の中でも魔法に特化した上位クラスでなんとか入れるレベルじゃが、うちの魔帝ならたやすく入れる。なんでも時折妖精が招き入れることもあるらしいがな。」

「そんなにすごい場所なのですか。だけどそんなにホイホイ入っても良いのですか?」

「入るだけなら構わん。しかしこの中で悪事を働くと消されるぞ。この世の全ての妖精たちは妖精女王に守られておるからな。」

「妖精女王ですか。なんだか凄そうですね。一度会って見たいです。」

「気難しいことでも知られておるからやめておけ。それに妖精女王は魔神第2位の化け物じゃからな。何かあっても誰も助けられない。」

 意外とホイホイ魔神の名前が出て来るな。世界に10人しかいない最強の存在じゃないのか?なんか話だけ聞いていたら本当は100人くらいいそうだ。

「だけど全ての妖精を守るなんてできるんですか?こういった妖精の隠れ里は他にもあるのでしょう?」

「世界に1000以上はあると言われておる。確かにそれらすべてを守ることは不可能に思えるが、それができるからこその魔神なのじゃ。むしろその程度のことができねば魔神とは言わない。」

 流石の規格外というやつだな。ルシュール辺境伯が言っていたけど、本当にチートだ。

「そんなことよりも釣り場が見えたぞ。あそこが目的地だ。」

 馬車のいく先には湖が広がっていた。かなりの大きさだ。こんなものが隠れているとは到底思えない。あの危険地帯のど真ん中にどうやってこんな場所を作ったのだろうか。

「あの湖の水は神聖なもので、水だけでも聖水として売られることもある。お主も後で湖が干上がらぬ程度に汲んでおけ。そのスマートフォンとやらならできるのだろう?」

「そうさせてもらいます。それにしても本当にのどかでいいところですね。」

「この場所は、な。気をつけろよ。なんでも精霊の隠れ里は超次元空間というやつらしい。わしらの世界では10m四方の土地が、この世界だと国よりも広くなっておる。その空間拡張の影響かは知らんが、時間の流れも大きく違う。この妖精の隠れ里は、通常よりもゆっくり時が流れる。しかし場所によっては時が早く流れ、一瞬入っただけで10年の歳月が経っていたという話もあるくらいじゃからな。」

 超危険な場所じゃん。リアル浦島太郎は勘弁してくれ。

 その後、馬車は進み、湖のそばで停止した。馬車から降りると反射した太陽の光で目がくらむ。湖から吹き込む風は優しく、涼やかなものだ。やばい、ここものすごくいい。ここで一日中湖を眺めながらぼーっとするだけでも最高だ。

「何しとる。とっとと釣りの準備をするぞ。皆に道具を配ってやり方を説明せい。」

「ええ、今行きます。」

 思わずこの光景に見とれてしまった。待たせるといけないので急いでスマホから釣り道具一式を取り出して説明をする。そこまで複雑なものでもないので、説明も簡単なものだ。とりあえず始めの一投を俺がやって、簡単に手本を見せた。

「今回渡したルアーのほとんどはそのままゆっくりと巻けば良いだけです。しかしこのホッパーという今回新しく要望したルアーは少し違います。このホッパーは水面に浮きますので、投げた後は同じリズムで竿を動かしてください。そうすると水面が波たちます。これに魚が食いつきます。魚が食いつくまではこのリズムを決して崩さないように。…あ、かかった。」

 まさかの第1投目で魚が食いついた。水面に浮かぶルアーなので、魚が食いつくと魚影がチラリと見える。この光景にはこの釣り好きのジジイたちから歓声が上がる。そのまま巻き上げると30cmに満たない見たことの無い魚が釣り上った。

「さすがは先生です!お見事。それは妖精魚という魚でこの妖精の隠れ里でしか釣れません。その代わり、一番ここではメジャーな魚です。胸ビレが羽のようになっているのが特徴です。」

 羽のようって…鳥とかの羽じゃなくて虫っぽい羽なんだよな。正直きもい。それ以外はマスに似ている気もするが、ところどころ違うな。ちっちゃいヒゲも生えているし。

「ではこんな感じで釣りを始めてください。後で個別にアドバイスして行きますから。」

 そう言うと蜘蛛の子を散らすように散開していった。どんだけ待ち通しかったんだよ。とりあえずこの魚は収納しておくか。またロック解除されて釣れる魚種が増えるだろ。

 その後もまったりと釣りをしていると、ポチとシェフがスマホからでてきた。釣竿も持っているし、どうやら釣りがしたかったらしい。

 俺の近くで竿を投げようとするが、うまく投げられていない。仕方ないので俺が代わりに投げてやると喜んでいた。ちなみにこいつらはリールをまともに巻けないので、浮きをつけた餌釣りだ。

 こんな日々も最高だな。金稼ぐのもほどほどにして田舎でこういう暮らしもありかもしれない。のんびりと釣りをしてポチたちと暮らす。最高のではないか。

 するとポチの竿にアタリがあったらしい。ポチがタイミングを見極めて竿をあげると、しっかりと針にかかったらしい。そのままリールを巻いているが、そんなにゆっくりでは逃げられてしまうかもしれない。少し手伝ってやろう。

「ポチ、ちょっと待ってな。今手伝って…」

 ポチが魚と奮闘していると急に引きが強くなった。おそらくかかった魚を他の大きな魚が食いついたのだろう。釣りでは割と無い話ではない。針も少し大きめのものにしておいたので、大きな魚にも十分針がかかったのかもしれない。

 そしてポチは飛んだ。その光景はまるで時間が止まったようだった。2mくらい浮き上がったポチは、そのまま放物線を描きながら湖へとダイブしていった。まさかこんなギャグ漫画のようなことが本当に起こるとは。まあポチは軽いので簡単に持ち上がる。しかしこれはかなりの大物が期待できる。とりあえずポチを回収してやらないと。

「ポチ、ちょっと待ってろ。今助けに」

 そしてポチはバシャンという音とともに魚に食われた。

「ぽ、ポチィィィィ!!」

 まずい、さすがにこれはまずいぞ!急いで助けないと溺れてしまう。しかしこの湖に飛び込むのはさすがに勇気がいる。なんせポチを食った奴がいるのだから。誰か助けを呼ぼうとするとシェフが俺のズボンの裾を引っ張った。

 どうしたのかと思うと俺が慌てたせいで投げ捨てていたスマホがそこにはあった。そのスマホの画面を見てみると何やら通知が来ていた。その通知には、

『ポチ、いずでっど』

「ポチィィィィィ!!」

 ちょっとさすがにあっけなさすぎないか?
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